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聖なる名の下の性奴
16 愛しい人
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ファオンがアリオンのテントの入り口の布を払った時、治療士は立ち上がっていた。
毛皮の上に上体を起こし座すアリオン。
振り向くアリオンの顔は、とても青ざめていた。
横にいたアランは俯き、けれど顔を上げ、憔悴した表情で入り口に佇むファオンに囁く。
「休ませてやれ」
ファオンは頷く。
治療士はアリオンに薬草の入った木のコップを渡し、アリオンはそれを飲み干す。
傷口には布が巻かれていた。
治療士が立ち上がると同時に、アランも立ち上がる。
アランが横に来る。
突然ファオンの脳裏に、良く見知っていたもっと若い、軽やかで柔和なアランが蘇る。
けれど鍛え上げた体をした今のアランは、雄の匂いを漂わせ、疲労した表情を向ける。
ファオンの脳裏に、師の言葉が蘇る。
“《化け物》は人の生気も奪う
吸い取る能力は無い。
だがそのおぞましい姿で。
人を喰らう習性で。
恐怖を撒き散らし人の生気を著しく減少させる”
アランの疲労した姿は、《化け物》との戦いを物語っていた。
どれだけの勇者でも…。
《化け物》に喰われる最期を夢に見て、うなされると言う。
“忌まわしい習慣と思うかもしれない。
だがだからこそ《皆を繋ぐ者》は若い彼らに必要なのだ。
欲望を受け止め全てをさらけ出し、時に縋る相手として”
師はそう語っていた。
《皆を繋ぐ者》のこと等、知りたくも無かった。
けれど師は、こうも言った。
“《皆を繋ぐ者》が『聖なる生け贄』と呼ばれるのは、《勇敢なる者》の、全ての若者を受け止めるからだ。
欲望だけで無く。
身の全て。
心までも。
だから気づくことも出来る。
誰が弱っているか。
誰に休息が必要か。
そして誰が無理をしているか。
それを指揮者に告げ、時に非情な任務から救うこともある。
優れた《皆を繋ぐ者》は、《勇敢なる者》らに取っての守護者であり護り手なのだ”
かつて《勇敢なる者》だった師。
思い出を辿るようなその言葉。
だがその時ファオンは師の言葉を、空(そら)言のように聞いていた…。
ファオンはまだ戸口にいた。
アリオンにただ甘えていた幼い自分。
自分の身を与え、引き替えにどれだけ彼に護って貰ったか。
訳無く虐める子供らから。
“僕がアリオンを護る…?”
治療士が横に来る。
「痛む様子なら、薬草を」
毛皮の横の、木の盆の上の土器の瓶に視線を向ける。
ファオンは頷く。
アランと共に、治療士は出て行く。
二人…きり。
ファオンの足は、それでも入り口から動かなかった。
アリオンが微笑む。
「横に…来てくれないか?」
ファオンは弾かれたように身を揺らす。
そしてゆっくり…アリオンの横に。
毛皮の上に、尻を落とした。
アリオンは嬉しそうに微笑む。
ファオンは突然思い当たる。
「…まさかわざと怪我を?」
けれどもう、アリオンの両手に抱きしめられた。
あの…時が蘇る。
まだとても若いアリオン。
情熱的に抱きしめられた…あの運命の時。
木の洞にアリオンと二人きり。
落雷。
凄まじい音と光で、隣の木が真っ二つに裂ける。
外は狂ったような豪雨…。
次はこの木に落ちる。
恐怖でアリオンにしがみついた、あの幼い時。
……………けれどもそれは、遠い過去。
《勇敢なる者》になる為、修行の旅から戻った時、アリオンは既に《勇敢なる者》に選ばれ、この尾根に…。
《勇敢なる者》になって再会する。
肩を並べ共に戦う。
…けれど、《皆を繋ぐ者》となっての辛い再会…。
抱かれる熱い腕を意識する。
以前より、太く、逞しく…だが懐かしい、…懐かしい感触。
「下で聞いた。
貴方はもう、アウネッチェンと婚約したと」
アウネッチェン…。
ファオンを虐めた少女達の一人。
理知的で飛び抜けて美しい。
けれどアリオンに焦がれ、影からこっそりとファオンを虐めた美少女。
アリオンはファオンにそれを告げられても、抱く腕の力を緩めなかった。
「…貴方はもう、彼女のものだと。
彼女は僕にそう言った」
「俺は変わってない。
お前のものだ」
熱でうわずる声でそう告げて、アリオンは抱く腕を放し、ファオンの顔を、覗き込む。
男らしく美しい…アリオンの顔。
青い瞳は輝きを宿す。
「言った通りだ。
わざと怪我をした。
だがヘマもした。
ここまで大怪我を負う予定では無かった」
ファオンはアリオンの布の巻かれた左腕を見る。
自分の背に、回されていた。
「良く効く薬草だ。
だが切れたら痛む」
ファオンはまだ、アリオンを見つめ続けた。
「…婚約は仕方無い。
家の者が、《勇敢なる者》の期間を生きて戻るよう、勝手に決めた。
愛する女がいれば、どれ程過酷でも生きて戻るだろうと」
「僕は貴方を置き去りにした」
アリオンは顔を背けた。
「幼いお前に父を捨てろと俺は言えない。
お前を連れて逃げるほど、俺も育ってはいなかった。
ただ…………」
アリオンはファオンに顔を戻す。
青の瞳が熱を帯びる。
「熱情のまま、お前を求めた」
どちらからだったろう…。
気づくと二人は顔を合わせ、互いの唇に触れ、そして抱き合っていた。
毛皮の上に上体を起こし座すアリオン。
振り向くアリオンの顔は、とても青ざめていた。
横にいたアランは俯き、けれど顔を上げ、憔悴した表情で入り口に佇むファオンに囁く。
「休ませてやれ」
ファオンは頷く。
治療士はアリオンに薬草の入った木のコップを渡し、アリオンはそれを飲み干す。
傷口には布が巻かれていた。
治療士が立ち上がると同時に、アランも立ち上がる。
アランが横に来る。
突然ファオンの脳裏に、良く見知っていたもっと若い、軽やかで柔和なアランが蘇る。
けれど鍛え上げた体をした今のアランは、雄の匂いを漂わせ、疲労した表情を向ける。
ファオンの脳裏に、師の言葉が蘇る。
“《化け物》は人の生気も奪う
吸い取る能力は無い。
だがそのおぞましい姿で。
人を喰らう習性で。
恐怖を撒き散らし人の生気を著しく減少させる”
アランの疲労した姿は、《化け物》との戦いを物語っていた。
どれだけの勇者でも…。
《化け物》に喰われる最期を夢に見て、うなされると言う。
“忌まわしい習慣と思うかもしれない。
だがだからこそ《皆を繋ぐ者》は若い彼らに必要なのだ。
欲望を受け止め全てをさらけ出し、時に縋る相手として”
師はそう語っていた。
《皆を繋ぐ者》のこと等、知りたくも無かった。
けれど師は、こうも言った。
“《皆を繋ぐ者》が『聖なる生け贄』と呼ばれるのは、《勇敢なる者》の、全ての若者を受け止めるからだ。
欲望だけで無く。
身の全て。
心までも。
だから気づくことも出来る。
誰が弱っているか。
誰に休息が必要か。
そして誰が無理をしているか。
それを指揮者に告げ、時に非情な任務から救うこともある。
優れた《皆を繋ぐ者》は、《勇敢なる者》らに取っての守護者であり護り手なのだ”
かつて《勇敢なる者》だった師。
思い出を辿るようなその言葉。
だがその時ファオンは師の言葉を、空(そら)言のように聞いていた…。
ファオンはまだ戸口にいた。
アリオンにただ甘えていた幼い自分。
自分の身を与え、引き替えにどれだけ彼に護って貰ったか。
訳無く虐める子供らから。
“僕がアリオンを護る…?”
治療士が横に来る。
「痛む様子なら、薬草を」
毛皮の横の、木の盆の上の土器の瓶に視線を向ける。
ファオンは頷く。
アランと共に、治療士は出て行く。
二人…きり。
ファオンの足は、それでも入り口から動かなかった。
アリオンが微笑む。
「横に…来てくれないか?」
ファオンは弾かれたように身を揺らす。
そしてゆっくり…アリオンの横に。
毛皮の上に、尻を落とした。
アリオンは嬉しそうに微笑む。
ファオンは突然思い当たる。
「…まさかわざと怪我を?」
けれどもう、アリオンの両手に抱きしめられた。
あの…時が蘇る。
まだとても若いアリオン。
情熱的に抱きしめられた…あの運命の時。
木の洞にアリオンと二人きり。
落雷。
凄まじい音と光で、隣の木が真っ二つに裂ける。
外は狂ったような豪雨…。
次はこの木に落ちる。
恐怖でアリオンにしがみついた、あの幼い時。
……………けれどもそれは、遠い過去。
《勇敢なる者》になる為、修行の旅から戻った時、アリオンは既に《勇敢なる者》に選ばれ、この尾根に…。
《勇敢なる者》になって再会する。
肩を並べ共に戦う。
…けれど、《皆を繋ぐ者》となっての辛い再会…。
抱かれる熱い腕を意識する。
以前より、太く、逞しく…だが懐かしい、…懐かしい感触。
「下で聞いた。
貴方はもう、アウネッチェンと婚約したと」
アウネッチェン…。
ファオンを虐めた少女達の一人。
理知的で飛び抜けて美しい。
けれどアリオンに焦がれ、影からこっそりとファオンを虐めた美少女。
アリオンはファオンにそれを告げられても、抱く腕の力を緩めなかった。
「…貴方はもう、彼女のものだと。
彼女は僕にそう言った」
「俺は変わってない。
お前のものだ」
熱でうわずる声でそう告げて、アリオンは抱く腕を放し、ファオンの顔を、覗き込む。
男らしく美しい…アリオンの顔。
青い瞳は輝きを宿す。
「言った通りだ。
わざと怪我をした。
だがヘマもした。
ここまで大怪我を負う予定では無かった」
ファオンはアリオンの布の巻かれた左腕を見る。
自分の背に、回されていた。
「良く効く薬草だ。
だが切れたら痛む」
ファオンはまだ、アリオンを見つめ続けた。
「…婚約は仕方無い。
家の者が、《勇敢なる者》の期間を生きて戻るよう、勝手に決めた。
愛する女がいれば、どれ程過酷でも生きて戻るだろうと」
「僕は貴方を置き去りにした」
アリオンは顔を背けた。
「幼いお前に父を捨てろと俺は言えない。
お前を連れて逃げるほど、俺も育ってはいなかった。
ただ…………」
アリオンはファオンに顔を戻す。
青の瞳が熱を帯びる。
「熱情のまま、お前を求めた」
どちらからだったろう…。
気づくと二人は顔を合わせ、互いの唇に触れ、そして抱き合っていた。
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