アグナータの命運

あーす。

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戦闘

100 襲撃

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 けれど、居留地を出、岩点在する草生える坂を、雑兵アルナを引き連れ降り始めた頃…。

正面から《化け物》キーナンの群れが、バラバラと黒い塊となって坂を登って来ていた。

遙か下方から、最初黒い点のようなその姿は見えたが、素早い《化け物》キーナンらは凄い早さで駆け上ってくる。

その数、100を越す勢い。

「!」

ファオンはもう、《化け物》キーナンらの向かい来る群れに向かって走る。

「ちっ!」

アリオン、シーリーンがファオンの背を追い、走る。

「横に散開!」

レオの叫び声で、列になっていた《勇敢なる者》レグウルナスらが横に走り、散る。

ファルコンだけが
「何する気だあいつ!」
とファオンの背に叫ぶ。

が、ファオンは《化け物》キーナンの群れ。
先頭のかなり手前にある、高い槍のような岩に駆け上って行く。

アリオンとシーリーンも直ぐ、ファオンに続き岩を駆け上る。

「…早…」

デュランが、途中から両手を使って頂上目指し、岩をよじ登っていくファオンを見つめ、呟く。

レオが叫ぶ。

「アラン!リチャードを連れて、反対側の岩に登れ!
杖付きを見つけたら仕留めろ!」

アランは直ぐ、ファオンの登った反対横の、少し低い岩を見つめ、リチャードに怒鳴る。

「行くぞ!」

リチャードは直ぐ、ツバメのように駆け去るアランの、背を追う。

「俺達は迎え撃ちか」

ファルコンが、そう言って剣を構え、腰を低く落とす。

キースがびゅん!びゅん!と剣を振り回し
「久しぶりに、思い切り剣が振れるぜ!」
と嬉しそうに叫ぶ。

セルティスは一番左端で、静かな闘志を燃やし、剣を構え、背後のデュランに囁く。

「俺の側を離れるな!
ヤバくなったら恥を捨てても助けを叫べ!」

デュランはいつも穏やかなセルティスの、低い覚悟の籠もる声に、ごくり…と喉を鳴らし、斜め後ろで剣を抜き、構えた。


ファオンが高い岩の頂上に立ち、迎え撃つレオらを先頭に、その背後で剣を構える30名の雑兵アルナらに向かい、襲い走る《化け物》キーナンの群れを見下ろす。

ファオンらの岩の横に到達した群れから、数体が岩を登り来る。

「!」

アリオンとシーリーンが、直ぐ掴む岩から右手を外し、剣を構えて下に振り向く。


アランは反対側の少し低い岩の頂上から、直到達する群れを見つめていたが、岩に登り来る《化け物》キーナンに剣を構えるアリオンとシーリーンの姿を見て、剣を抜く。

「ここにも…登って…来る?」

背後に登り来るリチャードが、アランにそう尋ねる。

アランは群れが凄い早さで岩があちこちに突き出す草地の坂を、駆け上って来る姿を見つめ、返事を返す。

「まあ…来るだろうな」


レオ達と雑兵アルナらが横に広がった為か、《化け物》キーナンの群れも横に広がり始める。

縦に長い列が横に広がり、その最後尾。

少し遅れて杖を付く、一匹の小さな《化け物》キーナンの姿!


「…杖付きを見つけた!」

皆が、初めて聞くファオンの咆吼。

少し高い…けれど意志籠もる強い響き。

もう、ファオンは“サーシャ”を携え、岩の頂上を蹴っていた。


ざしっっっ!

アリオンが下から、飛びかかってくる《化け物》キーナンの胸を剣で思い切り、振り払う。
「ぎゃっ!」

《化け物》キーナンは胸を真横に剣で深く抉られ、岩の遙か下へと落下していく。

シーリーンはアリオンの反対横で下を見て、呻く。
「ぞろぞろ来やがるな」

「いいからお前は、ファオンを追え!」

シーリーンが視線を移すと、ファオンは頂上から少し離れた低い岩の上に着地し、更に群れの最後尾目指し、次の岩へと飛び上がっていた。

アリオンは飛びかかる二体目の肩を上から斬りつけ、怒鳴る。

「まだ足がヤバいか?!」

が、シーリーンは既に飛びながらアリオンに怒鳴り返す。

「とっととお前も飛べ!」

アリオンは飛ぶシーリーンの背に、襲いかかるように飛ぶ、《化け物》キーナンの背を、同様に飛んで、剣で斬りつけ、シーリーンが着地した岩に向かう。

「!」

シーリーンは手を差し出し怒鳴る。

「左手出せ!」

剣で斬りつけた分、岩までほんの、二歩ほど足らず、アリオンは差し出されるシーリーンの腕をがしっ!と掴む。

シーリーンは腕に絡むアリオンを強引に引き寄せ、背を岩に倒して一気に抱き込む。

岩の上に足を付いて、アリオンが言った。
「…助かった」
アリオンの言葉に、シーリーンも告げる。
「こっちもだ」


リチャードは凄い早さで登って来る《化け物》キーナンの、いつ見ても怖気(おぞけ)る、赤く光る目と毛むくじゃらの黒い姿。
口から突き出た長い牙を見、呻く。

「いつ見てもぞっとするご面相だ…!」

が、振り向くとアランはもう、群れ最後尾の方向の岩へと、飛び去った後。

「ファオンが追ってるのに?!」

叫ぶが、アランはもう次の岩へと飛びながら怒鳴る。
「見物の為に岩に登ってんじゃないぞ!」

リチャードは慌てて剣を鞘に終うと、アランの背を追い、岩の上へと飛んだ。


ファオンがようやく、群れの最後尾近くの岩に着地した時、横を走り去る《化け物》キーナン二体が気づき、岩に登って来る。

アリオンとシーリーンが必死に岩を飛び移りながら、ファオンの立つ岩を目指す。


アランも飛び、リチャードも飛びながら怒鳴る。

「これならいちいち、斬らなくて済むな!」

アランが振り向かずに、怒鳴る。
「学習しろ!」

リチャードは飛びながら、ふ…と思う。

確かに今までは、一体でも多く斬ろうと、やって来る《化け物》キーナンを全て、切り裂いていた。

…だから…避けて飛ぶ。
なんて発想はまるで無かった。

例え避けても、それは攻撃の為…。

“つまり…発想の切り替えが必要で…ファオンはそれが誰よりも早く、出来ていると言う事か!”



遙か後方。
キースが大声で怒鳴る。

「先頭到達!
斬り捨てるぞ!」

散開した《化け物》キーナンらに、ファルコンとキースが突っ込み、剣を引き襲いかかって行く。

レオが背後、雑兵アルナらに怒鳴る。

「無理せず、二人一組で戦え!」

そして剣を引き、目前に飛び来る《化け物》キーナンに突っ込んで行く。


もう、ファルコンは剣を振り切り《化け物》キーナン一体を吹っ飛ばし、キースもほぼ同時に斬り捨て、向かう《化け物》キーナンに、血飛沫吹き散らせた。

レオが豪快に剣を横に振りきり、セルティスは真上から額を、切り裂く!


デュランは雑兵アルナより先に出ると、遅れて来た左の《化け物》キーナンが、宙飛び先に襲い来るのを目にする。
同時に真っ直ぐ駆け来る目前の《化け物》キーナンに目を見開き、慌てて宙飛ぶ《化け物》キーナンの横へと駆け込んで、かぎ爪振り回される前に思い切り回し蹴り、目前に突っ込む《化け物》キーナンに、剣を振り切った。

「はぁ…はぁ…。
…二体同時………。
油断ならない奴らだぜ…」

屈み、見ると、レオが左右に剣を振り切り、大きな二体の《化け物》キーナンをほぼ同時に左右に吹っ飛ばし、直ぐ剣を振り切って三体目をも、吹っ飛ばしていた。

ファルコンは突っ込んで行って剣を振り続け、周囲の五体を一気に切り裂き、五体が皆血を吹き出し、仰け反り倒れ行く中、銀の髪靡かせ突っ切る姿を見る。

「(…き…キースは…?!)」

首を振って探すと、もううんと前へと進み、その背後には、転々と転がる《化け物》キーナンの死体。
今また背を向けたキースの、剣が振られたと同時。
左右の《化け物》キーナンが、血を吹き出し倒れ行く真っ最中。

デュランは思わず年上の《勇敢なる者》レグウルナスらの、奮迅の戦い振りに、ごくり。と唾を飲み込んだ。

ざしっっっ!

「余所見してる奴があるか!」

端正なセルティスが栗色の巻き毛を振って、迫力で怒鳴る。

デュランは咄嗟に振り向き見ると、自分の背に襲いかかっていたらしい、セルティスがたった今斬った《化け物》キーナンが血を流しながら、自分目がけ吹っ飛んで来ていて、思い切り目を見開く。

「下敷きに成ってたら“間抜け”と怒鳴るぞ!」

セルティスに厳しく怒鳴られ、デュランが慌てて横へ、避けかけた時。

飛んで来た《化け物》キーナンの足に足がクロスして絡まり、同時に倒れる。

どさっ!

デュランは草地に背から倒れ、横に《化け物》キーナンの死体が、俯せで倒れる姿見て、ほっとした。

「…下敷きに、成ってない…」

セルティスに、更に厳しく

「一緒に転がったって、“間抜け”だ!」

と怒鳴られ、緊迫感に包まれて、手を付き一気に身を起こす。


見るとセルティスはもう、背を向け剣を振り切り、二体の《化け物》キーナンを切り倒していた。
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