森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

晴れる暗雲

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 エルデリオンの存在を、横に座るラステルの向こうに感じ取り、食事の手の止まるレジィリアンスを目にした途端、ラステルは明るい声を張り上げる。

「さて、この少し先に今夜泊まる宿を手配してある。
レジィリアンス殿のお部屋には、今夜はエウロペ殿に泊まって頂いて…」

レジィリアンスは咄嗟、明るい表情をラステルに向け、その後エウロペを、嬉しそうに見た。
エルデリオンはそれを聞いた途端、暗い表情で顔を下げる。

けれどレジィリアンスは、ふ…と、そこまでは。
またエルデリオンと二人っきりで乗る、馬車で行くのだと気づき、一瞬でその表情から喜びを消し去る。

エルデリオンは嬉しそうな表情から一変。
暗く人形のような表情に沈むレジィリアンスを目にし、心が掻き毟られ、ラステルに頷く。

ラステルはレジィリアンスに笑顔で振り向くと
「乗馬はお出来になりますか?」
そう、屈託のない声で尋ねた。

聞かれた途端、レジィリアンスは驚いてラステルに振り向く。
「……出来ますけれど…私は捕虜でしょう?
そんな事したら…逃げるかもしれないと…警戒なさらないんですか?」

“捕虜”とレジィリアンスの口から聞かされ…エルデリオンは下げた顔を、ショックで揺らした。
けれどラステルは、おどけて空色の目を見開く。
「おや!
お逃げになるんですか?
エウロペ殿。その、御予定が?」

レジィリアンスに見つめられ、エウロペは水の入ったグラスを口元から下げ、言葉を返す。
「…王子がお望みなら、試してみますが。
どうします?」
とレジィリアンスに尋ね返す。

レジィリアンスは途端、連れて逃げて欲しそうな、切なげな表情をエウロペに向けた。
それを見たエウロペ始め、エリューンもテリュスも。
そしてデルデロッテ、ロットバルトですら、幼い少年王子の、頼りなく辛そうな様子に胸塞がれる。

エルデリオンがとうとう、口を開いた。
「…どうか…。
先ほどのような事は、貴方の了承が無い限り、二度と致しませんから…。
我が国に、招待されたとお考えになって…。
その…捕虜では無く。
客人として…いらっしゃっては、下さいませんか?」

掠れた声だったけれど、はっきりとした口調で。
間にラステルを挟んだ向こうから、レジィリアンスにそう告げる。

その返答に、ロットバルトもデルデロッテも顔を見合わせて頷き合い、ラステルはレジィリアンスを気遣うように見つめ、尋ねる。

「いかがです?
ご招待を、受けては頂けないでしょうか…。
我が国の王妃は貴方の母君とご懇意。
あなたの事を大変心配していらっしゃるので、きっといらして頂ければ、大喜び致します」

その言葉にレジィリアンスは表情を、暗雲が晴れたように晴れやかに変え、か細い小声で言葉を返す。
「あの…捕虜で無いのなら…。
私の…了承が無ければ…されないのであれば………。
御招待を…………」

その後の言葉を途切れさせ、まだ躊躇い、続けられないレジィリアンスに、エウロペは頷いて尋ねる。
「受けますか?」

レジィリアンスはこくん。と頷き、途端エリューンもテリュスも、笑顔を取り戻す。

ラステルはにっこりとレジィリアンスに微笑むと
「では我々が。
貴方が楽しんで頂けるよう、尽力致します。
さて。話はお終い。
お食事を続けて下さい。
育ち盛りですから、たくさん食べて頂かないと」

レジィリアンスは目前の、大好物のチーズの乗った蒸し野菜に視線を落とす。
スプーンを持ち上げると、テリュスもエリューンもが、食べ始めた。

エウロペはまた、皿を目前に置く。
やっぱり大好きな、グラタン…。

三人から、優しい気遣いと労りが包むように流れ込んで来る。
レジィリアンスは嬉しくて…涙が零れそうになった。

ふと気づくと…三人の他、隣のテーブルに座るエルデリオンの従者達からも。
労るような暖かい空気が流れ込んで来る。

レジィリアンスは思わず顔を上げ、斜め向かいのデルデロッテを見た。

彼は気づいた途端、振り向いてにっこり微笑む。
エリューン同様、一目で女性が見惚れてしまう程の、姿の美しい素敵な騎士だった。

夜闇のような濃紺の瞳が輝くと、とても綺麗だと、レジィリアンスは思った。
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