アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
110 / 286
キーナンの森

110 森の中の襲撃 2

しおりを挟む
 アリオンが見た時、ファオンはもう、木に登り始めていた。
横にシーリーンが並ぶと、直ぐファオンの後を追って木を登り始め、アリオンもシーリーンと、ほぼ同時に登り始める。

直ぐ、ファーレーンが来て、レオ。
そして、キースとアランが、木に手を付いて、急ぎ登る先の者を追いかけ、登る。


シーリーンは登った先の、枝葉に見え隠れするファオンの姿を、目で追う。

がファオンは、密集した横の木の枝に、飛び移ってた。

必死でシーリーンも飛ぶ。
直ぐ後にアリオンが飛んで来る。
が、アリオンが枝に着地する前に、シーリーンはもう先の枝へ移るファオンを追って、飛んでいた。


幾つかの枝を飛び、木に捕まるファオンに辿り着く。

ファオンは葉影に身を隠しながら、割と広い、森の中の道を見下ろしていた。

背後に振り向く。
続々と皆、近くの枝にやって来る。

「静かに移動して!」

シーリーンとアリオンは既に太い枝の上で屈みながら下の道を伺い、ファーレーンも腰を屈めながら、背後のレオに告げる。

「静かに」

レオは頷き、背後のキースとアランに囁く。
「音を殺せ」

キースもアランも頷き、そっ…と枝に手を乗せ、静かに足を運ぶ。

皆が一本の大木の枝の上で、葉影に身を隠しながら見下ろすと…。

《化け物》キーナンの群れが道をやって来る。

黒い剛毛に覆われた《化け物》キーナンが整然と列なし、黙々と先へ進んで行く。

皆が、初めて見るその様子に、ごくり…と唾を飲み込む。

遠くでまだ、共喰いする《化け物》キーナンらの「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
と言う声が響くが、進む《化け物》キーナンらは見向きもしない。

「(長い…)」

長蛇の列に、ファーレーンはチラ…と、少し離れた枝の上にいる、末弟ファオンに振り向く。
ファオンの表情は平静。
じっ…と、列が過ぎ去る様子を見守っている。


皆が音を殺し、息をひそめ、列が過ぎ去るのを待つ。

「(数にしておよそ…170程か…?)」

レオはじっ…。
と列の最後尾を見やる。

黒い剛毛で覆われた、生き物の頭が無数に、下の幅の広い道を、通り過ぎて行く。

そしてやっと…最後尾が、目前を過ぎ始めた。

やはり…一人遅れて、杖付きが姿を現す。

萎びた…小さな、杖持つ《化け物》キーナン

皆が杖付きを見つめた時。
ファオンはもう、飛んでいた。

「…フ…!」

ファーレーンが叫びかけて、咄嗟口を手で押さえる。

ざっ…!ざ…!

枝二つを踏み場にし、もう剣を頭上に振り上げ、杖付きの真上に飛び、襲いかかる。

アリオンとシーリーンも同時に飛ぶ。

ざっっっっ!

ファオンが着地と同時に、杖付きを斬って捨てる!

直ぐ、アリオンが倒れる杖付きに駆け寄り、瀕死ながら杖を持ち上げる腕を、斬って捨てる。

「ぎゃっ!」

進む群れが、一瞬、静止する。

シーリーンが駆け込むと、ファオンを抱き寄せる。


ファーレーンが枝から身を落とす。
レオが木に捕まり、落下して行くファーレーンの、上に上げられた左手首を、がしっ!と片手で掴む。

直ぐ、アランがファーレーンの下げた右手首に飛んで捕まり、道の上へ、ファーレーンの手首に捕まったまま振り子のように飛びながら、ファオンを抱くシーリーンの頭上を目指す。

シーリーンはファオンを、宙から手を差し伸べるアランへと、押し出す。

群れは突然散開し、周囲の《化け物》キーナンへと掴みかかり、共喰いし始めた。


手首に捕まるファオンに、アランが叫ぶ。

「俺を伝って上へ行け!」

ファオンは振り子のように木の方へと戻り行く、アランの腕を掴みながら肩へと登り、踏み台にして次に腕を繋ぐファーレーンの、肩に掴まる。

「レオの所へ!」

ファーレーンの言葉にファオンは頷き、ファーレーンの肩に掴まり更に上のレオの肩に掴まり登ると、レオの立つ太い枝へと足を付け、吐息吐く。

アランが直ぐ、ファーレーンを伝い登り、レオの肩に掴まって登り、ファオンの横に足を着く。
レオは宙吊りになってるファーレーンの体を、力尽くで持ち上げた。

アランとファオンが両側から、ファーレーンの腕を持って枝の上へと、急ぎ引き上げる。

ファーレーンが枝の上に立って少しほっとすると、ファオンは思わず叫んだ。

「シーリーンとアリオンは?!」


シーリーンはファオンを、振り子のように飛んで来る、アランの腕に掴ませた後、ずばっ!と背後で剣振る音を聞き、直ぐ剣を抜き振り向く。

アリオンが背を襲う《化け物》キーナンを斬り捨ててくれていた。

が、こちらを向いてるアリオンの、背に迫る《化け物》キーナンを見つけ、咄嗟に左に差した予備の剣を、アリオンの背後目がけて投げる。

「ぎゃっっっ!」

キースが木の下で叫ぶ。
「走れ!」

二人同時にキースの元へと走り寄る。

キースが飛び込んで来る二人にの背後に駆け込み、襲いかかる《化け物》キーナンを、剣を振り切り斬り捨てる。

どさっっっ!

直ぐ、キースは背を向け、アリオンとシーリーンの待つ、木の横へと駆け込む。

《化け物》キーナンらはそれ以上は来ず、斬られて倒れた《化け物》キーナンに、襲いかかっていた。

三人は一気に木を登り始める。

レオがもう、元来た枝へと移動しながら振り向き、怒鳴る。

「群れは獲物を求め森へ入った!
戻って知らせる!」

キースが木に登りながら怒鳴る。

「先に行け!」


ファオンはまだ木の枝に捕まってそこにいて、アリオンとシーリーンが枝に登り来る姿を、嬉しそうに見つめる。

シーリーンが枝に登り、立ち上がった時。

「!」

シーリーンは、胴に抱きつくファオンに、目を見開く。

ファオンはシーリーンの胸に顔を突っ伏し、叫んだ。
「…良かった…!
無事で、本当に良かった!
僕だけ先に、逃がしてくれるんだもの!」

シーリーンはファオンに抱きつかれ、嬉しかった。
が、囁く。

「俺やアリオンなら、重いからアランは手を差し伸べないし」

ファオンは、顔を上げる。
そして横に来るアリオンを見上げる。

「…僕、そんなに危なっかしく見える?」

アリオンとシーリーンは苦笑し、背後のキースに振り向く。

キースは二人に見つめられ、二人に代わってファオンに忠告した。

「だって斬った後の、群れの襲撃お前、考えてないだろう?」

ファオンはキースに振り向く。
そして横のシーリーン。
アリオンを見上げ、頷く。

「…うん。
僕がシリルローレルと杖付きを狩ったのは、繁殖期じゃなかったから…。
杖付きを殺った後襲撃されても、せいぜい多くて六体程度だったし………」

少し先の枝にいた、ファーレーンが振り向く。

「…これだけわんさか《化け物》キーナンがいるのに、視界に入ってないのか?」

ファーレーンに、厳しい表情でそう言われたと、ファオンは思った。

けれど顔を上げると、ファーレーンはとても心配そうな表情で…。

ファオンは俯く。
「…心配かけて、ごめんなさい」

ファーレーンは静かに呟く。
「質問に、答えて。ファオン」

ファオンはチラと…心配げなとても美麗なファーレーンの顔を見上げる。

「…ええと…。
《化け物》キーナンと見ると…杖付きを探す癖が付いてて、杖付きを見ると…杖付きしか視界に無くて…。
けど、《化け物》キーナンの気配を感じたら、剣を振る心構えはちゃんと………あ…る…」

「でも群れは…視界に無いんだな?
…見えてないから、怖くも無い」

ファオンは顔を下げる。
「…多分…。
けどたいていの場合…杖付きを殺ると《化け物》キーナンは、僕より体の大きな仲間を喰おうとするから…。
襲って来る《化け物》キーナンもいるけど、ちゃんとシリルローレルに、一撃で動けなくするくらいの剣術を、教わったし………」

ファーレーンが、溜息を吐く。
そして末弟を大事そうに護り付く、アリオンとシーリーンをチラと見た。

ファーレーンは顔を下げたまま、二人に言った。

「弟の守護。感謝する」

アリオンはファーレーンを見つめた。
かつて“弟を汚した不届き者!”ときつい口調で…断罪した、ファーレーンを。


シーリーンはアリオンをチラ…と見、ファオンの背を押した。

背後でキースがぼやく。

「群れは森の中へ、食い物見つけに散開した。
あっちに残った仲間が心配で、レオは先に戻ったんだ。
多勢の《化け物》キーナンに囲まれない内に、とっとと森を出よう」

ファーレーンが、キースに振り向く。
キースは一瞬、真っ直ぐファーレーンに見つめられて、どきっ!とした。

湖水の青。
愛しい瞳。

熱を込めて見つめ返す。
が、ファーレーンは笑いながら、背を向けた。

「東尾根の馬鹿三人は、少しは《化け物》キーナンに囓られたら、性格変わるかもしれないから、遅れても構わないがな」

キースは肩竦めた。
「煩悩の塊が、ちょい囓られたくらいで治るかよ」

シーリーンがくすっ。と笑い、アリオンも微笑んだ。

四人は枝の上を、そっと伝いながら次の枝へと伝い歩き、仲間の元へと戻って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

調教済み騎士団長さまのご帰還

ミツミチ
BL
敵国に囚われている間に、肉体の隅に至るまで躾けられた騎士団長を救出したあとの話です

ペット彼氏のエチエチ調教劇場🖤

天災
BL
 とにかくエロいです。

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

親父は息子に犯され教師は生徒に犯される!ド淫乱達の放課後

BL
天が裂け地は割れ嵐を呼ぶ! 救いなき男と男の淫乱天国! 男は快楽を求め愛を知り自分を知る。 めくるめく肛の向こうへ。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

処理中です...