森と花の国の王子

あーす。

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アールドット国王の別邸

アースルーリンド一行との続く会話

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 ギュンターが、沈んだ声で囁いた。

“…じゃ…会えないんだな…”

消えかけたアースルーリンド一行の映像が、再びはっきり浮かび上がる。
アイリスが、馬上で上空…こちらを見ていた。

直ぐ、ギュンターはがなる。
“お前じゃ無い…!
いいか絶対!
ローランデには手を出すな!”

デルデロッテを美麗で優雅にした感じの、アイリスは肩を竦めた。
“左将軍も居るのに…。
そんな事、しませんよ”
が、ギュンターは即座に言い返す。
“お前っくらい手の早い垂らし男の言葉なんて、信用出来るか!”

けれどその時初めて。
凄腕剣士と言われてる、ローランデの姿が大きく映し出された。

明るい栗毛の中、濃い栗毛が幾本も混じる、独特のエンジェルヘア。
横のアイリスよりは小柄ながら、気品があり優しげな風情。
けれど青い瞳はまるで、澄みきった湖水のよう…。

しなやかながら気品ある手綱捌きは、さながら“貴公子”。
が、彼は頬染め、ギュンターを怒鳴りつけた。

“大概にしろ!
厳命受けて任務を果たすまで!
アイリスはちゃんと、わきまえてる。
君と違って!”

けれどバルバロッサ王が、唸った。
“もう少し…下…。
そこだ”

その時。
騎乗してるローランデの腰から下。
馬の背に、揺れてるローランデの尻が映し出され、ギュンターはかんかんに怒った。
“オーレ!
王の要請なんて、聞くな!
王!
見てもムダだ!
絶対触らせないからな!”

が、澄んだ少し高いローランデの声が叫ぶ。
“私の、どこを触る?!
そんな破廉恥な男は君ぐらいだ!”

けれど最後尾のディンダーデンが唸った。
アイリス同様、栗毛に濃紺の流し目の美男。
が、もっと奔放な印象。

“…あんたを抱きたい、別の誰かに怒鳴りつけたんだろう?
ギュンター、誰がローランデを襲いそうなんだ?”

オーレが王の容姿を見せたらしく、アースルーリンド一行は左将軍を除き、皆
“アーシュラス?”
“アーシュラスがどうしてそこに居る?”
と言い合いしてる。
のでギュンターは唸った。

“確かにサーシェ浅黒い肌の人だが、アールドットのバルバロッサ王!
アーシュラスみたいな甘々な王宮育ちの、鼻持ちならない高慢ちきな男じゃない!”

左将軍ディアヴォロスが、艶やかに微笑む。
“アールドットの王の保護の下にいるなら、安心だ。
が、王が倒れれば王朝貴族が復活してしまう。
オーガスタス、王を私と思って、お護りしてくれ”

皆が意識で覗ってる中。
オーガスタスが、悲嘆に暮れたため息を吐きつつ、呻く。
“俺はあんたが心配だ…。
アイリスに、俺の代わりが務まるか?”

アイリスは、ゆったり優雅に微笑んで告げた。
“任せてくれ”

けどまた。
オーガスタスの、悲しげなため息が聞こえる。

バルバロッサ王が告げる。
“護ってくれるのはありがいたいが。
『闇の第二』とか言う化け物の後始末、そんなに急を要するのか?”

ディアヴォロス左将軍、愛称ディアスは、にっこり微笑む。
“異次元に封じた『影の国』と通路が出来たままでは。
『闇の第二』はまた出没し放題。
君達の国で、我が国ほどの力は使えないとは言え。
そちらに能力者は、一切いないだろう?
対抗出来る者が居なければ、『闇の第二』はそこで力を蓄え、我が国にある『影の国』を封じ込める、大封印をも破りかねない”

ディンダーデンがそれを聞き、唸った。
“そんな…大事だったのか?”
銀髪で一番小柄な美青年、シェイルが唸る。
“ちゃんと肝に銘じ、気持ちを引き締めて事に当たれ!”

ロットバルトが、ぼそり…と尋ねる。
“大封印…とかが破られたら、どうなるんです?”

アースルーリンド一行は暫し沈黙した後。
アイリスが顔を向ける。
“『影の民』が一気に湧いて出る。
アースルーリンドは、化け物だらけになってしまう”

城の皆はそれを聞いた途端。
ぞっ…と怖気おぞけ、鳥肌立てた。

ローランデも呟く。
“アースルーリンドでは、過去二回あった。
一度は数を劇的に減らした。
二度目は命を賭した決戦で、『光の民』と光竜の力を借り、やっと『影の民』を異次元の『影の国』に封じ込めたんだ”

“ちょっと…待って下さい。
つまり…決戦の間は、そこら中化け物が…居たって事ですか?”
ラステルの質問に、アースルーリンド一行、全員が頷く。

“…なんて事を聞くんだ…”
テリュスが呻き
“考えたくない事態ですね…”
ラウールも同意し
“そんな国に、産まれなくて良かった…”
エリューンも思いっきり、項垂れた。

レジィがそれを聞いて、必死に告げる。
“でも…でも!
今…左将軍には光竜がいらっしゃるから…大丈夫なんでしょう?”

左将軍が囁く。
ワーキュラス光竜はとても大きく、能力も強い。
『光の国』からアースルーリンドに降臨すれば。
空間が裂けるし、力を使えばヘタをすれば国が吹っ飛ぶ。
…だから私や。
光竜と回路を開ける『光の民』を通じてでなければ…適正な力は使えない”

城の者らは想像を遙かに超えるその凄まじい事実に、言葉を失った。

バルバロッサ王だけが、平静な声で告げる。
“が、化け物はあんた達が何とかしてくれるんだろう?”
ゼイブンが、突如がなる。
“してくれなきゃ、困る!
大丈夫だ、アイリスは俺やローフィスより年下だが、俺達の所属する神聖神殿隊付き連隊騎士の長だ!
名だけじゃなく、ちゃんと実力もある!”

けれど途端、アイリスは顔を下げて呻く。
“ローフィス…。
ゼイブンがこれだけ私を持ち上げてくれるのって…”
ローフィスが、頷いてる様子で言い捨てた。
“自分が楽したいに決まってる”
“やっぱり…”

ゼイブンが、二人の会話に割って入り、怒鳴った。
“滅多に来られない、エルデルシュベイン大陸一の大国、オーデ・フォール中央王国の宮廷は。
色っぽい美女だらけなんだぞ?!
折角美女に囲まれて、酒池肉林だったのに!”

城の皆ですら。
ゼイブンの思惑に、思いっきり呆れたというのに、左将軍ディアスはくすくす笑う。
“ローフィス。
ゼイブンの面倒、よろしく見てくれ。
シェイルの面倒は、私が見るから。
それにディンダーデンはなんだかんだ言って、シェイルには弱いから。
きっちり護ってくれる”

けれどシェイルは可愛らしく口を尖らせ、ふくれっ面で呟く。
“神聖呪文、山程覚えたし使いこなせるようになったのに。
俺が、ディンダーデンを護る役目の筈”

ディンダーデンは肩すくめた。
“アースルーリンドの外では、剣がモノを言う。
俺の出番に決まってる”

ディアスは微笑みかけ、言葉を続ける。
“ギュンター。
ここには君のような視点でローランデを見る者は、誰一人居ないから。
余計な心配はするな。
そろそろ…崖の中だ。
話していられるのはここまで”

ディアヴォロスがそう告げると、一行は顔を引き締める。
目前の、切り立った高い崖が見え…映像はそこで消えた。

“左将軍ディアヴォロス…って…凄く素敵な人ですね”
ラウールの声がした途端、ノルデュラス公爵が呻く。
“光竜憑きだぞ?
神々しいに、決まってる”

エルデリオンも頷く。
“同感…。
私も諸侯旅したが…あんな人物には、出会ったことが無い”
途端、デルデロッテが声を発した。
“…彼に抱かれてみたいとか…思ってません?!”
エルデリオンが、焦りきって怒鳴る。
“おも…おも…どーして君、すぐそっちに持って行くんだ!”
ラウールが、しれっ…と言った。
“私は、思いましたけど”
ラステルも頷く。
“神秘的で神々しい上、滅多に見られない、崇高な美男ですもんね…。
デュバッセン大公が見たら…色目使いまくりでしょうね…”

ギュンターが、さらっ。と言った。
“相手はしてくれるだろうが。
彼が惚れてるのはシェイルだぞ?”

“え…?”
“え?!”

ラウールとエルデリオンの声を聞き、テリュスが唸った。
“失恋決定。
って声だな…。
デルデが、妬く筈だ…”
デルデロッテの怒り声が聞こえる。
“やっぱり、そう思いますよね?!”
エルデリオンが、焦りきって反論した。
“チラと…考えただけじゃ無いか!
だってなんか凄く…上手そうに見えたし”

ギュンターが、直ぐ言い足す。
“そう…じゃなく、上手。
彼、「左の王家」の一族出身だし、「左の王家」ってみんな、遊びまくりで垂らしまくりの一族だから”

デルデロッテとノルデュラス公爵が、怒り狂って怒鳴る。
“絶対彼!
こっちに寄越さないで下さい!”

バルバロッサ王が、呟いた。
“そんなに自分に、自信が無いのか…。
で?
オーガスタス、あんた本命がローフィスで、大本命が左将軍らしいな。
ギュンターはさしずめ、愛人ってとこか?”

オーガスタスが、ため息交じりに呻く。
“バルバロッサ…”
すかさず、エウロペが助け船を出す。
“オーガスタスは確か、女性の恋人がいるはずです”

オーガスタスは内心、エウロペに感謝した。
が、王は畳みかける。
“女の恋人は、子孫残すのに必須。
男に惚れて抱くのは、それとはまた別だろう?”

レジィが
“そうなの?!”
と叫び、深く眠っていたミラーシェンまでもが、突如目覚めて叫ぶ。
“違うの?!”

エディエルゼだけが
“マトモに聞くな!
女が居ようが男をも口説いてイイという、王の都合の良い適当な見解だ!”
と怒鳴った。

オーガスタスは
“どーしても俺と男を、くっつけたいらしいな…”
と嘆き、バルバロッサに
“左将軍を心配するあんたは、尋常じゃ無いから”
と言われる。

が、オーガスタスは言い返した。
“…人間の身で、訪れただけで空間を引き裂き、この大陸までも破壊するような光竜と回路を通じ、力使うなんて無茶したら。
ヘタに力使うと、体も精神もイカれる。
心配するに、決まってるだろう?”

それを聞くなり、ラステルが唸った。
“…確かにそうですね…”
ロットバルトも同意する。
“想像も付かないほど、過酷なんですな?”

オーガスタスが、ため息交じりに頷く。
“大勢が彼を頼り、慕ってる。
彼が失われたりしたら、どれ程大勢の人々が、失望し落胆する事か。
容易に想像付くだろう?”

バルバロッサ王以外の皆は、無言で同意した。
が、王だけは、まだ言った。

“そんな相手だろうが。
身を呈して仕えるには、相当深い愛情無くしては、出来ないだろう?”

とうとうオーガスタスは
「(こいつには、言葉が通じない…)」
なため息を吐き出し、エウロペもロットバルトもラステルも。
同様のため息を吐いた。
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