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戦うレグウルナス
93 白の魔法使い
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ファオンはキリアンの横に腰掛ける。
「で?セグナ・アグナータになって、待遇良くなった?」
キリアンは横の男に手渡された桃を、手に持つ。
ファオンも横から手を差し出す、男の手に握られた桃を受け取る。
「これ、僕とアントランが摘んだんだ!」
「…アントラン…ね」
「その時《化け物》に襲撃されて…僕咄嗟、テスの剣取って戦ったら、アントランはそのまま暴れろって。
アントラン、いい人だよ?」
キリアンは、桃を口に持っていくファオンの手首を、握って止める。
「…まだ喰うな。
アントランが、いいヤツ…ね」
キリアンは腹の衣服に桃を擦りつけてる。
ファオンも習って、擦りつける。
「…だってお前、意地悪されるヤツ以外はみんな“いい人”だろう?」
ファオンは俯く。
「…シーリーンは最初意地悪だと思ったけど…優しかった」
「好きだから虐めて気を引く。
その後、優しくする。
気を引かれた相手はイチコロ。
しかもあの顔だ」
キリアンに言われて、ファオンもプラチナの髪の、美麗なシーリーンを見る。
「…だから?」
「策士だな」
その時、レオが立ち上がる。
皆一斉に彼に注目する。
「今日、南尾根は二体の杖付きを。
東、北はそれぞれ一体の杖付きを!
滅し、百匹近い“巣”を潰した!」
男達は、レオの言葉に一斉に雄叫びを上げる。
うぉぉぉおっっっっっっ!
南尾根の皆は、椅子の上で飛び跳ねてた。
桃を高く掲げ、レオは叫ぶ。
「聖人アウレリオスの加護を我らに!
力と勇気。
そして聖なる奇跡をもたらし、おぞましい地獄の化け物に打ち勝つ“神の意志”を我らに示したまえ!」
「聖人アウレリオスの加護を!」
キリアンまでが横でそう呟き、桃を口に運び、囓る。
ファオンは桃を見た。
ああ…シリルローレルが言ってた、奇跡の“桃”なんだ…。
昔、《化け物》らの数が多く、《勇敢なる者》らは苦戦し、次々と怪我に倒れ…皆傷付きながらも戦った。
そして瀕死の《勇敢なる者》を、皆が悲痛な気持ちで取り囲み、看取り…。
今にも息を引き取らんとする最中、彼はふらりと現れた。
ずっと岩山を住処として放浪していたアウレリオス。
彼が、桃を…。
千切って瀕死の男の口に…。
男は最初、微かに…口を動かし食べ始め、アウレリオスが丸ごと一個、食べさせ終わった時、目を開けて起き上がった。
その死にかけた男は、奮迅の戦い振りを見せ、不利な状況を一変させた………。
以来、放浪者アウレリオスは聖人と呼ばれた…。
彼は再び姿を消し…何処に消えたのか、いつ死んだのか…誰も知らない。
ファオンは桃を食べた。
甘くて…少し苦い。
けれどシリルローレルは言った。
“世界には、《化け物》のように生き物を化け物にする“力”もあれば、人を聖なる者とする“力”もあるのだと。
《勇敢なる者》が尾根を拠点とするのは…尾根にその“力”が宿っていて、時に人に奇跡をもたらす“力”を、《勇敢なる者》らに宿すから…。
反対に、《化け物》住む谷には、おぞましい“力”が宿っていて…。
無垢な魂ですら、時として凶暴に…そして凶悪に変じさせる“力”が立ちこめている。
言い伝えによると、今はもう失われた、偉大な白の魔法使いと黒の魔法使いがそれぞれ尾根と谷を拠点に戦い、谷に住む黒の魔法使いは白の魔法使いに敗れ、呪って死んだ。
“我が意志を継ぎし者らが、お前の護る民を全て滅する”
おとぎ話のような話だったし…今の世に魔法使いなんていない。
時折り、奇跡の事をなす人がたまに…いるだけ………。
黒の魔法使いは、白の魔法使いの弟子だった。
だから、白の魔法使いはこれ以上、人を苦しめる為に魔法を使う魔法使いを産み出さぬよう、魔法の術(すべ)を全てこの世から消したそうだ…。
だから…師、シリルローレルは言った。
聖アウレリオスは…白の魔法使いの、変じた…今も残る仮の姿なのでは無いかと。
“でも誰も本当のところなど解らない。
杖付きも…そう考えると、滅した黒の魔法使いの、分身…。
『影』なのかもな”
シリルローレルはそう言って…笑った。
けれどその時、ファオンは見た。
桃を食べた《勇敢なる者》らが仄かに青く…光っているのを。
目を、擦りそうになったけれど、その向こうに…杖を付き白い衣を着た、若く理知的な男が…幻のように浮かび上がり、皆を見つめているのが見えた。
ファオンが驚いて見ていると、幻の男は気づいて話しかけてきた。
『私が、見えるのか…?
たまにいる。
あまりにも素直に…全てを受け入れる無垢な心の持ち主…』
頭の中で声が聞こえた気がして、ファオンも心の中で話しかける。
『…白の…魔法使い?』
真ん中分けの白い髪を、膝くらいまで伸ばした、とても荘厳な感じの幻の男は、頷く。
『昔は、そんな風に言われていたな。
けれど時間を言ったり来たりする内に…後世ではその名で呼ばれてると知った』
白の魔法使いは、顔を回して《勇敢なる者》らを見る。
『良く、戦っている。
素晴らしい若者達だ』
『杖付きは…黒の魔法使い?』
白の魔法使いは首を横に振った。
『私が砕いた、黒の魔法使いの欠片(かけら)だ。
だから“力”と人を滅する“意志”があるが、ただそれだけ…』
『杖付きは、どれだけいるの…?』
『谷…の洞窟深くに…黒い“力”が少しずつ…少しずつ溜まる。
それがある大きさになると、洞窟に住む化け物の中で一番弱く…じき、喰われようとする者に乗り移る。
その時、弱き化け物は喰われる運命から救われる。
そしてそれがある時“杖”を見つけ…群れを扇動する“力”を得る』
『杖…は自然に作られるの?』
『杖…とはかつての私の弟子…お前が黒の魔法使いと呼ぶ者が、谷中に散りばめた“力”だ。
乗り移られた化け物が呼ぶと、“力”は杖となって現れる。
杖付きとは…黒の魔法使いでありながら、黒の魔法使いよりうんと劣る者…。
まさしく昔の強さの1/50も力を持たぬ、黒の魔法使いの、陽炎(かげろう)………』
『貴方の陽炎は…?
いないの?』
『私の“力”はこの尾根に散りばめられている。
欲する者がそれを手にする。
様々な形で。
強い意志を持った時、それは形として現れる』
『それは…どんな?』
白の魔法使いは、微笑んで薄くなっていく。
『だから…様々だ…』
そして、消えて行きながら囁く。
『お前が見ている、人の目には見えない青い“光”もそうだ。
桃がなる木には私の“力”が強く染みこんでいる。
皆がそれを“力”に変えたいと強く願うから…。
私の“力”は彼らの肉体に、その“力”を与える』
ファオンは消えて行く白の魔法使いを見続けた。
キリアンが横からじっと見てるから…見つめ返すとキリアンは、顔を傾けて言った。
「…とっとと喰わないと、誰かに取られるぜ?」
ファオンは手に持つ囓(かじ)りかけの桃を見…慌てて口に運んで囓り付いた。
「で?セグナ・アグナータになって、待遇良くなった?」
キリアンは横の男に手渡された桃を、手に持つ。
ファオンも横から手を差し出す、男の手に握られた桃を受け取る。
「これ、僕とアントランが摘んだんだ!」
「…アントラン…ね」
「その時《化け物》に襲撃されて…僕咄嗟、テスの剣取って戦ったら、アントランはそのまま暴れろって。
アントラン、いい人だよ?」
キリアンは、桃を口に持っていくファオンの手首を、握って止める。
「…まだ喰うな。
アントランが、いいヤツ…ね」
キリアンは腹の衣服に桃を擦りつけてる。
ファオンも習って、擦りつける。
「…だってお前、意地悪されるヤツ以外はみんな“いい人”だろう?」
ファオンは俯く。
「…シーリーンは最初意地悪だと思ったけど…優しかった」
「好きだから虐めて気を引く。
その後、優しくする。
気を引かれた相手はイチコロ。
しかもあの顔だ」
キリアンに言われて、ファオンもプラチナの髪の、美麗なシーリーンを見る。
「…だから?」
「策士だな」
その時、レオが立ち上がる。
皆一斉に彼に注目する。
「今日、南尾根は二体の杖付きを。
東、北はそれぞれ一体の杖付きを!
滅し、百匹近い“巣”を潰した!」
男達は、レオの言葉に一斉に雄叫びを上げる。
うぉぉぉおっっっっっっ!
南尾根の皆は、椅子の上で飛び跳ねてた。
桃を高く掲げ、レオは叫ぶ。
「聖人アウレリオスの加護を我らに!
力と勇気。
そして聖なる奇跡をもたらし、おぞましい地獄の化け物に打ち勝つ“神の意志”を我らに示したまえ!」
「聖人アウレリオスの加護を!」
キリアンまでが横でそう呟き、桃を口に運び、囓る。
ファオンは桃を見た。
ああ…シリルローレルが言ってた、奇跡の“桃”なんだ…。
昔、《化け物》らの数が多く、《勇敢なる者》らは苦戦し、次々と怪我に倒れ…皆傷付きながらも戦った。
そして瀕死の《勇敢なる者》を、皆が悲痛な気持ちで取り囲み、看取り…。
今にも息を引き取らんとする最中、彼はふらりと現れた。
ずっと岩山を住処として放浪していたアウレリオス。
彼が、桃を…。
千切って瀕死の男の口に…。
男は最初、微かに…口を動かし食べ始め、アウレリオスが丸ごと一個、食べさせ終わった時、目を開けて起き上がった。
その死にかけた男は、奮迅の戦い振りを見せ、不利な状況を一変させた………。
以来、放浪者アウレリオスは聖人と呼ばれた…。
彼は再び姿を消し…何処に消えたのか、いつ死んだのか…誰も知らない。
ファオンは桃を食べた。
甘くて…少し苦い。
けれどシリルローレルは言った。
“世界には、《化け物》のように生き物を化け物にする“力”もあれば、人を聖なる者とする“力”もあるのだと。
《勇敢なる者》が尾根を拠点とするのは…尾根にその“力”が宿っていて、時に人に奇跡をもたらす“力”を、《勇敢なる者》らに宿すから…。
反対に、《化け物》住む谷には、おぞましい“力”が宿っていて…。
無垢な魂ですら、時として凶暴に…そして凶悪に変じさせる“力”が立ちこめている。
言い伝えによると、今はもう失われた、偉大な白の魔法使いと黒の魔法使いがそれぞれ尾根と谷を拠点に戦い、谷に住む黒の魔法使いは白の魔法使いに敗れ、呪って死んだ。
“我が意志を継ぎし者らが、お前の護る民を全て滅する”
おとぎ話のような話だったし…今の世に魔法使いなんていない。
時折り、奇跡の事をなす人がたまに…いるだけ………。
黒の魔法使いは、白の魔法使いの弟子だった。
だから、白の魔法使いはこれ以上、人を苦しめる為に魔法を使う魔法使いを産み出さぬよう、魔法の術(すべ)を全てこの世から消したそうだ…。
だから…師、シリルローレルは言った。
聖アウレリオスは…白の魔法使いの、変じた…今も残る仮の姿なのでは無いかと。
“でも誰も本当のところなど解らない。
杖付きも…そう考えると、滅した黒の魔法使いの、分身…。
『影』なのかもな”
シリルローレルはそう言って…笑った。
けれどその時、ファオンは見た。
桃を食べた《勇敢なる者》らが仄かに青く…光っているのを。
目を、擦りそうになったけれど、その向こうに…杖を付き白い衣を着た、若く理知的な男が…幻のように浮かび上がり、皆を見つめているのが見えた。
ファオンが驚いて見ていると、幻の男は気づいて話しかけてきた。
『私が、見えるのか…?
たまにいる。
あまりにも素直に…全てを受け入れる無垢な心の持ち主…』
頭の中で声が聞こえた気がして、ファオンも心の中で話しかける。
『…白の…魔法使い?』
真ん中分けの白い髪を、膝くらいまで伸ばした、とても荘厳な感じの幻の男は、頷く。
『昔は、そんな風に言われていたな。
けれど時間を言ったり来たりする内に…後世ではその名で呼ばれてると知った』
白の魔法使いは、顔を回して《勇敢なる者》らを見る。
『良く、戦っている。
素晴らしい若者達だ』
『杖付きは…黒の魔法使い?』
白の魔法使いは首を横に振った。
『私が砕いた、黒の魔法使いの欠片(かけら)だ。
だから“力”と人を滅する“意志”があるが、ただそれだけ…』
『杖付きは、どれだけいるの…?』
『谷…の洞窟深くに…黒い“力”が少しずつ…少しずつ溜まる。
それがある大きさになると、洞窟に住む化け物の中で一番弱く…じき、喰われようとする者に乗り移る。
その時、弱き化け物は喰われる運命から救われる。
そしてそれがある時“杖”を見つけ…群れを扇動する“力”を得る』
『杖…は自然に作られるの?』
『杖…とはかつての私の弟子…お前が黒の魔法使いと呼ぶ者が、谷中に散りばめた“力”だ。
乗り移られた化け物が呼ぶと、“力”は杖となって現れる。
杖付きとは…黒の魔法使いでありながら、黒の魔法使いよりうんと劣る者…。
まさしく昔の強さの1/50も力を持たぬ、黒の魔法使いの、陽炎(かげろう)………』
『貴方の陽炎は…?
いないの?』
『私の“力”はこの尾根に散りばめられている。
欲する者がそれを手にする。
様々な形で。
強い意志を持った時、それは形として現れる』
『それは…どんな?』
白の魔法使いは、微笑んで薄くなっていく。
『だから…様々だ…』
そして、消えて行きながら囁く。
『お前が見ている、人の目には見えない青い“光”もそうだ。
桃がなる木には私の“力”が強く染みこんでいる。
皆がそれを“力”に変えたいと強く願うから…。
私の“力”は彼らの肉体に、その“力”を与える』
ファオンは消えて行く白の魔法使いを見続けた。
キリアンが横からじっと見てるから…見つめ返すとキリアンは、顔を傾けて言った。
「…とっとと喰わないと、誰かに取られるぜ?」
ファオンは手に持つ囓(かじ)りかけの桃を見…慌てて口に運んで囓り付いた。
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