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戦闘開始

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 近衛参謀であるマントレンは、城内の書斎で地図を広げる。
先に送られた偵察隊騎士がやって来て、周囲の状況の報告を入れる。

「盗賊は昨夜、四つほどの城に散らばり、入り込んで次々金品を奪い、逆らう者は容赦無く殺して回ってる様子。
今や盗賊の襲撃は、どこの城にも通達が入ってるので。
城の者らは襲撃があると、抵抗せず隠れ、援軍が来るまでやり過ごす作戦を取ってます。
お陰で、死者は激減しましたが…」

「…それが、利口だ。
で、コールデン城まで、今日は襲われたのか?」

偵察隊の、報告騎士は頷く。
「…今日の明け方に。
奴ら、夜目が利くので襲撃するのは夜、人が寝静まった後。
と相場が決まってる。
夕べ襲われたのは、サナン城、リコネッタ城、ロードル城…。
けれどどうやら、ガデンツァ城と、それに。
隣接したハードラー城を拠点にしてる模様です。
奴ら、金品を奪った後。
殆どを、ハードラーに運んでる」

マントレンは、頷いた。
「それは、好都合だ」

けれどそれを聞き、報告した騎士は呆れた。
「…ハードラーはともかく。
カデンツァは立てこもられると、厄介ですよ?
渡橋が降りないと、城内に入れないし。
万一入城できたとしても。
高台の別邸は、周囲に囲いのある、ほぼ要塞。
攻め込むのはかなり大変だと思いますが…」

「では、取りあえずお宝満載のハードラーを取れば。
奴ら、浮き足だつな?」

戸口からの声に、マントレンも報告の騎士もが、揃って振り向く。

豪奢な金髪。
小顔の美女顔。
堂とした立ち姿。

マントレンが頷くと、ギデオンはつかつかと室内に入り、手を差し出す。
マントレンは地図を掻き分け、ハードラー城の見取り図を手渡した。

「既に襲われた、他の城には。
賊は残ってないのか?」
問われて、報告の騎士は突然隣に立つ、ギデオンの美しさと迫力に一瞬飲まれかけ…。
けれどマントレンに、睨まれて顎をしゃくられ、上ずった声で報告した。

中央テールズキース護衛連隊が。
既に襲われた城の、事後処理に狩り出されてます。
残ってる賊は、ほんの僅か。
酔っ払いか…女目当ての、盗賊一団から見捨てられ、はぐれた者達のようです」

ギデオンはそれを聞き、頷く。
「…所詮盗賊。
統制の取れた、軍隊では無いからな」

そして、マントレンに振り向く。
「先にハードラーを攻める。
カデンツァの情報を、集めといてくれ。
ハードラーを攻めれば、当然他はカデンツァに立てこもるだろうからな」

マントレンが、頷くのも待たず。
ギデオンは背を向け、部屋から出て行く。

報告の騎士は、いつもは取り巻きがいて。
ロクに近づけない、高見のギデオンを間近に見て。
まだ、目を見開き、心臓をバクバクさせていた。

が、マントレンに見つめられてるのに気づき、言い訳る。
「あの…突然だったので」

マントレンは、無言で頷く。
騎士は近衛の中では。
小柄でひ弱そうに見えるマントレンが、まるで平常心なのを見て。
尊敬するように、声を張り上げた。
「凄いですねぇ…!
准将が間近で、まるで平気でいられるなんて!」

マントレンは肩すくめる。
「それより…ローゼ隊長の周囲を、こっそり探ってること。
バレて、無いだろうな?」

報告の騎士は、笑顔を見せる。
「近衛の…身内の隊長を探るって、どう考えても異常ですよね?」

が、マントレンに睨まれ、騎士は笑う。
「身分高い准将は、滅多に近しく出来ないので、無様ぶざまを曝しますが。
そっちは専門です。
お任せ下さい」

マントレンは表情を変えず、頷いた。

「…それにしても、あんな間近で見ると。
遠目で見るより何倍…いや、よりいっそう、凄い美人だ…」

退室しながらつぶやく騎士の独り言に、マントレンは呆れて肩すくめる。
騎士とは入れ替わりに。
城の召使いが戸口に姿を見せ、声かける。

「王子の護衛が。
顔を出して欲しいと」

マントレンは頷くと、もう一度。
地図の束を、見回した。

そして、掻き集め、一つに丸めると。
机の端に置き、その後室内を後にした。

大きなガラス窓の廊下を歩き始めると。
ギデオンを先頭に、近衛騎士らが馬を蹴立て、門へと。
凄い速さで駆け抜けて行く。

その、疾風のような凄まじい駆け振りをみつめ、マントレンはぼそり。とつぶやいた。
「…五点鐘…も、かからないかな?
ヤンフェスがいたら、賭けるのに」

そしてため息交じりに、重要人物の居室ある、城の奥部屋へと、足を運んだ。



半刻も経たず、ギデオンら近衛連隊はハードラー城を仰ぎ見る。
正面門は当然、閉まっていた。

が、ギデオンらは、マントレンから渡された地図に従って、裏の通用門を目指す。

通用門の近くに来ると、ギデオンは首を振る。
直ぐ、シャッセルが馬から降り、高く積まれた石の塀を見回す。
大きく開いた亀裂を、茂る木の背後に見つけ、ギデオンに合図を送る。

ギデオンは愛馬から滑り降りると、直ぐシャッセルの示す、城に入れる亀裂を潜る。
シャッセルは直ぐその後に続き、狐のような銀髪のレンフィールが、素早く後ろから続いた。

黒髪、頑健な体格のアドルフェスは、背後の者らに
「通用口を開けたら。
我々の馬を中に入れろ!」
と怒鳴る。

あと数名。
ギデオンらの後ろに続いた。
が、残りは彼らの馬を引き受け、通用門が、開くのを待った。

間もなく、通用門が開き。
後続部隊は怒濤の如く、門を潜る。

門の両側には、見張りの盗賊の死体が転がっており。
近衛連隊騎士は次々、城の裏口前で馬から飛び降り。
開いている扉を更に大きく開け、次々城内に、姿を消す。

ギデオンはとっくに、城内へ斬り込んでいて。
一部隊を残し、残りは我先にと抜刀し、城へと駆け込んで行った。

城内では、夜活動する盗賊らが。
だれきって眠っていたから。
逆に急襲され、浮き足立つ。

あちらこちらで
「ぎゃっ!」
と斬られる賊の叫びが響き渡る。

バタン!バタン!
と、続けざまに扉の開く音。

が、奥の広間に続く廊下で。
一人の、近衛騎士が叫ぶ。
「援護を頼む!
数が多い!!!」

目に付く盗賊を斬って進むギデオンの背を、シャッセルは追っていた。
が、ギデオンが振り向くなり、その声の方角に猛烈に走り出すのを目にする。

「この城での、指揮官がいるのか?!
腕の立つ、大物か?!」

叫びながら駆けるギデオンは、あまりに早く。
シャッセルは必死に後を追いすがった。

アドルフェスが横に並ぼうと、歯を食い縛って走ってはいるが。
二人とも、ギデオンに置いて行かれそうで。
必死に歩を進める。

手すりの下が、大広間。
ギデオンが手すりを乗り越え、飛び降りるのを見て。
シャッセルも、アドルフェスもが、ぎょっ!として。
二人共が慌て、揃って手すりに駆け寄り、下を見た。

下の大広間は集められた金品が、所狭しと並んでいて。
大きな箪笥の上に、ギデオンは着地すると。
お宝に囲まれたその中に、一際大きく、まるで野獣のような男が、吠えているのを目にする。

「さっさと起きろ!なまけるな!
斬れ!斬れ!
斬って捨てろ!!!」

盗賊らは大男の激励に、酔いと眠気でふらふらの頭を振って剣を握り、凄まじい速さで駆け込んで来る、近衛騎士らに相対す。

あっと言う間に大広間で、激戦が始まる。
野獣の大男は、だが剣を抜いて寄り来る騎士らに、長い腕で剣を振り回し。
迂闊に近寄れば、豪剣の餌食。
と。
仕留めようと近づく騎士らを、遠ざけていた。

騎士らはじりじりと、剣の振られる、隙を狙う。

戦闘ではたいてい、ボスを倒せば一連の士気が落ちる。
疑うことなく、この野獣の大男は、この城でのボス。

一人の騎士が、大男が剣を振り切ったところで。
剣を握りしめ、突進しようとした。

が、それより早く。
豪奢な金髪が一直線、横に流れる姿を皆が見る。

ギデオン…!

「!!!」
シャッセルとアドルフェスは、慌てて手すりから大箪笥の上に飛び降りる。

がもう、ギデオンは大男の間合いに詰め、剣を振り切っていた。

ざっっっっ!!!

背を、斬ったというのに。
くっきり剣の跡を残し、血が、滲み始めてるというのに。

大男は振り向き、自分よりかなり小柄な、ギデオンを凄まじい目で睨み付け。
剣を真横に振り切る。

ぶん!!!

風切る音を鳴らし。
まるで大鎌のような豪剣が、瞬時に振り子のように横へと滑る。

が、金の髪の残像が。
一瞬下に沈んだかと思うと。
次の瞬間、大男は、ピタリ…!と動きを止めた。

ギデオンは。
振り向く大男の腹に、深々と剣を突き刺し。
動きを止めた大男を見た後。

ゆっくり引き抜き、くるりと背を向け、怒鳴った。
「他に腕自慢は?!
もっと強い男は、他にいるのか?!!!!」

叫んでる間に、野獣の大男は腹を押さえ、膝を折る。
が、自分に背を向けるギデオンを、凄まじい瞳で睨めつけ。
剣を握り直し、振り上げ。
一気に頭上に振り下ろした。

びゅっ!!!

アドルフェスは、叫ぼうとした。
が、振り下ろされた下の、金の髪は。
横に揺れたかと思うと、振られた凄まじい剣を瞬時に避け。
一瞬で飛び上がって、振り切った大男の肩口目がけ、剣を。
凄まじい速さで、振り下ろす。

ざっっっっっ!!!
「…………………っ!!!」

ばっ!!!
と、大男の首の付け根から、大量の血が横へと噴き出す。

その血は周囲の金品に飛び散り、赤く染めながらも。
大男が、崩れ落ちていく間。
そこら中を、真っ赤に染めていく。

吹き出す血が、収まり始めた頃。
大男は床に転がり、目を見開いてぴくぴく痙攣し。
死を、迎えようとしていた。

やがて見開いたその目から、光が消え。
濁った色へと変わる。

ギデオンが振り向くと。
大広間の、ほぼ全員が。
その凄まじい戦いを目にし、剣を止め。
静止してるのを見た。

「降伏しろ!!!
お前らと違い、大人しく降伏したヤツの、命は盗らない!!!」

叫ぶギデオンの、その声に。
突如全員、はっ!とし。
幾人かは目前の騎士に、剣を振る。
が、幾人かは剣を捨て、大人しく降伏した。

アドルフェスとシャッセルが、ギデオンの背に駆けつけた時。
ギデオンは振り向くと、二人に告げた。

「残党を、片付ける」

二人は息を飲み。
が、無言で頷いた。
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