アグナータの命運

あーす。

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夢の中の逃避行

197 夢の続き レオとキースとファーレーンと

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  いつの間にか全員が、寝台代わりにも成るふかふかソファで寝こけていた。
アリオンとファオンは天蓋付きベットで寝息を立てている。

突然扉が激しい音を立てて開き、ロレンツが目を擦ってそっちを見る。

エイモスだった。
が、背後に…。

ファーレーンだけで無く、なんと…キースとレオが付いて来ている。

キリアンも頭を揺らし、顔を上げる。
「兄貴…」
そして背後のキースとレオを見て、目を見開く。

シーリーンだけが…。
「…キース…それに…レオ」

と呟いた。

全員さっさと部屋に入り、暖炉の前のソファに駆け込み、暖を取る。

「…寒かった?」
キリアンが横に座るファーレーンに尋ねると、ファーレーンは無言で頷いた。

キースは「よっ!」と言って、シーリーンの前を通り、ファーレーンとシーリーンの間に座る。
レオは一番外側に座り、シーリーンを見つめ
「シーリーン」
と呟いた。

長を降りたレオはそれでもやっぱり迫力は健在。
キースは重責から解放された為か、ファーレーンと一緒の為か…。
やはり王者のような豪奢な豪快さを見せながらも、垂らしの雰囲気、全開に見えた。

ロレンツが背後を見ると、エイモスはまだドアノブ掴んだまま、戸口で項垂れている。
そして顔を上げ、だだっ子のように怒鳴った。
「二人っきりじゃ、無かったぞ!」

キースがジロリ…とエイモスに振り向く。
「あんたの魂胆、ミエミエなんだよ!」
ファーレーンが横で恋人気取りのキースを、ジロリ、と見る。
「…お前に付いて来て欲しいと、私は頼んでないぞ」

シーリーンがそれを聞いて、横のレオを見る。
「…ファーレーンに指名されて俺がどんだけ焦ったか、分かるか?」
「…ファーレーンはあんたに同行を頼んだのか?」
レオは頷く。

「俺とキースは冬の見回りの順番が来て、ファーレーンから見回りする場所の配置を貰いに行ってた、矢先にお前らが逃げた。
と聞かされ、そのままファーレーンと一緒に、《勇敢なる者》レグウルナス管理塔に足止めされてたんだ」

ロレンツがエイモスを見る。
「管理塔に行ったのか?最初」
エイモスは少し復活すると、ロレンツの横に腰掛ける。
「ジェンスが。
東領地行くより近いし、ファーレーンの所在を確かめろ。とか言って。
あいつはそのまま、受付のロリンダ嬢が勤務時間終了と共に消えた。
確信犯だ」

ファーレーンが憮然。と言う。
「女性を24時間交代で受け付けさせるのは、どうかと思うな」

レオが呟く。
「管理塔はかつて《勇敢なる者》レグウルナスだった者が大勢出入りするから。
ずっと男の《皆を繋ぐ者》アグナータと過ごしてきた《勇敢なる者》レグウルナスが、少しでも女性と接触する機会をって、わざと器量良しで名家の令嬢を、厳選して配置してる。
…そう聞いたぞ?」

シーリーンがレオを見る。
「…恋愛対象として?」
レオは無言で頷く。

キースも振り向く。
「日によっちゃ、六人くらいの時あるぜ。
女性側から「受付したい」
と言われても断らないからだそうだ」

「…………………………………」

「…だから女性の方も、狙ったかつての《勇敢なる者》レグウルナスがいると積極的だ」
レオの言葉に、キースが気の毒そうに俯く。
「…レオは三人の、もの凄くけたたましいオンナに狙われて、管理塔に行く度口説かれ続けてる」
レオも頷きながら呟く。
「…逆効果だ。
シュティッセンの方が、どれだけいいかを思い知らされる」

「…………………………………………………………………」

その場はレオの傷ましさへの、労りの沈黙に包まれた。

「…で?ファオンとアリオンも一緒だと聞いたぞ?」
キースに尋ねられシーリーンがベットの方に振り向くと、カーテンを開けて、ファオンとアリオンが出て来る。

アリオンはファオンと過ごした為か、びっくりする程男っぽく見えた。
ファオンは可愛らしくはにかむと、長兄ファーレーンを見る。

「兄様…」

ファーレーンはかつて弟の寝室で裸のアリオンを見た記憶が彷彿としたのか、横のアリオンを睨む。
「貴様…!」

シーリーンが直ぐ言う。
「今回は、俺も一緒だ」

ファーレーンが直ぐ、シーリーンを睨み付ける。

が、キリアンが言った。
「違うだろう?!
俺らが散々委員会に、ファオンをせめてセグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者に。
と言っても聞かない奴らが悪いんだ!
実際ファオンがセグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者で実績積めば、《勇敢なる者》レグウルナスにだって成れたはずだ!
機会を潰したのはあいつらで、ファオンが《勇敢なる者》レグウルナスだったらアリオンとシーリーンも、連れて逃げずに済んだんだ!」

「……………」

ファーレーンが黙り込む。

ロレンツがすかさず言った。
「俺とキリアンが証人だし…南尾根の雑兵アルナも見てる。
ファオンが杖付き殺して群れが引いたの」

「…ファオンは…剣が使えるのか?」
ロレンツが請け負う。
「俺らと対等に」

「キリアン、ロレンツ。
お前ら尾根降りたばかりで悪いが…。
俺とキースも同行するから、その杖付きってのを教えてくれ」
レオの言葉に、ファオンがムキになる。
「僕が斬った!
僕じゃ無きゃ、直ぐ見つけられない!
その分群れの《化け物》キーナンに長く襲われて、怪我するリスクも増える!」

レオとキースは顔を見合わせる。

ファーレーンが静かに、末弟に言った。
「お前、お尋ね者なんだぞ?」

ロレンツが言う。
「でも雪、降ってるし」
キリアンも頷いた。
「俺らも行くから、同行して貰えば?
俺達が確かめた後、逃がそうぜ」

シーリーンが
「逆戻り?」
と聞くと、アリオンも肩竦めた。


ファーレーンがレオに振り向く。
「杖付きを確かめた後…どう持っていくつもりだ?」

レオがファーレーンを見つめ返す。
「ファオンはアリオンとシーリーンにそれを伝える為に同行した事にする」
「逃亡では無くて?」
ファーレーンの問いに、レオは頷く。
「アリオンとシーリーンはファオンからそれを聞いていても、長(おさ)の任期中には見つけられず…ファオンはそれがもどかしくて、とうとう二人が尾根を降りる際、同行して証明したことにすればいい」

キースも後を継ぐ。
「で、俺達がそれを受け取り奴らに証明してやる。
代わりに…ファオンを《皆を繋ぐ者》アグナータから下ろす条件で」

ファーレーンの顔が、ぱっ!と明るく輝く。

「…笑うと可愛い…」
エイモスが呟き、同様に思ったキースがエイモスを睨んだ。


夢見ていたアリオンとシーリーンはこの展開に、思い切り顔を下げる。
ファオンだけが
「上手く行くのかな?」
とわくわくして言った。
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