森と花の国の王子

あーす。

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帰還への遠い道のり 3

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 一行の中の二騎は、後ろに動けない者を乗せてるせいか。
行きとは違う道を、オーガスタスは走って行く。

岩場を越えた後、右…西に向かわず、真っ直ぐ南へと進むので、テリュスは脳裏に尋ねる。
“バルバロッサ王の邸宅に向かわず、アースルーリンドに戻るのか?”

直ぐ、ダンザインから
“西に大軍が詰めてきてる。
突っ切るのは…無理だ”
との返事が。
“行き来た道は、マズイのか?”
そうテリュスが脳裏に尋ねると、ダンザインは少し躊躇ためらった後、返答を返した。

“…最早もはや敵で埋まってる”

テリュスはそれを聞き、短くため息吐くと
“了解”
と返事した。

が、南への道は森の中とはいえ、かなり広い。
ひた走る一同に、再びダンザインの声が脳裏に響く。

“説明すると。
オーデ・フォール中央王国からの援軍が、やっと邪魔を取り払い、駆けつけて来ている”

それと同時に、皆の脳裏に映像が浮かび上がる。
積まれた岩の半分が崩れ、味方の騎兵が続々乗り越え、飛び込んで来ていた。

また大木が積まれた道は。
なんとか、乗り越えられる高さまで木は減らされ、騎乗した兵士らが馬に拍車掛け、馬ごと飛び越え始めてる。

降りた先にも敵はいて。
矢も飛び交っていた。

乗り越えた騎兵らは、即座に剣を抜き、戦い始めてる。

“彼らを少しでも足止めし、王子らを捕まえようと、敵は必死。
が、バルバロッサ王の騎兵らは、城の周囲に隠れて配置され…近づく少数の敵を、全て排除してる”

また、映像が浮かび上がる。
高額の謝礼を期待し、少数の盗賊集団が邸宅に忍び込もうと、塀に近寄ろうとする度。
褐色の肌の騎兵らが、茂みから飛び出して来る。
あっと言う間に賊らは、逃げる間もなく斬り捨てられていた。

周囲に張り巡らされた塀の、あちこちで。
そんな光景が繰り返されている。

“…それで敵軍は、数を集めバルバロッサ王邸宅やオーデ・フォール中央王国の城に攻め込むつもりで、現在集結してる”

テリュスだけで無く。
ギュンターもそれを聞き、顔を下げ、ぼそりと呟く。
「…そんな所に、これから向かうのか?」

“タイミングが合えば、味方騎兵が敵と戦い始める間に、邸宅へと入れる”

皆が脳裏に
“…タイミング…”
と呟く。

“暫くは南への大通りを行ってくれ。
皆通り過ぎた後で、敵は少ない”

先頭のオーガスタスは、なびく赤毛を振って頷くと、ザハンベクタが駆けるままに促した。
この中で一番大きな赤毛の馬、ザハンベクタは。
大柄な人間二人を乗せてるなんて、思えない程の速さで、勇ましく駆けて行く。
後ろに乗るディアヴォロスは、揺れる度腰近くまである長く縮れた黒髪を揺らし、前に乗るオーガスタスの腰に腕を回し抱きつき、背に顔を埋めていた。

焦げ茶でくねる長髪のディンダーデンは、真っ直ぐ前を向き、駆ける馬に揺られ。
揺れるたび背にもたれかかる、アイリスの身の重みを、姿勢を維持し、背で押し返していた。
アイリスは寝ているのか気絶寸前なのか。
ディンダーデンの背に、ぐったりと身を寄せている。

二人が乗ってるノートスは、黒くカールした長いたてがみを派手に散らし、ザハンベクタに遅れまいと、後に続く。
横の黒馬エリスは、チラ…チラと荒ぶる鼻息荒いノートスに視線投げ、余裕。
愛馬同様余裕のディングレーが、真っ直ぐの黒髪を靡かせ手綱引く、その斜め後ろ。
ディアヴォロスの愛馬でクールな迫力の、黒光りするデュネヴィスは。
自分の出番を、静かに駆けながら待っている。

その後ろに着けたテリュスは、背後をチラ見する。
長くくねる銀髪、妖精のようなシェイルと、絹糸のような細く僅かにウェーブのかかるエンジェルヘアのローランデは、二人で何か話していて。
二人を見てると、可憐そのものの美貌のシェイル、そしてたおやかで気品溢れる貴公子のローランデ。
二人共がとても美しくて。

テリュスはこの世の光景じゃ無い気がし、視線を前に、戻しかけた。
が、最後尾のギュンターが、何とかローランデの横に併走しようと、馬を横へ寄せて拍車かける度。
シェイルは振り向き、ジロリ…ときついエメラルドグリーンの瞳で睨み付け。
その都度、ウェーブのかかる金髪、切れ長な紫の瞳で、整いきった美貌の。
およそ一度も振られた事なんて無さそうなギュンターは、ため息吐くと。
手綱を緩め、焦げ茶に白の模様の入った毛色の、愛馬ロレンツォの速度を落としてた。

「…みんな、同い年?」
背後からのテリュスの声に、ディングレーは振り向く。

声は、歴戦で余裕を感じるのに。
振り向いて見ると、大きめで少し垂れ目気味の青い瞳の、肩までのくねる明るい栗毛。
小ぶりの可愛い鼻と、愛らしい口元。
薄いピンクの唇の、びっくりするほどの可愛い子ちゃんで、思わず拍子抜けする。

けどテリュスが、じっと見てるので。
ディングレーは顔を後ろに向けたまま、答える。
「最年少が、アイリス。
21…だっけ?
一つ上が、ローランデとシェイル。
その一つ上が、俺とギュンター。
また一つ上がオーガスタスで、その一つ上が、ディンダーデンとディアヴォロス」

テリュスが口開けかけると
“20だ。
直21だけど。
まだ、20”
と脳裏で声がする。

それでテリュスは、ディングレーの横、斜め左前のアイリスに視線向ける。
アイリスが、首を傾けこちらを見ていて。
面長で濃紺の瞳、この中では色白な方の、流石アースルーリンド出身者。
と納得行く、整って綺麗な顔立ち。
けどやつれてるせいか、どこか艶を含み、色香があって、妙に迫力を感じた。

テリュスは
“アイリスから感じる色香…って…男っぽい…?
いや、女性的…?
どっちか分かんないな”
と脳裏で思わず呟いてしまい。

ディンダーデンにもディングレーにも、振り向かれてしまった。

ディングレーは
「あいつ、ギュンターに並ぶ垂らしだから」
と呟き、ディンダーデンは
「餓鬼の頃は美少年で、男を手玉に取ってたし。
やつれると、やたら色っぽいからな」
とぼやいてた。

思わずテリュスは、視線をディンダーデンに向け、睨み付けてるアイリスを見つめてしまった。
“同じ焦げ茶のくねる長髪、濃紺の瞳で、キャラもデルデロッテ同様っぽいけど…。
デルデの方が、ちょい鼻が高く、顎も男っぽいかな?
それとも…単に性格や態度が、デルデロッテのが男っぽいのかな???”

テリュスが思い浮かべるデルデロッテの映像が、皆の脳裏に浮かび上がり、ディングレーが口挟む。
「アイリスは、父親の身分はまあまあ高いが。
母方の家が大公家で、かなりの名家で大金持ち。
それでアイリスの方が、優雅に見えるんじゃナイのか?」

ディンダーデンが、青の流し目を横のディングレーに投げ、即座に異論を唱える。
「…お前だって、生まれも育ちも王族だが。
優雅さで言えば、アイリスが勝ってる。
…性格だろう?」

テリュスが見てると、ディングレーはため息交じりに顔を下げ
「…それ、暗に、俺は育ちが良いはずなのに、気品とか優雅さは持ってない。
って聞こえる」
とぼやく。

思わずテリュスはくすくす笑い、ディンダーデンは憮然と言った。
「もし、お前が優雅に見える。とか口にしたら
“チャラいから、嫌だ”
鬱陶うっとおしがるだろう?お前」

図星差され、ディングレーは顔下げ
「デルデロッテってヤツ、これから行く先にいるのか?」
とすかさず話題を変えた。

テリュスは突然、思い出す。
「あ、デルデロッテとノルデュラス公爵が。
ディアヴォロスって凄いイイ男に、来て欲しくないみたいな事、言ってたな」

ディンダーデンが、思わず聞き返す。
「なんで嫌なんだ?」

最後尾のギュンターが、脳裏で説明した。
“デルデロッテの婚約者の、オーデ・フォール中央王国の王子エルデリオンが。
ディアヴォロスの映像、脳裏で見て、思い切り見惚れたから。
エルデリオンに惚れてるデルデロッテとノルデュラス公爵は、恋敵がこれ以上、増えて欲しくないらしい”

オーガスタスは呆れる。
“ディアヴォロスにそんな余裕、あるか。
第一、シェイルが居るんだ。
彼が、絶対エルデリオンを牽制する”

けれどディアヴォロスが、脳裏で囁く。
“でもシェイルは、私なら自分で何とか出来ると思ってる。
…だから多分ローランデの側から離れず、ギュンターを、牽制すると思うな”

テリュスが背後に振り向くと、シェイルは可愛らしく頬染め、俯いて呟く。
“だって、ローランデの方が危険だと思う…。
ギュンターに迫られたりしたら…彼は剣士として、とても頼りになるのに、能力が発揮出来ない”

テリュスは思わず、頷いた。
“ああ…。
久々に会ってギュンターが加減出来ず、思い切りホられたりシたら…。
足腰立たなくて、ヤバいよな?”

けれどその後。
全員が、しん…と静まり返り、アイリスが代表でぼそり…と脳裏で囁く。
“君、鏡見たことある?
その顔でそれ言われると。
流石の私らでも、引くよ”

テリュスは思わず脳裏に言い返した。
“シェイルも同じような発言、してるのにか?!
俺で、引くのか?!”

その時、ダンザインが脳裏に響く声で、補足した。
“テリュスは少し前まで、髭を生やしていたようだ。
それでその時の自分を周囲が見てると、勘違いしてる”

皆の脳裏に、テリュスの記憶から取り出した、髭を生やしたテリュスの映像が浮かび上がった。

肩までのウェーブのかかる、明るい栗毛は今と同じ。
目元も鼻も同じに見える。
なのに鼻の下にから口回り、顎に至るまで、明るいくねる栗毛で覆われ、顔半分が、隠れてる。
人の良さげで、気の良い青年に見えて、皆無言で過去と今のテリュスを、脳裏で見比べていた。

テリュスは見慣れた、少し前までの自分を見、内心呻く。
“大変だったんだぜ…。
俺、髭が生えにくい体質だから。
毎日毛生え薬、鼻の下と口回り。
顎の下に塗って、やっとここまで生やしたのに…”

けれど皆が、鼻の下は髪の毛だらけのテリュスの映像を見、まずディンダーデンが
“この顔なら、さっきの発言も容認出来るな”
と呟き、ディングレーも
“この容貌なら、どって事無い…”
と同意し。

今のテリュスの可愛い子ちゃん顔を思い浮かべ
“これは…ナイ”
と言って退けた。

シェイルは
“これだけ顔の下半分が、髪の毛だらけだと。
凄く印象、変わるよね?”
とローランデに問い、ローランデは
“顎が全然見えないから。
人の良い青年。
って感じに見えるね”
と相づち打つ。

その後、ギュンターが
“髭剃ると、どーして5つぐらい、若返る???”
と疑問符だらけになり。
アイリスはひたすら絶句し、ディアヴォロスが
“髭が無いと、骨格が華奢なのが、強調されるね”
と呟いた。

テリュスは頷くと
“髭のナイ顔で、だぶつき気味の服着ると。
ますます少女が男装してるっぽく、見える”

“確かに”

ローランデに即答され。
テリュスは思わず背後の、気品溢れる美しい貴公子に振り向いた。

即座にシェイルが、フォローする。
「ローランデは育ちが良すぎて、天然なんだ」
「他意は無い」
ディングレーも言うので、テリュスは斜め左前のディングレー。
そして背後、斜め右のローランデを見。

“身分高く育ちの良いヤツって、おおむね、天然だよな…”

とボヤくので、とうとうオーガスタスもディアヴォロスも。
ディンダーデンもが、くすくす笑った。
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