森と花の国の王子

あーす。

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誘拐されたレジィリアンス

塔を駆け上がるエウロペ

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 トロッコが辿り着いた先には、地上に続く暗い石の螺旋階段。
男を急かすものの、やはり靴音は石壁に響く。

地上に着くが、そこは瓦礫の山。
けれど横に、木板の床がある。

見上げると、ロープで上から吊り下げられていたから…。
これで上層階へと、上がれるのだと分かった。
が、三階ほどの高さの、上の大きな床板が嵌め込まれる穴から。
見張りらしき男が、見下ろしてるのが瞬間見え、エウロペは男の首を絞めたまま、穴から見えない場所へと。
素早く移動した。

その際、きつく首を絞められ、男は呻きそうになる。
が、声を立てればもっと締められる…!
そう悪寒が走り抜け、声を漏らすのをぐっ!と我慢した。

エウロペは声を抑えて囁く。
「…他に上がる方法は?」

男は首を絞める腕の力が、少し緩むのを感じ、囁く。
心は歓喜に満ちて。

「…石の階段が…。
が、途中は崩れ、飛ばなければ上に辿り付けない…」

つまり、飛ばなければならない場所で。
エウロペは自分を解放するしか無い…!

が、男の歓喜は、直ぐぞっとする寒気に、取って代わった。

…つまりそこで…自分は、用無し…!

“…殺される…?!”

が、エウロペは引っ立てるように男を押し、案内しろと促す。

男は仕方なしに、瓦礫の向こうの暗がりへと道案内し、あちこち崩れながらもかろうじて上れる、石の螺旋階段へと。
エウロペを導いた。

が、階段はあちこち崩れかけ、足を置く場が悪いと崩れた石が、下に転がり始める。
エウロペは慌てて、足先で転がり始める石を軽く蹴って、階段上に落とす。

カン…カン…!

石は壁に跳ね返って転がり、止まった。

エウロペの足が、ピタリと止まり、男はとうとう首を絞められ、殺されるのか…?!
と、目を閉じ、首に巻き付く腕に力がこもるのを、待った。
が、突然腕を素早く取られて後ろに回され、体がエウロペに向かい合うと途端。
どっ!
とみぞおちに、拳を喰らい、意識が遠のく。

直ぐ、エウロペが階段を駆け上がる気配を感じ、命があった事に感謝しながら、完全に気を失った。

男はああ言ったが。
見張りの居る三階に辿り着くまで。
石の階段はちゃんとあった。

三階に駆け上がると、エウロペは瓦礫の向こう。
床板が上がって来る穴の周囲を、見張る男を覗う。

見張りのその向こう。
やはり崩れた窓から、月光が差し込む。

穴の後ろに、更に上に続く、ロープで吊された床板を見つける。

つまりレジィの居所は、更に上!

エウロペはチッ!と舌を鳴らす。
多分上にも、見張りが穴を覗ってる。

エウロペは上がってきた螺旋階段へと戻る。
かなり上の明かり取りの窓から伺い見ると、やはり途中石の階段は崩れ、抜け落ちていて…。
飛ばなければ上階へ、上がれない…!

エウロペは素早く、見張りがしきりに、穴の下。
三階下を覗き込んでいる、その背後に忍び寄る。

ガッ!
手刀で首を強く叩き、前へと倒れかかるその胴を受け止め、静かに横の石床に下ろす。
そして更に上階に続く、床板の横にレバーを見つけ、レバーを下に倒すと。
遙か上の滑車が回り始め、床板は上階へと、持ち上がり始めた。

エウロペは上がり始める床板に、素早く飛びつく。
床板の下。
かろうじて指のかかる凹凸に指を入れ込み、床板の下にぶら下がった。

床板はカラカラカラ…と、かなり上に吊された滑車でロープが巻き取らながら、上へと引き上げられて行く。

上の見張りは、誰も乗っていないのに上がって来るのを不審に感じ、下へと呼びかける。
「おい!
間違えてレバーを下げたのか?!
おーい!」

カラカラカラ…。

床板の上がる穴は、縁がでこぼこし。
床板が上がりきっても、人一人潜れる隙間が出来るのを、エウロペは素早く確認する。

床板が止まる少し前。
指をひっかけながら移動し、横穴へと指をかけ。

ガタン!

床板が止まった瞬間、体を振った反動で、一気に穴を足先から潜り抜け、岩の床へ着地する。

タン!

見張りの男は屈み、床板が無人なのを確認していた。
が、突如斜め横からエウロペに襲いかかられ、振り向いた瞬間みぞおちを強く叩かれ、声を立てる間もなく背後に倒れかかる。

エウロペは咄嗟見張りの腕を引くと、ぐったりする体を自分に引き寄せ、床板の上から横の暗がりの石床に。
気絶した見張りを、静かに下ろした。

周囲を素早く見回す。
下の階よりは、比較的崩れが少ない。
が、幾つかの壁は崩れ、下に瓦礫が溜まってる。

崩れてない正面の、廊下の先には。
鉄の扉が幾つかあった。

その、どれかの室内にレジィは居る…!

エウロペは気配を殺したまま…そっと扉へと、歩き始めた。

が、突然。

カンカンカン…!

激しい、駆ける靴音に視線を向ける。

廊下の先の角。
靴音は一瞬止まり、叫び声。

「侵入者だ!!!」

バン!!!

瞬時に一つの扉が開き、賊らが出てくる…!

エウロペは素早く暗がりに身を潜めると、叫んだ男の靴音を耳で追った。

カンカンカン…!
階段を上がってる…!
ではここより、更に上…!

バンッ!

また別の扉が開くと、賊らは廊下に飛び出、周囲を見回し口々に告げる。

「ホントに侵入者か…?!」
「どうやってここまで来る?」

「見当たらないぞ?!
誤認じゃないのか?」

エウロペは冷静に、こちらにキョロキョロ首振りながら、やって来る賊の数を確認する。

五人…!

エウロペは静かに、後ろポケットに手を滑らせる。

シュッ!

一番後ろからやって来る、男の喉に一直線に投げる。

「ぐぅっ!」

喉に突き刺さる、小さなその刃物を。
刺された男は手を添え、取ろうともがきながら、仰け反って背後に崩れ落ちる。

ダン…!!!

進もうとした男らはぎょっ!として、背後の倒れた男に、一斉に振り向いた。

ざっっっ!

物陰から飛び出したエウロペは、一番手前の男の腹に、瞬時に拳を叩き込む。
どっっっ!
男が崩れかかるその瞬間、気配に振り向く二番目の男の、腰に携帯した短剣を素早く引き抜き、男の腹に突き刺す。

ざしっ!
「ぅ…ぎゃっ!!!」

残り二人は、目を見開いて突進して来るエウロペを見つめた。

エウロペは両手を振り上げる。

二人の男は心臓に突き刺さる小さな刃物に、体をがくん!!!と大きく揺らすと、声も無く崩れ落ち始め、二人の男が倒れきる、その前に。

エウロペは二人の間を駆け抜け、喉から血を流し倒れる男を跨ぎ飛び、廊下の先の横にある、上階へと続く階段を駆け上がって、叫んだ男の後を追った。
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