森と花の国の王子

あーす。

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激突

アールドット前国王と現国王の対決

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 敵は相変わらず南の森から突進し続けて来た。
ただし、今度は襲い来るのでは無く、背後から急襲する、別の敵に追われて。

オーガスタスは横に雪崩れ込む二人が足元に倒れ込んだ後、立ち上がる一人に剣を振り被る。
「待った!
俺は敵じゃ無い。
殺さないでくれ」

陽気な声がし、立ち上がった男は笑っていた。
暗がりだったが、よく見ると立ち上がった男も、倒れてる男も。
どちらも黒髪にターバンを巻き、浅黒い肌をしている。

思わず、オーガスタスも、ローフィスもがラステルに振り向く。

「毛色の変わった援軍か?」

オーガスタスに問われ、ずっとデルデに屈み、成り行きを見守っていたラステルは、口を開けたまま言葉を発しない。

間もなく、ざざざざざさっ!!!

と激しい草を叩く音と共に、二人の一際デカく、体格の良い浅黒い肌の男二人が、倒れた男らを踏みつけながら、オーガスタスの目前に躍り出る。

二人共が互いに相手に剣を振り合いながら、こっちには視線も送らない。

一人は珍しい金髪。
真っ直ぐの長い髪を背に散らし、微笑って豪快に相手に剣を振る。
もう一人は他の者ら同様、黒髪に一際豪華な宝石の付いた、ターバンを被っていた。

金髪の男が放った首をはねかねない豪剣を、頭を下げて避け、相手を睨めつけている。

「あいつがアッハバクテス!!!」
後方からすっ飛んで来たノルデュラス公爵が、黒髪の男を指さし、怒鳴る。

ラウールもこっそり、ノルデュラス公爵の背後に隠れ覗き、頷いた。


発光していたレジィは光を徐々に消した後、気を失って背後に倒れ込み、エリューンとテリュスが慌てて同時に背を支えようと、手を差し出す。

結局、正面から胴を抱き寄せたエウロペが、レジィが倒れ込むのを防いだ。

「レジィ、レジィ?!」

ミラーシェンまでもが、必死に声かける中。
レジィは完全に気絶していて…寄って来たスフォルツァが、ため息交じりに呻いた。

「中のシャーレが、一時的にレジィの体を乗っ取って能力使ったはいいが…。
力を使い果たし、レジィごと気絶したんだな…」

その時、ラフォーレンが目を開けるエドウィンに気づく。
と同時。
再び皆の脳裏に、耳に聞こえぬ声が響き渡った。

“シャーレが…アッハバクテスが大嫌いで、助っ人を呼んだ。
でも彼ら…は…”

直ぐ、別の声が飛ぶ。
“もしかして…あの珍しい金髪の男、現アールドットの国王の…バルバロッサ?!”

オーガスタスとローフィス。
そしてギュンターまでもが、脳裏に質問を発したラステルに振り向く。

暫く声は途切れた後、エドウィンは答えた。
“そ…う…。
シャーレは力を使ったから、暫くまた眠る…。
けどレジィは少しすれば、目を覚ます…。
でも…僕…も、とても眠い…。
ラフィーレとシュアンは…もう少し眠らせてあげて…。
何かあったら…僕…が目を覚ま…すから…”

けれどラフォーレンは、そう言った後、エドウィンが再び目を閉じるのを見た。


オーガスタスは目前で、果たし合いするアールドットの前国王と、現国王の戦いを見つめた。

どちらも体格が良い。
特にバルバロッサは、自分より少し低いぐらい。
間違いなく、二メートルを超える長身。

前国王は口汚く罵りながら、剣を立て続けにバルバロッサに振り続けていた。
「この…奴隷上がりの卑しい盗人ふぜいが!!!
お前のような虫けらは、ここで叩っ殺して私が国に返り咲く!!!
こんなところにノコノコ現れ出たが、運の尽き!!!
お前はここで、朽ち果てろ!!!」

けれど激しい剣を振られながらも、身軽に避けるバルバロッサは笑みすら浮かべてる。
が、足元に転がる、倒れてる男に足を取られ、躓きヨロめいた。

「見え透いた罠だな…」
オーガスタスが小声で呟くと、横で見物してるローフィスも同意して頷く。

が、アッハバクテスはニヤ!と笑うと、絶好の機会と、剣を振り被り突進する。

身を起こすバルバロッサは笑い、一気に開いたアッハバクテスの腹に、剣を振り切った。

ざっしゅっ!!!

ばっっ!!!
腹からハデに血を吹き出し、アッハバクテスは目を見開く。

「ぅ…ぐぅっ!!!」

そのまま倒れ込む。
横に避けてたバルバロッサは、斜め後ろに振り向くと、笑って告げた。
「安心しろ。
手当てすれば助かる傷。
が、随分長い間、痛むだろうな。
お前みたいな極悪人、そう簡単に殺すと思うか?」

ラウールはノルデュラス公爵の背後からそれを聞き、心から…ほっとした。

金の髪を散らす、顔立ちの…とても整って勇猛な。
けれど盗賊上がりと言われるだけあって、荒っぽい雰囲気のその美丈夫の現国王を、思わず見つめる。

バルバロッサの軍は、ほぼアッハバクテスの軍を制圧し、バルバロッサは寄って来る味方に、首を振る。

「山程もてなし予定の、客人だ。
怪我人だから…丁寧に対応してやれ」

味方の…ターバン巻いた黒髪の体格良い男らは、笑って倒れてるアッハバクテスの両腕を強引に引き上げ、そのまま引きずる。

「止めろ!!!
ぐぅっ!!!ぅおっ!!!」

引きずられ、腹の傷が開いて血を滴らせ、痛みに呻くアッハバクテスを、男達は笑って引きずり続ける。

「痛いらしいぜ!!!」
「麻酔してやれ!!!」
「おぅ!!!」

返事した男は、アッハバクテスの腹の傷を蹴りつける。

どがっ!
「ぎゃあっ!!!」

「麻酔、足りないぞ?!」

更にどすっ!!!
引きずられながら、また腹の傷を膝で蹴られ、アッハバクテスは痛みに暴れ狂う。
が、男達は腕をしっか!と掴み、強引に抑え込んで、笑いながら言う。
「効いてないぞ?!」
「これ以上ヤルと、死なないか?」
「死なせるな」
「こいつに恨みのある者は、山程いるからな!
きっちり思い知らせないと!」
「簡単に、死なれては困る」

バルバロッサは後ろの森の中へ、地面に血を垂らしながら引きずられていくアッハバクテスを見送った後。
オーガスタスに振り向く。

「たった、これだけの人数で。
死体は転がり放題。
たいした善戦振りだ。
見ない顔だな?
それだけの体格。
風格。
ならばとっくに、人の口に上ってるはずだ」

ラステルが、すっ…と立ち上がると、バルバロッサの前に進み出る。

「彼らは秘境、アースルーリンドからの客人」

バルバロッサはそれを聞いて、改めてオーガスタスを見上げた。

「勇猛果敢な美形だらけの…秘境の国か?
…確かに顔だけ見ると、猛者もさとは言えないかな?」

が、オーガスタスは浅黒い肌で金髪の美丈夫、バルバロッサを見下ろし、首を振る。
「自分のことは、棚上げか?」

バルバロッサは一気に笑った。
「気に入った!
この辺りはまだ、紅蜥蜴ラ・ベッタがそこら中をウロついてる。
王子らが目当てらしいが、俺はちょっと違う」

オーガスタスは森の中に消えて行った方角に、首を振る。
「目当ては、逃げた元国王だろう?」
「まあ、そうだ」

バルバロッサはそう答えた後。
オーガスタスの背後の皆を見回し、笑う。
「…が、これだけ綺麗どころが大勢いるとなれば…。
褒美になるな」

オーガスタスは呆れた。
「綺麗どころだろうが、みんな野郎だぞ?」

バルバロッサも呆れたように、オーガスタスを見上げた。
「あんた、こだわるのか?」
「…俺はこだわる」
「アースルーリンドはいくさの折、男の性処理係を連れてる、と聞いてるが?」

オーガスタスは言い諭すように、バルバロッサに告げた。
「…確かに戦が長引けば、仕方無く世話になる。
が、選べるんなら女がいい」

バルバロッサは、ぽん。とオーガスタスの肩を叩く。
「女の数は少なく、貴重だ。
俺の別邸にもいない。
相手が欲しいんなら、野郎だろうが贅沢言うな。
但し、選ばせてやる」

オーガスタスは呆れながら“付いて来い”と言うように歩き出す、バルバロッサの後を歩きながらぼやいた。
「それはありがたい」

が、バルバロッサはピタ!と歩を止め、振り向く。
「それは俺ですら、嫌味だと分かるぞ?」

オーガスタスは取り合う様子無く、言い返す。
「あんたにも分かるように、嫌味垂れた」

バルバロッサは暫し口を閉じた後。
「それは親切だな?」
と聞く。
オーガスタスは
「…だろう?」
と言い返すので、とうとうバルバロッサは笑い
「あんた、更に気に入ったぞ!」
と、オーガスタスの腕を叩いた。

背後からラステルが
「怪我人がいるんですが」
と言うと、バルバロッサは部下らに首を振る。

エルデリオンは精悍な男らが、気絶するデルデを抱き上げるのを見て、目を見開く。
「そっと…揺らさないように…」
口添えするが、男らは“分かってる”と言うように、アッハバクテスの時とは違い、慎重に運び始めた。

ラステルはそれを見、明るい声で告げる。

「良かった!
怪我人は皆、アッハバクテスのように扱うのかと心配でした!」

ぞろぞろ周囲を取り囲む、バルバロッサの部下らはそれを聞いて笑う。
「アッハバクテスは超・特別待遇だ!」
「あんたらの怪我人は、普通の特別扱い」

エルデリオンはデルデを運ぶ男の横に付いて歩きながら、それを聞いて呆れた。

一行は、やって来たバルバロッサの部下らに丁重に促され、歩き出す。

男らは皆、浅黒い肌でターバンを巻いた、見目の良い精悍な男ばかりだったけれど。
皆には態度を和らげて対応したので、彼らを怖いと思ってたミラーシェンは、心からほっとした。

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