森と花の国の王子

あーす。

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エルデリオンの幸福な始まり

秘境からの訪問者

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 ようやくここで、ラステルが口開く。
「要するに今現在緊急にすべきことは。
ファントール大公の城の探索。
そしてシャロナス公国シャロナス公の国の王子とエシェフガラン雪の勇者の国の王子の救出」

レクトール男爵、アッカマン侯爵、デュバッセン大公が、しっかりと頷く。
レクトール男爵が
シャロナス公国シャロナス公の国王子が見つかり次第、政権を握れるよう情報を集めまくります」
と告げると。
アッカマン侯爵も
「王城周辺より完璧に紅蜥蜴ラ・ベッタを追い出し。
助け出された子供達の身元確認をし、親元に戻す努力を続けます」
と言う。
デュバッセン大公は、エウロペを真っ直ぐ見た。

エウロペは囁く。
「言ったように私は…」
レジィはエウロペを見、言おうとして言い淀み…。
けれど俯いて、囁いた。
「…行ってあげて…」

エウロペは驚いてレジィリアンスを見る。
レジィは泣きそうな顔をエウロペに向けて告げた。
「だってエシェフガラン雪の勇者の国の王子は私より年下の13才…。
きっと…とても不安で怖い思いをしてる…」

エウロペは言い放つ。
エシェフガラン雪の勇者の国の国の男は我が国以上に、男は勇猛果敢である事が要求される!
確かに我が国同様、男を恋人にする習慣も発想も無い、誇り高い戦士ばかり!
が、第一王子が救出に向かっているのならば!
彼と接触を持ち、私を担ぎ出さなくとも、ラステル。
貴方の部下が、手助けされればよい話!」

エルデリオンが俯く。
「…つまり王子を運ぶ特殊なルートがあり…。
そのルートが判明しないことが問題?」

ロットバルトは囁く。
「この王国内ですら。
レジィ殿が連れ去られた時、とんでもないからくりだらけでエウロペ殿が居なければ、どこかで見失っていた」

デュバッセン大公も、ため息吐いて背を背もたれに倒し、足組んで言い放つ。
「ファントール大公の城はそれの比では無い。
地の利を得、とんでもない所に進入口がある。
言ったように一番いいのは囮を使うこと。
…出来ればレジィ殿の影武者を立て、その者を代わりに誘拐させて…」

その時、玄関にラステル配下がやって来て、室内に入るとラステルに告げる。
「遠方、アースルーリンドからいらした方が、どうしてもラステル様にお会いしたいと」

ラステルが、隙間無くテーブル周りに人が居るのを見、暫し沈黙した後。
「通して」
と告げる。
配下は一礼すると、玄関に取って戻った。

ロットバルトが椅子を立ち、その後ろに別の椅子を持って来るのを見て。
テリュスも席を立ち、エリューンも腰を浮かす。

玄関から入って来た配下は
「二名です!」
と叫び、二人の美青年を通した。

皆、“美形と宝石の宝庫”と呼ばれる秘境から来た青年二人を、興味津々で見つめる。
二人ともデルデ程じゃ無かったけど背が高く、一人は腰まである長い栗毛でヘイゼルの瞳。
卵形の輪郭。
鼻筋も通り、少し童顔に見えるものの、凜とした表情で堂とした態度の、整いきった美青年。
もう一人は、やはり腰近くまである明るい真っ直ぐの栗毛、グレーの瞳。
どちらかと言うと、優しげな美青年に見えた。

二人はキョロ。
とテーブルの面々を見回し、配下に
「ラステル様でございます」
と紹介され、ラステルが振り向くと、目を見開いた。

濃い栗毛でヘイゼルの瞳の、堂とした態度の美青年が口開く。
「…ああ失礼。
もっとゴツいタイプを思い浮かべたので。
我々は近衛軍辺境探査担当、スフォルツァ。
こちらがラフォーレン。
左将軍うち部隊に所属している」

皆が“化け物の出る秘境の国”の割りに、しっかりした肩書きがあるので、びっくりした。
が、ラステルはめげずに立ち上がると、爽やかそのものの笑顔で握手し
「こちらに」
とロットバルトとテリュスが空けた席を手で指し示す。

スフォルツァもラフォーレンも、背後の椅子に腰掛けるロットバルトとテリュスに気づき、会釈して椅子に腰掛ける。

「…そちらも、どなたか身分高いお方が誘拐されたのか?」
エルデリオンの問いに、ラステルはにこやかに二人に紹介する。
オーデ・フォール中央王国王子、エルデリオン殿です」

二人は“王子”と聞き、顔を見合わせ、スフォルツァが頭を下げ
「略礼で失礼致します。
ご尊顔、拝見出来て大変光栄です」
と礼儀正しく告げるので、またまた皆が“化け物の出る秘境の国”の軍人騎士の、その態度に感心した。

スフォルツァが王子に返答する。
「ご質問の答えですが。
身分も確かに高い者ですが…。
その、説明が少し難しい。
我が国は『影の民』と呼ばれる異形が出る」

皆が“化け物の事か”と納得する。

「が、元はと言えば、我が国と繋がってる異境の地、『光の国』より追放された者達。
彼らは『光の国』より追放されると、その…我々からしたら驚異的な…能力が、使えなくなる。
それで人を苦しめる事で力を得て能力を使うため、異形となり果てた。
『光の民』はその責任を取って我が国に降り立ち、異形の者を別次元に封印。
その封印を維持させるため、『光の王』が降臨され、異形から我々を守って頂いている。
さらわれたのは、その『光の王』の血を引く者。
大抵彼らは能力を維持するため、結界の張られた彼ら独自の住まいから、出ては来ません。
が…たまに人間と交わって出来た子供がいて、母親が人間だったりすると…。
能力が突出していればいいが、人間に近いとその行方は、なかなか見つけにくく…。
けれど能力者の血を引いていると、普通の人間…と言う訳にはいきません」

デルデが興味引かれて尋ねる。
「その能力って、具体的に言うと?」

スフォルツァは整いきった顔を上げて答える。
「空間から突如湧いて出る。
瞬間移動も出来、人によっては炎を出したり電撃で攻撃出来たり。
人の心を読んだり、遠方を見通せたり」

デルデはもう十分だ。
と言うように、頷いた。

「『光の王』の血を引く者で母親が美人なら。
大変な美形。
それで目をつけられたのだと思います。
問題はさらわれた者が、『光の蝶』の血を継いでいると言う事。
『光の民』は彼らの国、以外では。
自分が纏ってる光の力を使い果たすと、人間同様無能力になる。
ですから普段は光の結界内にいます。
が、『光の民』の古代種、『光の蝶』だけは…。
使える能力は小さいですが、この地でも能力が使える。
だが人間の母親に育てられてるので、能力の制御も使い方もが。
分かっていなくて、暴走するととんでもないことが…起こり得る。
それで早急に保護せよと。
厳命が下りました。
現在は人間である我ら二人ですが。
その方面に詳しい者と『光の蝶』の血を引く者が、こちらに向かっています」

ラステルは囁く。
「アッカマン侯爵に既に。
救出した者達との、面会は済んでると報告頂いたが」

スフォルツァは頷く。
「残念ながら、その中にはおりませんでした。
国の遠見の能力のある者に、伝えられましたところ。
この国の東の果てに、囚われていると」

全員が一斉に、ため息を吐いた。

が、エウロペだけは明るい緑の瞳を向ける。
「…つまり、能力者の手助けが得られる?」

スフォルツァが顔を上げる。
「ここに来られる『光の蝶』の者は、力は使えるが小さい。
光のルートを作らなければ、神聖騎士らは来られない。
…ああ失礼。
神聖騎士とは『光の王』と人間の混血の、最強の能力者達のことです」

ラフォーレンが初めて口を開く。
「けれど彼らが力を使う時…大量の光が必要。
この地に来られたとしても…一瞬しか使えないし、消耗が激しいので…入れ替わりに来て頂いたとしても…多くて五人。
つまり五回、ピンチの時、助けて貰えるが…。
それも光のルートがしっかりしてる場合。
途切れたりすると…彼らは来られません」

デルデがまた、聞いた。
「その光のルートって、目で見える?」

スフォルツァもラフォーレンも、首を横に振る。
スフォルツァが口開く。
「我ら人間には、無理ですね。
『光の民』にはハッキリ見えていますが」

デルデは“やっぱり…”と首下げる。

エウロペが顔を上げる。
「では我々の利害は一致してる。
おそらく王子らが囚われているであろう、ファントール大公の城の探索。
そして王子らと『光の蝶』と呼ばれる少年の救出」

デュバッセン大公は笑顔でエウロペを見る。
「御力を、貸して頂けそう?」

レジィにも見つめられた。
が、エウロペは顔を下げた。
「…だがどうしても…王子の側を離れるのは、気が進まない」

その時、レジィはとんでも無い事を言い出した。
「じゃ、僕もエウロペと行く」

エルデリオンが咄嗟、叫ぶ。
「貴方はダメだ!
貴方がさらわれてる間。
いったいどれだけの者が心配したことか!」

「でも囮じゃなければ…」

尚も言うレジィの言葉を聞き、テリュスもエリューンもため息を吐き、エウロペが優しくレジィに振り向く。
「貴方をお守りしながら、探索は出来ません」

エルデリオンが言い放つ。
「では我らが貴方をお守り致します」

今度はラステルが。
大きなため息を吐いた。
「分かってるんですか?
貴方が囚われたりしたら。
紅蜥蜴ラ・ベッタはこの大陸を征服したも同然」

けれどエルデリオンは言い張った。
「行かせてくれ!!!」

ロットバルト、レクトール男爵、アッカマン侯爵まで顔を下げ、デュバッセン大公は肩を竦める中。

ラステルは言い放った。
「ではその前に、デルデとの婚礼を。
奴らに王子の守り刀が夫として常に控えてると。
表明してからです!」

デルデはそれを聞くなり
「(暗にラステルは、今夜寝台でエルデリオンを蕩かせ、東行きを撤回させろと私に命令してるな…)」
と顔下げた。
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