森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エウロペの一日 1

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 明け方。
エウロペが自室の寝台で気配を感じ、目を開けると。
デルデとレジィの声が微かに聞こえた。

その後、抱き合ってる雰囲気だったが、昨日の昼間と違って派手な嬌声は聞こえて来ない。

「(…確かに薬が、抜けてきてる…)」

けれど二人の盛り上がる声が、やっぱり微かに聞こえてきて。
エウロペはレジィがすっかり…男にはまり込んで、この先女性に目が向かなかったらどうしよう…。
と、懸念のため息を吐きつつ、まどろんだ。

朝食の鐘が鳴り、寝台から飛び起きて衣服を着替える。
部屋を出て直ぐ左手の、扉のガラス窓から、井戸があるのが見える。
扉を開けて外に出ると、水を汲み上げ、顔と歯を洗った。

テーブルにはエリューンだけがついていて、女将さんに
「皿まで洗って頂いて!」
と赤ら顔のにこにこ顔で、礼を言われていた。

エウロペが椅子を引いて向かいに腰掛け
「テリュスは?」
と聞く。

エリューンは背後の、南側が全部ガラス窓の廊下を見つめ
「…起こすべきですか?」
と尋ねた。

二人は暫く陽光溢れる廊下を伺った。が。
テリュスとロットバルトが、姿を現す気配が無い。

とうとうエリューンが席を立ち、エウロペも後に続き、北側のテリュスの部屋をノックした後、開けて見ると。

寝台の上で空の酒瓶と共に、テリュスもロットバルトも凄い寝相で寝こけていた。

テリュスは顔を横向け、丸くなり。
ロットバルトは仰向けで大の字で、手足は寝台から、はみ出していた。

エリューンは当然のようにテリュスの横で肩を揺するので、仕方無くエウロペはロットバルトの横に立つと
「朝食の時間です」
と、大国の威厳ある…筈の重臣を起こしにかかった。

ロットバルトはパチ…と目を覚ます。
「何点鐘?!」
と、突然叫ぶので、エウロペは目を見開きながらも答えた。

「…多分…八点鐘?」

エリューンが即座に訂正する。
「いつ朝食にすれば良いかと聞かれたので。
九点鐘と答えました」

「九点鐘だそうです」

するとロットバルトはいきなり、ばっ!と飛び起きる。
「会議が十点鐘からある!」
そして自分の衣服を見
「まずい!」
と叫ぶと、上着を探って尻の下に敷いてるのを見つけ、尻に引いたまま遮二無二引っ張り出そうとし…。
引っ張られて持ち上がる上着に尻を浮かされ、エウロペの真横に
どたっ!
と音立てて転げ落ちた。

「…………………あの…。
朝食の用意が出来てるので…」

エウロペが転がる重臣に、遠慮がちにそう声かけると。
ロットバルトは掴んだ上着を手に、身を起こす。
「…頂く」

エウロペは無言で頷いた。

テリュスが寝ぼけ眼で体を起こす。
ロットバルトはテリュスの顔を目にした途端、ばっ!と後ろに下がった。

テリュスは気づいてぼやく。
「いい加減、見慣れろよ」

けれどロットバルトは、後ろに引いた姿勢のまま、呻いた。
「私の私室に早朝、年若い美少女が、居た例しがない!」

途端、テリュスは歯を剥き喰ってかかる。
「…だから俺は、若い美少女じゃない!」

掴みかかろうとするテリュスを、エリューンが背後から羽交い締めしてやっと取り押さえ、朝食のテーブルに着かせた。

レジィとデルデは出てくる気配も無い。

テリュスはまだ目を見開いて自分を見てる、ロットバルトを睨み付けながら聞く。
「あいつらは、起こさないの?」

エウロペはロットバルトに尋ねた。
「デルデロッテ殿は、御予定は?」

「…ラステルが手配し、予定全部開けさせたと思う」

エウロペは“流石”の代わりに、ため息を吐いた。

ロットバルトは慌ただしく朝食を掻き込むと、一気に飛ぶように席を立ち
「ではこれで失礼する!」
と叫んで、玄関扉をバン!と跳ね返るほど開け、かっ飛んで行った。

エリューンは無言。
テリュスはスープをすすりながら
「五月蠅いヤツ」
とぼやき、エウロペは吹き出すと
「もう重臣扱いしないんだね?」
と尋ねる。

テリュスは憤慨して怒鳴った。
「あいつが俺の事、美少女扱いしなくなったら、ちゃんと重臣扱いするさ!」

エリューンが横に座るテリュスを、目を見開いて見る。
「…だって…無理無いですよ。
私だって護衛に加わった時。
最初は口の悪い、年上の美少女って、思ってたし」
テリュスは睨み付けて怒鳴った。
「俺だって、そうだ!」

言われてエリューンは、無言で顔を下げる。
「…えっ…と…テリュスが私を?」
「大人しくて利発そうな、
って思ってた!!!」

その後エウロペはエリューンに
「私はちゃんと、少年に見えてましたよね?ね?」
と聞かれ、困惑し
「私は二人とも、ちゃんと少年って、知ってたから」
と、誤魔化した。


シュテフザイン森と花の王国の皆は、昼食を取る習慣は無かったが。
女将さんが朝食の皿を片付けがてら、昼食も作って行ってくれた。

ので、テリュスが昼食の鐘を鳴らす。

デルデとレジィがやっと起きてきて、テーブルに着く。
エウロペはレジィが、どんどん艶と色香を増す様子に、また深いため息を吐き出した。

デルデはエウロペの様子を気にし、朝食で出されたスープを手渡されながら、エウロペに囁く。
「文句があるんなら、今の内に聞く」

エウロペは顔を上げず首を縦に振りながら
「…レジィが年頃になって、女性にも関心持ってくれたら。
それで全て水に流せる程度の、杞憂きゆうだ」
と、ぼやいた。

デルデは艶やかな金髪の、横に座るレジィを見る。
「女の子の胸見て…揉みたいと思う?」

ぶっ!
ぶっっ!

エリューンとテリュスがほぼ、同時にスープを吹いて。
エウロペが無言で二人に、ナプキンを手渡す。

テリュスも無言で受け取り、服の染みを拭きながら文句垂れた。
「…言うかな、いきなりそんな過激なこと」

エリューンも襟の染みを拭きつつ、同意する。
「…厚顔無恥って噂は、ホンモノですね」

エウロペはくすくす笑いながら、問われたレジィを見た。

レジィは暫く呆けた後
「…今はデルデの一物思い浮かべると…うっとりなる」
とつぶやくので、テリュスもエリューンも手にしたナプキンを、取り落としそうになった。

デルデは素直なレジィの頭をなぜ、微笑みながら提言する。
「それは大変光栄だけど。
女性の胸も、とってもいいもんだよ?
すごく柔らかくて。
なんとも言えない弾力がある」

年頃のテリュスとエリューンは、思い浮かべたのか。
頬を染めて顔を下げ、二人揃って汚れたナプキンを、エウロペに返した。

エウロペは暫く、手渡された汚れたナプキンを見た後。
横のワゴンの上に放った。

レジィはデルデを見上げる。
「…そうなの?」
デルデはうっとりするような笑顔でレジィを見つめ、更に続ける。
「そう。
それに君、口でされるの、好きだろう?
女性の中って、口より更に気持ちいいから。
一度試してみるといいよ」

またまた。
テリュスとエリューンは頬染めて顔を下げる中、レジィはデルデの笑顔を見つめ
「ホント?!」
と瞳を輝かせた。

デルデは得意そうにエウロペを見つめ、エウロペは顔下げて内心
「(なんて口が上手いんだ…)」
と呟いた。
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