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二人きりの時間
27 過去のアグナータ《皆を繋ぐ者》 シュティッセン
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ファオンは死んだように眠っていた。
体はだるく、疲労は深い…。
けれど外でバタつく足音。
緊迫した兵らの気配を感じ、剣士たるファオンは一気に覚醒する。
手で毛皮の横を探る…。
“サーシャ”
「!」
ファオンはそれが無い事を突然思い出して顔をくしゃっと崩した。
もう…。
必要無いのだと、取り上げられた剣…。
アリオンやシーリーンと別れ師と旅に出て以来、ずっと…共にあった剣…!
涙が滴った。
声は出なかった。
けれどファオンは毛皮の上に手を付いたまま、首を落として泣き続けた。
さらっ…。
テントの布を払う音…。
ファオンはテスだと思った。
けれど、そっ…と手が肩に乗る。
振り向くと、そこにいたのはセスの前の《皆を繋ぐ者》、シュティッセン…。
長い銀髪。
ブルーグレーの瞳。
百合のようにたおやかな…。
白き美しき《皆を繋ぐ者》…。
「レオに呼ばれて来ました。
貴方は何も教えられず突然《皆を繋ぐ者》にされ…とても…悲しんでいると」
ファオンは顔を上げてその麗人に縋り付く。
「もう一度…貴方が…。
僕に代わって!」
が、シュティッセンは悲しげに首を振る。
「《勇敢なる者》ですら…20歳を超える者はいない。
私はもう19。
本当に限界ぎりぎりまでいましたから…」
『無理なのです』
シュティッセンは言わなかった。
けれどファオンにはその言葉が聞こえ、項垂れる。
「私の時、レオはまだ若年で、年上の男らと共に戦っていた…。
でもすっかり最年長者として皆を立派に束ねている。
私の言われた事を伝えましょう。
年若く入った《勇敢なる者》は大切にしろと。
いずれ年を経て統べる者となるのだからと」
ファオンは顔を上げる。
シュティッセンは優しく告げる。
「《勇敢なる者》は誰一人取っても、貴重な宝石のような存在。
彼らがいなくては、我々は《化け物》に喰われ、滅びてしまう」
ファオンはそれでも美しきシュティッセンを見つめる。
「…辱めを受け、男を捨てても彼らを助けろと…?!」
ファオンの言葉は絶叫に聞こえた。
シュティッセンは俯く。
「私と君とでは…違うから。
私は幼い頃盗賊に辱められた。
囚われ、彼らの元で散々。
幼いからといって容赦はされなかった。
救い出されて《皆を繋ぐ者》に選ばれ、勇者らに求められた時。
彼らは一人一人私を求め、愛してくれた…。
私にとって彼らは尊い宝石と同じ。
強く逞しく、美しい男達…」
ファオンはそれでも、シュティッセンを見続けた。
「…ええ…僕と貴方は違う…」
「ファルコンはとても扱いが乱暴で粗雑です。
けれど人一倍孤独を抱えている。
人と触れあう技を持たず、背を向け、だけど…本心は繋がりを求めている」
ファオンはシュティッセンをそれでも見続けた。
「セルティスは自分に“大丈夫”といつも言い聞かせている。
けれど時に彼は“大丈夫”を過信過ぎて無理をするから…とても心配です」
ファオンの頬に、涙が伝った。
「…アランは…器用だと自分の事を思ってる。
けれど本当はとても無器用で…自分の本心を隠す為に、器用な振りをしてる。
だから…出来るだけ本心を聞けるようにしてあげて下さい」
シュティッセンは泣くファオンをそれでも優しく見つめて言葉を紡ぎ出す。
「アリオンとシーリーンはとても強い。
きっと二人の年が同じで力も互角だから…。
気づかなくても互いで補い合っている。
相手をライバルと意識し、相手に劣らぬように。
無意識にそう思い、自分でも気づかぬ内に自(みずか)らを鍛えてる。
けれど互いに相手にとても惹かれているし…本心は相手に頼ってる」
ファオンは目を、見開き尋ねた。
「…リチャード…リチャードは?!」
シュティッセンは顔を下げた。
「彼が来て間もなく…私はここを降りたから…少ししか知りません。
けれど彼はとても傷付いてる」
ファオンは目を見開いた。
「彼の母は早くに亡くなり、父は後妻の子供を可愛がり、彼は父を見返す為に《勇敢なる者》に成ったと。
体の弱い母は彼の父に、出来損ないの男の子を産んだ役立たず。
と言われて自殺したそうです…」
ファオンは顔が揺れた。
「…彼の父はリチャードに“《皆を繋ぐ者》に選ばれればそれでも良い方だ”と」
ファオンは俯く。
『君、とても綺麗だ』
初めて会った時、リチャードに言った言葉…。
褒め言葉だったのに………。
みんなが彼をそう思っていたし、でもリチャードは近寄り難かったから…。
やっと話しかけられて、嬉しかったのに…。
リチャードにとっては褒め言葉なんかじゃなかった……………。
シュティッセンは屈み込むファオンの背に手を当て、顔を寄せて囁く。
「最後にレオの話をさせて下さい。
彼は誰よりも強くなろうと、入った時から一度も泣き言を言いません…。
だから…彼がとても疲れている時…抱きしめてあげて下さい。
心を込めて。
一時彼の女性の恋人のように…彼を愛してあげて下さい」
ファオンは顔を上げる。
シュティッセンはとても切なげな表情で、それでも微笑を浮かべて囁く。
「今や彼は最年長。
采配をする者。
重圧は重い。
だからどうか…抱き合う行為を厭わないで下さい。
《皆を繋ぐ者》は確かに男の性の捌け口。
けれど決してそれだけではない。
彼らを受け止め、愛する者。
《皆を繋ぐ者》が支えなければ彼らに団結は無く…。
我々は《化け物》の食料と成り果てます!」
「アグ…《皆を繋ぐ者》が…皆を…」
シュティッセンは頷く。
「彼ら全てを知るのは《皆を繋ぐ者》のみ」
必死で助けを求めるように見つめるファオンに、シュティッセンは悲しげに呟く。
「年若く女で無く、体験もロクに無い貴方にそれを求めるのは過酷な事…。
時に彼らは戦いの厳しさから、野獣に匹敵する扱いをする事もある…」
「それでも愛すのですか!!」
ファオンの絶叫に、シュティッセンは頷く。
「それでも、愛すのです…」
ファオンは毛皮に顔を突っ伏し、肩を揺すって泣いた。
背に置かれたシュティッセンの手の温もりがただ、温かかった。
「…どうしても辛ければ…レオに頼んで私に会う為、尾根の一番下の面会場に降りる許可を貰いなさい。
特例だし護衛は付きます。
けれどどうしても辛いなら…。
私が貴方の悩みを全て聞きますから…」
そう言って、シュティッセンは立ち上がる。
ファオンは顔を上げる。
「もう…行ってしまわれるの…?!」
「本当は私はここに来てはならない。
けれどレオが貴方があまりに慣れず、気の毒だからと…特別に」
シュティッセンは微笑む。
「彼らを愛せば…全てが変わります。
ただ今の自分を嘆くか…本物の《皆を繋ぐ者》…皆を繋ぐ者になるかは貴方次第」
ファオンは動揺した…。
愛される…者にこそ、成りたかったのに…!
シュティッセンはファオンの全身から迸る叫びを目にしたけれど、そっとテントの布を払い、出て行った。
ファオンは愕然とした。
あんな事をされそれでもまだ…愛せと…?
けれどこれだけは解った。
“リチャードは僕の言葉に傷付いた。
笑顔で無邪気に、嬉しそうに告げたその言葉で。
それは自分にとってはこういう事だと。
解らせる為に拉致し、あんな酷いことを………”
ファオンの身が、がくがくと震った。
絶望に近い深い亀裂。
どうしてそんな、意識の違う者を愛せるのだろう…?
人に思い知らせる為にあんな酷い陵辱を与える相手を、どうやったら…。
『謝ろう。
自分に非があったと、今も思えない。
けれど…リチャードに謝りそして話し…。
彼の言葉を聞こう』
ファオンは、けれどこの先彼らに犯される日々を思った。
だって屈辱だ!
這いつくばって男根を咥え…良くする為に腰を振り…。
そんな自分を思う度、惨めで悲しくて、ファオンは再び毛皮に突っ伏し、泣き続けた。
体はだるく、疲労は深い…。
けれど外でバタつく足音。
緊迫した兵らの気配を感じ、剣士たるファオンは一気に覚醒する。
手で毛皮の横を探る…。
“サーシャ”
「!」
ファオンはそれが無い事を突然思い出して顔をくしゃっと崩した。
もう…。
必要無いのだと、取り上げられた剣…。
アリオンやシーリーンと別れ師と旅に出て以来、ずっと…共にあった剣…!
涙が滴った。
声は出なかった。
けれどファオンは毛皮の上に手を付いたまま、首を落として泣き続けた。
さらっ…。
テントの布を払う音…。
ファオンはテスだと思った。
けれど、そっ…と手が肩に乗る。
振り向くと、そこにいたのはセスの前の《皆を繋ぐ者》、シュティッセン…。
長い銀髪。
ブルーグレーの瞳。
百合のようにたおやかな…。
白き美しき《皆を繋ぐ者》…。
「レオに呼ばれて来ました。
貴方は何も教えられず突然《皆を繋ぐ者》にされ…とても…悲しんでいると」
ファオンは顔を上げてその麗人に縋り付く。
「もう一度…貴方が…。
僕に代わって!」
が、シュティッセンは悲しげに首を振る。
「《勇敢なる者》ですら…20歳を超える者はいない。
私はもう19。
本当に限界ぎりぎりまでいましたから…」
『無理なのです』
シュティッセンは言わなかった。
けれどファオンにはその言葉が聞こえ、項垂れる。
「私の時、レオはまだ若年で、年上の男らと共に戦っていた…。
でもすっかり最年長者として皆を立派に束ねている。
私の言われた事を伝えましょう。
年若く入った《勇敢なる者》は大切にしろと。
いずれ年を経て統べる者となるのだからと」
ファオンは顔を上げる。
シュティッセンは優しく告げる。
「《勇敢なる者》は誰一人取っても、貴重な宝石のような存在。
彼らがいなくては、我々は《化け物》に喰われ、滅びてしまう」
ファオンはそれでも美しきシュティッセンを見つめる。
「…辱めを受け、男を捨てても彼らを助けろと…?!」
ファオンの言葉は絶叫に聞こえた。
シュティッセンは俯く。
「私と君とでは…違うから。
私は幼い頃盗賊に辱められた。
囚われ、彼らの元で散々。
幼いからといって容赦はされなかった。
救い出されて《皆を繋ぐ者》に選ばれ、勇者らに求められた時。
彼らは一人一人私を求め、愛してくれた…。
私にとって彼らは尊い宝石と同じ。
強く逞しく、美しい男達…」
ファオンはそれでも、シュティッセンを見続けた。
「…ええ…僕と貴方は違う…」
「ファルコンはとても扱いが乱暴で粗雑です。
けれど人一倍孤独を抱えている。
人と触れあう技を持たず、背を向け、だけど…本心は繋がりを求めている」
ファオンはシュティッセンをそれでも見続けた。
「セルティスは自分に“大丈夫”といつも言い聞かせている。
けれど時に彼は“大丈夫”を過信過ぎて無理をするから…とても心配です」
ファオンの頬に、涙が伝った。
「…アランは…器用だと自分の事を思ってる。
けれど本当はとても無器用で…自分の本心を隠す為に、器用な振りをしてる。
だから…出来るだけ本心を聞けるようにしてあげて下さい」
シュティッセンは泣くファオンをそれでも優しく見つめて言葉を紡ぎ出す。
「アリオンとシーリーンはとても強い。
きっと二人の年が同じで力も互角だから…。
気づかなくても互いで補い合っている。
相手をライバルと意識し、相手に劣らぬように。
無意識にそう思い、自分でも気づかぬ内に自(みずか)らを鍛えてる。
けれど互いに相手にとても惹かれているし…本心は相手に頼ってる」
ファオンは目を、見開き尋ねた。
「…リチャード…リチャードは?!」
シュティッセンは顔を下げた。
「彼が来て間もなく…私はここを降りたから…少ししか知りません。
けれど彼はとても傷付いてる」
ファオンは目を見開いた。
「彼の母は早くに亡くなり、父は後妻の子供を可愛がり、彼は父を見返す為に《勇敢なる者》に成ったと。
体の弱い母は彼の父に、出来損ないの男の子を産んだ役立たず。
と言われて自殺したそうです…」
ファオンは顔が揺れた。
「…彼の父はリチャードに“《皆を繋ぐ者》に選ばれればそれでも良い方だ”と」
ファオンは俯く。
『君、とても綺麗だ』
初めて会った時、リチャードに言った言葉…。
褒め言葉だったのに………。
みんなが彼をそう思っていたし、でもリチャードは近寄り難かったから…。
やっと話しかけられて、嬉しかったのに…。
リチャードにとっては褒め言葉なんかじゃなかった……………。
シュティッセンは屈み込むファオンの背に手を当て、顔を寄せて囁く。
「最後にレオの話をさせて下さい。
彼は誰よりも強くなろうと、入った時から一度も泣き言を言いません…。
だから…彼がとても疲れている時…抱きしめてあげて下さい。
心を込めて。
一時彼の女性の恋人のように…彼を愛してあげて下さい」
ファオンは顔を上げる。
シュティッセンはとても切なげな表情で、それでも微笑を浮かべて囁く。
「今や彼は最年長。
采配をする者。
重圧は重い。
だからどうか…抱き合う行為を厭わないで下さい。
《皆を繋ぐ者》は確かに男の性の捌け口。
けれど決してそれだけではない。
彼らを受け止め、愛する者。
《皆を繋ぐ者》が支えなければ彼らに団結は無く…。
我々は《化け物》の食料と成り果てます!」
「アグ…《皆を繋ぐ者》が…皆を…」
シュティッセンは頷く。
「彼ら全てを知るのは《皆を繋ぐ者》のみ」
必死で助けを求めるように見つめるファオンに、シュティッセンは悲しげに呟く。
「年若く女で無く、体験もロクに無い貴方にそれを求めるのは過酷な事…。
時に彼らは戦いの厳しさから、野獣に匹敵する扱いをする事もある…」
「それでも愛すのですか!!」
ファオンの絶叫に、シュティッセンは頷く。
「それでも、愛すのです…」
ファオンは毛皮に顔を突っ伏し、肩を揺すって泣いた。
背に置かれたシュティッセンの手の温もりがただ、温かかった。
「…どうしても辛ければ…レオに頼んで私に会う為、尾根の一番下の面会場に降りる許可を貰いなさい。
特例だし護衛は付きます。
けれどどうしても辛いなら…。
私が貴方の悩みを全て聞きますから…」
そう言って、シュティッセンは立ち上がる。
ファオンは顔を上げる。
「もう…行ってしまわれるの…?!」
「本当は私はここに来てはならない。
けれどレオが貴方があまりに慣れず、気の毒だからと…特別に」
シュティッセンは微笑む。
「彼らを愛せば…全てが変わります。
ただ今の自分を嘆くか…本物の《皆を繋ぐ者》…皆を繋ぐ者になるかは貴方次第」
ファオンは動揺した…。
愛される…者にこそ、成りたかったのに…!
シュティッセンはファオンの全身から迸る叫びを目にしたけれど、そっとテントの布を払い、出て行った。
ファオンは愕然とした。
あんな事をされそれでもまだ…愛せと…?
けれどこれだけは解った。
“リチャードは僕の言葉に傷付いた。
笑顔で無邪気に、嬉しそうに告げたその言葉で。
それは自分にとってはこういう事だと。
解らせる為に拉致し、あんな酷いことを………”
ファオンの身が、がくがくと震った。
絶望に近い深い亀裂。
どうしてそんな、意識の違う者を愛せるのだろう…?
人に思い知らせる為にあんな酷い陵辱を与える相手を、どうやったら…。
『謝ろう。
自分に非があったと、今も思えない。
けれど…リチャードに謝りそして話し…。
彼の言葉を聞こう』
ファオンは、けれどこの先彼らに犯される日々を思った。
だって屈辱だ!
這いつくばって男根を咥え…良くする為に腰を振り…。
そんな自分を思う度、惨めで悲しくて、ファオンは再び毛皮に突っ伏し、泣き続けた。
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