森と花の国の王子

あーす。

文字の大きさ
上 下
5 / 418
大国の王子エルデリオンのいらだち

エルデリオンの決心

しおりを挟む
 “勧告”したにも関わらず。
森と花の王国〔シュテフザイン〕からの返答は
『聞けませぬ』

王子はその返答のしたためられた羊皮紙を、両手で端を持ち、広げて目前に立つ王と王妃に、突きつけるように見せつける。
そして低い声で告げた。

「これではもう、いくさしかありません」

王妃は叫びそうに成りながら、何とか声を堪えた。
そして横に立つ王の横顔を、縋るように見つめる。

が、髭を生やし、気品と威厳に包まれた王は沈黙したまま、顔を俯け囁く。

「…言ったように…」
「死人は出しません」

きっぱり言い切るエルデリオンの返答に、背後。
扉近くで控えていた王子の従者、ラステルがため息を漏らした。

けれどエルデリオンは決然と両親に背を向け、扉近くの三人の従者らに、歩み寄る。

「我が国に一番近い領地を攻める。
怪我人を出さず占領する作戦を立ててくれ」

いつも陽気で爽やかな若者、ラステルが項垂れて頷き、横のロットバルトがそんなラステルを、気の毒そうに見た。

デルデロッテだけが無言で。
扉を控えの者に開けられ、靴音鳴らし出て行くエルデリオンの、その背に続いた。

やがて二週間の準備期間にラステルは偵察隊からの連絡を受け、周囲の地形を確認、石壁で覆われた領地内にある、領主の居城の潜入方法を詳細まで検討し、とうとうエルデリオンに
「計画が出来上がりました」
と告げる。

エルデリオンは準備の間中、ひっきりなしにラステルの元を訪れては進行状況を聞き、戦に必要な物を掻き集めるため、城内を文字道理、駆け回った。

常に付き従うロットバルトもデルデロッテもが。
日に日に頬が削げ、顔付きが鋭くなるエルデリオンの様子に戸惑う。

年上のロットバルトが、期を見て尋ねる。
「昨夜は、良くお眠りで?」

が、エルデリオンは気もそぞろ。
「…夜明け近くに、少し眠れた」
年上の重臣、従者の心配にそう答える。

横でとりすました美丈夫、デルデロッテに頷かれ、濃い栗毛の鼻髭を生やし、威厳すら滲ませる一番年上の従者、ロットバルトは尚も問う。
「お食事は、十分されていますか?」

しかしエルデリオンは口ごもった。
が、じっと見つめる、年少の時からずっと側で仕え、面倒見てくれた年上の男達に心配かけまいと、慌てて呟く。
「腹は膨れてる。
空腹ではないから、大丈夫だ」

ロットバルトは困惑し、デルデロッテはため息を吐く。
そしてやっと、ロットバルトに口を開かせず、デルデロッテは自身の言葉で告げた。

「ロットバルトは『お食べになったのか?』と聞いたんです。
今現在空腹かとは、聞いてない。
それは返事に、なっていません」

エルデリオンは指摘されて頬を染め、俯いて誤魔化そうと試みる。
が、それより先に、デルデロッテにきっぱり言われた。

「…これから同盟国に戦を仕掛けようとなさる張本人が。
眠れもせず食べもせずで、兵らの士気が上がるとお思いですか?」

エルデリオンはデルデロッテを見た。
子供の頃…大人の召使いや教師にばかり囲まれていた。
そんな時、城内に迷い込んだ少し年上のデルデロッテと出会って以来。
彼はかけがえのない唯一、年の近い友人であり、色々な事を教えてくれる、師でもあった。

顔を下げると、少しすねたように呟く。
「…これからは、ちゃんと食べて睡眠を取る」

デルデロッテに頷かれ、ようやく彼らの心配から解放されたように。
エルデリオンは兵の宿舎まで出向き、出撃の準備に足りない物は無いかと、聞いて回り始めた。

「じっと、してられないようだな」
ロットバルトの言葉に、デルデロッテは表情を変えず頷く。
「当然だ。
同盟国に剣を向けるんだからな」

ロットバルトはデルデロッテの言葉に、改めて項垂れる。
「ラステルが苦労してる」
「するだろうさ。
同盟国に侵攻し、王子を略奪する計画中なら」

二人は改めて、兵を捕まえては、備蓄の食料やら移動のための馬の手配を隊長に問い正す、血走った目を兵らに向けるエルデリオンの横顔を見つめた。

「お人が変わられた。
この恋は、良くない」
「良い訳無い」

そっけなく断罪する長身のデルデロッテを、ロットバルトは見上げる。
がそんなデルデロッテの整いきった顔の上、さえも。

エルデリオンを心配する表情が、浮かんでいた。

 その一週間後。
一番近い森と花の王国〔シュテフザイン〕の領地に、ラステルの作戦通り、王子の配下らは夜間に忍び入り、こっそり領主の城に潜り込むと寝込みを襲い、人質に取った。

そして城門を開けさせ、中央王国〔オーデ・フォール〕の兵らを入れて、領地を乗っ取った。

たちまち知らせは森と花の王国〔シュテフザイン〕の王の元に届き、王は大国オーデ・フォール中央王国の無体なマネに激怒。
再び『王子を花嫁に』の申し出を受け取ったものの、これを断固、拒否した。

デルデロッテとそして、ラステルとロットバルトは再び、歯ぎしりして悔しがる、普段は大人しく穏やかなエルデリオンの、恋に狂った横顔を見つめる。

「この先の領地も同様、襲撃して攻め落とす!」

エルデリオンの言葉に、ラステルは静かに言い諭す。
「けれどエルデリオン。
一度は不意が突けても、二度目も同様にはいきますまい」

エルデリオンは静かに。
けれどきっぱり言葉を返す。

「相手が王子を差し出すまで。
戦を止めるつもりはない…!」

とうとう、今まで表情を変えぬ不動のデルデロッテまでもが、深いため息を吐く。

ラステルは相手が、護りを固める前に行動しなくては成らず、不眠不休で隣領地の地図を見つめ、潜入口を探し当てては配下に作戦を携え、直ぐ様陣取った城から、隣領地に攻め入るために騎乗し、駆け出して行った。

が、直ぐ城に伝令が走る。

「王が…!
森と花の王国〔シュテフザイン〕の王自ら、領地奪回のため、出陣されており…!
これから奪おうとする隣領地に兵を進めれば、王の軍と激突します…!」

エルデリオンは既に騎乗し、隣領地に兵を進めようとして…躊躇う。
が、手を振り上げて叫ぶ。

「進軍しろ!
森と花の王国〔シュテフザイン〕の王軍と出会った時!
再び直接、返事を聞く…!
が、肝に銘じろ!
威嚇だけだ!
敵に怪我人が出るのは、致し方ない!
が、死者を出すのは決して許さん!」

これから戦になると言うのに、その呆れた命令に。
兵達がため息を吐きながらも、槍や剣を携え、馬を進める様子を。

デルデロッテはエルデリオンの背後で、見守った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

奴隷騎士のセックス修業

彩月野生
BL
魔族と手を組んだ闇の軍団に敗北した大国の騎士団。 その大国の騎士団長であるシュテオは、仲間の命を守る為、性奴隷になる事を受け入れる。 軍団の主力人物カールマーと、オークの戦士ドアルと共になぶられるシュテオ。 セックスが下手くそだと叱責され、仲間である副団長コンラウスにセックス指南を受けるようになるが、快楽に溺れていく。 主人公 シュテオ 大国の騎士団長、仲間と国を守るため性奴隷となる。 銀髪に青目。 敵勢力 カールマー 傭兵上がりの騎士。漆黒の髪に黒目、黒の鎧の男。 電撃系の攻撃魔術が使える。強欲で狡猾。 ドアル 横柄なオークの戦士。 シュテオの仲間 副団長コンラウス 金髪碧眼の騎士。女との噂が絶えない。 シュテオにセックスの指南をする。 (誤字脱字報告不要。時間が取れる際に定期的に見直してます。ご報告頂いても基本的に返答致しませんのでご理解ご了承下さいます様お願い致します。申し訳ありません)

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

処理中です...