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幼馴染とファンの子!?~その真相は意外な展開?~

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♪ピピピピピピピピ・・・ピピピピピピピピピピ

「ん~、もうちょっとだけ・・・むにゃ・・・」

バタンッ!!

「翔!いい加減に起きなさい!」

「ん?・・・やばいっ!遅刻だっ!!」

男子高校生の朝は慌ただしい。
と言えば、恋愛ストーリーの冒頭部に当たるような常套句の様なものだろう。

「あんた、いつもそう言う事言って!
もっと早く寝なさいっていつも言っているでしょう?」

ここでラブコメなら、
甘~い言葉で毎朝起こしに来てくれる超絶美少女キャラが登場するだろう。
だが、そんなもの所詮二次元の世界の話である。

実際にそんな人生勝ち組な展開など到底訪れる訳もなく今日もこの俺、
青瀬 翔は眠い目を擦りながら母親である
青瀬 雪 (あおせ ゆき)の目覚まし時計よりも大きな声で目を覚ます。

「行って来ます」

「気を付けなさいよ!あんた最近不注意なんだから」

こう言うやり取りをしていると
如何にも口うるさいおばさんだと思われがちだが、
これでも俺が生まれる前、学生時代の母さんは有名学園の

学園一を争う美少女コンテスト3年連続グランプリ受賞したり
文武両道、告白も日常茶飯事な程の人気ぶりを獲得していた。

・・・私立 白鷺学園高等部・・・

如何にも高級感漂うこの名前の学校は、
小中高、そして大学までの一貫性の学校であり、
俺もこの学園に通っている。

だが、俺はこの学園に通うつもりも毛頭なかった。

それは、俺がこの学園に進学したのは高校の時から。
幼少の頃より何故か文才に恵まれた俺は、
芸術系では特に長けているとされているこの学園に

強く母親から推されてしまい、
当時、何も考えていなかった俺は、あまりにもくどい母親や
中学時代の恩師からの斡旋もあり受けてみたのだが、

「通った?・・・のか?」

何故かあっさりと通っていたのだ。
そして、今日までこの学園に通っているのだが・・・

「はぁ~、一体俺は何がしたいんだ?」

自宅から電車で1時間、徒歩20分、これを1セット毎日続けているのだ。

「おぃ、まだ始まってもいないのにもうお疲れモードかよ?」

俺が机にだら~っと伸びていると声を掛けて来た男子生徒。
相場 颯太 (あいば そうた)
俺の数少ない友人である。

「毎日毎日電車と徒歩で長時間、これを行きと帰りだぜ?滅入るってもんだ」

「じゃぁ、何でここ受けたんだよ?
お前、特にここを受ける道理なんて無いだろ?」

最もな意見である。
だが、颯太には俺の海よりも深い事情はまだ話をしていない。

「おっはよう♪ってあれ?青瀬っちどうかしたの?」

色々と過去の事や現状を考えながら腕を組み渋い顔を見せた為か、
教室に入って来たひとりの少女が声を掛けて来た。

「おっ、水無、今日も輝いてるな!?」

「えっ!?そうかな?ありがと♪すっごく嬉しいよ♪」

「お、おはよう・・・」

すぐさま颯太が挨拶を返す。
水無の応答の直後俺も挨拶を返す・・・

「あっ、そうだ!ねぇ、青瀬っち?今日の昼休み大事な話があるんだけど?」

誰に対しても明るく元気に接しているこの少女の名前は、
水無 綾乃 (みずなし あやの)
昨年、学園美少女グランプリ1位を獲得した人気者である。

そんな水無が俺に話を掛けて来た?
一体どう言うつもりなんだ?

「い、いいけど、何かあったのか?」

「じゃぁ、屋上で待ってるから・・・」

これってまさか!?
っと、ラブコメや恋愛モノなら王道の展開へ発展するあの一大イベント?

「な、訳ないない、俺が・・・な、ははは」

何の取柄も無い、特に目立つ事も無かった俺に告白なんて
到底あり得るはずもないだろう。

・・・昼休み・・・

俺は朝、水無に言われた通り屋上へやって来た。

「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった」

笑顔で俺の前へやって来た水無。

「で、俺に話って?」

生唾を飲み込み俺は冷静さを装い尋ねる

「青瀬っち、湊学園って知ってる・・・よね?」

「あぁ、俺の住んでいる地元の女子高だからな」

俺の住んでいる地元にある女子高でここも多彩な
有名人達を輩出している学校がある。
でも、それがどうしたんだ?

地元ではあるが、俺とは関係ない話だろうと思うが。

「えぇっと・・・ここだけの話なんだけどさ・・・」

言い辛そうに顔を少し下に向けながら少しずつ言葉を紡ぎ出す水無。

「あの・・・さ?俺と何か関係ある話なのか?」

「え!?・・・う、うん、そうなんだけどさ・・・」

少し沈黙の後、意を決したのか、水無は顔を上げ、俺の目を見詰め告げた。

「青瀬っち、隣のクラスの神楽君と親友なんだよね?」

そうか、そう言う事か。
全てのイメージが固まった。

「断る!」

「え?・・・ま、まだ私何も言ってないけど?」

「大体想像は付いた。水無の友人が湊学園に通っていて、聖園のファンだから
取り持って欲しい・・・大方そんな話なんだろう?」

俺は水無が言わんとする事を先に代弁してやった。

「さ、流石・・・私が言いたい事を先に言っちゃうなんて!?」

大事な話があるからと言ってわざわざ屋上に呼び出しておいて、
結局こんな事かよ・・・

「だったら・・・ね?お願い!」

「あいつは、そう言うの興味無いんだ。だから放っておいてやってくれないか?」

聖園は、学園の美少女グランプリの丁度半年後に当たる日に開催されている、
学園の美少年グランプリを昨年1位で優勝した美少年である。

「どうして?・・・確かに神楽君って大人気過ぎて、グラビアモデルでも
活躍しているけど・・・あっ、そう言う事か!」

流石に察したのだろう。
水無は申し訳無さそうに少し俯き加減になった。

「かなり忙しい上、ファン達からの猛烈なアピール、この間も
ストーカー被害に遭っていたんだ。そんな聖園にそう言う
特別な待遇をしてあげたらどうなると思う?」

「そう・・・だよね。神楽君が迷惑だよね・・・」

そう、聖園が迷惑である事は承知の上だが、
それが発覚したら、きっとそのファンの子にも周囲から
何か酷い仕打ちに遭ってしまう可能性がある・・・

「青瀬っちって優しいね」

「へ?俺が?・・・何で?」

「だって、続きがあるのに言わないもん」

「続き?」

拍子抜けした表情になってしまった俺に水無は言葉を続ける。

「結衣にも迷惑が掛かってしまう・・・そう言う事だよね?」

「・・・そ、そんな事にも繋がるのか!確かにそうだよな!」

俺は言われて初めて気が付いた振りをして見せた。
偽善者ぶるのが嫌いな俺は余計な事は口にはしたくなかった。

「って、カマかけてみたんだけど、やっぱそこまで考えて無かったか。
ごめんね、変な事言っちゃって」

そう言い終わると水無は何か閃いたような面持ちで口を開いた。

「そこでなんだけど、ここからが本題」

「え!?ここからって・・・もうこの話は終わりじゃないのか?」

流石に俺も理解が追い付かなかった。
この言い回し、既に断られる事を知っての持ち出しだったのか!?
水無がとんでもない提案を俺に対して来る事はこの直後に知る。

「神楽君に直接接点を持つ事は危険だとするなら・・・」

そう言うとフェンス越しに遠くを見つめていた水無はこちらを向き、
流し目で俺を見る。
その大人っぽい色っぽさを妙に感じてしまった俺は一瞬、胸がドキッとした。

「親友である青瀬 翔、君と付き合う振りをしてみるのはどうだろう?」

「は?」

固まった。この言葉を聞いた途端、俺は頭が真っ白になったのだ。

「お、お、俺が!?・・・何で!?」

「だから、青瀬っちは地味だし
誰と付き合ったとしても誰も攻めたりしないでしょ?」

酷い事を言われた気がした。

「それをカムフラージュにして、徐々に接近させてみる・・・って言う作戦♪」

無茶苦茶な作戦を提案して来たぁぁぁ!!!

「い、いや、それは流石に・・・」

「ほらほらこんな子だよ?結構青瀬っち好みのタイプだと思うんだよねぇ~?」

黒髪の光を帯びると照り返す程の綺麗なロングヘアーに、
如何にも清楚さを持った美少女である事は写真越しでも分かる程だ。

「だ、だがだな・・・」

「大丈夫大丈夫。青瀬っちがホンキになっちゃう前には神楽君とは
無事、ゴールイン出来る様に私も協力するからさ?」

いやいやいや、待て待て待て?
そう言う話なのか?あくまでもフェイクだろ?
本気とか嘘とか元々無いし、第一本人が・・・

「青瀬っちの事だからどうせ本人の気持ちが大切だ!
とか考えてるんでしょ?大丈夫、こんな事もあるかと思って
私が事前に説明しておいたから」

え!?そうなのか?
だったら・・・って違う!

「そう言う話では・・・無いだろ?」

「安心しなよ。ちゃんと相手の子には青瀬っちの写真も送っておいたから」

おぃ、俺の写真っていつ撮ったんだ?

「ほれほれ、この写メだよ♪」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!!!!!!!!!!!!!!」

俺は激しい雄たけびを上げた。

「おぃおぃ、これって俺の風呂上りの写真、どうやって撮ったんだ!?」

「まぁまぁまぁ、落ち着きなって。私、カメラマン目指しているんだ。
だから、こう言う写真撮るのもお手の物♪なんだよねぇ~♪」

「なんだよねぇ~♪」ってこれ完全に犯罪じゃないか!!

「あぁ、断ったら・・・分かるよね?」

笑顔で俺に向けて来る輝かしい表情の裏にはどこかドス黒いオーラを垣間見える。
ここは黙って言う事に従っておくとするか・・・

聖園ごめん。だが、あまりお前には迷惑が掛からない様に俺も尽力する。

「はぁ~、分かったよ。だが、言っておく。絶対に聖園には迷惑を掛けない事!
後・・・」

「分かってるって♪じゃ、返事送っておくから
早速次の土曜日に駅前の時計塔の下で顔合わせね♪」

「おぃ、ちょっと待て次の土曜日は・・・」

「え?もしかして青瀬っち次の土曜日予定とかあるの?
あっ、これ青瀬っちがアレしている時の写メなんだけど?・・・」

ちょっと待って欲しい!
アレとか言われるととんでもない想像をさせてしまうので
予め誤解されない様に伝えておくと・・・

「アレって寝ている時の写真じゃねぇか!だから、何で俺のプライベート
写真ばっか持ってるんだよ!俺の家プライベート筒抜けとかあり得ねぇだろ!!」

「まぁ、これ青瀬っちのお母さんに貰っておいた写真なんだけどね?」

ウィンクをして舌を可愛らしくペロッと出してそう告げる水無。

「あの母親ぁぁぁ!!!!!」

「まぁまぁ、色々とあるとは思うけど長居はしないから許してよ♪
じゃ、そう言う事だからヨロ~♪
あっ、神楽君へは君から伝えておいてくれたら嬉しいな♪」

何だか嬉しそうに教室へ戻って行く水無。
面倒事に巻き込まれてしまった気がするぞ・・・

放課後・・・

「って事があってな?悪いが頼まれてくれないだろうか?」

「あぁ、いいよ。俺も最近少し落ち着いて来た所だから」

俺が申し訳無い面持ちで告げると快く引き受けてくれた。

「それにしても色々と大変だな?」

「あぁ、本当に・・・どうしてこんな地味男に苦難が次々と降り注ぐんだよ?」

「ははは・・・翔は自分を過小評価し過ぎているんだって。
もっと表に出て行けば良いんだよ。あの時みたいにさ?」

「・・・・・・・・・・」

「あっ、悪い。それは言わない約束だったよな・・・」

「いいや、いいんだ。それよりも次の土曜日悪いが頼んだぞ?」

俺はそう言うと聖園と分かれた。

聖園とは幼少期から両親同士の深い繋がりで、仲が良かった。
本当に完璧な奴だよな。俺とは違って・・・

土曜日・・・

早速、顔合わせと称した偽装工作の開始行事と言う事で、
俺は待ち合わせ場所へと向かった。

「ったく、母さんには色々と他にも言いたい事がある!」

先日の写真の件・・・
いや、待てよ?何で母さんが撮影した写メを水無が持っているんだ?
どうやって接点を持ったのだろうか?

「母さんが何かあったの?」

「ひっ!!あっ、水無、お、おはよう・・・」

「うん、おはよ♪いい天気になって良かったね?」

ぼ~っと考え事をしていた俺の直ぐ隣で顔を近付けて来た水瀬。
確かに学園一位を獲れる理由が分かる程の艶やかな表情に、
あどけなさもうっすら残っていて、こんな美少女に迫られたら

確かに男も直ぐに堕ちてしまうだろう・・・

「おはよう・・・きょうは色々とご迷惑を掛けてしまってごめんなさい」

そして遂に登場したのが、
今回の主役である水無の親友である
天城 結衣 (あましろ ゆい)
確かに究極の美少女と言っても過言では無い!

それに、ほのかに優しい香りが放たれていて、
こんな子となら確かに聖園とも合うだろう。

「ごめん、遅れた」

そして、更に本日のもうひとりの主役のおでましだ。
どうやら、朝、急に取材が入ってそのインタビューで時間が遅れる事は
連絡が入っていた。

「相変わらずだな・・・そう言えば、こうやって休日会うのも久しぶりだよな?」

「そうだな。翔といると面白いし俺もきょうは楽しみだったんだけどな」

こうしてメンツが揃い俺達は早速カフェに行った。

「ここ限定のドーナツだよ♪ホント一度食べたらもうその魅惑の味の虜だから♪」

一日限定100セット人気のメニュー。
そのメインのドーナツはサクサクとした表面の食感と、
中のもっちりとした柔らかい生地。特に女性に大人気である。

「わぁ~、凄いね。朝から限定メニューなんて、嬉しい♪」

ドヤ顔をする水無。
本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる天城さん。

俺、演技だけど、この子とこれから?
そう考えただけでも胸が高鳴って来る。

「それでは、第一回会合始めちゃいま~す♪」

元気にスタートしたカフェでの顔合わせ。
でも、皆輝いてるよな・・・

「えぇっと、先ずは自己紹介からね・・・
私は私立 白鷺学園高等部2年水無 綾乃。ヨロシクね♪
はい、次青瀬っち」

「えっ!?お、俺か?・・・えぇっと、同じく白鷺学園2年の
青瀬 翔です。宜しく」

「じゃぁ、次は・・・主役のひとり神楽君♪」

「主役か・・・何だか照れるね。
俺も同じく白鷺学園でこちらの2人の隣のクラスなんだけど、
青瀬 翔とは幼少時代からの幼馴染で親友をやっています。
神楽 聖園です。宜しく」

「じゃぁ・・・大丈夫?結衣?」

「え、う、うん・・・わ、私は湊学園って所の生徒で、
綾乃ちゃんの友人の天城 結衣です。宜しくお願いします」

無事に全員の自己紹介が終わり、各人の事について話をする事に・・・

「私は、カメラマンを目指しているんだよね。
今、有名な人に声を掛けてもらって下積みを始めた所だよ♪」

「そうだったのか!?凄いじゃないか!水瀬って
学園の美少女グランプリ一位だったり色々と多彩な才能を持っているんだな!」

俺は驚きを隠せず思わず大きな声で口を広げてしまった。

「大袈裟だな・・・青瀬っちだって・・・」

「え?何か言ったか?」

俺を見下げながら言葉の最後の方がしっかりと聞き取れなかった。

「俺は、雑誌のモデルなんかやってる。
メディアにも最近色々と出させてもらっていたり、
充実した日々を過ごしているよ」

「言わずと知れどだとは思うが、聖園は大人気モデルとして
多岐に渡って大活躍中だ!」

「どうして翔がドヤ顔してんだよ?」

聖園のちょっとしたツッコミが2人の少女を笑わせた。

「私は・・・その・・・漫画家をやっています・・・」

俺は更に驚いた。漫画家の女子高生。
あまり饒舌では無さそうに思えていたはずの天城さんだったのだが・・・

「私、ある人の小説を読んでから感銘を受けてから自分には
何が出来るんだろうって考えていたらある日、絵が上手いねって
褒めてくれて、それが周囲の人にも知られてしまって・・・」

初めて饒舌に言葉を紡いでいる天城さんを見た。
そのひと言ひと言に感情がこもっているいる事が伝わって来て、
俺は彼女の話術に何故か惹き込まれてしまった。

「青瀬っち?青瀬っち?」

隣に座っていた水無が肩を叩き呼んでくれて俺はふと我に返った。

「魅せられちゃった?」

ふと水瀬が言葉で突いて来た。

「えっ!?いや・・・そう言う訳では無くて、何だろう?」

自分でもよく分かっていなかった。
だが、天城さんの饒舌が素の本当の彼女の姿である事をしばらくしてから
俺は知る事になる。

この後、俺達はカラオケに行ったり、ショッピングセンターに行ったりして
あっと言う間に夕方になった。

「って事で、顔合わせも無事に終了だね♪あぁ~♪楽しかったな~。
じゃぁ、この辺でお開きって事で・・・」

水無の閉めの言葉で俺達は解散する事になったのだが・・・

(気まずい・・・)

聖園は仕事の兼ね合いで現場へ向かい、
何故か帰りの電車の中では俺達3人が俺を挟んだ状態で座っていた。

「で?・・・この状況は一体?」

「ま、まぁまぁ、気にしないで!私達、地元が一緒だから仕方ないよ。
それに結衣は寮生だからきょうは戻るみたいだし・・・」

「・・・・・・・」

これ、2人共俺に気があるなら最強のハーレム状態だよな・・・
なのに、冷たい現実orz

「え、えぇっと、天城さんは聖園の何処に惹かれたのかな?」

「へ?・・・あっ、はい、格好良い所や優しい所・・・かな」

ふむふむ、確かにその通りだな!
で、水無の方は・・・・

ってそうか、水無はお膳立てをしていただけで、関係無いのか・・・

「青瀬っち?私には聞いてくれないの?」

「え?だって水無は2人の仲を取り持つだけが目的じゃ?」

「あっ、そうそう!そうだよね・・・私の役目は、結衣と神楽君を取り持つ事!
後、青瀬っちの写真を収集して・・・」

「その続きは言わないでくれないか?」

俺は少し顔を青ざめさせ水無の口を塞いだ。

「そう言えばさ?青瀬っちって、どうして私達の学校受けようとしたの?」

ふと水無が尋ねて来た。

「ま、まぁ、母親や中学時代の先生が推して来たんだよ。
俺、何も才能が無いはずなのに、何故か・・・な」

「そうなんだ・・・まぁ、まだ時間はある訳だし、これから自分の才能を
改めて磨けばいいんじゃないのかな?」

「そうか?・・・ありがとう。まあ、頑張るよ・・・」

あれ?水無、今「改めて」って言ったか?

「じゃぁ、私達は少し寄る所があるからここでかいさ~ん♪」

「きょ、きょうはありがとうございました。
また、会いましょう・・・」

別れ際、連絡先を交換して、俺達は解散した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「で、どうだった?」

「うん、凄く良かった。ありがとう」

私は憧れの人と取り持ってくれた綾乃ちゃんに感謝した。
元々、気になっていた人にアピールしたかったけれど、
勇気が無かったから、諦めようとしていた私に場を提供してくれたのだ。

「今や売れっ子女子高生漫画家さんが、持ち前の可憐さやもっと
自分を売り出せば直ぐにでも堕とせたのに・・・」

「そんな・・・私なんて・・・」

「でもさ、彼の結衣の見る目は輝いていた様に私には見えたよ?」

「そ、そうなん・・・だ。何だか恥ずかしいよ。
それより、本当にいいの?綾乃ちゃんだって!?」

「私は、どっちかって言うと、端の方から見ている様な感じがいいかなって」

きっと私が奥手なのを見て耐えられずに肩を押してくれているんだ。
本当は綾乃ちゃんだって彼の事を・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月曜日・・・

結局の所、俺は偽装ではあるものの天城さんと付き合うと言う流れとなった。
メールやグループチャットで連絡を取り合った。
聖園へは、熱烈なファンの子がいるから仲良くなりたいと言う申し出があった事だけ
を顔合わせの前に伝えていた。

いや、厳密に言うとそれだけしか伝えないでくれと水無から釘を刺されていたのだ。

だから、これが恋愛に発展させる為のお膳立てだとは一切告げてはいない。
それ以上は本人同士の問題になるからだろう。
あくまで俺達の役目は2人を接触させる事によって切っ掛けを与えるだけだ。

後は、徐々に2人の関係が深くなるか否かを見守る事。

「何をひとりで腕を組みながらしみじみ考え事してんだよ?何かあったのか?」

「いや、恋愛の形は人それぞれなんだなと・・・な」

「恋愛?お前、恋愛でもしてんのか?」

颯太が尋ねて来た。
恋愛・・・か。俺には全く無縁の事だがな・・・
考えていて虚しくなるな、これ。

「例えばだな?大好きな人が手の届き辛い所にいて、
高嶺の花とか言われる相手だったとする」

「急に何だよ?」

「まぁ、聞け。その相手と接触したい時、その輝ける人物の周囲にいる
ちっぽけな奴と恋人の振りをして相手に接触するだろうか?」

「はぁ?何だよそれ?そんな回りくどい事して何の特になんだよ?
大体、自分の意中の相手に恋人じゃないのに恋人の振りをして見せ付けたとして
相手と上手く行くと思うのかよ?」

「そうだよな?やっぱりそう思うよな?」

そう、何かが引っ掛かっていたのだ。
その「何か」と言うのが今、颯太が言った通り
好きな相手がいたとして、その親交のある誰かに協力を得るのはいい。

だが、その協力を得た相手と恋愛関係を持っていますとアピールしてしまって、
果たして目標となる相手は自分を受け入れてくれる所まで辿り着くのだろうか?

「そう言えば、この前久しぶりにラノベって読んでみたんだけどさ?」

「ラノベ?ってライトノベルの事か?」

颯太が話を切り出して来た。

「あぁ、そうだ。それがかなり練り込まれたストーリー構成でさ、
俺、没頭してしまってこの週末で全10巻網羅してしまったぜ!」

「どんな作品だったんだよ?お前にしては珍しい」

と颯太が差し出して来たのはその話に挙がっていた小説の1巻だった。

「幼馴染とファンの子が自分を狙っている?~その真相は意外な展開だった~」

「そうそう、これが最高なんだよ!数年前に発売された、作者が途中で
業界から去ってしまって、どうやら当時中学生だったらしいぜ?」

「中学生?それ本当の話なのか?中学生でラノベ10巻まで出せるって
世の中も凄くなったもんだな?」

俺はその1巻を手に取り、軽くページをめくった。

「何してるの?・・・ってこれ幼ふぁんじゃん!
凄い、読んでるの?まさか青瀬っち!?」

あろう事か水無が飛び付いて来た。

「何だか颯太が読んで嵌ってしまったとか言って薦めて来たんだよ」

「相場っちが!?意外だね・・・それでそれで?」

「おっ、おう・・・ってか水無もこの小説知ってるのか?」

「えっ!?あ、うん・・・ちょっとね、当時色々と話題になったでしょ?」

そう、伝説となった中学生で小説家デビュー、
この作品は瞬く間に世間を騒がせ、アニメ化まで確定していた超話題作だった。

「翔?顔色悪いぞ?どうかしたのか?」

「あ、いや何でもない」

「青瀬っち・・・」

放課後・・・

俺は、いつもの様に帰宅する為に地元の駅から自宅へ向かって歩いていた。

「あっ、青瀬君・・・」

すると前から歩いて来た子に声を掛けられた。

「天城さん・・・」

公園のベンチで俺達は少し話を交わす。

「はい、メロンソーダ」

「ありがとう・・・」

俺は自販機で買った彼女が好きだと言うメロンソーダを渡した。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

気まずい。でも、何かが引っ掛かっている。
俺は色々と考えながら何を彼女に切り出すべきか悩んでいた。

「青瀬君は自分に自信はありますか?」

「え?俺?・・・何で?」

俯きながら自分の両手をグッと握り締めて天城さんが尋ねて来た。

「私は・・・ありません・・・」

ゆっくりと噛みしめる様にして彼女は言い放った。

「でも・・・」

一瞬、彼女の言葉に力が加わる。

「一昨日お話した、ある方の小説の影響で自分にも何かが出来るんじゃないかって
思える様になったんです」

まただ・・・またあの時の惹き込まれるような感覚。

「私、その人のおかげで全く無かった
自分への自信が少しだけ出る様になって来たんです」

「そ、そうなんだ。そんなにも影響を及ぼせる作品なんてきっと相当凄いもの
なんだろうね」

「だから・・・諦めないで・・・下さい」

「そうか、俺を励まそうとしてくれて・・・ありがとう。
俺、色々と自信喪失になっていたのかもしれないな。

君とならきっと聖園も本当の幸せを感じる事が出来るんじゃないかな。
俺も全身全霊を以て応援するから」

俺達はそのまま帰宅した。

数週間が経過した頃・・・

「翔・・・あんた最近表情が豊かになったんじゃない?」

「え?何だよ急に・・・」

「何だか以前のあんたに戻った様な気がして母さん嬉しくて」

恥ずかしい事を母さんが口にした。
以前の俺・・・か。

「あ~ちゃんに頼んでおいて正解だったわね」

「ん?あ~ちゃんって?」

「あ、こっちの話だから気にしないで?」

最近、母さんの様子も少し変だ。
以前の様な明るく振る舞っているがどことなく不安そうな表情。
きっと俺の事が心配だったんだろうなとは思っていたが、

俺の事を言うのであれば、母さんだって最近は心の底から明るくなった
様な気がしている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「本当にありがとう。息子も再び前を向いて歩いて行こうとしている。
後、一押しだと思うの。だから・・・もう少し辛いポジションだろうけれど、
宜しく・・・宜しくお願いします。綾乃ちゃん・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
学校にて・・・

「おぃ、翔!」

「どうしたんだ?表情をこわばらせて!」

「この間言ってた、例のラノベの作者の話なんだが・・・」

「どうしたんだよ?何かあったのか?」

何やらこの間颯太が話をしていたライトノベルの作者の事について
情報が浮上していたみたいだ。

「どうやら、この学園の中にいるみたいなんだよ!!」

「一体ソースは何処だよ?」

「ほら、この記事見ろよ!」

俺は新聞記事の隅に載っていた記事を見せられた。

「あの一斉を賑わせたライトノベルの作者は現在高校二年生」

「ここにこの学校と思わせるような文脈があるだろ?」

よく読んで行くと確かにこの界隈の特徴やこの辺りでしか無い物が挙げられていた。

「俺、サインと握手してもらおうと思ってるんだよ!
お前もこの作品本当にいい作品だから一度読んでみろよ」

読んでみろか・・・
そうだな。読み返してみるのも億劫な感じだが・・・久しぶりに・・・
そうして、俺がこの間颯太に手渡された例の作品の1巻の表紙をめくって、
軽く読んでみた。

俺は無意識の内に涙が出てしまった。

「お、おい翔、大丈夫か!?」

「え?・・・あ、大丈夫だ。すまん、色々と思い出していた」

「何をだよ!?兎に角いい作品だからこれ貸し、いや、お前にやるから
ちゃんと読め!」

颯太は俺にこの本をあげるから読んで欲しいと熱弁して来た。

「いや、いいよ」

「どうして!?・・・まぁ、読む気が無いなら仕方ない。
こう言うのは人それぞれの感性だからな。無理強いする事じゃない。
分かった。また読みたいなと思ったら声掛けてくれ。
俺が全巻貸してやるから!」

「あぁ、ありがとう・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

あれ?水無がこっちを見ている?
何か悲しそうな表情に見えたが、直ぐに周りの女子達と会話を始めた。

放課後になり、俺は買い出しの頼まれ事があった為、近所のスーパーへ寄ってから
帰宅した。すると・・・

「ただいま~・・・って来客か?靴が置いてある」

見慣れない靴が玄関に置いてあった。
誰か来ているのだろうか?
邪魔にならない様にそっと部屋へ上がろうとしたその時だった。

「水無!?・・・どうして、俺の家に?」

以前水無が俺を脅迫・・・いや、
説得?しようとして言っていた母さんから貰った写真の件を思い出した。
そうか、水無と母さんは関わりがあったのか!?

何だか真剣に話を進めている様子だった為、俺は聞こえて来る声に耳を傾けた。

「本当にありがとう。きっとあの人も報われると思うわ」

「いいえ、結果的に上手く行っているだけであって、私は何も・・・」

「それでもあ~ちゃんにはお世話になりっぱなしで・・・」

あ~ちゃん?ってこの間母さんが言っていたあの?
どう言う事だ?母さんが水無にお礼を言ったり、
一体どうなってるんだよ!?

「では、私はこの辺で、そろそろ翔君が帰って来るといけないので」

帰るのか!ダメだ見付かる。
急いで隠れないと・・・

俺は2人に見付からない様に急いで表へ出た。

「ただいま~」

水無が帰った直後、何気無い素振りをして改めて家の中へ入る。

「お帰りなさい。えっと、誰かと出くわさなかった?」

「いや、俺ひとりだったけど?」

嘘を付く。
何か俺の事で2人は隠し事をしているとは思うがここは泳がせておく事にしよう。

その週の週末、俺は天城さんとデートの予定だった。
あれからしばらく時間が経過して、俺達は毎週デートをする事になった。

だけど、このデートが天城さんと聖園を取り持つ為に役立つかどうか俺は分からないまま
だった。

「えぇっと・・・俺達、確かに付き合っている事になっているみたいだけど、
このままで君と聖園との仲が深まるのかどうか最近考えていたんだけど・・・」

俺は意を決して天城さんに聞いてみる事にした。

「は、はい・・・れ、練習なんです。私が神楽君と緊張せずに打ち解けられるか
一緒に居ても大丈夫になれるか・・・練習・・・なんです」

顔を赤くして彼女は言う。

「そうか。なら、俺も頑張って付き合わないといけないな」

「え!?・・・付き合うって・・・」

「あぁ、練習に付き合わないとなって思ってさ」

「そ、そうですか・・・そうですよね。はは、あ、ありがとうございます」

何か照れ笑いをした気がしたが、それはいい。
天城さんは本当に可愛らしい。

これが普通のデートなら良かったのに・・・
この子が俺の本当の彼女なら良かったのに・・・

「いや!ダメだ、ケジメを付けろ!!」

頬を両手で2回パンパンと叩き気を引き締めた。

「だ、ダメでしょうか!?」

不安げに彼女が尋ねた。

「い、いや、気にしないで?俺の気持ちの問題だから」

そう言うと安心したのだろうか?
天城さんは優しい笑顔を浮かべこちらを見つめた。

映画を鑑賞したり、店を見回ったり、
きょうのデートもあっと言う間に時間が過ぎて行った。

俺、こんな気持ちになった事無かった・・・

そんな事を思ったが、これはあくまでも
演技でのカップルだ。

今、俺の隣でクレープを美味しそうに食べている美少女も、
心は聖園へ向いている。

はぁ~、俺は本当に何をやっているのやら・・・

「って言うか、本当に読んでみてよ。
このラノベは男子女子問わず支持されているんだから!」

二人で並んで歩いていると対面して来たカップル同士の会話が聞こえて来た。

「あぁ、ちょっと読んだ事あるよ。俺も続き読んでみたいなって思ってたんだけど
作者が消息を絶ったから続きが気になると思って敬遠してたんだよな・・・」

「じゃぁさ、完結済のデビュー作とかどうかな?お薦め度星5つだよ?」

そうか・・・こんな所にも話が浮上しているんだな・・・

「大丈夫ですか?顔色が悪いです!」

「い、いや、ごめん。何でもない。それより他に行きたい所とかってある?」

「体調が悪いなら無理は言いません。だけど、最後に行ってみたい所があるんです」

真剣な面持ちで俺の顔を見つめながらどうしても行ってみたい場所があるのだとか。

「ここです」

「ここは・・・」

天城さんが連れて来てくれた場所は、
高台にある小さな広場だった。

夕日に染まる高台から見渡せる景色は絶景で、
俺はこの場所を知っている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「僕は、将来誰かを感動させたり、喜んでもらえる事がしたい!」

「そうなの?・・・じゃぁ、私はそのお手伝いがしたい!」

「ゆ~ちゃんは、僕のお手伝いをしてくれるなら、僕はゆ~ちゃんが困った時に
助けてあげる様に頑張るから!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いや、まさかな・・・」

「・・・・・・・・」

沈黙の時間は瞬く間に過ぎてゆく。
あっと言う間に黄昏に染まっていた一面は暗闇へと染め始めた。

「きょうは無理を言ってごめんなさい」

「え?・・・そんな事無いよ。俺も久しぶりに懐かしい気持ちになれたから」

当時の記憶がフラッシュバックしてしまい、言葉が浮かばず、俺は天城さんに
何も確認する事が出来ずその日は別れてしまった。

その日から更に2週間が経過した。
俺は放課後、水無に呼ばれ喫茶店へ出向いた。

「で、何かあったのか?」

「そうか、その様子ならまだ聞かされていないみたいだね」

意味深な事を言って来る水無。
俺に何か言いたい事があるのだろうか?

「本人から直接伝えるべき事だとは思うんだけど、
あの子って気が弱くてきっと言えないだろうなと思っていたから
私から話をしようと思ったんだ」

いつもは決して見せない水無の表情。
これは紛れも無く真剣な話なのだろうと察した。

「天城さんの事で何か重大な事があるのか?」

「うん、言いにくい事なんだけど・・・」

口をごもらせているが必死に言葉にしようとしている事が伝わる。
俺は水無が言ってくれる事をひたすら待つ。

「・・・・・・青瀬っち・・・ううん、翔君。
貴方のお父さんは2年前に他界された・・・よね?」

覚悟を決めたのか、水無は語り始めた。

「何でその事を!?」

その言葉と同時にこの前、
水無が俺の家に来て母さんと話をしていた事が頭を過った。

「ごめんなさい。私、本当は貴方の事知っていたの」

「この前、家に来て母さんと話をしていた事は知っている。
でも、どう言う関係なんだ?」

「見てたんだね。・・・そうだよ。私は、貴方のお母さんとは遠い親戚。
だから、君とも親戚なんだ」

嘘だろ!?まさか水無がうちの親戚だったなんて・・・

「だから、貴方のお父さん、つまり私にとっても関係者・・・
私も何度か会った事があるし、お世話にもなった。

凄く優しくて頼り甲斐のある人だった事は知っていた」

「そう・・・なのか」

俺は頭の整理が追い付かないが、水無が必死に何かを伝えようとしている
姿を見て、冷静になろうとしていた。

「そして、もう一つ、驚かないで聞いて欲しいの」

「もう一つ?一体何が!?」

唾を飲み込み、水無が俺に伝えようとしている事を真剣に聞こうとした。

「あの日、貴方のお父さんが亡くなった日、一緒に結衣のお父さんもいたの」

「何で!?」

「貴方のお父さんと結衣のお父さんは古い友人だった・・・
事故の日、実は2人で遠くへ出掛けていたの」

水無が言うには、父さんと天城さんのお父さんは久しぶりに再会し、
遊びに出掛けたらしい。
その向かっていた所で事故に遭い、2人共この世を去った。

「そんな事実があったのか・・・」

俺は愕然としてしまった。
色々と訳が分からない事だらけだが、
まさか、天城さんのお父さんとうちの父さんが古い知人だったとは。

「色々と混乱させちゃってごめんなさい。
ただ、翔君は翔君を見失いで欲しいから・・・それじゃぁ、私はこれで!」

険しい表情を浮かべ、水無は喫茶店から出て行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2年前・・・

中学生でライトノベル作家としてデビューした俺は、
1つのデビュー作を完結させる事が出来た。

その作品である
「幼馴染とファンの子が自分を狙っている?~その真相は意外な展開だった~」

は瞬く間に大人気作品となり、メディアミックス化されて行った。
巻数第7巻頃にアニメ化の話が浮上し、遂に発行部数100部達成した。
順調に話が進む中、新たな作品も執筆する運びとなった。

「初めての作品がこれ程秀作だったら間違い無く大物になれるだろうな。
無理をせずに頑張って行きなさい」

父さんが俺に掛けてくれた最後の言葉だった。

10巻である最終巻が発売されて間もない頃、
新たな作品の展開をスタートさせた頃でもあった。

尊敬していた。自分もこんな大人になりたい。
そんな事を心の底で感じていた何でも出来た父さん。

「大変よ!お父さんが、お父さんが・・・」

気が付けば俺は暗い病院の廊下に置いてある長椅子に腰を掛け、
涙を大量に流し絶望の淵に立たされていた。

「気をしっかり持ちなさい!私が、貴方を支えるから」

母さんの脆くも強い意志と気持ちが俺を最悪の状態から回避させてくれた。

「貴方は無理はしなくていい。
これからの事は落ち着いてからゆっくりと決めて行きましょう」

温かく、優しい・・・
母さんの言葉が心の奥の冷たくなってしまった部分を一瞬にして
温めてくれた。

父さんに褒めてもらえた小説・・・
完結してから1週間後の出来事だった。

もう、書けない。俺は全てを諦めた。
そして、業界から消息を絶たせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
水無に真実を聞かされたあの日から俺はずっと考えていた。
俺がショックを受けて殻に閉じこもっていた間に、きっと天城さんは
もっと苦しんで来たのでは無いかと・・・

俺は次のデートの日に全てを終わらせようと決意した。
それは、天城さんの意中の相手である聖園への気持ちを伝えやすい様に
何としてでも実現させようと・・・

そして、そのデートの日になった。
いつもの様に振る舞い、俺は天城さんが楽しんでもらえるプランで
エスコートしたつもりだ。

彼女も終始笑顔で最初の頃とは違って幸せそうに見える。
これで、自信も付いただろう。

俺は、バイブルとも呼べる漫画があった。
その漫画の主人公は、絶望の中でも希望を見出し、
前へ進む強さが描かれていた。

絵が綺麗で、女性が描く様な繊細な作品だったが、
内容は男性が描く様な強さを感じている。

その作品も、大切な人が亡くなり、絶望を抱く主人公。
だが、周囲の人達が主人公を支え成長してゆく流れだ。

父さんが亡くなってから約3か月後に連載開始された
俺の大切なバイブル。
この作品で母さんの支えだけでは崩れそうだった時期の
俺を救ってくれたのだ。

バイブルにあった、女性をエスコートする術を俺は頭にしっかりと
焼き付け、今日に臨んだのだ。

本当のデートじゃない。
だが、俺と同じ苦しみ、辛さを経験していた天城さんを
何としてでも俺は応援したかった。

「きょうはありがとう。凄く楽しかったよ?」

「そうか。それなら・・・良かった」

俺は心の底から安堵感でいっぱいだった。
だが、ここからが一番の要である。

「あの・・・最後にだけど、ちゃんと君に伝えておきたい事があるんだ!」

「それは・・・どう言う事でしょうか?」

俺は一度深呼吸をしてから改めてベンチに座っている
可憐な少女の目を見つめた。

「俺達、きょうで終わりにしよう!」

「え?・・・どうして?・・・」

キョトンとした表情で何を言っているの?と言わんばかりの
様子の天城さん。
だが、俺は続けた。

「俺達、練習として今まで付き合って来たけど、
もう君も大丈夫だと思うんだ!

君と聖園は見合ったカップルだと思っている。
だから、明日以降は、聖園にアタックを掛けてみてはどうだろうか?」

この数か月、楽しかった。本当に俺に彼女が出来たのかと思う程に天城さんは
優しく、俺の理想の彼女を演じ続けてくれた。

だが、こんな日々を延々と続けていてはいけない。
苦しんでいた彼女だからこそ、俺の様な迷子にはなって欲しくはない。
自分が意を決して告白したい相手が見付かったのであれば、

その相手を振り向かせて幸せになって欲しいのだと・・・
そう思っていたのだが・・・

「私の父は事故で他界しました。その時に、私は自殺しようとしました。
そんな時に出逢った小説のタイトル・・・

幼馴染とファンの子が自分を狙っている?~その真相は意外な展開だった~

私は生きる糧を見付けました。
この作品があったから、この作品に出逢えたから今、私は生きています。」

嘘だろ!?
天城さんが、俺の作品で!?

信じられなかった。
まさか、天城さんが俺が書いた作品で救われていたなんて・・・

「青瀬 翔君・・・いいえ、蒼城 結城さん。私は貴方の作品の虜です。
大ファンです。私の全ては貴方にあります」

「天城・・・さん?」

天城さんは、ベンチから立ち上がり俺を抱きしめた。

「大好きです。私は貴方の事が大好きです。
私の命の恩人・・・そして・・・」

「やっぱり、あの場所、幼少の頃の・・・」

「思い出してくれたのですね?し~くん?」

そうだ!幼少期のあの高台でよく遊んでいた女の子・・・

「ゆ~ちゃん・・・ごめん、俺・・・」

「私の方こそ、ごめんね?・・・ごめんなさい・・・」

泣きじゃくりながら俺を抱きしめる天城・・・結衣。
気が付くと俺も抱きしめ返していた。

「行こうか」

「うん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大好きな翔君が苦しんでいるんじゃないかと思った私は、
あの日、高台でよく一緒に遊んでいたその翔君の父親と、
私のお父さんとが旧友である事を知っていた。
だから、翔君のお父さんと私のお父さんが亡くなった時、
ショックで自殺しようとしていた。

そんな時、出逢った小説の内容に感銘を受け、
私は生きる事を決意した。

あの時高台で遊んでいた時に彼の言っていた言葉が脳裏に過り、
直ぐにこの小説は翔君が書いたものだと気付いた。
きっと、あの時の事を実現させたんだと・・・

だったら私も翔君に負けない様な事をしなければ・・・
そして、助けてあげなきゃと思い、
自分が出来る事から始めた。

間もなく、私は漫画を描こうと応募した作品が入賞し、
連載が開始された。

今日のデートの流れ、きっと彼は私の漫画に影響を受けているのだろうか・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰り道、黙りながら手を繋ぎ家路に着く。
決して気まずい思いはなく、むしろ心地良かった。
その途中、私はお礼を言った。

「本当に・・・ありがとう」

「え?・・・何か言った?」

「ううん、何でもないよ」

「それにしても、聖園には悪い事をしたな・・・」

「大丈夫だよ。神楽君は知っているから」

「え!?そうなのか?・・・じゃぁ、何も知らなかったのは俺だけって事か?」

「ふふふ・・・そう言う事になるかな?」

私は少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。

「想いを叶えてあなたへ届け」

「それ!!俺のバイブル・・・何で知ってるんだ!?」

「青海 翔子・・・」

「あれ!?ゆ~ちゃんあの作品知ってるの!?」

「さぁて、どうでしょう?」

「何だよ?何か含んだ言い方するよな?そんな性格だっけ?ゆ~ちゃんって?」

「それは、し~くんが一番知っているコトだよ♡」

そう言って私は彼の頬にキスをした。

「なっ!!何をして・・・」

「最後のシーン、知らないと思うから再現してみたんだよ♪」

「まっ、まさか・・・ゆ~ちゃん・・・」

「ありがとう・・・これは2つの意味のありがとうだよ」

「それなら、俺の方こそ、ありがとう・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お前も策士になったもんだな?」

「聡い翔なら気付いていたのかと思ったけどな?」

数週間後、俺は聖園と話をしていた。

「ちなみに、翔のお母さんがお前にここを薦めていた本当の理由・・・」

すると聖園の口から意味深な言葉が出た。だが・・・

「あぁ、あの人がする事だから深い意味があるだろうとは思っていたが、
まさか、母校で、俺の才能を見込んでいたって事だな?」

「そう言う所は鋭いんだな?まぁ、色々と解決したみたいで俺もこれで安心だ!」

「色々と悪かったな。迷惑掛けてしまって・・・でも、もう大丈夫だ!
俺、頑張るから」

「先週発表された、新作、お前と天城さんが合作でスタートするんだろ?
楽しみにしてるよ。復帰おめでとう。心から祝福するよ」

「ありがとう。俺、今度こそ頑張るから」

そう、俺の小説に結衣の挿絵が付いて連載が始まる。
俺達の初めての共同作業の様な・・・
って言うと恥ずかしいものを感じてしまうが、

これからは・・・いいや、これからも俺達2人は
手に手を取り合って支え合いながら共に歩んで行こうと
あの日、決意したのだ。

俺が絶望している時に、結衣は俺を救ってくれた。
そして、結衣が苦しんでいる時は俺が支えてあげたい。

これからもずっと・・・

「2人で屋上で話?」

「おっ、転入生の登場だな。じゃぁ、俺は戻るよ!」

「あぁ、忙しいだろうが無理すんなよな?」

聖園が去って行った。
そして転入生と言うのは・・・

「し~くん?きょうから宜しくね?」

「あぁ、でもこっちへ転校して来るなんて、いいのか?前の学校は」

「うん・・・少しでもし~くんと一緒に居たいから・・・」

やっぱり、俺の理想の彼女像だな・・・
俺は幸せを感じつつも恥ずかしい気持ちもあった。
だが、こんな可愛くて一途な結衣をこれからも大切にしたい。

だからこそ、同じ方面で進むこれからの道のりもお互いに頑張って行こうと
共に思うのであった。





END
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