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講堂中を驚愕で満たすアイリスの戦いぶり

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 今度、勝った四人に残ったのは、フィフィルースにスフォルツァ。
ラッツにそして栗毛のディオネルデス。

学年最終四人に残るに相応ふさわしい、相当の四人だった。

が、敗者達にも対戦が残されている。
一年は今後一年間の目標とするため、最終四人以下も戦って、順位を決めるのが慣習。

アイリスは対戦相手が、スフォルツァに次いで自分に惚れている大貴族のアッサリアだと解ると、かなり困惑した。



横でドラーケンが、次の相手は自分だ。と意識し。
替えの剣を手にし、今度は剣を庇いながら、戦う姿も見た。

ドラーケンと、戦いたかった。
だからアッサリアには、勝たなくてはならない。

アッサリアはスフォルツァと違ってそれは控えめで、とても紳士的な少年だった。

次々に繰り出される剣はやはり、素晴らしいものだった。
良く鍛錬され、隙が無い。

が、これと言って、ずば抜けた攻撃力が無いのも確か。
だが熟達した防御で、討ち取る隙は少なく、とても勝ちにくい相手。

誘いの剣を余程鋭く入れないと、喰い付いては来ず、熟練した剣さばきで軽くいなされる。
彼を浮き足立たせ、崩すには。
真剣にならねば無理だった。

が打ち合いながら近づいた隙に、一瞬で剣を返し、下からアッサリアの脇腹へと剣を繰り出した時。
アッサリアの顔が一瞬で真っ青になって、咄嗟に脇腹へ突き刺されたアイリスの剣を避け、後ろに跳ね飛ぶ。

ぉぉおおおおおおぉぉぉっ!

今のは、良く避けた。
アッサリアへの、そんな賞賛のどよめき。

アッサリアが一瞬にして、真顔になる。

品良く束ねられた栗色の巻き毛が肩から滑り落ち、じっ…とアイリスを見据え、伺う。
アッサリアが次に繰り出す剣は、そのどれもが、殺気をびるほど鋭い。

がアイリスはその剣に剣を合わせ止めながらも、ほっとした。

重しがある以上、派手に足を使う攻防は完全に不利。
だから手数が減れば、その一瞬さえ避ければいい。

フィフィルースとスフォルツァの視線が吸い付く。
二人とも、ラッツに負けた自分は、ラッツと五分の実力のアッサリアにも、負けると思っている。

チラと見た、講堂の窓の外から眺めるシェイムの視線も、そう物語っていた。
が、アイリスは横で、感情のまま相手を叩き殺す勢いで剣を振り、対戦相手の剣をふっ飛ばして勝ちを取ったばかりのドラーケンを、睨み据える。

あいつには、勝ちたい…!
何としても!
だから……………!

剣を引き、次の剣を繰り出す隙を狙うアッサリアの前で。
アイリスは艶然えんぜんと微笑んだ。
アッサリアは対戦相手の、突然の美しい微笑みに、ぎょっ!とする。

が直ぐ、柄を握る手に力を戻す。
勝利が目前なのは自分なのだと、思い出して。

アイリスは微笑を浮かべたまま、ぐっ!と乱れる息を整え、アッサリアの殺気立った剣を舞踏のように優雅に、避けて見せる。

鋭い切っ先を突き出す対戦相手に。
全校生徒が注目する、学年筆頭美少年は。
見事な足捌きで、相手をいなすようにくるりと優雅に身をひるがえし、避けた。

皆、剣舞のようなその優美な動作に驚嘆し、オーガスタスはとうとう、くすくす笑い出す。

アッサリアは対戦相手の筈のアイリスが、剣の試合をしている。
と言うよりまるで舞踏を踊っているように見えて、目を、擦りたかった。

皆、勝ちに目の色変えている。
こんな場で、ただ一人剣をたずさえ舞踏を踊るのは、余程の度胸だ。

くるりとその場で繰り出す剣の切っ先を避け、肩を落とし身を返す。
さらりと焦げ茶の艶やかな美しい髪が宙を舞い、微笑む美少年のあまりの優美な美しさに一瞬見惚れ、アッサリアはつい柄を握る手から、力が抜けて、剣を振り損じた。
体勢を、崩したのだ。

アイリスは隙を見つけ、一気に間を詰める。
剣を持ち上げようとするアッサリアの目前で、素早く身を横に、鮮やかに回し真正面の対戦をけ、下げた剣を一瞬にして、斜め横下からアッサリアの背に突き付けた。

周囲にそれは、二人が交差して場所を入れ替わるように見えた。
が、アイリスは接近した途端、向きを変え。
アッサリアの斜め後ろに立つと、動きをピタリ!と、止める。

が、アッサリアも同時に、動きを止めた。

暫く沈黙が訪れ、次第になぜ二人が動かないのか。
講堂中の生徒らは訳が分からず、一気に騒がしくなる。

「ぞっと…するな」
オーガスタスの低い呟きが、それでもはっきり、アイリスの耳に届く。

未だ正面を向き、剣を握るアッサリアは、固まったまま。
斜め後ろで、ほぼくっつくくらい身を寄せ。
アッサリアの背に顔を向ける、アイリスも同様。

その突き付けられた剣は、アイリスのたっぷりした衣装に隠れ、ある角度からしか伺い見る事が出来ず、周囲はどうしてアッサリアが動かないのか、誰彼成しに聞きまくる声が飛び交い、騒ぎは更に、大きくなる。

が、講師は叫ぶ。
「それ迄!」

アイリスがその声に、すっ。と身を後ろに下げた時、ようやく。
アイリスの手に握られた剣が、アッサリアの背に。
その切っ先が突き付けられているのを、講堂中の生徒が目にし。
講堂内は一気に、しん…と、静まりかえった。

アイリスの表情にはまだ、優美な微笑が浮かんでいた。

皆が驚愕の内にアイリスのその優雅な立ち姿と、突き付けられた剣先が銀に煌めく様に、視線を奪われる。

ヤッケルは鬼の首取ったように、隣のフィンスの肩を叩きまくり、しゃべりまくった。
「見たろう!
あいつは大したタマだって意味が、解ったろう?!」

ローランデもシェイルも、二人を見た。
が、話しかけられたフィンスは目前のアイリスより。
ヤッケルが肩を叩く痛みに、思い切り顔をしかめていた。
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