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アシュアークの来訪に驚くスフォルツァ

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 その後は、丸で風のよう…。

アシュアークは助け人の腕に抱き上げられ、運ばれながら…そう思った。

部屋を出て暗い廊下と階段を駆け下り、もうすっかり暮れた外へと。
飛び出したかと思うと、走ってる振動がとても少なくて、つい抱き上げてくれてる人の、顔を見上げる。

明るい栗毛と整った美男で…。
けど、ときめくと言うよりくるまれるみたいで…。

安心して抱き留めてくれる、兄のような人だと思った。
それで仕方なく…じれる体を引っ込めて大人しく抱かれ、運ばれる。

宿舎の広い食堂みたいな所へ飛び込んだ時、人がいっぱい群れていて…カードをしたり雑談したりしていた人が一斉に、こっちを見る。

けど運んでくれる人に比べたらみんな若い顔で、きっとここが、本当の一年宿舎なんだと分かった。

その人はでも、横にある階段を駆け上って行く。
上がった直ぐの部屋は扉が無く、広いテーブルが中央を占め、壁紙も家具も手の込んだ美しい部屋で、ここが大貴族用の宿舎なんだ。

…そう思いそして胸がときめいた。
今度こそ、会える。
きっと。

「…スフォルツァの部屋はどこだ?!」

抱き上げてくれてる人が叫ぶと、部屋の周囲に円形にぐるりと並ぶ、扉の一つに手を掛け、振り向いてこちらを見つめてるスフォルツァの姿を見つけ、あんまり嬉しくて叫ぶ。

「スフォルツァ!」
抱いてくれていた人が、スフォルツァに向き直る。

スフォルツァは、抱いている上級生で無く僕をうんとまん丸な、見開いた瞳で口を閉じたまま見つめていた。

抱いてくれていた人が告げる。
「…悪戯されてたぞ!
お前の知り合いか?!
ちゃんと校門で出迎えてやれ!
目を離すな!こんな子が一人じゃ、狼の群れの中に子羊だ!」

叫んで…怒鳴っている筈なのにどこか明るい、軽い口調で…言い諭すような響きがあって、けどとても強い言葉で…。

スフォルツァがようやく口を、開いた。
「…ラフォーレンはどうした?
本当に…一人で来たのか?」

久しぶりに見るスフォルツァはやっぱり、凄く格好良くて男らしくて綺麗で、目にした途端どきどきしたし、甘い気持ちになったからつい…言った。

「だってたったの、二点鐘だ…」
スフォルツァの、目が怖くなる。

「…まさか、ラフォーレンは知らないのか?!
抜け出して来たのか!!」

どうして怒るのか、分からなかった。
スフォルツァと会う時、不都合な時はいつだって抜け出していたのに。

「…だって…きっとラフォーレンはダメだって言う…」
「当たり前だろう!」

スフォルツァに怒鳴られ、助けてくれた人の胸の中で小さくなっていると。
スフォルツァはその人の前で両腕広げ、僕を迎えてくれた。

嬉しくて顔を上げたけど、スフォルツァは助けてくれたその人を、真っ直ぐ見つめて言った。

「すみません…。俺の落ち度です。
助けて頂いて、感謝します」

僕はつい、助けてくれた人を見上げる。
そんなに…背が凄く高い訳でも、体格が凄くいい訳でも、無かったけど…。

スフォルツァにも、分かったみたいだった。
その人が真剣に心配し、思いやって、言ってくれてる事が。

だってスフォルツァがこんなに素直に、こうべを垂れて謝罪する姿なんて。
滅多に見た事が、無かったから。

スフォルツァは胸に抱き上げてくれたけど。
その胸から、怒ってる雰囲気をすんごく、感じた。

けどもう…じれた体を我慢しなくていいんだと分かったから。
つい、スフォルツァに、思い切りしがみついた。

「…ひどい扱いをされてる。
最悪な事はされて無いようだったが」

スフォルツァはその人の言葉に、頷いてつぶやく。

「俺が面倒見ます」

その言葉を聞いた途端。
僕は舞い上がった。
捕まえられて、縛られてて、良かった!
って嬉しかった。

だってきっとその事が無かったら。
もっと、スフォルツァに怒られて…。
もしかして、抱いてもらえずラフォーレンが迎えに来るまでずっと、怒鳴られ続けていたかもしれない。

迎えに来たラフォーレンも、きっと凄く不機嫌で…。
僕は抜け出して二人を怒らせただけで終わり。
で、ちっとも良い事なんて、無かったかもしれない。

胸に顔をすり寄せると、それでもスフォルツァは労るように抱きしめてくれたから。
一気に胸が、高鳴った。

こんな風にスフォルツァに大事にされると、胸がきゅんきゅんする。

だって誰が見てもスフォルツァは、王子様みたいだったから。

「お名前を、伺ってもいいですか?」

けどスフォルツァのその言葉に、二人が初対面だと知って、びっくりして顔を上げる。
その人は
「四年のローフィス」
と名乗った。

その人を見つめていると、彼は優しく微笑んで頷くから…。
ああきっと、この人には兄弟とかいて。
いつもその人を大事に…とっても大事に、してる人なんだな。
って思った。

途端…肉親の温もりをその人から感じて、目が潤んだ。
それはだって僕にはもう、永久に無くなってしまったものだったから…。

祖母が寝台の上で、その瞳を永久に、閉じた時に。

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