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第4話 『新人警官コン』

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参上! 怪盗イタッチ



第4話
『新人警官コン』





「チッス。今日はよろしくッス、おっさん」



 フクロウ警部の向かいに立ち、頭を掻きながら適当な挨拶をする若者。まだシワもついていない制服に身を包み、腕には高価な腕時計をつけている。
 つり目に黄色い毛皮の女性のキツネ警官。彼女の姿にやれやれとフクロウは首を振った。



「君が若くして優秀なのは知ってるが、もうちょっと態度はどうにかならないのか?」



「なんすか、おっさん。俺に説教すか? そういうのはいらないんすけど」



「おっさん言うな。まだ30中盤だ!!」



「おっさんじゃないすか」



「この……小娘が…………」



 フクロウ警部は拳を握りしめる。今にも殴りかかりたいが、その気持ちを抑え込む。
 このキツネの名前は天月 コン(あまつき こん)。風邪で休んでいるネコ刑事の代わりに派遣されてきた巡査部長だ。
 警察学校で優秀な成績を残している期待の刑事だ。しかし、そんな彼にも問題がある。それが素行だ。



 彼女は悪辣な態度を取りながらも、誰も彼女を止めることはしなかった。それには理由がある。



「おっさん、アタシさ、親父に言われて来ただけなんで、これから何するか知らないんすよ。んで、どんな事件なんすか?」



 それは彼女の父親だ。コンの父親は警視監。警察の上層部の人間だ。彼女と関わって来た人間はそれを知り、父親から良い評価を獲ようとしていたのだろう。
 だが、それはコンも気づいていた。だからこそ、このように態度を取るようになった。しかし、それを叱ることは自身の評価を下げることになる。そうしてこのような状況になってしまった。



 フクロウ警部も上司からコンには自由にさせるようにと言われている。フクロウ警部はそれに賛成はできなかったが、上司の命令に従うしかなかった。



「ああ、今から説明するよ」



 フクロウ警部は机に置いてあるファイルを開き、中に入れられた書類をコンに見せる。
 そこには黄金に輝く盾の写真と、それについての情報が記載されていた。



「ネメシスの盾……なんすかこれ?」



「この盾がイタッチに狙われている」



「イタッチってあの怪盗すか!? まじすか、もしかして怪盗イタッチを逮捕するんすか!?」



「そういうことだ」



「おお!! 相方がおっさんなのは気に食わないけど、これは燃えるっす!!」







 千葉県旭市にある黒崖寺(くろがけじ)美術館。そこにネメシスの盾は保管されていた。
 フクロウ警部とコン刑事が美術館に到着すると、美術館の責任者である蜘蛛が現れる。



「私がこの美術館の責任者の黒崖寺です。警部さん、よろしくお願いします」



「ええ、協力感謝します。それでネメシスの盾を拝見してもよろしいですか?」



「はい。こちらです」



 フクロウ警部とコン刑事は黒崖寺に案内されて、美術館の奥へと向かう。美術館は白い壁にシンプルなデザインで、飾られている美術館を際立たせるための作りになっている。
 一方通行の美術館のため、クネクネと通路は入り組んでおり、最初に2階を巡回した後に、一階に戻って来てロビーに戻れるようになっている。
 その通路の一番最後である一階の出口近くの展示室、そこにネメシスの盾は飾られていた。



 部屋の中央に立てられた盾は、赤いロープで囲われて、1メートルから先へは進めないようになっている。



「ここの警備なのですが……」



 黒崖寺はロープの前に立つと、ネメシスの盾が飾られている近くの床を指差す。ロープで囲われた内側だけ、床の模様が違う。



「ロープの内側のタイルは特殊なタイルになっています。このタイルを踏むと重さでセンサーが反応して、檻が頭上から降ってくるという仕組みになっているんです」



「ほほぉ、凄いですな!!」



 フクロウ警部は笑顔で頷くが、黒崖寺の顔は暗い。



「はい。普通の強盗レベルならば、これでも十分でしょう……。しかし、狙っているのはあのイタッチとの話……」



「……確かにイタッチが相手となれば不安になるでしょう。しかし、ご安心ください!! 我々が必ず、お宝を守ってみせます!!」



 フクロウ警部が胸を張って伝えると、黒崖寺の不安は少し解消されたのか、表情が軽くなる。



「ありがとうございます。どうか、お宝を守ってください。よろしくお願いします!!」



 黒崖寺からお宝のありかを教えてもらったフクロウ警部とコン刑事は美術館の前に止めてあるパトカーの中で昼食をとっていた。
 肉入りサンドイッチを食べているフクロウ警部に、助手席でタッパーに入ったリンゴをホークでつつきながらコンが尋ねる。



「おっさん、それで警備はどうするんすか? あの部屋に警備置いて見張らせれば、オッケーじゃないすか?」



「そんな甘くはないさ」



「でも、こっちには数があるっすよ。イタッチ一味って確か、イタッチとダッチ、アンの三人すよね、こっちは三十人以上いるんすから余裕じゃないすか」



「相手は変装ができる。それも高度な変装だ、もし警備に紛れられたら簡単に侵入される。だから、美術館に入るのは最低限の人数だ」



「最低限すか……それでそれは誰なんすか?」



「お前だ、コン」



「え!? アタシ!?」



 フクロウ警部は齧ったサンドイッチを飲み込むと、空いている手で後部座席に置いておいた書類を持ってくる。



「君の実績は知っている。君の力が必要だ」



 フクロウ警部の言葉にコン刑事は、含んでいたリンゴを噛まずに飲み込んでしまう。



「うっ!?」



 急いでピンク色の水筒を手に取って、中の水でリンゴを流し込む。どうにか無事に飲み込めて、コン刑事だが苦しそうにしながらも、すぐに聞き返した。



「なんで、アタシ……」



「理由はすでに言っただろう」



「でも、アタシ、まだ新人で……。それに……」



 コン刑事はタッパーの蓋を閉めて、上半身をフクロウ警部へと向ける。フクロウ警部は片手に持っていたサンドイッチの残りを口の中に放り込む。
 そしてごくりと飲み込んだ。



「自信がない。とでも言うつもりかな?」



「……え、なんで……分かったんです」



「君が今までどう扱われて来たのか、その話は聞いたよ。成績も実績も全て、親の力で作り上げられた偽物とでも言われたんだろう」



 コン刑事はゆっくりと頷く。そんなコン刑事の顔を見て、フクロウ警部は言葉を続ける。



「俺はそうは思わない。君を見て、分かった。君は努力できる人間だ、それは君の身体が教えてくれた。怠けていてそんな筋肉がつくはずがない」



 フクロウ警部の視線はコン刑事の腕に向いていた。



「おっさん、セクハラっすよ」



「ギクっ!?」



「でも、分かったっす、アタシやるっすよ……。イタッチ、絶対逮捕してやりましょう!!」



 コン刑事はタッパーを膝の上に乗せ、ガッツポーズをフクロウ警部に見せつける。そんなコン刑事の姿を見て、フクロウ警部はニヤリと笑った。



「ああ、今日こそ、イタッチを捕まえる!!」






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