森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

誰にも止められない

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 けれどその後。
オーガスタスの意識の中からなのか、ローフィスか。
ギュンターが少年の頃の話が脳裏に響く。

“…で、叔父と旅の途中、ギュンターははぐれて。
盗賊に掴まって、調教される事になった。
盗賊にさえ
『無表情で、可愛げが無さ過ぎる』
と言われたらしい。
餓鬼の頃の話なのに。
だからせめて
『色っぽくしろ』
と言われ、調教する男のテントに連れ込まれたそうだ。
ギュンターは大人しかったので、縛られてなかった。
そこで…ギュンターは隙見て、逃げ出す気でいた。
が、調教役の熊みたいな大男は、にこにこ笑って
『俺が仕込むと凄くイイんで、みんな尻でするのが好きになる』
と言われ、ギュンターは…されてみようと思ったそうだ”

その時公爵の
“信じられない…”
と呟く声が聞こえた。

次にまた
“…だろう。
で、ギュンターは…”
と話を続ける声で、ギュンターは語り部はローフィスだと判断した。

“…熊みたいな男に押し倒されたが、心は快感の期待でいっぱいだったそうだ。
が、男は事前に飲んだ、くっさい酒の息がして、ギュンターはあまりの臭さに気絶しそうだった。
コトに及ぶ前の、口づけで。
あまりの臭さに耐えきれず、とうとうギュンターは男の…腹かどこかを、思いっきり蹴り倒した。
気づいて、快感の極みに連れて行くと言った男を見たが、熊男は蹴られて気絶。
ギュンターは暫く揺すったが、気づきそうに無く…。
それで仕方無く、テントから逃げだし、無事はぐれた叔父と合流したそうだ。
俺が呆れたのは…。
『あの時、臭い息に耐えて、熊男にホられる極上の快感を味わってたら。
もしかすると、男にホられて喜ぶ体質になってたかもしれん』
とギュンターが、のたまったとこだ。
…つまり今回の、『オーガスタスにホられてもいい』発言も同様。
いざ、やろうと思ったら多分あいつはどこかで蹴り倒すか、拳振り回すかして。
オーガスタスは俊敏なのでそれを避けて戦闘態勢に入り。
多分どころか俺は確実に、二人は殴り合うと思う。
最後はオーガスタスがギュンターを黙らせる。
が、多分オーガスタスはギュンターにソノ気が起きないから、結局それで終わる。
あいつの『してもいい』発言は、やるだけムダ。
実現しない”

ギュンターはその、長々とした話し声にどんどん顔を下げ、その後のみんなの
“ふーん”
とか
“なるほど”
だとか
“じゃあ、言ってるだけなんですな?”
だとかを聞いた後、ミラーシェンを見た。

ミラーシェンは
「あの…けどでも…。
されたコト、あるって…言ってました…よね?」
と聞くので、ギュンターは頷いた。
「10にもならない餓鬼の頃に。
そこそこ上手い相手にされた筈なんだが…」
「無理矢理?」
「…口説かれて」
「…でも…挿入された?」
ギュンターは頷く。
「…嫌…だった?」
「いや?
こんなもんか。
位の感想だった」
「……………………………」

ミラーシェンが顔を下げるので、ギュンターはもっと言った。
「その後、あんまり良くなかったので、別の相手に口説かれてシてみたが…」
ミラーシェンは、顔を上げる。
「前戯が長いので、イラついて。
気づいたら押し倒して、俺が、挿入してた」

ミラーシェンがずーーーっとギュンターの顔を、呆けて見続けるので。
ギュンターは言った。
「…しようと思って挿入してない。
無意識だ。
だから俺は、その熊男の“快感の極みに連れてってやる”に、凄く期待したんだ。
臭さに耐えきれずに蹴り倒した後。
本気で後悔し、揺すりまくったが起きなかった。
俺が、どれだけがっかりしたか、想像付かないだろう?」

そう言われてギュンターに悲しげに見つめ返され、とうとうミラーシェンは、ぷっ…と吹き出し、その後肩を揺らして笑い始めた。

脳裏に、それが見えたらしいエディエルゼの感極まった笑顔が浮かび上がり、ギュンターは複雑だった。

ラウールにまで
“ミラーシェンが笑うの、初めて見た”
と言われ、とうとう
“いい加減にしろ、シュアン!”
と脳裏に怒鳴った。

けどシュアンは
“…僕も意識してしてない。
気づいたら…してた”
と言い返され、ギュンターは煮詰まりまくり、見えて聞こえてた全員は、こっそり笑いこけた。

エディエルゼだけが
“ギュンター殿!
感謝致します!!!”
と感極まって叫び、ギュンターは
“そこで感謝されてもな…”
と、心で思っただけなのに心話として皆の脳裏に響き、目前で可愛らしく笑い続ける綺麗なミラーシェンを、ため息交じりに見つめた。

続いてエウロペの
“レジィ…そんなに笑うと、失礼ですよ?”
と言う呟きが聞こえ、レジィの
“だっ…。
普通、嫌なはずなのに…。
シたかったのに、蹴っちゃったの?
ぷっ…”
と笑い続ける声。

デルデロッテの
“エルデリオン…笑うとこですか?
志願したの、貴方もギュンター殿と同様でしょう?”
と聞かれ、エルデリオンの
“私の相手は、エウロペ殿で良かった…”
と笑い混じりの声が聞こえた。

途端公爵の
“どこが良かったんです!
喉から手が出るほど欲しがってる私がここにいるのに!!!”
の怒鳴り声の後
“いい加減にしてくれ…。
ホントに、敵が迫ってるのに…”
と、デュバッセン大公のくたびれきった声が響く。

ラステルが
“どうしてシュアン、夕食に来なかったのにこんなに元気なんです?”
と尋ねる声の後。

ラフィーレの
“夕食時、僕ら疲れて寝ちゃって。
神聖騎士の皆さんが、光を送って包んでくれて。
少し寝たら凄く元気になって、部屋でご飯食べた後だから”
と説明が聞こえ、全員がため息吐く。

“つまり…シュアンが元気なウチは、この全員繋がる心話状態が、続くのか?”
オーガスタスがそうぼやくと、エドウィンが
“ダンザイン様に何とかして貰おうと思ったんですけど。
神聖騎士の皆さん、今大物の『影』が出たので、取り込み中で”
と説明する。

とうとうローフィスが
“神聖神殿隊騎士は?!
奴らだってシュアンよりは、能力高いだろう?!”
と怒鳴った。

けどラフィーレが
“神聖騎士の皆さんよりも、先に頼んでみたけど。
みんな
『そんな面白いこと、どうして止めなきゃいけないんだ?』
って言って笑いこけてて…誰も、どうもしてくれない』
と呟き、ローフィスは更に大声で怒鳴った。

“あいつら、ほんっといい加減でフザけ過ぎ!!!”

皆、脳に響いてるその大声に、ムダなのに習慣で、耳に手を当てた。

けど皆の馴染みの銀髪の神聖神殿隊騎士が、囁く。
“悪いなローフィス。
最初依頼された時から、神聖神殿隊騎士全員に心話がツーカーになり、全て見えて聞こえてて。
皆、笑いまくって笑いすぎて、誰も能力使えない不能状態になってる。
これはこれで、隊務が出来なくて困るんだが”

と逆に文句言われ、とうとう神聖神殿隊騎士の長、アースラフテスの一際雄々しい声が響き渡った。

“シュアンは能力の使い始めで、そういう輩は往々にして力の加減を知らないから暴走しがちで、我々でもお手上げだ。
神聖神殿隊騎士にさせると、強引に“気”で殴って気絶させる。
ぐらい荒っぽくなるから。
子供に流石にそれは、出来ない。
諦めてくれ”

聞こえた途端、デュバッセン大公の深いため息が聞こえ、ラステルが
“私も手伝うから”
と慰める声が響いた。

ギュンターはそれ以上しようにもミラーシェンが笑い続け、デルデロッテですらエルデリオンが楽しげに笑うので、文句も付けられず。

皆、ぎこちなく過ごす中、ロットバルトの
“…全部人に知られるとなると、落ち着きませんな…”
の呟きに、一斉に同意の、ため息を吐いた。
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