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ゾーデドーロ(東の最果て)
捕らえられたエルデリオンとレジィリアンス
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エルデリオンが目を覚ました時。
そこは石の床の上で、とても暗く感じた。
手を付いて身を起こす。
が、くらくらと目眩がした。
必死で首を横に振り、レジィの姿を探す。
けれど仰向けに気絶してるレジィの上に、金に光る少年の姿。
彼は、泣いていた。
“ここじゃない…。
でも、もう僕…運べない…”
エルデリオンが金の光に包まれた、少年を見つめる。
「じゃ…どこにいる?」
少年は一生懸命、上を見る。
エルデリオンは暗い石の天井を見つめた。
けれど金の薄い光に包まれた少年は、首を横に振る。
“ちがう…。
もっと、上…”
少年はそう言った後。
ふうっ…と金の光ごと、突然姿を消す。
その時、扉の向こうの、廊下らしき場所で人が行き交う足音がした。
酷く慌てた靴音で、廊下の先の階段を駆け上がるらしき足音。
降りて来る足音。
そして咆吼が石の壁に響き渡る。
「絶対、死なすな!」
が、薬師らしき男の、おどおどとした返答。
「…無理…です。
普通の人じゃない。
どこにも怪我してない上…なぜこんなに弱ったのか。
それすら、分からない…。
どう手当てすればいいのか、全くお手上げなんです。
…ぶったり叩いたりは、してないんですよね?」
「ちゃんと見たのか?!
どこにも痣は無いし、頭もぶつけていない!」
エルデリオンはその声で。
少年は階上にいて、今、大変弱ってるのだと理解した。
が、室内は暗く、風が吹き込んで来る。
目が慣れて、窓を探し、近寄って外を見た時。
エルデリオンは月明かりに照らされたその景色を見て、愕然とした。
窓の下は絶壁。
地上は遙か下。
上と下も見たが、どうやら絶壁をくり抜かれて作られた部屋の一室。
上にも下にも窓らしきものが見え、上の窓から明かりが漏れていた。
「(…まさか…ファントール大公の城に続く…絶壁の中?!
城からすれば…ここは地下室なのか?!)」
窓にガラスは無く、冷たい風が、遙か下の渓谷から吹き上がって来る。
薄着だったエルデリオンは、ぶるっ!と身を震わせ、腰を探る。
…たった一つの武器、短剣が無くなっていた。
床に仰向けで目を閉じてる、レジィリアンスに屈み込む。
「…レジィ…レジィリアンス?」
けれど目を覚まさない。
肩に手を置き、揺すってみると…レジィはゆっくり、瞳を開ける。
けれどその瞳は、緑色に光っていた。
“僕…目が開かない”
「…君はレジィじゃないだろう?」
直感で、瞳を光らせているのは例の不思議な少年だと感じ、エルデリオンはそう尋ねる。
“でも僕…なの“
けれど廊下では、叫び声が聞こえる。
全て石作りなので、響き渡って筒抜け。
「…息をしてない?!
死んだのか?!!!!」
エルデリオンは彼の本体が死んで…魂だけ抜け出し、レジィの中に居るのでは無いか?
といぶかった。
間もなく、扉が開く。
ランプを持った男は室内に入ると、横に避け、後から来る人物を通す。
エルデリオンはその顔に見覚えがあり、目を見開いた。
“ファントール大公嫡子、シャルレ・ドゼル!!!”
父王と同様の明るい栗毛、そして青の瞳。
父も祖父似だった。
が、彼も祖父に似ていた。
確かに面立ちは似ていて、顔立ちは整っていたけれど…。
肖像画の祖父や父王と違い気品は無く、どこか下卑て見えた。
シャルレ・ドゼルは喰い入るように自分を見つめるエルデリオンを見、笑った。
「…覚えていたか。
王城で贅沢三昧できたはずなのに。
父は毒婦の祖母に似たばっかりに、王位に就けずこの有様!
だが君が消えれば。
私が王位を継げる。
父は大勢に次期国王にと、持ち上げられているにも関わらず。
王位に…まるで興味が無い。
…つまり、私だ。
お前が消えた後、王位を継げるのは!」
エルデリオンはそう継げる従兄の、悪意に歪んだ顔を睨めつけた。
が、背後から銀髪巻き毛の、素晴らしい美青年が姿を現す。
「けれどファントール大公が執着してる…貴方の切り札の美少年は、息も絶え絶え。
かろうじて微かな息があるだけで…死人同様。
彼を差し出し、ようやく認められた貴方の地位も、今は危ない」
銀髪の美青年の冷静な声に、シャルレ・ドゼルは振り向き様歯を剥く。
「だからさっさと!
父を毒殺すれば良いんだ!
あんな腐れ男が死ねば、胸が空く!」
エルデリオンは実の父を毒殺するとのたまう従兄を、まじまじと見た。
が、銀髪の美青年は冷静な声で告げる。
「ファントール大公が死ねば、この辺りで一番の実力者、貴方の叔父のドッテール大公が喜び勇んで反対勢力を束ね、ドッテールがその頂点に立ちます。
ファントール大公があってこそ、貴方はかろうじて存在を認められてる有様。
だが父大公が死ねば。
一体誰が、貴方を支持します?
…せいぜいが、ドッテール大公の傀儡。
彼の言うなりにならなければ、それこそ薬を盛られ、生きた屍。
人形として利用されるだけ。
…日頃ドッテール大公を見下し、彼を敵に回したりするから。
ファントール大公が亡くなれば、大喜びでドッテールは貴方を拉致し、薬漬けにして言いなりにさせる。
そこを、分かってますか?」
シャルレ・ドゼルはそれを聞くなり、いらいらと爪を噛む。
「…紅蜥蜴はどう言ってる?
私よりドッテール大公に就くと?」
銀髪の美青年は冷徹なブルー・グレーの瞳を、シャルレ・ドゼルに投げる。
「紅蜥蜴はファントール大公と蜜月。
ファントール大公亡き後は多分、大公の財産を継ぐ貴方の祖母につくでしょう。
毒殺するなら、まず祖母殿になさい」
エルデリオンは呆れた。
“この連中は、身内を毒殺する事しか頭に無いのか?”
銀髪の青年は床に倒れてるレジィリアンスを見、告げる。
「それより貴方が差し出した、大公の大のお気に入りが…死にかけてる。
かろうじて息はしてるだけの、死人同然。
折角存在すら忘れていた貴方に、父大公が注目したのも。
あのお気に入りを、貴方が差し出したお陰。
こうして見ると、シュテフザインの王子は良く似ている。
この王子を身代わりに差し出すしか、無いでしょう」
その時、シャルレ・ドゼルはとうとうキレ、背後の銀髪の美青年の襟首掴み、怒鳴りつけた。
「父の愛玩だったお前を!
父に飽きられたお前を!
誰が引き取ったと思う?!!!!」
だが美青年は、顔色も変えず言い放つ。
「…だからこそ、貴方に失脚して欲しくない。
…薬漬けの生きた屍…。
廃人になんて、なって欲しく無い」
シャルレ・ドゼルは銀髪の美青年を、暫く睨み付けていたけれど。
襟首から、手を放す。
銀髪の美青年は、背を向けるシャルレ・ドゼルに背後から囁く。
「それより、護衛を夫に迎えるからと…。
婚儀の招待状を寄越したエルデリオンが、そこに居る…。
貴方はファントール大公と違って青年が好み…。
きっと宮廷一の垂らし、デルデロッテにうんと可愛がられてるから…とても、楽しめます」
エルデリオンはそう囁く、銀髪の美青年を激しく睨んだ。
が、シャルレ・ドゼルはその言葉が、気に入ったように頬を紅潮させた。
「…うんと…辱めて楽しめるな…。
シュテフザインの王子は、死人同然のシャーレの代わりに、父に差し出そう…」
シャルレ・ドゼルはエルデリオンを見つめて告げる。
「…暫く経てばお前は私の犬。
夫となるデルデロッテの事など忘れ…私に与えられる快楽を、ただひたすら待つ犬になる。
そうだな。
私が王位を継ぐ暁には、お前に首輪を付け。
私の愛玩犬として紐を引き、王城中を歩こうか」
エルデリオンは今度、シャルレ・ドゼルを睨み付ける。
シャルレ・ドゼルがエルデリオンの痴態を想像し、うっとりした表情で近寄って来た時。
エルデリオンは咄嗟立ち上がり、シャルレ・ドゼルの腕を引いて身を回し、背後から腕を喉に当て、首を絞め上げる。
もう片手でシャルレ・ドゼルの腰に下がる剣の柄を握り、剣を抜く。
「…出口に案内しろ!」
が、銀髪の美青年の声が響く。
「これでも抵抗します?」
エルデリオンが声の方に振り向いた時。
銀髪の美青年はいつの間にかレジィリアンスに屈み、ほっそりしたレジィの首に短剣の刃を当て、エルデリオンに振り向き微笑む。
「…彼を殺されたくなければ、剣を捨てシャルレを放して」
エルデリオンは尚もシャルレ・ドゼルの首を腕で絞め上げ、怒鳴った。
「レジィリアンスを、殺せないはずだ!
ファントール大公、お気に入りにそっくりのレジィリアンスを殺せば!
大公はシャルレ・ドゼルに興味を無くし、お前達は後ろ盾を無くすんだろう?!」
けれど銀髪の美青年は微笑んだ。
「…だがエルデリオン王子、お前を紅蜥蜴に差し出せば。
紅蜥蜴はファントール大公を捨て、こちらにつく」
一旦言葉を句切ると、銀髪の美青年は今度、迫力ある声で説得にかかった。
「悪い事は言わない。剣を捨てろ!
レジィリアンスを殺させるな!
…レジィリアンスが死ねば。
我々はファントール大公の不興を買い失脚し。
否応なしにお前を、紅蜥蜴に売るしか無くなる。
紅蜥蜴に引き渡されれば、お前は毎晩、大勢の身分高い変態じじいにケツを掘られる羽目になる。
うんと惨めに辱められてな!
シャルレ・ドゼル一人にされる方が、うんとマシだぞ?」
エルデリオンは激しく銀髪の美青年を睨んだ。
が、レジィリアンスの首に押しつけられた刃は肌に喰い込み、血が一筋滴るのを見て。
とうとうエルデリオンはシャルレ・ドゼルを放し、剣を床に放った。
そこは石の床の上で、とても暗く感じた。
手を付いて身を起こす。
が、くらくらと目眩がした。
必死で首を横に振り、レジィの姿を探す。
けれど仰向けに気絶してるレジィの上に、金に光る少年の姿。
彼は、泣いていた。
“ここじゃない…。
でも、もう僕…運べない…”
エルデリオンが金の光に包まれた、少年を見つめる。
「じゃ…どこにいる?」
少年は一生懸命、上を見る。
エルデリオンは暗い石の天井を見つめた。
けれど金の薄い光に包まれた少年は、首を横に振る。
“ちがう…。
もっと、上…”
少年はそう言った後。
ふうっ…と金の光ごと、突然姿を消す。
その時、扉の向こうの、廊下らしき場所で人が行き交う足音がした。
酷く慌てた靴音で、廊下の先の階段を駆け上がるらしき足音。
降りて来る足音。
そして咆吼が石の壁に響き渡る。
「絶対、死なすな!」
が、薬師らしき男の、おどおどとした返答。
「…無理…です。
普通の人じゃない。
どこにも怪我してない上…なぜこんなに弱ったのか。
それすら、分からない…。
どう手当てすればいいのか、全くお手上げなんです。
…ぶったり叩いたりは、してないんですよね?」
「ちゃんと見たのか?!
どこにも痣は無いし、頭もぶつけていない!」
エルデリオンはその声で。
少年は階上にいて、今、大変弱ってるのだと理解した。
が、室内は暗く、風が吹き込んで来る。
目が慣れて、窓を探し、近寄って外を見た時。
エルデリオンは月明かりに照らされたその景色を見て、愕然とした。
窓の下は絶壁。
地上は遙か下。
上と下も見たが、どうやら絶壁をくり抜かれて作られた部屋の一室。
上にも下にも窓らしきものが見え、上の窓から明かりが漏れていた。
「(…まさか…ファントール大公の城に続く…絶壁の中?!
城からすれば…ここは地下室なのか?!)」
窓にガラスは無く、冷たい風が、遙か下の渓谷から吹き上がって来る。
薄着だったエルデリオンは、ぶるっ!と身を震わせ、腰を探る。
…たった一つの武器、短剣が無くなっていた。
床に仰向けで目を閉じてる、レジィリアンスに屈み込む。
「…レジィ…レジィリアンス?」
けれど目を覚まさない。
肩に手を置き、揺すってみると…レジィはゆっくり、瞳を開ける。
けれどその瞳は、緑色に光っていた。
“僕…目が開かない”
「…君はレジィじゃないだろう?」
直感で、瞳を光らせているのは例の不思議な少年だと感じ、エルデリオンはそう尋ねる。
“でも僕…なの“
けれど廊下では、叫び声が聞こえる。
全て石作りなので、響き渡って筒抜け。
「…息をしてない?!
死んだのか?!!!!」
エルデリオンは彼の本体が死んで…魂だけ抜け出し、レジィの中に居るのでは無いか?
といぶかった。
間もなく、扉が開く。
ランプを持った男は室内に入ると、横に避け、後から来る人物を通す。
エルデリオンはその顔に見覚えがあり、目を見開いた。
“ファントール大公嫡子、シャルレ・ドゼル!!!”
父王と同様の明るい栗毛、そして青の瞳。
父も祖父似だった。
が、彼も祖父に似ていた。
確かに面立ちは似ていて、顔立ちは整っていたけれど…。
肖像画の祖父や父王と違い気品は無く、どこか下卑て見えた。
シャルレ・ドゼルは喰い入るように自分を見つめるエルデリオンを見、笑った。
「…覚えていたか。
王城で贅沢三昧できたはずなのに。
父は毒婦の祖母に似たばっかりに、王位に就けずこの有様!
だが君が消えれば。
私が王位を継げる。
父は大勢に次期国王にと、持ち上げられているにも関わらず。
王位に…まるで興味が無い。
…つまり、私だ。
お前が消えた後、王位を継げるのは!」
エルデリオンはそう継げる従兄の、悪意に歪んだ顔を睨めつけた。
が、背後から銀髪巻き毛の、素晴らしい美青年が姿を現す。
「けれどファントール大公が執着してる…貴方の切り札の美少年は、息も絶え絶え。
かろうじて微かな息があるだけで…死人同様。
彼を差し出し、ようやく認められた貴方の地位も、今は危ない」
銀髪の美青年の冷静な声に、シャルレ・ドゼルは振り向き様歯を剥く。
「だからさっさと!
父を毒殺すれば良いんだ!
あんな腐れ男が死ねば、胸が空く!」
エルデリオンは実の父を毒殺するとのたまう従兄を、まじまじと見た。
が、銀髪の美青年は冷静な声で告げる。
「ファントール大公が死ねば、この辺りで一番の実力者、貴方の叔父のドッテール大公が喜び勇んで反対勢力を束ね、ドッテールがその頂点に立ちます。
ファントール大公があってこそ、貴方はかろうじて存在を認められてる有様。
だが父大公が死ねば。
一体誰が、貴方を支持します?
…せいぜいが、ドッテール大公の傀儡。
彼の言うなりにならなければ、それこそ薬を盛られ、生きた屍。
人形として利用されるだけ。
…日頃ドッテール大公を見下し、彼を敵に回したりするから。
ファントール大公が亡くなれば、大喜びでドッテールは貴方を拉致し、薬漬けにして言いなりにさせる。
そこを、分かってますか?」
シャルレ・ドゼルはそれを聞くなり、いらいらと爪を噛む。
「…紅蜥蜴はどう言ってる?
私よりドッテール大公に就くと?」
銀髪の美青年は冷徹なブルー・グレーの瞳を、シャルレ・ドゼルに投げる。
「紅蜥蜴はファントール大公と蜜月。
ファントール大公亡き後は多分、大公の財産を継ぐ貴方の祖母につくでしょう。
毒殺するなら、まず祖母殿になさい」
エルデリオンは呆れた。
“この連中は、身内を毒殺する事しか頭に無いのか?”
銀髪の青年は床に倒れてるレジィリアンスを見、告げる。
「それより貴方が差し出した、大公の大のお気に入りが…死にかけてる。
かろうじて息はしてるだけの、死人同然。
折角存在すら忘れていた貴方に、父大公が注目したのも。
あのお気に入りを、貴方が差し出したお陰。
こうして見ると、シュテフザインの王子は良く似ている。
この王子を身代わりに差し出すしか、無いでしょう」
その時、シャルレ・ドゼルはとうとうキレ、背後の銀髪の美青年の襟首掴み、怒鳴りつけた。
「父の愛玩だったお前を!
父に飽きられたお前を!
誰が引き取ったと思う?!!!!」
だが美青年は、顔色も変えず言い放つ。
「…だからこそ、貴方に失脚して欲しくない。
…薬漬けの生きた屍…。
廃人になんて、なって欲しく無い」
シャルレ・ドゼルは銀髪の美青年を、暫く睨み付けていたけれど。
襟首から、手を放す。
銀髪の美青年は、背を向けるシャルレ・ドゼルに背後から囁く。
「それより、護衛を夫に迎えるからと…。
婚儀の招待状を寄越したエルデリオンが、そこに居る…。
貴方はファントール大公と違って青年が好み…。
きっと宮廷一の垂らし、デルデロッテにうんと可愛がられてるから…とても、楽しめます」
エルデリオンはそう囁く、銀髪の美青年を激しく睨んだ。
が、シャルレ・ドゼルはその言葉が、気に入ったように頬を紅潮させた。
「…うんと…辱めて楽しめるな…。
シュテフザインの王子は、死人同然のシャーレの代わりに、父に差し出そう…」
シャルレ・ドゼルはエルデリオンを見つめて告げる。
「…暫く経てばお前は私の犬。
夫となるデルデロッテの事など忘れ…私に与えられる快楽を、ただひたすら待つ犬になる。
そうだな。
私が王位を継ぐ暁には、お前に首輪を付け。
私の愛玩犬として紐を引き、王城中を歩こうか」
エルデリオンは今度、シャルレ・ドゼルを睨み付ける。
シャルレ・ドゼルがエルデリオンの痴態を想像し、うっとりした表情で近寄って来た時。
エルデリオンは咄嗟立ち上がり、シャルレ・ドゼルの腕を引いて身を回し、背後から腕を喉に当て、首を絞め上げる。
もう片手でシャルレ・ドゼルの腰に下がる剣の柄を握り、剣を抜く。
「…出口に案内しろ!」
が、銀髪の美青年の声が響く。
「これでも抵抗します?」
エルデリオンが声の方に振り向いた時。
銀髪の美青年はいつの間にかレジィリアンスに屈み、ほっそりしたレジィの首に短剣の刃を当て、エルデリオンに振り向き微笑む。
「…彼を殺されたくなければ、剣を捨てシャルレを放して」
エルデリオンは尚もシャルレ・ドゼルの首を腕で絞め上げ、怒鳴った。
「レジィリアンスを、殺せないはずだ!
ファントール大公、お気に入りにそっくりのレジィリアンスを殺せば!
大公はシャルレ・ドゼルに興味を無くし、お前達は後ろ盾を無くすんだろう?!」
けれど銀髪の美青年は微笑んだ。
「…だがエルデリオン王子、お前を紅蜥蜴に差し出せば。
紅蜥蜴はファントール大公を捨て、こちらにつく」
一旦言葉を句切ると、銀髪の美青年は今度、迫力ある声で説得にかかった。
「悪い事は言わない。剣を捨てろ!
レジィリアンスを殺させるな!
…レジィリアンスが死ねば。
我々はファントール大公の不興を買い失脚し。
否応なしにお前を、紅蜥蜴に売るしか無くなる。
紅蜥蜴に引き渡されれば、お前は毎晩、大勢の身分高い変態じじいにケツを掘られる羽目になる。
うんと惨めに辱められてな!
シャルレ・ドゼル一人にされる方が、うんとマシだぞ?」
エルデリオンは激しく銀髪の美青年を睨んだ。
が、レジィリアンスの首に押しつけられた刃は肌に喰い込み、血が一筋滴るのを見て。
とうとうエルデリオンはシャルレ・ドゼルを放し、剣を床に放った。
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