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第31話 『勝利! フクロウ警部』

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参上! 怪盗イタッチ



第31話
『勝利! フクロウ警部』



 お酢によりイタッチが無力になる。残ったのはダッチのみ。イタッチは大ピンチだが、まだまだチャンスはある。
 警官側も今はフクロウ警部しかいない。

 時間をかければ、ネコ刑事達も戻ってくる。だが、その前にお宝を盗み出して逃げれば良い。

「ッチ。相棒はそこで休んでろ。今回は俺がこのフクロウをぶっ倒してやるよ」

 ダッチは刀を抜き、戦闘体制になる。

「お前さえ拘束すれば、イタッチも簡単に捕まる。ふふふ、ついに俺の夢が実現する時が来た……」

 フクロウ警部はガラスケースの裏に隠していた竹刀を取り出す。竹刀を握りしめるフクロウ警部を見て、ダッチは笑い出す。

「刀に竹刀で挑む気か? 俺を舐めるなよぉ、フクロウ!!」

「舐めてなどいない。警視庁で鍛え上げた俺の技、チンピラには遅れはとらんさ」

「あぁ? 誰がチンピラだぁぁ!!」

 ダッチは刀を振り上げて、フクロウ警部に突撃する。ダッチの瞬発力にフクロウ警部は目を丸くする。
 決してフクロウ警部はダッチを下に見ていたわけではない。だが、

「甘いわ!!」

 フクロウ警部はダッチの刀を弾き、ダッチの喉に突きを喰らわす。
 ダッチは刀を投げ出し、後方へと倒れた。

「グハァッ!?」

「その辺のやつじゃお前には勝てないだろう。それにイタッチといることで少しずつ成長もしてる。だが、まだまだ弱い!!」

「俺が……弱いだとぉ」

 ダッチは喉を抑えながら立ち上がり、刀を拾う。たった一撃であったが急所を狙った攻撃、ダッチは息は荒くなる。

 フクロウ警部は竹刀を振ってみせる。すると、風を切る音がまるで楽器が奏でた音のように滑らかに響く。

「潜在能力であれば、俺よりもお前の方が上だろう。だが、俺はイタッチを捕まえるために努力し続けた。努力をしない天才と努力をした凡人、それが俺とお前の差だ」

 ダッチは目を見開き、歯を食いしばる。

「俺が努力してないだぁ? 誰よりも努力した、親父認められようと、組織の仲間に信じてもらおうと、俺を否定するんじゃねぇぇぇ!!!!」

 ダッチは乱暴に刀を振り回して、フクロウ警部に襲いかかる。しかし、全ての攻撃をフクロウ警部に防がれる。
 フクロウ警部とは武器としての質が全く違う。それなのにダッチの刀を届くことすらなかった。

 やがてダッチは刀を下ろし、攻撃を諦める。そんな様子にフクロウ警部は語りかける。

「俺はお前に剣で負かしたいわけじゃない。おまえを更生させたいんだ」

「俺を更生……だ?」

「今日イタッチは捕まる。そうすれば、アンちゃんも君も泥棒を続ける必要はないだろう。我々が君たちを保護する。アンちゃんのためにもなるし、四神に関してはまだ考えきれてないが、悪いようにはしない。元々悪さをするのは一部の構成員だけだったしな」

 フクロウ警部は竹刀の先をダッチに向けた。

「君たちにはまだ成長の余地がある。今の君は成長途中だ……それに……この先君は足手まといにな……る……」

 フクロウ警部は最後の部分は徐々に声が小さくなる。

 ダッチを更生させたいというのも事実だ。だが、それ以上の本心は最後の部分であった。
 フクロウ警部は長年イタッチを追いかけて、そうしていく中でイタッチに憧れを抱いていた。
 そしてイタッチの仲間となったダッチ。彼を見ていて、ずっと不安があった。彼はまだ成長できていない。

 イタッチもそれを分かって、ダッチといるのだろう。

「テメェにゃ、関係ねぇだろ」

 ダッチは刀を構え直して言い放つ。フクロウ警部は「ああ……」と小さく頷いた。

「関係ない話だったな。忘れてくれ……。さて、君達を逮捕しよう!!」

 フクロウ警部は竹刀を構える。ダッチは呼吸を整えると、刀を横にする。

「捕まってたまっかよ……俺もコイツもまだ道の途中だ」

 そして小刻みに刀を揺らす。

「この技か……」

 ダッチが刀を揺らし始めると、フクロウ警部はすかさずにダッチに距離を詰める。そして音波を出させる前に、ダッチに竹刀を振り下ろした。
 ダッチは攻撃されたことで、攻撃を中断して防御をする。
 フクロウ警部の竹刀は刀に防がれるが、フクロウ警部はすぐに持ち方を変えて、次の攻撃に切り替える。そしてダッチの反応速度を超えて、ダッチの腹に突きを当てた。
 ダッチの身体は後方へ吹き飛び、扉の前で倒れているイタッチの横で倒れる。

 フクロウ警部は竹刀を肩に乗せてポーズを取った。

「その技は弱点が多い。そう、俺ですら破れるレベルにな」

「く、クソが……フクロウがぁ」

 ダッチは刀を杖代わりにして立ちあがろうとする。しかし、想像以上にダメージがでかい。
 ふらふらと倒れそうになると、そこから腕が伸びてきてダッチの身体を支えた。

「相……棒…………」

「ダッチ。お前が頑張ってるんだ……俺も倒れてるわけにはいかない」

「……っけ、寝てれば良いのによ」

 イタッチとダッチはお互いふらふらになりながらも、肩を組んで支え合う。そうすることで一人では倒れてしまいそうな二人がだ。
 どうにか立ち上がることができた。

 そんな二人の光景にフクロウ警部は目をうるうるとさせる。

「うう、友情だのぉ…………。だが、俺も長年の夢がある。イタッチ……俺はお前の……ッ!!」

 フクロウ警部は竹刀を投げ捨てて、両手に手錠を手にする。

「俺はお前の目的が知りたい!! なぜ、あの時俺を救った、なぜ俺を盗んだ!!」

 フクロウ警部は両手の手錠を回転させる。そしてそのまま突撃してくる。
 このままだとフクロウ警部に捕まってしまう。

 イタッチはマントから折り紙を取り出すと、

「ダッチ、手伝ってくれ」

「ああ……」

 二人で協力して折り紙を折る。そして

「「巨大花火だ、吹き飛べェ!!」」

 巨大な花火玉を作った。その花火玉をフクロウ警部に投げつけると、大爆発。カラフルな火花が美術館を飾った。



 ⭐︎⭐︎⭐︎


「けぇぇぶ!! 無事ですか!? 警部!!」

 騒ぎを聞きつけたネコ刑事とコン刑事が遅れて、フクロウ警部達がいた部屋へとやってくる。
 まだ爆煙が残っているが、そこにはイタッチとダッチの姿、そしてお宝がない。

「いたっす! フクロウ警部っす!!」

 コン刑事が真っ黒くなっているフクロウ警部を発見。水をかけて元の色に戻す。
 水をかけられると、フクロウ警部は意識を取り戻して周囲を見渡した。そしてお宝がなくなっていることに気づく。

「また逃げられたか……」

「ですね。また逃げられましたか」

「はぁ、また始末書か~」

 フクロウ警部が落ち込んでいると、コン刑事が盗まれたお宝が入っていたガラスケースの中に何かあるのを発見する。

「これって……。警部、これ見てくださいっす!」

「なんだ?」

 フクロウ警部が立ち上がり、コン刑事からそれを受け取る。それは赤い折り紙に包まれた手紙。
 フクロウ警部はそれを読むと、フルフルと身体を震わせた。

「ふざけたやつだ……。本当に…………」

 そんなフクロウ警部の姿を見て、ネコ刑事とコン刑事は首を傾げる。

「なんすか、何が書いてあるんすか?」

「僕達にも見せてください」

 二人が手紙を覗き込もうとする。だが、フクロウ警部は中身を見られる前に手紙をビリビリに破いた。

「「あぁぁぁぁっ!!」」

「良いだろう。いつか貴様を逮捕してやる」



 ⭐︎⭐︎⭐︎



 騒ぎの起きた美術館から、数十メートル離れた路地裏。イタッチとダッチはどうにかここまで逃げ出した。
 ふらふらと二人が肩を組んで歩く中、正面に人影が現れる。フードを被り、短い尻尾を立てる。それは──

「アン……。なんでテメェがここに」

 ダッチが尋ねると、アンは微笑み二人の間に入って二人を支える。
 二人でもふらふらになりかけていたが、三人になったことで少し楽になる。

「二人の行き先を予想したんですよ。もう心配したんですからね」

 頬を膨らませるアン。そんなアンの頭をイタッチは撫でる。

「ああ、心配かけた。ありがとな」

「……もう。…………お二人とも早く帰りましょ、またフクロウさんに見つかっちゃいますよ」

「そうだな」

 三人はそれぞれを支え合い、路地の奥へと消えていった。






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