森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
上 下
14 / 418
略奪

王城に乗り込む略奪者

しおりを挟む
 それは陽光が、中央より僅かに傾いた頃。

先頭に、中央王国〔オーデ・フォール〕の王子とみられる若者が。
大軍を背後に、威風を放って馬を操り、従者三名を直ぐ後ろに従え、城門を潜り来る。

その後ろから、負傷した森と花の王国〔シュテフザイン〕国王を乗せた馬車が、大勢の中央王国〔オーデ・フォール〕の兵に取り囲まれ、城門の中に入って来た。
更に馬車の後から中央王国〔オーデ・フォール〕の騎兵らが、続々と城門へ、馬を乗り入れる。

城門の内側でたたずむ森と花の王国〔シュテフザイン〕臣民らは、不安そうに大軍の兵が入り来るのを、物陰から伺った。

レジィリアンスと王妃は、広い玄関広間に続く大広間で、彼らが入ってくるのを待った。
石作りで出来た古風な、そして高窓や窓辺からしか陽の差さぬ、薄暗い室内。
母王妃は横に並んで立つ、少年王子の手をぎゅっ!と握りしめた。
エウロペは二人の背後に控え、敵の王子が姿を現すのを待つ。

賑わしい物音と共に、扉が開く。

開け放たれた扉の、光射す場から。
すらりとした、見事に均整の取れた体付きの、高貴で端正な面立ちをした色白の貴公子が入って来る。

隙無い動作。
が、戦の最中だと言うのに金の刺繍の入った、コバルトブルーの豪奢な衣装を宝石で飾り立て、優雅に身にまとっていた。
髪は額の真ん中で分け、さらりと肩へと滑る、明るい栗毛。
毛先に行くにつれ濃い栗毛で、毛先は僅かにカールしていた。
理知的に見える、ヘイゼル(くすんだ黄緑色)の瞳。
静かな、けれど威圧ある態度。

レジィリアンスは陽光に浮かび上がるその人物の顔に見覚えがあり、はっ!として目を見開く。

“あの…お方だ…!”

いつか従者にせがんで森に連れて行ってもらい、剣の稽古をしていた時に現れた、あの人。

「(…中央王国〔オーデ・フォール〕の、王子だったなんて……!)」

確かに無頼の剣士にしては、並々ならぬ気品を漂わせていた。
ふいに侍従の目から隠れ、口づけられたあの唇の感触が、僅かに蘇る。

“たったそれだけ…。
それだけの出会いで、まさか領地に攻め入り、父様を負傷させるだなんて…!”

レジィリアンスは母王妃が、痛いほどぎゅっ!と手を握りしめるのを感じ、必死に平静を取り戻そうと試みる。

中央王国〔オーデ・フォール〕の王子エルデリオンは、薄暗い大広間の横端に立つ、王妃と王子に視線を向け、のち真っ直ぐ、レジィリアンスを見た。

その時、端に控える両国の従者の、誰もが気づく。
喜びに輝くエルデリオンとは対照的に、金の波打つ美しい髪に覆われた頭を少し下げ、俯く綺麗で愛らしいレジィリアンスの、顔は蒼白。

が、エルデリオンはそんな事に一切注意を払わず、思い描いていた甘く、可憐な恋い焦がれた美少年を目前に、ため息をつかんばかりにレジィリアンスに見惚れていた。

暗い室内。
高窓から差し込む光に浮かび上がる、レジィリアンスの姿は。
ほっそりと可憐で、天使のようにエルデリオンの目に映った。

レジィリアンスは白い、金と銀の刺繍が縫い込まれた上着を着ていた。
金の波打つ髪を肩に散らせ、白い肌にピンクの小さな唇が、それでも誘うようにエルデリオンの目を捕らえる。

顔を下げるレジィリアンスの背後でエウロペは、じっ…と略奪者を観察する。
エルデリオンはとても高貴で上品な青年に見えた。
が、エウロペは静かに彼を、伺うように。
探るように見つめる。

エルデリオンの背後に立つデルデロッテは、森と花の王国〔シュテフザイン〕王子の侍従の様子に気づき、視線を向ける。
が、エウロペはデルデロッテの視線に気づく様子を見せず、彼の注意はひたすらエルデリオンに注がれていた。

エルデリオンはゆっくり、レジィリアンスの前に立つ。
待ち焦がれた。
心から望んだこの瞬間。

エルデリオンは急く心を諫め、努めてレジィリアンスに好感を持って貰えるよう、紳士的に告げる。
「お話は、もう聞いていらっしゃるでしょうか?」

…よく響く、よどみない声。
が、レジィリアンスはその声を聞いた途端、泣き出しそうだった。
けれど必死に、感情をこらえる。

…端で見ている者全てに解るほど、この可愛らしい少年は震えていた。

エウロペは駆け寄って、今にもふらつきそうな華奢なレジィリアンスの背を支えようかと、顔を上げたほど。
が、レジィリアンスは必死に自分を保ち、その愛らしくあどけないピンクの唇を開く。

「…ええ」

レジィリアンスの気落ちし、怯えた小さなウサギのような姿を目にし、エルデリオンは悲しそうに囁く。
「…あなたのお父上には、大変申し訳ないことをいたしました。
まさか矢の前に、飛び込んでいらっしゃるなんて…。
すぐ、手当をさせていただきました」

それだけ告げると、少しほっとした様子をレジィリアンスは見せたので、エルデリオンは再び、愛らしく美しい王子を迎える事が出来て、幸福そのものの笑顔を向ける。

ラステルが背後から抜け出ると、エルデリオンに近づきかけ、エルデリオンはその靴音に気づいて慌てて振り向くと、ラステルに頷き返す。
ラステルは背後の部下らに、王を運び入れるよう指示を出す。

ほどなく、艶やかな紫色の光沢あるふかふかの布団を戸板に乗せ、布団の上に横たわる王が、運ばれて来る。
レジィリアンスの背後に立つ王妃が、声も無く駆け寄る。

「父様…!」
レジィリアンスも直ぐ、目前のエルデリオンに背を向け、駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

奴隷騎士のセックス修業

彩月野生
BL
魔族と手を組んだ闇の軍団に敗北した大国の騎士団。 その大国の騎士団長であるシュテオは、仲間の命を守る為、性奴隷になる事を受け入れる。 軍団の主力人物カールマーと、オークの戦士ドアルと共になぶられるシュテオ。 セックスが下手くそだと叱責され、仲間である副団長コンラウスにセックス指南を受けるようになるが、快楽に溺れていく。 主人公 シュテオ 大国の騎士団長、仲間と国を守るため性奴隷となる。 銀髪に青目。 敵勢力 カールマー 傭兵上がりの騎士。漆黒の髪に黒目、黒の鎧の男。 電撃系の攻撃魔術が使える。強欲で狡猾。 ドアル 横柄なオークの戦士。 シュテオの仲間 副団長コンラウス 金髪碧眼の騎士。女との噂が絶えない。 シュテオにセックスの指南をする。 (誤字脱字報告不要。時間が取れる際に定期的に見直してます。ご報告頂いても基本的に返答致しませんのでご理解ご了承下さいます様お願い致します。申し訳ありません)

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

処理中です...