アグナータの命運

あーす。

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終焉の儀式

149 “終焉の儀式” シーリーン 1

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 次の出で、アリオンとシーリーンが顔を見合わせる。

こういう場合、大抵物怖じせず男らしいアリオンが先に出るのが常だったのに、アリオンが動かない。

シーリーンは立ち上がりかけて膝を戻し、アリオンを睨む。

が、アリオンはじっと座ったまま。

シーリーンは腰を上げる。
正直順番なんて、どうだって良かった。

目前で晒されてるファオンに一時も早く…触れたかった。

ファオンはやっぱり、ぼうっ。としていて、後ろからシーリーンに腕を引かれると、振り向く。

真っ赤に染まった唇。
潤んだ青の瞳。
白っぽく乱れてくねる金の髪が胸元を飾り…。

見惚れる程艶やかで綺麗だった。

けどファオンはシーリーンをその瞳に映し出すと…。

シーリーンの腰に、腕を回し抱きつく。

「…僕…僕、知らないところに来て知らない自分になって…。
迷子になっちゃったのかと思った…」

シーリーンはくす。と笑う。

「アランが意外だったから?」

ファオンはシーリーンの腰に顔を埋めたまま、頷く。

そして顔を上げて…抱き合った時、その変貌まで良く知ってる、シーリーンを見つめる。

いつも…いつもシーリーンに見つめられると、心がときめいた。
その時もやっぱりときめいていて…。

これからシーリーンの腕に抱かれると思うといつも恥ずかしくて…けれど安心で…。

それは頼れるアリオンとはまた、違う安心で…。

ファオンは求めるように、シーリーンを見つめた。

シーリーンはじっと。
ファオンを見つめ続けた。

濡れた唇。
幾人の男が口付けた…。

それを思うと、焼けた鉄の棒で胸を抉られるほどの嫉妬で辛かった。
が、シーリーンはそれを外に押しやる。

解っていたことだ…。
アリオンに先を越されたときに。
リチャードに奪われたときに。

ファオンは一人占め出来ない。
その事が、痛切に…。

リチャードのように嫉妬で狂えば、ファオンを失う。

シーリーンはその事が、痛い程解っていた。

だから…そっと抱き寄せる。

ファオンはふんわり包み込む、シーリーンの優しさに泣いた。
小さな…頼りない子供に戻って。

けどシーリーンは抱き止めてくれる。

祭りで女の子達に意地悪されて…。
「この子もコンテストに出ます!」
そう言って引っ張り込まれて化粧され、女装させられて…。
壇上に引っ張り上げられ、泣きたいほど恥ずかしかった。

その後…着替えようと暗がりを通った時、暴漢に女の子と間違われて絡まれ、男の子だって言い張って、ちゃんと男の子だと奴らに解らせ…。
それでも犯されそうになって、必死で暴れた。

シーリーンとアリオンは来てくれた。
まだ少年だったのに…大人の暴漢に立ち向かい、剣を抜いて…。

シーリーンは腕を引き、背に庇ってくれた。
泣き出したいほど…嬉しかった。

「…ごめん…なさい…」

シーリーンは顔を揺らす。
「…なんで?」

「僕…僕考えなかった…。
父様に…《勇敢なる者》レグウルナスとなる為、シリルローレルと旅立つか?と尋ねられた時…。
シーリーンの事…少しも………。
ごめん…なさい………。
ずっとシーリーンと会えなくなるって事…僕全然…考えて…無くて必死で………」

ファオンが泣いているので…シーリーンは切なくなった。

…長かった。
ずっとファオンを探し続け…絶対会えると信じ続け…。

けれど《勇敢なる者》レグウルナスとして尾根に上がりそれも叶わなくて…。
同様のアリオンと共に、心のどこかで願い続けた。

ファオンと再び会えますように。と。

「僕…僕…いっぱい謝らないと…。
シーリーンはいつも…気にかけてくれてたのに…。
二人でいる時…いつもちゃんと…僕を見てくれてたのに…。
僕…僕…シーリーンの取り巻きの女の子達の方が怖くて…。
時々駆け寄って…抱きつきたかったけど、我慢してた…。

そんな風にいつもシーリーンの時、我慢してたから…。
あの時…も…シーリーンと会えなくなる…ってその事も…我慢しちゃった…」

皆がファオンの告白に、シーリーンに一斉に注目する。

シーリーンは溜息を吐く。

「…じゃ…。
俺の事、アリオンの後回しで無視してた訳じゃないんだな?」

ファオンは顔を上げる。
「そんなの…当たり前だ!
でもシーリーンはいっつも…綺麗で、格好良くて…。
それにとても勇敢で。
女の子達に取り巻かれてて…。
近寄れなかった」

「…それ、もしかして俺の事、責めてる?」

ファオンは俯く。

そしてぽろぽろと涙を流す。

「…だって…女の子達がシーリーン取り巻いても…無理…な……。
僕…なんか……男…だし………」

「お前さ。
感じすぎてどっか飛んでる?」

「うん…。
なんかもう…アランにうんと恥ずかしくされたら…。
なんか…余計な事とか…嘘とか…言ってられない…。
ずっと大好きだったのに…。
僕一度も…一度も伝えられなくて………」

「ちゃんと伝わってる。
でなきゃとっくに思い切ってる。
俺、モテるし」

「うん…知ってる…。
シーリーンが好きな女の子の気持ち…凄く良く解った。
けど…解ると恥ずかしいから。
僕は男の子なのに…またリチャードとかに“オンナみたい”って虐められる…」


皆がいきなりリチャードを見るので、リチャードはぎょっ!として、しどろもどろった。


「…でもアリオンも、好きなんだろう?」

ファオンは顔を上げる。
「…アリオンはもう…別格で…けどいつもとても…遠い人だった。
憧れて見てるだけ…。
たまに…突然優しくされると凄くどきどきして…。
けど僕の世界に、アリオンはいない…。
アリオンはみんなのもので…僕の所にたまに…ほんのたまに来てはくれるけど…。
いつもみんなの元に戻って行って…みんなのものなんだ」


今度、皆がアリオンを見ると、アリオンは俯き、吐息を吐いていた。


「でも…もう僕の事嫌いだよね…。
僕…みんなにされて体すぐおかしくなるし…されてももう嫌じゃないし…。
シーリーンに大切にされる資格無い…」

《皆を繋ぐ者》アグナータになったのは、お前のせいじゃない………」

ファオンが、顔を上げる。

「みんなが知ってる。
《皆を繋ぐ者》アグナータは抱かれる《勇敢なる者》レグウルナスのみんなを…恋人のように思わないと辛いって事が…。
ちゃんと、解ってる」


ファルコンが、ぼそり。と隣のキースとレオに言う。
「…あいつ、凄いな。
いつもどっか超越してる。
とは思ってたが。
俺なら嫉妬で気が狂う」

レオは頷く。
が、キースが囁く。

「精一杯の虚勢なんだから。
突(つつ)くな」

シーリーンはキースに振り向くと、ぎっ!と睨め付ける。

キースは肩竦めたが、ファルコンは目を見開く。

レオだけが頷くと、溜息交じりに言った。

「お前の言葉が正しいと、認めたな」

キースは思い切り、頷き返した。


ファオンは俯くと、囁く。
「…そう…だよね…。
僕…だって僕…。
シーリーンに優しくされた後、見かけて…近寄ろうとして…。
けれどレアンナとかアニカとか…。
僕の姿見るとわざとシーリーンと腕からませて…。
僕の事意地悪く見下す。
けど…僕は資格がない。
女の子じゃないから。
二人に言い返せない。
一っ言も」

シーリーンが顔を傾ける。

「それ…俺と抱き合った、後?前?」

「…前も、後も」

シーリーンが溜息を吐く。

「だっ…て言えないでしょう…?
僕…シーリーンと裸で抱き合ってる。
なんて…。
でも…僕言わなかったけど…。
言われた。
“もし、シーリーンがファオンを相手にしても、男の子だと妊娠しないから。
遊びに丁度良いからよ”って」

シーリーンの、眉が寄る。

「それ、どっちが言った?
レアンナか?アニカ?」

「…それ言ったの、ロザリンデ」

シーリーンが、深い溜息を吐く。

「…それであいつ…俺に念押ししてたんだな。
《勇敢なる者》レグウルナスになるなら男の子も相手にするんでしょう?
けど…妊娠しなくて丁度良いからよね?”

…言っとくが、俺は言ってない。
ロザリンデの持論だ。
あいつブラコンなのに、兄貴が東尾根の《勇敢なる者》レグウルナスで、兄貴は《皆を繋ぐ者》アグナータに夢中だったから」

ファオンはムキになる。
「その上大好きなシーリーンが振り向いてくれないからだよね?」

「…俺の事、責めてる?」

「だってシーリーンも凄くモテるから…!
僕本当はすっごく不安だった!
抱き合った時は幸せなのに…直ぐ不安になる!」

「…だって…俺はちゃんと、言ったろう…?
“好きだ”
とも、“お前の物だ”とも。
それともお前さ。
俺が他の女の子にも言ってるとかって、思ってた訳?」

ファオンは顔を上げる。

「…思って…無い…。
けど…不安だった…」

「じゃ今、俺が昔のお前みたく…お前が他の男に抱かれてそのまま好きになったらどうしよう。
って不安になって“ざまみろ”とか仕返したとかって、思う?」

ファオンは首を横に振る。
「今は…今は嫌われてもう、二度と好きになって貰えなかったらどうしよう…って…おもって…る…」

ファオンはまた、ぽろぽろと涙を滴らせる。

「泣かなくていい…」

ファオンはシーリーンに、優しく抱きしめられて、両腕回して抱きつく。
そして囁く。

「…シーリーンの事…好き」
「…解ってる」
「大好き」
「ああ…。
で俺もう、限界なんだけど」

ファオンは一辺に、顔を上げて真っ赤になる。
俯き、小さな声で囁く。

「…ごめん…なさい…」

シーリーンは顔を傾ける。
やっぱりいつも見ていたその美麗な顔で覗き込まれると、ファオンは胸がどきどきして、うっとりした。

「…どうされたい…?
もういっぱい…色々されて、満腹か?」

「…抱きしめて…」
「うん」

ファオンはシーリーンの腕が優しく…身体ごと抱きしめてくれる感触に、胸が甘酸っぱくときめくのを感じながら…抱き止めてくれるシーリーンの胸に顔を埋めて、安心しきった。

「大好き…」
「俺も」


見てる皆が、その甘々の告白劇に、一斉に顔を背けた。
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