森と花の国の王子

あーす。

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エルデリオンの幸福な始まり

エドリンド卿との会見

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 間もなく、ドナルドン公爵はひげ面の男が、暖炉に何か投げ入れるのを見る。

赤紫色の炎が上がり始める。
ドナルドン公爵はそれが煙の合図だと、直ぐ察した。

エウロペはまだ、明るい栗毛の髭の渋い男と、話し込んでる。
身長は同じ位だったが、体格は髭の男の方ががっしりし、エウロペの腰は細く見えた。
が、エウロペの態度や雰囲気は、少しも引けを取らないほど迫力があった。

ふと見ると、テリュスが腕を組み、目を閉じ寝てるので。
ドナルドン公爵もそれに習って、目を閉じ休憩を取った。

間もなく騒がしくなって、目を覚ます。
扉を開けて入って来た男は、肩までの白髪。
がっしりした肩。
体格のたいそう良い…けれど白い口髭を生やした、老年に見えた。
が、放つオーラは半端無く、他の者を圧倒している。

熊のような男らは恐縮し、三人の顔付きの引き締まった体格良い男らが、白髭の男の背後から続く。

白髪の男は威風すら放ち、裏が毛皮のコートを翻してエウロペに真っ直ぐ、笑顔で歩み寄る。
両手を広げ、がっし!と抱きついた。
エウロペも同様、しっか!と腕を背に回し、抱擁する。

テリュスも目を開け、その光景を見つめていた。
ドナルドン公爵は、内心囁く。
「(エウロペの祖父、エドリンド卿か…?!)」

エウロペは白髪の男を伴って、自分に近寄って来るのを見、ドナルドン公爵は確信した。

「ドナルドン公爵、我が祖父の…」
ガタ!
「エドリンド卿…!
お会いできて感激です!」

立ち上がり様手を差し出す公爵の手を、エドリンド卿は、がっ!と握り込む。
エウロペと良く似た面差し。
が、もっとどっしりし、顔は四角に近く、肩幅も広かった。

広い額。白い眉。深い青の瞳。
鼻髭と顎髭を生やしていたが、どちらも真っ白。
崇高とすら思える面立ちで、一角ひとかどの人物である事は、誰の目にも明らか。

「…我が王子をお国で女のように、なぶってくれたそうだな?!」

第一声を笑顔で言われ、ドナルドン公爵は一瞬、言い淀んだ。
が、茶色の瞳の、真っ直ぐな眼差まなざしを向け、はっきりした声で告げる。

「大変申し訳ないことをしたと。
我が国王、王妃より言付かっております。
また、我が国で王子誘拐の首謀組織、紅蜥蜴ラ・ベッタ関係者の一斉検挙の為…。
勢力を削がれた奴らは、この国に入り込もうとやっきになってる。
その責任をぜひ。
私に取らせて頂きたい」

エドリンド卿は、じっ…とドナルドン公爵を見、呟く。
「君のボスを一度寄越せ。
もう道案内は出来るだろう?」

ドナルドン公爵は即答しようとし…けれど、どもった。
「で…あ…も、勿論です」

どっっっ!!!

室内の皆は突然笑い出す。

ドナルドン公爵がきょろきょろ、笑う皆を見回す。
テリュスが斜め後ろで、ぼそり。と言った。

「…俺が付き添う」

エドリンド卿はその返答に、笑顔を浮かべて大いに頷き、今度はテリュスに振り向く。
「相変わらず、細っこいな!
髭が無いと、まるっきり女みたいだ」

ドナルドン公爵が背後に振り向くと、テリュスは椅子から立ち上がり、腕組みしたまま言い返す。
「あんたも相変わらず、大白熊に見えるぜ」

誰もが敬う大長おおおさへのその返答に、周囲の男らは、しん…と静まり返る。
が、エドリンド卿は大いに笑うと、背後の男らに振り向き言った。

「減らず口は、相変わらずだ!」

男らは再びどっ!と笑う。

エドリンド卿はテリュスの肩を抱き、テーブルへといざなう。
「まあ、飲め!」

皆がテーブルを囲む椅子を引き、座り始め…エウロペはドナルドン公爵の、横にやって来る。
「話を詰めよう」

ドナルドン公爵は頷いて、エウロペに促されるまま、椅子を引いてエドリンド卿の横に腰掛けた。

ドン!

テリュスの前に、大きな陶器の茶色のジョッキが置かれる。
テリュスは直ぐ持ち上げ、一気にぐいぐいぐいぐい!と煽り、飲み干すと
どんっ!
とジョッキをテーブルに音立てて置く。

「飲みっぷりは一人前だ!」
エドリンド卿の、高らかな声に

おおおっ!

熊みたいな男らは、一斉に歓声を上げる。

ドナルドン公爵は、横からエウロペが小声で
「…あれでテリュスは祖父に大変、気に入られてる」
と囁かれ、頷いた。

「…これでもう少し横に肉が付けば。
貫禄も出るのにな!」
エドリンド卿に言われ、テリュスはムキになって言い返した。
「俺が素早く動けなきゃ、あんたの孫が困る事態も出て来たんだ!
身軽が身上なんだぞ?!」

どっっっ!!!

言い返すテリュスの言葉に、男らはまた、笑い転げる。

ドナルドン公爵もジョッキを渡されながら、告げられる。
「さて。話をしようか。
孫は一刻も早く王子の元へ戻りたい。
あんたはここに、残れるのか?」

ドナルドン公爵は頷く。

「この地に、私の部下もいるので」

すると周囲は一気に、シーーーーーーン。
と静まり返る。

エドリンド卿は、おごそかに告げる。
「確かにお国に一番近い、ドゴニッコ領主は反勢力の一味。
我らと、親交は薄い。
が、国に攻め込まれ、一夜で占領されたことは、我らの顔を潰す行為だ」

「…お褒めの言葉と受け取ります。
我らは貴方方の王子を無事、王位に就けるためお力添えをすると、約束致します」

ドナルドン公爵の言葉が終わるか終わらぬ内に、一人が怒鳴る。
「花嫁にするんだろう?!
あんたらの…すましきったイカレた王子の!!!」

…その後、雰囲気は最悪。

一人が、吐き捨てるように呟く。
「男の子供を!
女のように辱めるなんて腐れ男のする、最低の行為だ!」
「しかも我らが王子を!!!」

ドナルドン公爵が、それを聞いて俯く。

エドリンド卿は手で男らを制し、厳かに呟いた。

「王子の厳命だ。
彼は忠実な部下に過ぎない」

エウロペも腕組み、顔を俯けて頷き、口を開く。
「…エルデリオン王子の従者らは王子を、自身の首をかけてまで我らの前で叱咤しったし、誠意を示し。
更に公爵の上司、ラステル殿の口添えで。
現在王子は花嫁では無く、客人待遇として滞在してる。
今問題なのは、爛れきった非道な組織、紅蜥蜴ラ・ベッタだ。
奴らがこの国に入り込めば。
王子は再び誘拐の危険が増し…更に酷い扱いを受ける、危機にさらされる」

ざわ…ざわざわ…。

テリュスは男らを見回した。

「…王子が誘拐され…男達に乱暴されたというのは、本当か?」

この小屋で一番落ち着いて風格ある明るい栗毛の男が、尋ねる。

エウロペが口を開こうとした時、ドナルドン公爵が先に素早く告げた。
「我らが不手際。
奴らが入り込んでいた事を、見逃したのですから。
エウロペ殿が居なければ。
王子はもっと酷い扱いに曝されていた。
さらわれて一日も経たず奪還出来たのは…我が国では、快挙です!」

室内は、しん…と静まり返る。

「…あんた…気に入ったよ」
一人が言うと、他の男も頷く。
「自分の非をいさぎよく認めるのは、なかなか出来る事じゃない」

他の男達も、腕組みして頷く。

「…じゃあその…紅蜥蜴ラ・ベッタとか言う害虫は。
見かけたらぶっ殺して、いいんだな?」

エドリンド卿は即座に頷く。
「それでいい。
さて。
後はシャスティンに任せる」

一番風格ある明るい栗毛の男が、頷く。

エドリンド卿は立ち上がると、ドナルドン公爵を見て告げる。
紅蜥蜴ラ・ベッタとか言う組織は。
叩き潰し、この国から追い出す。
君らが動けるよう、我々も力を貸す。
それで…いいんだな?」

ドナルドン公爵は椅子から腰を上げ、エドリンド卿の前に立ち、しっか!と頷いた。

エドリンド卿はがっ!と、ドナルドン公爵の肩が揺れる程の力で公爵の肩に手を置き、その後立ち上がる孫に振り向く。

「…ショースナにこの男を引き合わせる。
数回一緒に、動いてからな」

エウロペが頷くのを見た後、エドリンド卿はドナルドン公爵に振り向く。
「この男の父親だ。
隠密部隊はショースナが握ってる。
影の、参謀。
国のかなめだ」

ドナルドン公爵は、頷く。
「エウロペ殿の…お父上ですね?」

エドリンド卿は頷き、戸口に歩きながら告げる。
「シャスティンと仕事をしろ。
出来が良ければ、ショースナに会える」

そして、付いて来るエウロペと再び抱擁し…エドリンド卿は三人の供の男を引き連れ、小屋から出で行った。

室内は一気に陽が消えたように、暗い雰囲気になる。

ドナルドン公爵はそんな男には、会ったことが無くて。
消耗しきって椅子にストン!と腰下ろした。

横でテリュスが
「ど・迫力だろう?」
と告げるので。
公爵はうんうん。と無言で頷いた。

エウロペが戸口から戻り、テリュスに声かける。

「酒を大ジョッキ一杯飲んで、まだ走れるか?」
「…帰るんだろう?!」

エウロペは頷く。

シャスティンに頷かれ、ドナルドン公爵は浮かしかけた腰を落とす。
エウロペの方から近寄り、手を差し伸べる。
「…後はあんたの、裁量次第だ。
が、大ジョッキを手渡されたら。
断ることをお勧める。
…悪酔いするぞ」

熊男達はまた、どっ!と笑いこけ、ドナルドン公爵はエウロペに微笑んだ。
「ご忠告、感謝します」

エウロペは爽やかに笑った。

やはりドナルドン公爵は彼のその笑顔を見て。
天空高く誇らかに、悠然と空舞う鷹を、思い浮かべた。

エウロペが戸口に歩くと、テリュスも直ぐ背後に続く。

「次会う時はもう少し、逞しく成ってろよ!」
「胸が出たら、口説いてやるぜ!」

テリュスは振り向くと、立てた親指を、ぐっっ!と一気に下に下げる仕草をし、途端どっっっ!
と、再び熊男らの笑い声が湧き起こる。

ドナルドン公爵はそれを見て
「(最も下品な男がすると言う…くたばれ…のサインか………)」
と顔を下げた。
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