森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

温かい食事

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 レジィリアンスはつい、運ばれたワイングラスを口に運ぶ、隣テーブルに座るデルデロッテに視線を送る。
その後…まだ立ちすくんで俯く、エルデリオンを見た。

親しい相手に賛同を得られず、怒りをとても丁重な言葉と態度で示され、けれど冷たい視線にまだ、怯えてるみたいに見えて、再度デルデロッテをチラ…と見る。

「これ!
絶品ですよ?」

横のテリュスに皿を差し出されて、レジィリアンスはその料理を見る。
まるでお腹が減って無くて、香りですら分からず、感覚が麻痺してるように感じた。

けれど隣のテリュスが、美味しそうに料理を口に運ぶ様子を見て、少しずつ…スプーンで料理を突き、口に運び始める。

テリュスは途端、にっこり笑った。
鼻髭と顎髭で顔の殆どを隠してたけど。

少し垂れ目気味の、長い睫に囲まれた大きな青い瞳はチャーミングに見え、いつもおどけて、場の緊張を和らげてくれる。
陽気で気が良くて…そして心がとても温かい。
金に近い栗色巻き毛で、中肉中背。
童顔で女顔で親しみ易かったから、レジィリアンスは彼と大の仲良しだった。

レジィリアンスが食べ始めると、とても嬉しそうに…笑顔を向ける。
向かいに座るエリューンも、最初は心配げな顔を向けていたけれど。
食事するレジィリアンスを目にし、にこにこ微笑む。

エリューンは逃亡の旅の間中、いつも少女達に好かれ、時には女の子達に取り合いされて、毎度困ってた。
しょっ中それをネタにテリュスにからかわれ、むくれては…笑わせてくれる。
実際、女の子が惚れ込むような綺麗な顔立ちをした美青年で、すらりとした出で立ちで格好良くて。
レジィリアンスは穏やかで感じ良く、いつも控えめな彼も、大好きだった。

エウロペは時折り
「これも食べて。
しっかり食べないと、大きくなれません」
とさりげなく皿を前に置く。

けれど見るとそれは大好物の、チーズのたっぷり乗った蒸し野菜。

レジィリアンスは三人に囲まれ、まるで逃亡時代に戻った気がして、喜んで食べ始める。

ロットバルトはデルデロッテの横に腰掛け、ラステルが立ちすくむエルデリオンの背に手を当て、テーブルへと導く。

それでもレジィリアンス側には自分が座り、エルデリオンをその横に導き、レジィリアンスの瞳からエルデリオンの姿が見えないよう気遣い、防いだ。

エルデリオンは異を唱えようとしたけれど…。
ロットバルトとデルデロッテがジロリと見るので、大人しく椅子に座る。

隣のテーブルに座る艶を帯びて可憐なレジィリアンスを、一瞬気遣わしげにちらりと見やる。
が、料理の皿を目前に置かれても、デルデロッテの方を伺う。

気づいたデルデロッテは、低い声で囁いた。
「もう、怒っていませんよ。
気の毒な貴方にこれ以上、怒る事もできない」

「…気の毒?」

あれ程の思いをして手にいれた愛しいレジィリアンスが…彼の宝が。
今や隣のテーブルにいる。
意味を計りかね、エルデリオンは尋ねるようにデルデロッテを見た。
デルデロッテは顔をエルデリオンに向けないまま、口を開く。

「…摘んでしまった花の、散ってしまった花びらは…もう元には戻らない。永遠に」

その言葉には、エルデリオンを痛むような響きがあった。
……そして傷ついたレジィリアンスへの労りが。

その言葉は、ロットバルトとラステルの心にも響いた。
誰もが、噛みしめるように押し黙った。

皆の表情と、もう自分を見ようとしないデルデロッテを見、エルデリオンは、慌ててレジィリアンスの方に振り返る。

エルデリオンの視線を感じた途端。
レジィリアンスは反射的に、顔を背けた。

エルデリオンはそれを見て俯き、震える両手をテーブルの、上で組む。
心の芯が、がたがと震えた。

その時ようやくエルデリオンは自分が、取り返しがつかない事をしてしまったのだと、気づいた。

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