森と花の国の王子

あーす。

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宿屋での取り決め

心情を吐露するロットバルト

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 自分から顔を背けるレジィリアンスを目にした時。
ようやくエルデリオンに、事態の深刻さが分かり始めた。

「…あ…」
言い淀むエルデリオンに、ロットバルトは尚も怒鳴りつける。

「馬車からレジィリアンス殿の悲鳴が聞こえた時!
レジィリアンス殿の従者、エリューン殿が馬を進めて剣を抜きかけた。
デルデロッテが当然、それを止めた。
…けれど私は貴方を信じていた!
…誤解が生じ、貴方のなさっている事が、幼いレジィリアンス殿の理解が得られないと。
私は…」

ロットバルトは顔を下げ、一瞬悲痛な表情を見せる。
「殺気立つエウロペ殿を、諫めた。
貴方はちゃんと、配慮の出来るお方。
確かに…無体に同盟国に攻め入った、温情知らずと思われても致し方ない。
が、それはレジィリアンス殿を思う一途な心のため。
貴方はそれをレジィリアンス殿に…理解されるよう努力をなさるお方だと…」

ロットバルトのその言葉に感じ入ったのは、言われているエルデリオンではなく…周囲で聞いている者達だった。

テラスの吹き抜けの柱に、身を寄せるラステルも。
そして二人より少し離れて立つ、デルデロッテもが顔を下げ、大国の護衛らのそんな様子を、エウロペも。
そしてエリューンですら、気づいて心を寄せた。

ロットバルトの低い声は、今や静まり返る、広く粗末な食堂に響き渡る。

「…私の心情を察してくれたエウロペ殿は…。
今にも剣を抜きそうなエリューン殿に、静まるようにと制して下さった」

ため息交じりにそう告げた後、ロットバルトはエルデリオンをじっと見た。
それでも。
エルデリオンの瞳はまだどこか浮かれ…。
愛しい人を抱けた幸福感で、気もそぞろ。

ロットバルトの言葉に、どこか上滑りな返答を返す。
「…それは…感じていた。
つまり…」

言い訳を告げようとするエルデリオンに、ロットバルトはとうとうため息を吐き、顔を下げる。
が、言って聞かせなくては…このままではエルデリオンは、これ程の思いをして手に入れたレジィリアンスを、失うと分かっていたから。
心を鬼にする。

「…レジィリアンス殿は貴方に『お願い』と、何度言われました?
…貴方はそれを、幾度無視した?」

その時、エルデリオンの脳裏に突然、願いを無視されたレジィリアンスの信頼が…。
自分から滑り落ちていった事に…本当に突然、気づく。

「…レジィリアンス殿は…声を殺しながらも貴方に幾度も『お願い』と…。
必死に、懇願していらっしゃった。
…その度、貴方は聞き入れるだろうという期待を、私は裏切られ続けた。
あの方が何度それをおっしゃったか、貴方は気づいていただろうか?」

エルデリオンは顔を下げる。

レジィリアンスはその時、敵国の王子の護衛のその騎士の言葉に、思わず耳を傾けた。
自分の心を、労るような言葉を、主であるエルデリオンに告げるそのロットバルト

ロットバルトは静かに、言って聞かせる。
「四回。
その他の制止の言葉は、数え切れない」

…その声は、断罪を下すかのようで。
怒鳴られてる方がマシと、エルデリオンに思わせた。

けれど同時に…先ほどの。
甘やかで艶やかな…腕の中でのたうつレジィリアンスの、しどけなく愛おしい姿と、その感触が思い浮かぶと。
エルデリオンの心は、再び浮き立つ。

ロットバルトは若き王子が恋に浮かれ狂い、現実を認識出来ない様にまた、ため息を吐く。

「…私は今まで成長した貴方が、心から誇らしかった。
だが今日ほど……恥ずかしく情けない思いをした事はない。
…貴方の言う花嫁とは、そのお心など、要らぬのか?
腕に抱ければ、それで良いのか?
人形で、構わないとおっしゃるのか?!
…失礼ながら、そんなご様子では…。
貴方同様男性を花嫁とした、先代の国王の、足元にも及ばない。
敵の子息。
その相手の心を開かせ、信頼を築き、どれ程の努力で…かのお方は愛されたか。
貴方にそれは、出来はしない。
エルデリオン。
レジィリアンスは花嫁という名の、ただの捕虜だ。
そんな惨めな境遇で…彼は心の底から、貴方を愛すことは決して無い」

エルデリオンはその時、ロットバルトから…。
欲している相手に愛されない自分への、労りと同情、そして悲しみが…流れ込んで来るのを感じた。

けれどエルデリオンは、それでもまだ。
ロットバルトが思い描く未来を、無意識に否定していた。

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