森と花の国の王子

あーす。

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誘拐計画

決着と新たな対戦とラステルと仲直り

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 一瞬だった。
振られた相手の剣を、避けざま懐に歩を寄せ、エルデリオンが剣を突き出したのは。

レジィリアンスは視線をロットバルトに向けかけ、慌てて闘技場のエルデリオンに戻す。

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

見事な自国の王子の勝ち様に、客席は立ち上がっての歓声を上げた。

戦っていた二人は剣を下げると、肩を抱き合って、互いの健闘を讃えた。
が、止まぬ歓声に、とうとうエルデリオンは振り向くと、腕を天へと突き出す。

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

さっきよりいっそう大きな歓声が沸き、レジィリアンスは目を見開いた。

けれど第二勝者が代わって中央に進みでた時、審判の騎士は貴賓席の、デルデロッテへと視線を投げる。

ロットバルトは後ろ端に座るデルデロッテに振り向き、レジィも思わず、斜め後ろのデルデロッテに振り向いた。

デルデロッテは少しも表情を変えず、短いため息を吐くと
「出番のようだ」
と呟き、上着を脱ぐと召使いから剣を手渡され、柄を掴んで立ち上がる。

戻り来るエルデリオンと入れ違いに、デルデロッテが階段を降りて行き…中央、対戦相手の待つ闘技場へと降り立った。

エルデリオンが横に座ろうとする時、レジィは彼を見た。
エルデリオンは、にっこり微笑んだけれど。
レジィはなんだか恥ずかしくって、頬染めて顔を背けてしまった。

エルデリオンは隣に腰掛けたけど、なんだか気まずい思いがして、レジィは自分がどうして素直に“素晴らしかったです”と告げられなかったのか。
自問した。

けれど背後では。
エウロペが腕組み、中央を見入る様子をラステルは見て、微笑む。
「…デルデロッテは実力を、簡単に曝してはくれませんよ?
時折り私が警戒するほど、周囲を欺く知恵者で、カンもいい」

エウロペはそう告げるラステルを、チラと見た。

カン…!
中央では互いに軽く、剣を合わせた後、両者は背後に引いた。

デルデロッテは相手よりも長身で、長い艶やかな濃い栗毛を散らし、剣を低く構える。
相手が剣を振り被り、振り下ろす剣を。
デルデロッテは軽く、頭を横に傾けける。

二度、三度。

ひょい。ひょいと避け、下げた剣はまだ上げない。

対戦相手はとうとう腹に据えかね、かっか来て思いっきり剣を、デルデロッテに向けて突き出した。
踏み出すデルデロッテは肩を掠るすれすれで避け、一瞬で剣を相手の喉元に突きつける。

あまりに鮮やかな勝ちざまに、場内は一瞬、静まり返り…。
その後、どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!

と、雪崩のような、驚嘆と感嘆の凄まじい歓声が湧き上がった。

エルデリオンはその歓声を耳にし、短いため息を吐くと、顔を少し、下げて揺らした。

レジィは思わず、そんなエルデリオンを見つめた。
エルデリオンは気づくと顔を上げ、目を合わせて微笑む。

「…私への歓声は、儀礼交じりだが。
デルデロッテへの歓声は、本物の賞賛」

レジィリアンスは、とりなそうとした。
“そんなこと…。
貴方だって、素晴らしかったです”

けれど分かりきってるようなエルデリオンの、微かな微笑混じりの横顔を見た時。
言えなかった…。

レジィの横で、ロットバルトが。
頷きながら、囁く。
「…まだ若年の頃のデルデロッテの、貴方の従者となる資格をかけた試合から。
観客達は、彼を見守ってる。
まだ少年だったデルデロッテは、破格の昇級にも怠けず。
良く腕を磨いたと、観客達は拍手喝采してるんです。
…貴方とは、状況が違う。
が、歓声に当然とうぬぼれず、自分を正当に評価するのは、良い事です」

レジィリアンスは横の、髭のいかつい風貌の、ロットバルトを見た。
ぱっと見、とても厳格そうで、威厳に満ちて…怖そうに見える。

けれど…褒めるところはちゃんと褒め、叱咤する時は誠意を持って叱咤する。
エウロペとは違ったけど…。
けれどとてもエルデリオンに愛情を持って、導こうとしてる心が感じられて。
つい、レジィはロットバルトとエルデリオンの、両方を交互に見つめた。

エルデリオンはロットバルトの言葉に感じた愛情を、微笑を浮かべ。
心の中で大切に抱き止めるように、頷いていた。

「…さて。
簡単に、済ませすぎたかな?」

いつの間にかデルデロッテが剣を持って、階段を上がりきり、戻って来ていて。
空いてるエウロペの横へ来ると、立ったまま呟く。

「流石に誰かさんに値踏みされそうで。
出来るだけ手の内を明かさず、勝ちたかった」

エウロペは立ったまま見下ろす、美丈夫の微笑から顔を背け、どっ!と腰下ろす、デルデロッテの体温を感じ、ぼやいた。

「…つまり、私に戦う姿を、見せたくなかった?」
デルデロッテは頷く。
「…ラステルと仲直りしてくれないと。
貴方を敵に回す事も、起こりかねないので」

エウロペは呆れた。
「…つまりどうしても、ラステルを許せと?」
けれどデルデロッテは、腕を組み前を向くと、ぼそりと言葉を返す。
「ご自由に」
「…君だって、ラステルのやり方には納得行ってないだろう?」

デルデロッテは、頷く。
「それでもラステルは無駄はしない。
理由があっての、計らいです」

デルデロッテに振り向かれ、美しい濃紺の、きらりと光る夜闇の瞳で見つめられ。
エウロペは、肩を竦めて腕組んだ。
後、横のラステルに振り向き、問う。

「君は別に、私に許されなくっても、気にもとめないだろう?」
ラステルは空色の瞳を見開く。
「そりゃ、許されなかったら、気になって夜も眠れません。
…なんて事までは、言いませんけれど。
許されれば誰だって嬉しいし、私だって嬉しいです」

けれどエウロペは“本当か?”と言う表情で、眉間を寄せた。

エルデリオンは背後から聞こえてきた会話で、“香媚薬の事だ”と察し、複雑な気分に成った。
レジィリアンスに乞われ、抱き合えたのは、最高に嬉しい出来事だった。

けれど…自分のせいじゃなく…媚薬のせい…。

エルデリオンはラステルに、感謝すべきか。
それとも怒るべきか。

また、悩みまくった。
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