アグナータの命運

屈辱の儀式

10 屈辱の時 リチャード

　シーリーンがその場を離れ…その人物の姿がファオンの目に映る。

身が、震える。

リチャード………。

初めて彼に出会った時。

濃い栗毛に囲まれた色白の肌と、大きな青の瞳の、人形のようなとても綺麗な顔。

愛らしい顔立ちに見えて、近寄った。

女の子みたいな男の子として、親近感を覚えて。

けれどリチャードはじろりと見て冷たく言った。

「女みたいなお前といると、俺まで弱っちく見えるんだよ！」

川遊びの時、岸に上がると上着は泥で汚れてた。

近くを歩くと足をかけられ、転ばされた。

何より…アリオンに抱かれ、シーリーンとも…抱かれた後、リチャードがした事は…。

ふいにファオンは目を見開き、捕らえられていた両手、両足を振って、もがく。

あの時、リチャードに布を口に当てられ、気絶した。

次に気づいた時は、両手は上で、縛られてた。

リチャードに散々、辱められた。

「アリオンと、シーリーンとですら、こんな事してんだ。

お前、これが好きなんだろう？」

拘束され、三日の間。

服を着せて貰えず、恥ずかしい格好をさせられ、虐める為に。

ただ、それだけの為に。

アリオンとシーリーンが入って来た場所を、散々…。

ファオンは必死になる。

股の間に姿を見せるリチャードは、あの時より成長したとはいえ、大きな青い瞳の、綺麗な顔のまま。

けれどあの時のように、無表情。

腿を握る腕の力は強く、手足を振っても誰一人として、放してはくれない…。

皆から離れ、剣を教える師匠と二人。

旅の間、リチャードを思い出し、思った。

もう二度と、あんな屈辱は受けない。

鍛え、《勇敢なる者》レグウルナスとなったら。

リチャードと肩を並べ、見下してやる。

辱められる者で無く、勇者としての尊敬を受ける者となって。

けれど今、股の間に見えるリチャードは卑下する視線も向けず、ただ…囚われて《勇敢なる者》レグウルナスらの慰み者としてのファオンを見つめる。

ファオンは捕らえる全部の腕を振り払って、逃げ出したかった。

酷い辱めをもたらす相手から。

「…っ！」

双丘を指で開き、蕾にリチャードのものが当たる。

その男根は無遠慮に。

あの時のように入って来る。

「…ぐ…っ！！」

突き刺す鋭さも同じ。

抉る、痛みも。

内壁(なか)の痛みではなく、見下げられた心の痛み…。

「ああっ！あっ！」

ファオンは肩を揺すり、手足を振り、その鋭さに泣く。

リチャードとの時…。

甘いはずの行為はただの、卑しい行為に変わる。

親密で熱い時間でなく、虐め、辱める時間へと…。

あの幼い何も知らなかった自分へ、ファオンは振り返る。

あの、哀れで惨めな可哀想な自分…。

衣服すら与えられず、奴隷のように縛られて、リチャードの欲しいまま。

命ずるまま、体を嬲られて。

「あっ…！あ………っ！」

それでも男根は立ち上がる。

教えられた快楽。

惨めで卑屈な…辛い快楽が蘇る。

リチャードはどこを擦り上げればそうなるのかを、知っている。

幾度も。幾度も。

縛り上げられ、嬲られた。

そこ、だけを刺激されつづけ。

やがてリチャードが入って来た時、もう体は覚えていた。

彼に突かれ、立ち上がる男根を見た時、辛かった。

そこは甘い疼きをもたらす場所。

アリオンの手で、シーリーンの手で、幾度も快感を引きだされた場所。

けれどリチャードは一度だって、そんな風には愛してくれなかった。

「お前は女なんだ。

なのに何男みたいにここを膨らませてる？」

ずっと…女の子より綺麗だ。

その事でファオンは虐められ続けて来た。

アリオンを好きな女の子。シーリーンを好きな女の子達は全て、ファオンを敵と見た。

いつも…意地悪を言われ続けた。

その女の子達を好きな男の子達は、競ってファオンを虐めた。

ファオンを虐めれば虐めるほど、女の子達に好きになって貰えたから。

だから…ファオンに優しくしてくれる者は僅か…………。

ぽろぽろと、頬に涙が伝う。

剣を覚え、高い崖を登り岩場を駆け抜け、賊相手に剣を振って戦い、旅人さえ助けることが出来るほど、腕を磨いたのに。

もう、あの惨めな場所へ、戻る事の無いように。

リチャードが内壁を、犯すように幾度も突き上げ、抉る。

「う…っんっ！」

ファオンは身を、跳ね上げる。

リチャードの行為は、再びファオンが惨めな境遇に落とされた事を、物語っていた。

突き上げはきつく、激しさを増す。

腿を掴むリチャードの指は喰い込む程。

意識が遠のく。

泣く事すら忘れ…ファオンはとうとう、気を失った。