森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エウロペの杞憂(きゆう)

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 エウロペはそれでもラステルに、疑問をぶつけてみる。
「…だが…。
彼にとって、かなり怖いやり方で。
私は応じたし、限度は超えなかったが、拡張時彼はかなりの痛みを感じ、泣き出しそうだった。
思い描く事と実際との違いを、思い知ったとは思うんだが…。
それでも彼はまだ明日。
私を呼ぶと思うか?」

ラステルは顔を下げる。
「…多分…。
明日まで、私もエルデリオンの様子を小まめに見ますから。
経過報告は、出来ると思います。
やはり、負担ですか?」

エウロペは深いため息を吐き出した。
「…馬車での事、だけは。
私はきっちり腹を立てていたから、ご要望には応えられる。
だが多分、彼が思い描いてる刑罰は…私は与えられそうに無い」

ラステルは頷く。
「で、しょうね。
ともかく明日も貴方を呼び出し、まだ強固に貴方からの刑罰を望み、ご負担でしたら。
デルデロッテに相談なさい。
彼は情事の方面は、あの年で達人。
更にエルデリオンの事に関して、とても詳しいので。
頼りになる助言を得られると思います」

エウロペは困惑した。
「…今の…発情しまくるレジィを、無理に押しつけてるのに、これ以上?」

ラステルは軽く首を傾げた後、やはり軽やかな口調で告げる。
「でもそろそろ、薬の効果は抜けて来る時期でしょう?
記憶も戻り始めるでしょうから…」

エウロペは頷く。
「…今の様子だと。
その状態もデルデロッテのお陰で、軽くなりそうな気はする」

ラステルはけど、エウロペをじっ…と見る。
「けど貴方は加減を知ってる。
必要な時厳しくし、必要な時、優しい言葉をかけられる」

ラステルの言葉に頷くと、エウロペは躊躇ためらいながらもしっかりした口調で告げた。
「今になって、デルデロッテの気持ちが分かった。
君らがエルデリオンに対し、とても愛情深く大切に接してるから。
それに応えられるよう、努力する」

ラステルはエウロペの言葉を聞くなり、晴れやかに笑った。


エウロペがトラーテルに戻ると、共有の居間には誰も居ず、食事の皿も片付けられていていた。
それで居間の北側の、厨房に続く扉を開けてみる。
エリューンが、厨房内にある井戸から水を汲んで、洗い場で食器を洗っていた。

「…私がやろうと思ってた」

声かけると、エリューンは振り向く。
「…レジィの声は聞こえないけど。
テリュスの部屋の声は聞こえて…」
「五月蠅い?」

エウロペが袖をまくり、汚れた皿に洗い粉を付けて洗い始めると、エリューンはそれを綺麗な水で流し、横の皿置き場へ移動させながら頷く。

「…ロットバルトと二人で今、歌ってます。
高らかに」

ぷっ!
エウロペが吹き出すと、エリューンは軽く睨む。
「…最初は静かで良かったんですけどね!
部屋にいると、音程外れまくった歌声に耐えられないし。
ここで皿洗ってた方が、どれだけ心安まるか!」

「…皿洗いが心安まる事態にして、すまない」
エウロペが謝ると、エリューンは素早く言った。
「貴方は悪くない!」

エリューンはぷりぷり怒ってて、更に文句垂れる。
「もっと美声なら!
子守歌になるのに!
なんであんなに、ありえないほど音程外すかな!!!」

けれど皿は全て洗ってしまい、綺麗になったので。
エリューンは仕方無く、洗い場の後ろの棚からスモモ酒のボトルを取って、グラスに注ぎながらエウロペに聞く。
「飲みます?」
エウロペは頷いた。
「頂く。
ついでに君の部屋で、騒音具合を確かめる」

エリューンは笑顔になってエウロペにグラスを手渡し、自分はグラスとボトルを持って居間に出、廊下を曲がって自室の扉を開ける。

こざっぱりした感じの良い部屋で、寝台は大きく、手縫いのベットカバーがかかっていた。
暖炉に火が入り、その前に二脚のソファ。

エウロペは椅子に腰掛けながら、その歌声を聞いた。

音程はズレまくり、途中すごーく間延びして、次の音へ移る。
エリューンも座ると
「ね?
曲になってないでしょ?
明らかに意識混迷状態の、酔っ払いの歌声」
と相づちを求めるので、エウロペは笑って頷いた。

けれどテリュスは、デルデロッテと同い年。
エリューンは一つ年下。
そう思い浮かべ、二人の性的事情を知ってる限り、思い返してみた。

「…確か…逃亡中、珍しく長く屋敷に滞在してた時。
君って凄く色っぽい美人女中と、暇さえあれば消えてたよね?」

エリューンは思い出すと、頬染めて俯く。
「…あれって確か…こんな機会でもないと、堪能できないから。
って貴方が、焚きつけたんですよ?!
なんでいきなりその話題かな」

ちょっと恥ずかしげにそう言うので、エウロペは顔下げた。
「…すまない…。
何せオーデ・フォール中央王国の皆は、食事感覚で情事をこなしてるから」

エリューンは聞いた途端、頷く。
「我が国では、花嫁になる女性を喜ばせるタメに、修行しますけどね。
王妃の舞踏会でも、少女らに絡まれまくってたけど。
通りすがりの紳士の幾人かに、色目使われて憤慨しましたよ!
私はもう青年、ですよね?!」

エウロペは顔を下げる。
丁寧な言葉使いと控えめな態度だけど。
若年の中で一番剣が使えたのは、この内に秘めた勝ち気な性格ゆえ。

一旦打ち崩されそうになると、ムキに勝ち急ぎはせず、冷静ながらも半端無い気迫で、必ず打ち勝つ。

若く経験も少なかったけれど、護衛の一員として選んだのは、十分な資質を彼が持っていたから。

「…今まで聞かなかったけど…。
もしこの国で、男に襲われそうになったら…」

エリューンは自分が心配されてる。と感じたらしく、きっぱり言った。
「誘いに乗ったフリし、いざ相手がペロンと一物なんて、出そうものなら!
その場で、ちょん切ってやります!」

エウロペはその本気具合を見て、頷く。
「…だよね…。
デルデロッテをどう思う?」

エリューンは、ばっさり斬りるように言い捨てた。
「凄い垂らしですよね」

エウロペは言いにくそうに、聞いてみた。
「もし…。
もし、デルデがレジィの相手がもう出来ず…。
それでもレジィに、寝る相手が必要だとしたら…」

エリューンは一瞬、目を見開いた。
が、言った。
「貴方が出来ないなら、私がしますけど?」

エウロペは額に手を当て、顔を下げる。
「あっさり、簡単そうに言うけど…」

けれどエリューンは肩すくめた。
「そりゃ少年とは、いたした事が無いので。
初めての相手とかは、敷居は高いと感じますが…。
デルデロッテに、あれだけ色々された後なら。
女性と大差ないのでは?」

エウロペはエリューンのそのクールな意見に、目を見開く。
それでエリューンに、改めて聞いてみた。
「…ずっと追っ手に追われてバタバタしてて、あんまり真面目に聞いたこと無かったけど…。
君って情事については、どう思ってる?」

エリューンは横向き、かなり気まずそうに囁いた。
「…批判されるかもですけど。
私も実は、食事感覚で…。
食事も、美味しいとありがたいけど。
情事も、気持ち良ければ御の字。
って感じですね」

エウロペは深く、頭を下げた。
じっと一所ひとところに居られなかった逃亡生活のため。
年若いエリューンとテリュスに、機会があれば出来るよう…焚きつけ続けた、弊害へいがいかもしれない。

そう、今更ながらに反省した。
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