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略奪
王城に乗り込む略奪者
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それは陽光が、中央より僅かに傾いた頃。
先頭に、中央王国〔オーデ・フォール〕の王子とみられる若者が。
大軍を背後に、威風を放って馬を操り、従者三名を直ぐ後ろに従え、城門を潜り来る。
その後ろから、負傷した森と花の王国〔シュテフザイン〕国王を乗せた馬車が、大勢の中央王国〔オーデ・フォール〕の兵に取り囲まれ、城門の中に入って来た。
更に馬車の後から中央王国〔オーデ・フォール〕の騎兵らが、続々と城門へ、馬を乗り入れる。
城門の内側でたたずむ森と花の王国〔シュテフザイン〕臣民らは、不安そうに大軍の兵が入り来るのを、物陰から伺った。
レジィリアンスと王妃は、広い玄関広間に続く大広間で、彼らが入ってくるのを待った。
石作りで出来た古風な、そして高窓や窓辺からしか陽の差さぬ、薄暗い室内。
母王妃は横に並んで立つ、少年王子の手をぎゅっ!と握りしめた。
エウロペは二人の背後に控え、敵の王子が姿を現すのを待つ。
賑わしい物音と共に、扉が開く。
開け放たれた扉の、光射す場から。
すらりとした、見事に均整の取れた体付きの、高貴で端正な面立ちをした色白の貴公子が入って来る。
隙無い動作。
が、戦の最中だと言うのに金の刺繍の入った、コバルトブルーの豪奢な衣装を宝石で飾り立て、優雅に身にまとっていた。
髪は額の真ん中で分け、さらりと肩へと滑る、明るい栗毛。
毛先に行くにつれ濃い栗毛で、毛先は僅かにカールしていた。
理知的に見える、ヘイゼル(くすんだ黄緑色)の瞳。
静かな、けれど威圧ある態度。
レジィリアンスは陽光に浮かび上がるその人物の顔に見覚えがあり、はっ!として目を見開く。
“あの…お方だ…!”
いつか従者にせがんで森に連れて行ってもらい、剣の稽古をしていた時に現れた、あの人。
「(…中央王国〔オーデ・フォール〕の、王子だったなんて……!)」
確かに無頼の剣士にしては、並々ならぬ気品を漂わせていた。
ふいに侍従の目から隠れ、口づけられたあの唇の感触が、僅かに蘇る。
“たったそれだけ…。
それだけの出会いで、まさか領地に攻め入り、父様を負傷させるだなんて…!”
レジィリアンスは母王妃が、痛いほどぎゅっ!と手を握りしめるのを感じ、必死に平静を取り戻そうと試みる。
中央王国〔オーデ・フォール〕の王子エルデリオンは、薄暗い大広間の横端に立つ、王妃と王子に視線を向け、後真っ直ぐ、レジィリアンスを見た。
その時、端に控える両国の従者の、誰もが気づく。
喜びに輝くエルデリオンとは対照的に、金の波打つ美しい髪に覆われた頭を少し下げ、俯く綺麗で愛らしいレジィリアンスの、顔は蒼白。
が、エルデリオンはそんな事に一切注意を払わず、思い描いていた甘く、可憐な恋い焦がれた美少年を目前に、ため息をつかんばかりにレジィリアンスに見惚れていた。
暗い室内。
高窓から差し込む光に浮かび上がる、レジィリアンスの姿は。
ほっそりと可憐で、天使のようにエルデリオンの目に映った。
レジィリアンスは白い、金と銀の刺繍が縫い込まれた上着を着ていた。
金の波打つ髪を肩に散らせ、白い肌にピンクの小さな唇が、それでも誘うようにエルデリオンの目を捕らえる。
顔を下げるレジィリアンスの背後でエウロペは、じっ…と略奪者を観察する。
エルデリオンはとても高貴で上品な青年に見えた。
が、エウロペは静かに彼を、伺うように。
探るように見つめる。
エルデリオンの背後に立つデルデロッテは、森と花の王国〔シュテフザイン〕王子の侍従の様子に気づき、視線を向ける。
が、エウロペはデルデロッテの視線に気づく様子を見せず、彼の注意はひたすらエルデリオンに注がれていた。
エルデリオンはゆっくり、レジィリアンスの前に立つ。
待ち焦がれた。
心から望んだこの瞬間。
エルデリオンは急く心を諫め、努めてレジィリアンスに好感を持って貰えるよう、紳士的に告げる。
「お話は、もう聞いていらっしゃるでしょうか?」
…よく響く、よどみない声。
が、レジィリアンスはその声を聞いた途端、泣き出しそうだった。
けれど必死に、感情をこらえる。
…端で見ている者全てに解るほど、この可愛らしい少年は震えていた。
エウロペは駆け寄って、今にもふらつきそうな華奢なレジィリアンスの背を支えようかと、顔を上げたほど。
が、レジィリアンスは必死に自分を保ち、その愛らしくあどけないピンクの唇を開く。
「…ええ」
レジィリアンスの気落ちし、怯えた小さなウサギのような姿を目にし、エルデリオンは悲しそうに囁く。
「…あなたのお父上には、大変申し訳ないことをいたしました。
まさか矢の前に、飛び込んでいらっしゃるなんて…。
すぐ、手当をさせていただきました」
それだけ告げると、少しほっとした様子をレジィリアンスは見せたので、エルデリオンは再び、愛らしく美しい王子を迎える事が出来て、幸福そのものの笑顔を向ける。
ラステルが背後から抜け出ると、エルデリオンに近づきかけ、エルデリオンはその靴音に気づいて慌てて振り向くと、ラステルに頷き返す。
ラステルは背後の部下らに、王を運び入れるよう指示を出す。
ほどなく、艶やかな紫色の光沢あるふかふかの布団を戸板に乗せ、布団の上に横たわる王が、運ばれて来る。
レジィリアンスの背後に立つ王妃が、声も無く駆け寄る。
「父様…!」
レジィリアンスも直ぐ、目前のエルデリオンに背を向け、駆け出した。
先頭に、中央王国〔オーデ・フォール〕の王子とみられる若者が。
大軍を背後に、威風を放って馬を操り、従者三名を直ぐ後ろに従え、城門を潜り来る。
その後ろから、負傷した森と花の王国〔シュテフザイン〕国王を乗せた馬車が、大勢の中央王国〔オーデ・フォール〕の兵に取り囲まれ、城門の中に入って来た。
更に馬車の後から中央王国〔オーデ・フォール〕の騎兵らが、続々と城門へ、馬を乗り入れる。
城門の内側でたたずむ森と花の王国〔シュテフザイン〕臣民らは、不安そうに大軍の兵が入り来るのを、物陰から伺った。
レジィリアンスと王妃は、広い玄関広間に続く大広間で、彼らが入ってくるのを待った。
石作りで出来た古風な、そして高窓や窓辺からしか陽の差さぬ、薄暗い室内。
母王妃は横に並んで立つ、少年王子の手をぎゅっ!と握りしめた。
エウロペは二人の背後に控え、敵の王子が姿を現すのを待つ。
賑わしい物音と共に、扉が開く。
開け放たれた扉の、光射す場から。
すらりとした、見事に均整の取れた体付きの、高貴で端正な面立ちをした色白の貴公子が入って来る。
隙無い動作。
が、戦の最中だと言うのに金の刺繍の入った、コバルトブルーの豪奢な衣装を宝石で飾り立て、優雅に身にまとっていた。
髪は額の真ん中で分け、さらりと肩へと滑る、明るい栗毛。
毛先に行くにつれ濃い栗毛で、毛先は僅かにカールしていた。
理知的に見える、ヘイゼル(くすんだ黄緑色)の瞳。
静かな、けれど威圧ある態度。
レジィリアンスは陽光に浮かび上がるその人物の顔に見覚えがあり、はっ!として目を見開く。
“あの…お方だ…!”
いつか従者にせがんで森に連れて行ってもらい、剣の稽古をしていた時に現れた、あの人。
「(…中央王国〔オーデ・フォール〕の、王子だったなんて……!)」
確かに無頼の剣士にしては、並々ならぬ気品を漂わせていた。
ふいに侍従の目から隠れ、口づけられたあの唇の感触が、僅かに蘇る。
“たったそれだけ…。
それだけの出会いで、まさか領地に攻め入り、父様を負傷させるだなんて…!”
レジィリアンスは母王妃が、痛いほどぎゅっ!と手を握りしめるのを感じ、必死に平静を取り戻そうと試みる。
中央王国〔オーデ・フォール〕の王子エルデリオンは、薄暗い大広間の横端に立つ、王妃と王子に視線を向け、後真っ直ぐ、レジィリアンスを見た。
その時、端に控える両国の従者の、誰もが気づく。
喜びに輝くエルデリオンとは対照的に、金の波打つ美しい髪に覆われた頭を少し下げ、俯く綺麗で愛らしいレジィリアンスの、顔は蒼白。
が、エルデリオンはそんな事に一切注意を払わず、思い描いていた甘く、可憐な恋い焦がれた美少年を目前に、ため息をつかんばかりにレジィリアンスに見惚れていた。
暗い室内。
高窓から差し込む光に浮かび上がる、レジィリアンスの姿は。
ほっそりと可憐で、天使のようにエルデリオンの目に映った。
レジィリアンスは白い、金と銀の刺繍が縫い込まれた上着を着ていた。
金の波打つ髪を肩に散らせ、白い肌にピンクの小さな唇が、それでも誘うようにエルデリオンの目を捕らえる。
顔を下げるレジィリアンスの背後でエウロペは、じっ…と略奪者を観察する。
エルデリオンはとても高貴で上品な青年に見えた。
が、エウロペは静かに彼を、伺うように。
探るように見つめる。
エルデリオンの背後に立つデルデロッテは、森と花の王国〔シュテフザイン〕王子の侍従の様子に気づき、視線を向ける。
が、エウロペはデルデロッテの視線に気づく様子を見せず、彼の注意はひたすらエルデリオンに注がれていた。
エルデリオンはゆっくり、レジィリアンスの前に立つ。
待ち焦がれた。
心から望んだこの瞬間。
エルデリオンは急く心を諫め、努めてレジィリアンスに好感を持って貰えるよう、紳士的に告げる。
「お話は、もう聞いていらっしゃるでしょうか?」
…よく響く、よどみない声。
が、レジィリアンスはその声を聞いた途端、泣き出しそうだった。
けれど必死に、感情をこらえる。
…端で見ている者全てに解るほど、この可愛らしい少年は震えていた。
エウロペは駆け寄って、今にもふらつきそうな華奢なレジィリアンスの背を支えようかと、顔を上げたほど。
が、レジィリアンスは必死に自分を保ち、その愛らしくあどけないピンクの唇を開く。
「…ええ」
レジィリアンスの気落ちし、怯えた小さなウサギのような姿を目にし、エルデリオンは悲しそうに囁く。
「…あなたのお父上には、大変申し訳ないことをいたしました。
まさか矢の前に、飛び込んでいらっしゃるなんて…。
すぐ、手当をさせていただきました」
それだけ告げると、少しほっとした様子をレジィリアンスは見せたので、エルデリオンは再び、愛らしく美しい王子を迎える事が出来て、幸福そのものの笑顔を向ける。
ラステルが背後から抜け出ると、エルデリオンに近づきかけ、エルデリオンはその靴音に気づいて慌てて振り向くと、ラステルに頷き返す。
ラステルは背後の部下らに、王を運び入れるよう指示を出す。
ほどなく、艶やかな紫色の光沢あるふかふかの布団を戸板に乗せ、布団の上に横たわる王が、運ばれて来る。
レジィリアンスの背後に立つ王妃が、声も無く駆け寄る。
「父様…!」
レジィリアンスも直ぐ、目前のエルデリオンに背を向け、駆け出した。
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