森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
上 下
256 / 418
エルデリオンの幸福な始まり

エドリンド卿との会見

しおりを挟む
 間もなく、ドナルドン公爵はひげ面の男が、暖炉に何か投げ入れるのを見る。

赤紫色の炎が上がり始める。
ドナルドン公爵はそれが煙の合図だと、直ぐ察した。

エウロペはまだ、明るい栗毛の髭の渋い男と、話し込んでる。
身長は同じ位だったが、体格は髭の男の方ががっしりし、エウロペの腰は細く見えた。
が、エウロペの態度や雰囲気は、少しも引けを取らないほど迫力があった。

ふと見ると、テリュスが腕を組み、目を閉じ寝てるので。
ドナルドン公爵もそれに習って、目を閉じ休憩を取った。

間もなく騒がしくなって、目を覚ます。
扉を開けて入って来た男は、肩までの白髪。
がっしりした肩。
体格のたいそう良い…けれど白い口髭を生やした、老年に見えた。
が、放つオーラは半端無く、他の者を圧倒している。

熊のような男らは恐縮し、三人の顔付きの引き締まった体格良い男らが、白髭の男の背後から続く。

白髪の男は威風すら放ち、裏が毛皮のコートを翻してエウロペに真っ直ぐ、笑顔で歩み寄る。
両手を広げ、がっし!と抱きついた。
エウロペも同様、しっか!と腕を背に回し、抱擁する。

テリュスも目を開け、その光景を見つめていた。
ドナルドン公爵は、内心囁く。
「(エウロペの祖父、エドリンド卿か…?!)」

エウロペは白髪の男を伴って、自分に近寄って来るのを見、ドナルドン公爵は確信した。

「ドナルドン公爵、我が祖父の…」
ガタ!
「エドリンド卿…!
お会いできて感激です!」

立ち上がり様手を差し出す公爵の手を、エドリンド卿は、がっ!と握り込む。
エウロペと良く似た面差し。
が、もっとどっしりし、顔は四角に近く、肩幅も広かった。

広い額。白い眉。深い青の瞳。
鼻髭と顎髭を生やしていたが、どちらも真っ白。
崇高とすら思える面立ちで、一角ひとかどの人物である事は、誰の目にも明らか。

「…我が王子をお国で女のように、なぶってくれたそうだな?!」

第一声を笑顔で言われ、ドナルドン公爵は一瞬、言い淀んだ。
が、茶色の瞳の、真っ直ぐな眼差まなざしを向け、はっきりした声で告げる。

「大変申し訳ないことをしたと。
我が国王、王妃より言付かっております。
また、我が国で王子誘拐の首謀組織、紅蜥蜴ラ・ベッタ関係者の一斉検挙の為…。
勢力を削がれた奴らは、この国に入り込もうとやっきになってる。
その責任をぜひ。
私に取らせて頂きたい」

エドリンド卿は、じっ…とドナルドン公爵を見、呟く。
「君のボスを一度寄越せ。
もう道案内は出来るだろう?」

ドナルドン公爵は即答しようとし…けれど、どもった。
「で…あ…も、勿論です」

どっっっ!!!

室内の皆は突然笑い出す。

ドナルドン公爵がきょろきょろ、笑う皆を見回す。
テリュスが斜め後ろで、ぼそり。と言った。

「…俺が付き添う」

エドリンド卿はその返答に、笑顔を浮かべて大いに頷き、今度はテリュスに振り向く。
「相変わらず、細っこいな!
髭が無いと、まるっきり女みたいだ」

ドナルドン公爵が背後に振り向くと、テリュスは椅子から立ち上がり、腕組みしたまま言い返す。
「あんたも相変わらず、大白熊に見えるぜ」

誰もが敬う大長おおおさへのその返答に、周囲の男らは、しん…と静まり返る。
が、エドリンド卿は大いに笑うと、背後の男らに振り向き言った。

「減らず口は、相変わらずだ!」

男らは再びどっ!と笑う。

エドリンド卿はテリュスの肩を抱き、テーブルへといざなう。
「まあ、飲め!」

皆がテーブルを囲む椅子を引き、座り始め…エウロペはドナルドン公爵の、横にやって来る。
「話を詰めよう」

ドナルドン公爵は頷いて、エウロペに促されるまま、椅子を引いてエドリンド卿の横に腰掛けた。

ドン!

テリュスの前に、大きな陶器の茶色のジョッキが置かれる。
テリュスは直ぐ持ち上げ、一気にぐいぐいぐいぐい!と煽り、飲み干すと
どんっ!
とジョッキをテーブルに音立てて置く。

「飲みっぷりは一人前だ!」
エドリンド卿の、高らかな声に

おおおっ!

熊みたいな男らは、一斉に歓声を上げる。

ドナルドン公爵は、横からエウロペが小声で
「…あれでテリュスは祖父に大変、気に入られてる」
と囁かれ、頷いた。

「…これでもう少し横に肉が付けば。
貫禄も出るのにな!」
エドリンド卿に言われ、テリュスはムキになって言い返した。
「俺が素早く動けなきゃ、あんたの孫が困る事態も出て来たんだ!
身軽が身上なんだぞ?!」

どっっっ!!!

言い返すテリュスの言葉に、男らはまた、笑い転げる。

ドナルドン公爵もジョッキを渡されながら、告げられる。
「さて。話をしようか。
孫は一刻も早く王子の元へ戻りたい。
あんたはここに、残れるのか?」

ドナルドン公爵は頷く。

「この地に、私の部下もいるので」

すると周囲は一気に、シーーーーーーン。
と静まり返る。

エドリンド卿は、おごそかに告げる。
「確かにお国に一番近い、ドゴニッコ領主は反勢力の一味。
我らと、親交は薄い。
が、国に攻め込まれ、一夜で占領されたことは、我らの顔を潰す行為だ」

「…お褒めの言葉と受け取ります。
我らは貴方方の王子を無事、王位に就けるためお力添えをすると、約束致します」

ドナルドン公爵の言葉が終わるか終わらぬ内に、一人が怒鳴る。
「花嫁にするんだろう?!
あんたらの…すましきったイカレた王子の!!!」

…その後、雰囲気は最悪。

一人が、吐き捨てるように呟く。
「男の子供を!
女のように辱めるなんて腐れ男のする、最低の行為だ!」
「しかも我らが王子を!!!」

ドナルドン公爵が、それを聞いて俯く。

エドリンド卿は手で男らを制し、厳かに呟いた。

「王子の厳命だ。
彼は忠実な部下に過ぎない」

エウロペも腕組み、顔を俯けて頷き、口を開く。
「…エルデリオン王子の従者らは王子を、自身の首をかけてまで我らの前で叱咤しったし、誠意を示し。
更に公爵の上司、ラステル殿の口添えで。
現在王子は花嫁では無く、客人待遇として滞在してる。
今問題なのは、爛れきった非道な組織、紅蜥蜴ラ・ベッタだ。
奴らがこの国に入り込めば。
王子は再び誘拐の危険が増し…更に酷い扱いを受ける、危機にさらされる」

ざわ…ざわざわ…。

テリュスは男らを見回した。

「…王子が誘拐され…男達に乱暴されたというのは、本当か?」

この小屋で一番落ち着いて風格ある明るい栗毛の男が、尋ねる。

エウロペが口を開こうとした時、ドナルドン公爵が先に素早く告げた。
「我らが不手際。
奴らが入り込んでいた事を、見逃したのですから。
エウロペ殿が居なければ。
王子はもっと酷い扱いに曝されていた。
さらわれて一日も経たず奪還出来たのは…我が国では、快挙です!」

室内は、しん…と静まり返る。

「…あんた…気に入ったよ」
一人が言うと、他の男も頷く。
「自分の非をいさぎよく認めるのは、なかなか出来る事じゃない」

他の男達も、腕組みして頷く。

「…じゃあその…紅蜥蜴ラ・ベッタとか言う害虫は。
見かけたらぶっ殺して、いいんだな?」

エドリンド卿は即座に頷く。
「それでいい。
さて。
後はシャスティンに任せる」

一番風格ある明るい栗毛の男が、頷く。

エドリンド卿は立ち上がると、ドナルドン公爵を見て告げる。
紅蜥蜴ラ・ベッタとか言う組織は。
叩き潰し、この国から追い出す。
君らが動けるよう、我々も力を貸す。
それで…いいんだな?」

ドナルドン公爵は椅子から腰を上げ、エドリンド卿の前に立ち、しっか!と頷いた。

エドリンド卿はがっ!と、ドナルドン公爵の肩が揺れる程の力で公爵の肩に手を置き、その後立ち上がる孫に振り向く。

「…ショースナにこの男を引き合わせる。
数回一緒に、動いてからな」

エウロペが頷くのを見た後、エドリンド卿はドナルドン公爵に振り向く。
「この男の父親だ。
隠密部隊はショースナが握ってる。
影の、参謀。
国のかなめだ」

ドナルドン公爵は、頷く。
「エウロペ殿の…お父上ですね?」

エドリンド卿は頷き、戸口に歩きながら告げる。
「シャスティンと仕事をしろ。
出来が良ければ、ショースナに会える」

そして、付いて来るエウロペと再び抱擁し…エドリンド卿は三人の供の男を引き連れ、小屋から出で行った。

室内は一気に陽が消えたように、暗い雰囲気になる。

ドナルドン公爵はそんな男には、会ったことが無くて。
消耗しきって椅子にストン!と腰下ろした。

横でテリュスが
「ど・迫力だろう?」
と告げるので。
公爵はうんうん。と無言で頷いた。

エウロペが戸口から戻り、テリュスに声かける。

「酒を大ジョッキ一杯飲んで、まだ走れるか?」
「…帰るんだろう?!」

エウロペは頷く。

シャスティンに頷かれ、ドナルドン公爵は浮かしかけた腰を落とす。
エウロペの方から近寄り、手を差し伸べる。
「…後はあんたの、裁量次第だ。
が、大ジョッキを手渡されたら。
断ることをお勧める。
…悪酔いするぞ」

熊男達はまた、どっ!と笑いこけ、ドナルドン公爵はエウロペに微笑んだ。
「ご忠告、感謝します」

エウロペは爽やかに笑った。

やはりドナルドン公爵は彼のその笑顔を見て。
天空高く誇らかに、悠然と空舞う鷹を、思い浮かべた。

エウロペが戸口に歩くと、テリュスも直ぐ背後に続く。

「次会う時はもう少し、逞しく成ってろよ!」
「胸が出たら、口説いてやるぜ!」

テリュスは振り向くと、立てた親指を、ぐっっ!と一気に下に下げる仕草をし、途端どっっっ!
と、再び熊男らの笑い声が湧き起こる。

ドナルドン公爵はそれを見て
「(最も下品な男がすると言う…くたばれ…のサインか………)」
と顔を下げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あばずれローニャ

黒神譚
恋愛
ちょっとエッチで甘々なTSラブストーリー。 主人公は色欲の魔神シトリーを討伐した際に、いまわの際の魔神に強烈な呪いをかけられてしまう。 その呪いとは女体化および、その女となった体で男性を虜にする色欲の呪い。 女性となった主人公は女性名ローニャと名乗り、各地を転々として最高クラスの司祭でも祓うことができない呪いを解く術を探す旅を続けるのだった。 だが、ローニャにかけられた呪いは太陽の加護が失われた時により強力になる女性化の呪い。日没後に心身ともに完全な女性になってしまった時。ローニャは常に呪いに自我を支配され、往く先々で様々な色男たちと恋愛スキャンダルを巻き起こす。 そんなローニャを人々はいつの間にか「あばずれローニャ」「恋多き女・ローニャ」と呼ぶようになった。 果たしてローニャは無事に呪いを解き、魔神シトリーを討伐した英雄として帰郷し故郷に錦の旗を飾ることができるのだろうか? それとも女性としての生き方を受け入れて色欲の呪いのままに男性を誑し込んで生き続けるのだろうか? TS・恋愛・ファンタジー・魔法・アクション何でもありのラブコメです。 今回は、複雑な設定はなく一般的でありふれたい世界観でとっつきやすい物語になっています。 1話1200文字程度ですので、どうぞお気軽にお読みください。(毎日19時更新)

【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ
BL
オメガの騎士は性別をアルファだと偽っていた。取り巻くのは事情を知らない同僚の騎士たちや社交界の面々。協力者は、添い寝でアルファのフェロモンを付けてくれる義理の弟と、抑制剤を処方してくれるお医者様だ。オメガだとバレたら騎士として認めてもらえない。夢を追うことは、本当は許されない事なのかもしれない。迷う日々の中、運命の番の騎士が赴任してきて、体に熱がともる。 ※総受け・攻め4人(本番Hは本命のみ)。モブレ未遂アリ。サスペンス風味。 ※IFはエロ詰めです。随時追加予定。 リクエスト受付は終了させていただきます……!! ありがとうございました!!

悪役令息はゾウの夢を見る

朝顔
BL
現実世界で過労死した健は、縁あってゾウの神様がいるBLゲームの世界のキャラクターに憑依する。 楽勝主人公を選ぶはずが、見た目が可哀想だと同情して悪役令息のキャラを選んでしまう。 超がつくほど真面目な性格の健は、選んだからにはシナリオ通りに悲劇を迎えるまでちゃんと演じなければと思い込んでしまう。 悪役令息の子供時代に憑依したので、それっぽく我儘で傲慢な子供時代を胃痛を抱えながら、必死に演じていた。 そんな中、ついに因縁の主人公が登場したので悪役として接するのだが、主人公は予想を超える人物だった。 嫌われようとしているのに、全然嫌ってくれなくてむしろどんどん懐いてしまう。 しかも儚げ美人主人公に成長するはずなのに、なぜか正反対に逞しく成長してしまい……。 なんとかシナリオ通りに軌道修正しようと奮闘するのだが思いもよらぬ方向に……。 嫌われ者の悪役令息なのに、他のキャラ達とも仲良くなってしまう。 健は新しい世界で幸せを見つけることができるのか。 ※※※ 悪役令息になりきれなかった主人公が総愛されするお話です。 恋愛面では固定カプ。 子供時代スタートなので、R18シーンは十八歳からなります。 ※他サイトでも同時連載しております。

転生したら第13皇子⁈〜構ってくれなくて結構です!蚊帳の外にいさせて下さい!!〜

白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)
BL
『君の死は手違いです』 光の後、体に走った衝撃。 次に目が覚めたら白い部屋。目の前には女の子とも男の子ともとれる子供が1人。 『この世界では生き返らせてあげられないから、別の世界で命をあげるけど、どうする?』 そんなの、そうしてもらうに決まってる! 無事に命を繋げたはいいけど、何かおかしくない? 周りに集まるの、みんな男なんですけど⁈ 頼むから寄らないで、ほっといて!! せっかく生き繋いだんだから、俺は地味に平和に暮らしたいだけなんです! 主人公は至って普通。容姿も普通(?)地位は一国の第13番目の皇子。平凡を愛する事なかれ主義。 主人公以外(女の子も!)みんな美形で美人。 誰も彼もが、普通(?)な皇子様をほっとかない!!? *性描写ありには☆マークつきます。 *複数有り。苦手な方はご注意を!

シンギュラリティはあなたの目の前に… 〜AIはうるさいが、仕事は出来る刑事〜

クマミー
SF
 これは未来の話… 家事、医療、運転手、秘書など… 身の回りの生活にアンドロイドが 広まり始めた時代。  警察に事件の一報があった。それは殺人事件。被害者は男性で頭を殴られた痕があった。主人公風見刑事は捜査を進め、犯人を追う最中、ある事実に到達する。  そこで風見たちは知らぬ間に自分たちの日常生活の中に暗躍するアンドロイドが存在していることを知ることになる。 登場人物 ・風見類 この物語はコイツの視点のことが多い。 刑事になって5年目でバリバリ現場で張り切るが、 少し無鉄砲な性格が災いして、行き詰まったり、 ピンチになることも… 酔っ払い対応にはウンザリしている。 ・KeiRa 未来の警察が採用した高性能AI検索ナビゲーションシステム。人間の言葉を理解し、的確な助言を与える。 常に学習し続ける。声は20代後半で設定されているようだ。常に学習しているせいか、急に人間のような会話の切り返し、毒舌を吐いてくることもある。

たまには働かないと、格好がつかないし、ね?

氷室ゆうり
恋愛
さて、今回は異形化、というか融合系ですね。少しばかり男体化要素もあるかなぁ?杏理君はなんだかんだ私の小説では頑張ってくれます。ちょっとばかり苦手な人もいるかもしれませんが、なるべくマイルドに書いたつもりです。…たぶん。 ああ、ダークにはしていないのでそこはご安心ください。 今回も、r18です。 それでは!

A hero from the darkness of chaos. Its name is Kirk

黒神譚
BL
異界の神や魔神、人間の英雄が絡み合う壮大なスケールで描かれる本格的ファンタジー。 人間の欲望や狂気を隠すことなく赤裸々(せきらら)に綴(つづ)っているので、一般的に温いストーリー設定が多いWEB小説には似つかわしくない、かなり大人向けの作品です。(「小説家になろう」からの移行作品。) ※本作は本格的なファンタジー作品で単純にBL作品とは言い難いです。ですが主人公は両性愛者で男女にかかわらず恋愛をし、かなり濃厚な関係を持つのでBL、女性向けタグとさせて頂きました。 ●ストーリー 争いの絶えない人類は魔王ドノヴァンの怒りを買い、粛清(しゅくせい)されるが、そこではじめて人類は戦争をやめて協力し合うことができた。それを見届けた魔王ドノヴァンは人類に1000年の不戦を約束させて眠りについた。 だが、人類は1000年間も平和を保てずに、やがて争いを始めるようになってしまった。 時は流れて1000年の契約期間が終わりそうになってから、人類は自分の愚かさを悔やんだ。 世界が魔王に滅ぼされると恐れていたその時、一人の神官が今から30年後に救いの聖者が現れると予言するのだった。

王太子さま、侍女を正妃にするなど狂気の沙汰ですぞ!

家紋武範
恋愛
侍女アメリアは王宮勤め。宰相の息子のルイスに恋心を抱いていたが、それが叶ってルイスよりプロポーズされた。それを王太子に伝えると、王太子はルイスへは渡さないとさらって軟禁してしまう。アメリアは軟禁先より抜け出そうと苦心する。

処理中です...