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キーナンの森
107 キーナン《化け物》の森
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坂を下り始めると、だんだん木の点在する草地になり、谷底の木々が生い茂る森に到達する少し手前。
奇っ怪なぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
と言う、《化け物》の叫び声が飛び交い始める。
「…?!」
皆が一斉に聞き耳立てる。
レオが尋ねる。
「…共喰いしてるのか?」
レドナンドは
「実は君らに同行したのは、昨日の襲撃後の様子を確かめに来たんだ」
と言った。
ファオンがもう駆け出す。
「!」
「!」
アリオンとシーリーンが直ぐ、後を追う。
レオが叫ぶ。
「どうする気だ?!」
駆けながらファオンは振り向く。
「森の入り口近くの大きな木に登って、様子見します!」
直ぐ、レオも駆け、レドナンドもが走り始める。
長が走る姿を見、皆も一斉に駆け出す。
シーリーンは横にファーレーンが並び走る姿を見、目を見開く。
ファオンの姿は一気に木々の間をすり抜け、消え去りかねない。
左の木の間から、突然《化け物》が飛び出す。
ざっっっ!
ファーレーンが走りながら剣を抜き、一気に腰を捻り剣を振り切って斬り捨てる。
「ぎゃっっっ!」
どんっ!
倒れる《化け物》を横目に、ファーレーンはそのまま、アリオン、シーリーンと併走して駆け抜ける。
「…………………」
シーリーンもアリオンもが、ファーレーンの冷静な剣捌きと的確な判断に、無言で感嘆する。
が、三人が、目前の大木に登り始めるファオンの姿を見つけ、足を止めて咄嗟、上を見る。
ファオンは下で見上げる三人に気づき、木の上から叫ぶ。
「…まだ単独でウロついてる《化け物》もいるかも!
気をつけて!」
だがそれを聞いた途端、ファーレーンは剣を鞘にしまい、ゆうに3mは幅のある木に手をかけ、よじ登り始める。
アリオンとシーリーンは目を見交わせ合い、が同時に木に足をかけ、手を使って登り始めた。
レオとレドナンドが木の下に辿りついて、上を見上げる。
レオは背後に駆けつけるファルコンに怒鳴る。
「下を頼む!」
ファルコンは後ろから出て来て横を通り過ぎ、登り始めるキースを見、直ぐ背後に迫るセルティスに振り向く。
「…お前も、登るか?」
セルティスは首を横に振る。
「大勢登って、上は混み合ってるし」
ファルコンは俯く。
「俺は登れと言われたら断る。
俺の筋肉はかなり…重い」
続き来た、アランも頷く。
「…止めとけ」
ファルコンは頷く。
リチャードとデュランは揃って、遙か上に見えるファオンと、その下から追う、ファーレーン、アリオン、シーリーンを見つめ、今また登り始める、レオとレドナンド。
そしてキースを見上げた。
大木は10mはある程の高さ。
枝はあちこち横に張り出しているが、枝と枝の間隔は割と広い。
そこを、ファオンはするすると手をかけ、足を幹にかけて身軽に登って行く。
アリオンやシーリーン、そしてファーレーンは、枝に手をかけ、身を浮かし、次の斜め上の枝に手をかけて更に上へと登り行く。
「早いな」
ファルコンの言葉に、セルティスとアランが頷く。
が、東尾根の三人がひそひそと話す言葉が聞こえて来る。
「…相変わらず、ファーレーンの腰つきってそそる」
「…下からだと、良く見えるよな。尻」
「ぶち込みたいぜ…。
何、最初は痛がるだろうが…」
「ロスの根の粉末、練ったのを入れてやれば、最初でも痛くない」
「…どころか、暫くはよがり狂うぜ?」
「ファーレーンが尻振って『挿入(い)れて』とかって、言うかな?」
「それ最高!」
セルティスが、それを聞いてファルコンを見、アランも見た。
ファルコンが二人に怒鳴る。
「何だ!」
セルティスが、頷きながら言う。
「…ロスの根の粉末、なんて強烈な媚薬。
持ってるスケベって、お前だけじゃなかったんだな」
ファルコンが途端、顔を下げ、その後セルティスとアランに背を向けてばっくれた。
ファオンは高く登り、遙か先を見つめる。
木々の間に所々開けた草地があり、近くに岩の洞窟。
そこに、真っ黒に埋め尽くされる《化け物》の姿。
「…壮絶にたくさんいるな」
シーリーンが言いながら、斜め下の枝にやって来る。
「壮絶…?」
アリオンがそう言って、枝に手をかけ、振り向いて絶句した。
「…真っ黒だな」
ファーレーンもそう言いながら、ファオンの斜め下の枝に、腰掛ける。
「…共喰いしてる…」
そう呟く、ファオンの指さす方向を見る。
すると、三つほど見える森の中の草地が、全部黒い《化け物》で埋め尽くされ、壮絶に互いを喰い合っていた。
ファーレーンが囁く。
「昨日…二つの群れの杖付きを殺ったから…。
今日、お前が殺った杖付きを入れると、丁度三つ」
けれどファオンが、もっと先の開けた二つの草地を指す。
「…でも…あの辺りにも、洞窟がある…。
ほら、産まれたばかりの比較的小さな《化け物》達が共喰いし合ってるから、あの二つが襲撃してきた《化け物》の“巣”だよ」
レドナンドも、アリオンらの下に来ると“巣”のある方向を見つめる。
「…つまり…杖付きが死んで、“巣”に戻る途中にあった別の“巣”の《化け物》を…襲って喰ってるのか?」
レオが少し下に来て、唸る。
「…らしいな。
手前の“巣”に、杖付きの姿が見える」
レオの指が真っ黒く蠢く、手前の“巣”の一つを指し、皆が必死で目を凝らす。
ファオンが、がっかりしたように言う。
「さっきから、どうやったらあの杖付きを殺れるか、考えてたんだけど…。
真ん中近くの岩の上にいるし。
他の、杖付きを失った群れの《化け物》に喰われないよう、自分の群れの中心にいるし…。
殺れそうにない………」
そう言われて、ようやくシーリーンもアリオンも、そしてファーレーン、レドナンドもが、レオの言った杖付きを見つけた。
襲いかかる別の群れの《化け物》を避け、岩の上にいて、群れの《化け物》は杖付きを護り、押し寄せる《化け物》を襲っていた。
杖付きは杖をしきりに振る。
その都度、近くにいた《化け物》が、杖付きに襲いかかる《化け物》に襲いかかって行く。
レオが呟く。
「…俺達が殆ど殺してないから、引いた数が多くて…壮絶な殺し合いになってるな…」
けれどレドナンドが、目を輝かせて言う。
「杖付きを殺れば…群れは“巣”に戻る途中、杖付きの“巣”を襲うなら…いい手だ。
奴らがどんどん勝手に数を滅らしてくれる!」
ファーレーンがその時、ファオンの視線の方向を見つめ、眉を寄せる。
「あの…奥の“巣”…」
ファオンの言葉に、ファーレーンも囁く。
「…ああ…襲撃準備を始めてる」
皆が、ファオンとファーレーンの見つめる方向。
左のうんと向こうの、木々の開けてる草地で、点に見える黒い塊が、整然と並ぶ姿を見つける。
「…あの群れが進んで行く、木に先回りして登って…群れが通り過ぎた最後尾に杖付きの姿を見つけたら、飛び降りて殺れる」
レドナンドが頷く。
「なる程」
「どこを通るか、解るか?」
レオに聞かれ、ファオンは首を回して下を見る。
が、首を横に振る。
「…幾つか通り道があるから…群れが動き出さないと」
レオは頷く。
暫く皆が伺ってると、襲撃準備を始めた“巣”の群れが、動き始める。
「…あれが…共喰いしてる“巣”の横を通ってくれるといいんだが」
ファーレーンの言葉に、ファオンががっかりして言った。
「…迂回して行くみたい…」
アリオンもシーリーンもが、その群れが共喰いしてる“巣”の、左横の森の中の蛇行した道を、進み行くのを見た。
レドナンドが、問う。
「…それで?
まだここにいるのか?」
レオが上のファオンを見上げる。
「…通るルートが解るか?」
「もう少し、進めば」
レオは頷き、レドナンドに告げる。
「その時になったら、勝手にファオンは動き出す」
レドナンドは呆れる。
「君はそれを、許しているのか?」
レオは頷く。
「ファオンは杖付きの習性を一番良く知ってるから、誰より動作が的確だ」
レドナンドは頷いた。
「なる程」
奇っ怪なぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
と言う、《化け物》の叫び声が飛び交い始める。
「…?!」
皆が一斉に聞き耳立てる。
レオが尋ねる。
「…共喰いしてるのか?」
レドナンドは
「実は君らに同行したのは、昨日の襲撃後の様子を確かめに来たんだ」
と言った。
ファオンがもう駆け出す。
「!」
「!」
アリオンとシーリーンが直ぐ、後を追う。
レオが叫ぶ。
「どうする気だ?!」
駆けながらファオンは振り向く。
「森の入り口近くの大きな木に登って、様子見します!」
直ぐ、レオも駆け、レドナンドもが走り始める。
長が走る姿を見、皆も一斉に駆け出す。
シーリーンは横にファーレーンが並び走る姿を見、目を見開く。
ファオンの姿は一気に木々の間をすり抜け、消え去りかねない。
左の木の間から、突然《化け物》が飛び出す。
ざっっっ!
ファーレーンが走りながら剣を抜き、一気に腰を捻り剣を振り切って斬り捨てる。
「ぎゃっっっ!」
どんっ!
倒れる《化け物》を横目に、ファーレーンはそのまま、アリオン、シーリーンと併走して駆け抜ける。
「…………………」
シーリーンもアリオンもが、ファーレーンの冷静な剣捌きと的確な判断に、無言で感嘆する。
が、三人が、目前の大木に登り始めるファオンの姿を見つけ、足を止めて咄嗟、上を見る。
ファオンは下で見上げる三人に気づき、木の上から叫ぶ。
「…まだ単独でウロついてる《化け物》もいるかも!
気をつけて!」
だがそれを聞いた途端、ファーレーンは剣を鞘にしまい、ゆうに3mは幅のある木に手をかけ、よじ登り始める。
アリオンとシーリーンは目を見交わせ合い、が同時に木に足をかけ、手を使って登り始めた。
レオとレドナンドが木の下に辿りついて、上を見上げる。
レオは背後に駆けつけるファルコンに怒鳴る。
「下を頼む!」
ファルコンは後ろから出て来て横を通り過ぎ、登り始めるキースを見、直ぐ背後に迫るセルティスに振り向く。
「…お前も、登るか?」
セルティスは首を横に振る。
「大勢登って、上は混み合ってるし」
ファルコンは俯く。
「俺は登れと言われたら断る。
俺の筋肉はかなり…重い」
続き来た、アランも頷く。
「…止めとけ」
ファルコンは頷く。
リチャードとデュランは揃って、遙か上に見えるファオンと、その下から追う、ファーレーン、アリオン、シーリーンを見つめ、今また登り始める、レオとレドナンド。
そしてキースを見上げた。
大木は10mはある程の高さ。
枝はあちこち横に張り出しているが、枝と枝の間隔は割と広い。
そこを、ファオンはするすると手をかけ、足を幹にかけて身軽に登って行く。
アリオンやシーリーン、そしてファーレーンは、枝に手をかけ、身を浮かし、次の斜め上の枝に手をかけて更に上へと登り行く。
「早いな」
ファルコンの言葉に、セルティスとアランが頷く。
が、東尾根の三人がひそひそと話す言葉が聞こえて来る。
「…相変わらず、ファーレーンの腰つきってそそる」
「…下からだと、良く見えるよな。尻」
「ぶち込みたいぜ…。
何、最初は痛がるだろうが…」
「ロスの根の粉末、練ったのを入れてやれば、最初でも痛くない」
「…どころか、暫くはよがり狂うぜ?」
「ファーレーンが尻振って『挿入(い)れて』とかって、言うかな?」
「それ最高!」
セルティスが、それを聞いてファルコンを見、アランも見た。
ファルコンが二人に怒鳴る。
「何だ!」
セルティスが、頷きながら言う。
「…ロスの根の粉末、なんて強烈な媚薬。
持ってるスケベって、お前だけじゃなかったんだな」
ファルコンが途端、顔を下げ、その後セルティスとアランに背を向けてばっくれた。
ファオンは高く登り、遙か先を見つめる。
木々の間に所々開けた草地があり、近くに岩の洞窟。
そこに、真っ黒に埋め尽くされる《化け物》の姿。
「…壮絶にたくさんいるな」
シーリーンが言いながら、斜め下の枝にやって来る。
「壮絶…?」
アリオンがそう言って、枝に手をかけ、振り向いて絶句した。
「…真っ黒だな」
ファーレーンもそう言いながら、ファオンの斜め下の枝に、腰掛ける。
「…共喰いしてる…」
そう呟く、ファオンの指さす方向を見る。
すると、三つほど見える森の中の草地が、全部黒い《化け物》で埋め尽くされ、壮絶に互いを喰い合っていた。
ファーレーンが囁く。
「昨日…二つの群れの杖付きを殺ったから…。
今日、お前が殺った杖付きを入れると、丁度三つ」
けれどファオンが、もっと先の開けた二つの草地を指す。
「…でも…あの辺りにも、洞窟がある…。
ほら、産まれたばかりの比較的小さな《化け物》達が共喰いし合ってるから、あの二つが襲撃してきた《化け物》の“巣”だよ」
レドナンドも、アリオンらの下に来ると“巣”のある方向を見つめる。
「…つまり…杖付きが死んで、“巣”に戻る途中にあった別の“巣”の《化け物》を…襲って喰ってるのか?」
レオが少し下に来て、唸る。
「…らしいな。
手前の“巣”に、杖付きの姿が見える」
レオの指が真っ黒く蠢く、手前の“巣”の一つを指し、皆が必死で目を凝らす。
ファオンが、がっかりしたように言う。
「さっきから、どうやったらあの杖付きを殺れるか、考えてたんだけど…。
真ん中近くの岩の上にいるし。
他の、杖付きを失った群れの《化け物》に喰われないよう、自分の群れの中心にいるし…。
殺れそうにない………」
そう言われて、ようやくシーリーンもアリオンも、そしてファーレーン、レドナンドもが、レオの言った杖付きを見つけた。
襲いかかる別の群れの《化け物》を避け、岩の上にいて、群れの《化け物》は杖付きを護り、押し寄せる《化け物》を襲っていた。
杖付きは杖をしきりに振る。
その都度、近くにいた《化け物》が、杖付きに襲いかかる《化け物》に襲いかかって行く。
レオが呟く。
「…俺達が殆ど殺してないから、引いた数が多くて…壮絶な殺し合いになってるな…」
けれどレドナンドが、目を輝かせて言う。
「杖付きを殺れば…群れは“巣”に戻る途中、杖付きの“巣”を襲うなら…いい手だ。
奴らがどんどん勝手に数を滅らしてくれる!」
ファーレーンがその時、ファオンの視線の方向を見つめ、眉を寄せる。
「あの…奥の“巣”…」
ファオンの言葉に、ファーレーンも囁く。
「…ああ…襲撃準備を始めてる」
皆が、ファオンとファーレーンの見つめる方向。
左のうんと向こうの、木々の開けてる草地で、点に見える黒い塊が、整然と並ぶ姿を見つける。
「…あの群れが進んで行く、木に先回りして登って…群れが通り過ぎた最後尾に杖付きの姿を見つけたら、飛び降りて殺れる」
レドナンドが頷く。
「なる程」
「どこを通るか、解るか?」
レオに聞かれ、ファオンは首を回して下を見る。
が、首を横に振る。
「…幾つか通り道があるから…群れが動き出さないと」
レオは頷く。
暫く皆が伺ってると、襲撃準備を始めた“巣”の群れが、動き始める。
「…あれが…共喰いしてる“巣”の横を通ってくれるといいんだが」
ファーレーンの言葉に、ファオンががっかりして言った。
「…迂回して行くみたい…」
アリオンもシーリーンもが、その群れが共喰いしてる“巣”の、左横の森の中の蛇行した道を、進み行くのを見た。
レドナンドが、問う。
「…それで?
まだここにいるのか?」
レオが上のファオンを見上げる。
「…通るルートが解るか?」
「もう少し、進めば」
レオは頷き、レドナンドに告げる。
「その時になったら、勝手にファオンは動き出す」
レドナンドは呆れる。
「君はそれを、許しているのか?」
レオは頷く。
「ファオンは杖付きの習性を一番良く知ってるから、誰より動作が的確だ」
レドナンドは頷いた。
「なる程」
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