森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

駆けつけるラステルとエルデリオン

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 エルデリオンはラステルを乗せた配下の馬が、一時横道にそれ、暫くのち戻って来るのを見た。

かなり前を、速度を上げて駆け去る。
周囲の茂みから続々と、騎乗したラステル配下らしき男達が集まり来て後ろに続き、自分らの少し離れた横にも、併走する。

“何が起こってる?
レジィ殿は、御無事か?!”

気が急くまま、馬を走らせる。

が、ラステル配下はラステルを背後に乗せているというのに。
その速度は信じられないほど早い。
少しも、距離を詰められなかった。

間もなく、小さな森の横を抜けて蛇行し、鉄門が見え、既に先に来ているラステル配下の一人が門を開け、ラステルを乗せた仲間を門内に、導き入れていた。

駆け込むラステルらの後を、歯を食い縛って馬を急かし、追随する。
エリューンが鮮やかな乗馬で、矢のように横を駆け抜けて行く。

少しも息を弾ませず、人馬一体の流れるような乗馬。

エルデリオンは斜め後ろに併走する、ロットバルトとデルデロッテを見た。
“彼らも本気を出せば、自分より早いのか?!”

が、そうこう思ってる間に、もうラステルは正面玄関に着き、馬から降りて数段ある階段を駆け上がり、開け放たれた両開きの玄関扉を潜り抜けて行き、その直ぐ後を。

エリューンが風のように付いて行った。

エルデリオンも玄関前で、思い切り手綱を引く。

デルデロッテもロットバルトも既に馬から飛び降り、デルデロッテは先に行き、ロットバルトは待っていてくれた。

屋敷の中には、あちこちにラステル配下の姿。

自分達を見かけると
「こちらでございます」
「そちらをお進み下さい」
と、進路を教えてくれる。

エルデリオンが、レガートの横たわる粗末な部屋に辿り着いた時。
そこにはテリュスが居て、エウロペの姿は無かった。

「ラステル!」

テリュスは先に部屋に入ったラステルに、駆け寄る。
エリューンもテリュスの目前に寄る。

「エウロペ殿は?!」

ラステルの問いに、テリュスの背後に立つ配下が、直ぐ口を挟む。

「この男が。
レジィリアンス様を連れ去ったと名を出した、シュエッセン伯爵の元へ。
仲間の一人が道案内してます」

ラステルは頷くと、質問する。
「検問から、報告は?!」

「アルトバルデ公」
ラステルは、やはり。と頷く。
配下も同調して頷きながら、報告を続ける。
「…現在、足止めしてます。
身分高い者は、他にコルテラフォール侯爵」

ラステルは眉間を寄せる。
「ご存知ですか?」
配下に尋ねられ、ラステルは頷く。

いつの間にか、ラステルの横にエルデリオンもデルデロッテもロットバルトも詰めていて。
エルデリオンが悲鳴交じりに叫ぶ。

「その男は、危ない男なのか?!」

配下はその返答を、ラステルに告げる。
「ただの通行人の様子でした。
姪を実家に送っていく最中だと」

「…幾つぐらいの姪だった?」
「髪は栗毛で、眠っていて、髪に顔は半分隠れ、よく見えなかったそうですが…。
年の頃は…12・3さ…い?」

ラステル配下は、そこでハッとする。
ラステルは頷く。
「シュエッセン伯爵は検問で、引っかかってないんだろう?
直ぐ、エウロペ殿を追いかけて御案内しろ」

「どちらに?
送り先の、コルテラフォール侯爵の実家か…」
「自宅に決まってる。
姪なんて、絶対言い訳だ。
候の、この国での別宅も。
全て調べさせろ」

配下は頷き、直ぐ部屋を出て行く。
テリュスとエリューンが、後に続いた。

エルデリオンは我慢出来ず、ラステルの袖を掴み、寝ているレガートを指さし叫ぶ。
「レジィ殿は保護してないのか?!
あの男は何者だ?!」

ラステルはエルデリオンに振り向くと、落ち着かせるように囁く。
「あの男は、誘拐犯。
動けないあの男に代わって、別の者がレジィリアンス殿をここから連れ去りました。
容疑者は、この屋敷の所有者の、アルトバルデ公と。
検問で引っかかった、コルテラフォール侯爵」

「…つまり罠だらけの地下洞窟も屋敷も。
ここで打ち止め?」

デルデロッテに聞かれ、ラステルは頷く。
「多分、ここは巣窟の一番外れ。
あちらはこんなに早く、ここまで来られるとは思ってなかったでしょう。
ですからロクな手も打てず、ただ逃げ出した。
証拠品が無ければ。
身分にモノを言わせ、ばっくれられると思ってる」

「…証拠品…?」
尋ねるエルデリオンに、ロットバルトが囁く。
「レジィ殿の事です」

エルデリオンは顔を下げる。

「…つまり身分高い男が誘拐を依頼し。
誘拐犯は…ここに届けに来るのがやっと。
依頼した身分高い男は…残された男が何と言おうと。
証拠のレジィリアンス殿さえ、どこかに隠せば…。
知らぬ存ぜぬを、貫き通す腹か?!!!!」

ラステルは、にっこり笑った。
「少なくとも、アルトバルデは真っ黒。
特別身分が高いので、今まで手が出せませんでしたが。
国賓誘拐犯の、最有力容疑者となった今。
彼の屋敷、全てを探索できる。
叩けば必ず、埃が出る。
逃げおおせは出来ません」

「…で」
ロットバルトが言いかけると、デルデロッテが後を継ぐ。
「コルテラフォール侯爵が、一番怪しい?」

ラステルは頷く。
「今みんな。
コルテラフォール侯爵の屋敷の包囲に、駆け去ったところ」

その時。
ようやくエルデリオンは、窓の外で慌ただしく駆け去る駒音が、ひっきりなしに続いているのに気づく。

ラステルは、マトモに周囲の音さえ聞こえず取り乱しきってるエルデリオンに、微笑んで告げる。
「暇だと思うんなら。
動けない怪我人の誘拐犯を、腹立ち紛れに思いっきり、虐めても良いですよ?」

エルデリオンは子供に飴を与えるようなラステルの言葉に、睨み付けて怒鳴った。
「私も、エウロペ殿の後を追う!!!」

ラステルはすかさず、言い放った。
「私が、入って良いと許可した後に。
屋敷に突入するのなら。
お連れ致します」

ロットバルトとデルデロッテは、ラステルのその鮮やかな説得術に、互いの顔を見合わせた。

エルデリオンは暫く、ラステルを睨み付けた。
が、仕方無く、頷いた。

ラステルはにっこり笑うと、一同に告げた。

「では、参りましょうか?」
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