森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エルデリオンの朝

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 エルデリオンはふらふらの頭を、必死で振って起き上がる。
尋問の後。
ラステルとロットバルト…そしてエウロペと一緒に、オレシニォン西の客用離宮に戻り…共同の居間でお茶を飲んだ。

なのに…今自分は、寝台の上にいる。

首を必死に振りながら、召使いを呼ぶベルを鳴らす。
ドアのノックがする音ですら、遠ざかりそう…。
今にも意識を失い、眠りの中に落ちて行く…。

「あの…エルデリオン様?」
寝台の横に立ち、そう尋ねる召使いの顔ですら、二重に見えた。
「…一番きつい気付けを頼む…!
直ぐ…薬師に言っ…て…。
私が眠っていたら…気付けを嗅がせ、起こし…て…く………」

けれどそこで、意識が途切れる。
次にふっ…と目が開いた時。
召使いの姿は消えていた。

けれどまた…眠りに落ちて行く。
エルデリオンは必死に踏みとどまろうと試みる。

けれどまた…そこに辿り着く。
レガートと言う名の、誘拐犯の囚われた石の牢獄に。

レガートは椅子に座り、両手は肘掛けに縛り付けられ、足も椅子に括り付けられ…。
それでも、笑ってる。

笑い続けて、空を見てる。
その空に…子供の頃の自分が。
裸で男に組み敷かれ、強姦されていた。

「…んっ!ぅんっ!」

苦しげな自分の呻き声。
両手は後ろ手で縛られ、四つん這いで。
背後から男の挿入され、口には男の、一物が………。

ぬちゃっ!ぬちゃっ!

男が抜き差しする度、卑猥な音が響き渡り、縛られたレガートは高らかに笑い続ける。

…だからエルデリオンは両手を耳に当て、崩れ落ちる。

笑い声が…途切れ、視線を上げると。

犯されてる姿が、レジィリアンスに変わっていた。

「ふ…ふ…ふ…ぁはははははははははははははは」

レガートの高笑いが再び響き渡る。

あいらしい…いとしい、美しい人…。
長い金の豪奢な髪が、肩に背に散り…愛らしい赤い唇には男のおぞましい一物が、深々と貫かれ。
真っ白な双丘に、やはり男の…グロテスクな一物が…それと解る程、突き刺されては引き。
再び双丘の間に深々と突き刺されて消えて行く。

苦しそうで、辛そうで…。
白い頬に涙を滴らせ、青い瞳は潤みきって…。
助けを求めようとしても、叫ぶ事すら出来ない…。

エルデリオンは暗闇の中、必死に助けようと駆ける。
けれどどれ程駆けても…辿り付けない。

絶望で、首を振る。

“頼む…!
誰かあれを止めて!
誰か彼を、助けてやってくれ…!!!"

けれど暗闇で、レガートの声が届く。

「止まらない…!
身代わりが、いなければな…!
お前が逃げたから、ああなってる…。
嫌なら、お前が代われ!
お前が!!!」

エルデリオンは項垂れる。
くっ!!!と涙でぐしゃぐしゃの、瞳を下げる。

“そうすれば…満足か!!!
満足なのか…!!!
私が…汚されれば!!!
レジィリアンスは諦めるのか…?!"

途端…犯されてる映像が消え、エルデリオンは心からほっとする。

明るく鋭い緑の瞳。
しなやかで逞しい男、エウロペ…。
腕の中に抱き上げられてる、レジィリアンス…。

愛らしいその人が、無事でいる…!!!

エルデリオンは歓喜で駆け寄る。
レジィリアンスは美しいその顔を自分に向け…。
けれど怯えたように叫ぶ。

「嫌!!!
来ないで!!!
貴方なんて嫌い!!!」

涙ながらに…首を激しく横に振って、激しく拒絶する………。

エルデリオンはそこで、凍り付く。
心から優しく温かい光が消え去り、空虚で冷たい…。

気づくと、石の牢獄にいた。

椅子に縛られてる、レガートは笑う。

「ようこそ!
ご同類!!!」

エルデリオンは必死に叫ぶ。
「私は…違う!!!
お前達とは違う!!!」

ひゃっはっはっはっ!!!

レガートは愉快そうに笑う。

「同じだから…レジィリアンスはお前を拒絶する!!!
同じだから!!!」

エルデリオンは耳を塞いで逃げ続ける。

けれどどこに逃げても…レガートの声は消えない。

「同じだ!!!
お前は俺と!!!
お前が逃げたから!!!
レジィリアンスはお前に成り代わったんだ!!!」

その時、激しく揺さぶられ…エルデリオンは目を開ける。

「エルデリオン様!
エルデリオン様!
…大丈夫ですか?!」

エルデリオンは目を覚ましても、まだ頭が重く、膜が張ったように朦朧もうろうとし、意識がはっきりしない。

「気付けを!
気付けをもっと!
眠らせないでくれ!
私を起こして!
目覚めさせてくれ…!!!」

悲鳴のようなその声に、召使いと薬師は顔を見合わせ、持って来たありったけの気付けを嗅がせ、そして…飲ませた。

エルデリオンは、ふらふらながらも起き上がり…。
やっと全身に、気付けの塗り薬を塗りたくられ…。
ようやく、正気を取り戻す。

「…ここ…は?」
オレシニォン西の客用離宮でございますが…」
「コテージに行く!!!」
「でも、落馬なさいます…!」

けれどエルデリオンは、寝台に手を付いて起き上がり、ふらつきながら衣服を着け、扉を開けて部屋を出た。

厩で自分の馬に乗り込むと、唇を噛んで眠気を振り払う。

拍車かけて厩から飛び出し、一直線に西門へと走る。

「開けろ!」
一声叫ぶと、門番は慌てて門を開ける。

ラステル配下の一人がそれを見て、近くの仲間に囁く。
「ラステル様にお知らせできるか?
俺は王子の後を追い、護衛に付く!」

仲間は頷き、叫び返す。
「途中待機してる者にも知らせ、護衛を万全にする!」

が、告げた仲間はもう馬に飛び乗り、エルデリオンの後を追って西門の向こうに消えていた。
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