森と花の国の王子

あーす。

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逢瀬

慌ただしい朝

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「…あの…」

ロットバルトが直ぐ立ち上がり、告げる。
「今日は、若年じゃくねんの騎士らの。
催し試合があるのを、忘れていらっしゃった?」

エルデリオンは一瞬、脳が真っ白になった。
デルデロッテはそれを見て、頷きながら言い放つ。
「綺麗に忘れてるご様子」

エルデリオンは迎えに来た二人に、尋ねる。
「もう遅い?」

ロットバルトとデルデロッテは、顔を見合わす。
ロットバルトがエルデリオンに、振り向いて言った。
「まだ少し、時間はございます。
が、それは仕度の時間で…」

デルデロッテも素早く、言葉を足す。
「食べながら仕度をしないと、間に合わない程度に、急ぐ必要があります」

エルデリオンは、困ってしまった。
けれど彼らに、隠し事は無理だと、経験で知っていたので、白状する。

「…実は昨夜、レジィリアンス殿がいらっしゃって…。
今、私の部屋にいるんだけど、足首を捻ってしまって。
それで、薬草を…」

デルデロッテが、公共の居間へと足早に歩き出しながら、素早く言った。
「では風呂で身を清めてる、時間は無い」
扉を開け、直ぐ召使いに湯を用意させるため、出て行く。

ロットバルトは直ぐ、小箪笥へ歩み寄ると、引き出しを開けて薬袋と巻き付ける布を取り出し、エルデリオンに手渡す。
「それで、急いで手当を。
歩けないようでしたら、レジィリアンス殿を彼の寝室まで運んで。
心配なら、エウロペ殿を呼んで頼むしか無いが、それは私がする。
貴方はレジィリアンス殿を送り届けた後、ここに戻って。
私の選ぶ衣服に直ぐ、着替えて下さい」

エルデリオンはロットバルトの勢いに、思わず押されて、頷いた。
そして慌てて、薬草を受け取ると、寝室に取って戻る。

レジィリアンスはガウンの胸元を、寄せていた。
エルデリオンは素早くレジィリアンスに屈み、赤く腫れた足首にそっと触れ、布を広げて薬草袋の塗り薬を、布に塗ろうとした。

が、レジィリアンスは囁く。
「薬草湿布は…お風呂の後に致します」

エルデリオンは顔を上げる。
「…では、失礼」
言って立ち上がり、レジィリアンスに屈むと。
レジィリアンスの背に腕を回し、もう片腕で両足さらい、一気に抱き上げた。

正直レジィリアンスは、昨夜あれ程密着し、激しく後腔を突かれたエルデリオンの胸に顔を寄せ、運ばれながら。
“正気に戻った朝…なのに。
こんな間近に、体温を感じるなんて…”
そう感じ、心臓が炙りまくって困った。

朝陽の中のエルデリオンは、色白で、とても端正で。
優しげなヘイゼルの瞳をしてたけど、凜として。
昨夜も感じたけど、引き締まった体付きで。
どうしても、意識して頬が染まる。

共同の居間を抜け、自分の寝室に入ると、まだカーテンが引かれ、薄暗かった。
寝台の上に下ろされ、少しほっとする。
エルデリオンが直ぐ、窓辺に寄ると、カーテンを開けた。
眩しい陽が差し込み、エルデリオンの色白な肌は、真っ白に光る。

戻って来ると、足元に屈む。
くじいた足首に、手で軽く触れ、顔を上げて見上げた後、立ち上がる。
「…人を、寄越します。
足元が危なければ、浴槽も滑る」

レジィリアンスは異論を唱えようとしたけど…エルデリオンの、言うとおりだった。
けれど共同の居間の僅か開いた扉が、コンコン…とノックされ、エルデリオンが即座に
「どうぞ」
と声をかけた途端、扉が開いて、ロットバルトが顔を出した。

不思議だったけれど、ロットバルトの落ち着いた大人な顔を見た途端、レジィは気持ちが、すぅっ…と落ち着いた。

「…デルデロッテが待ってる。
早々に、着替えて頂けますか?」
ロットバルトに言われ、エルデリオンは頷く。

が、直ぐデルデロッテも顔を出す。
「私は遅刻しても、大して影響は無いが。
エルデリオンは当然としても、貴方ロットバルトの姿が見えないのは問題だ。
ここは私が…」

けれどロットバルトは、直ぐ横に立つ長身のデルデロッテを見上げ、言葉を返す。
「…君もだろう?
今やオーデ・フォール中央王国一の剣豪と、名を馳せてるんだからな」

デルデロッテはロットバルトを見下ろし、肩を竦めた。
「宮廷の、ほんの一部の者が、私を持ち上げてるだけで。
オーデ・フォール中央王国も辺境に行けば、もっと強い騎士も大勢居る。
そんな、噂程度の実績じゃ、国の催し物で、重要視して貰えませんよ」

が、その時レジィリアンスの衣装部屋から、ノックの音。

レジィの座る寝台から離れ、言い争うロットバルトとデルデロッテの元に、行きかけたエルデリオン。
口論を止める、ロットバルトとデルデロッテ。
そして…寝台に腰掛けるレジィリアンス。

皆一斉に、扉に視線を送り、その後、皆がレジィを見た。

レジィリアンスは
「どなた?」
と、掠れた声で尋ねる。
返事は即座に帰って来た。

「エウロペです。
開けますよ」

全員がレジィに、拒否を命ずるよう目配せを送るさ中。

扉はさっさと開き、エウロペが姿を現した。
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