64 / 185
64話、モニカの好きな雑な焼肉
しおりを挟む
「あ~、ついにこの時間が来ちゃったか」
太陽がすっかり沈み込み、夜が訪れていた。辺りは暗闇に包まれてしまっている。
そんな中私たちは、テルミネスの町で買ったランプをつけて簡易照明としながら、野宿場所を探していた。
「街道を少し外れたところに原っぱっぽいのが見えるから、今日はあそこで野宿しようか」
ちょうど野宿に適した場所を見つけ、早速そこへ向けて歩き出す私。モニカはため息をついて、数歩遅れて私の後をついてくる。
「あんた本当に野宿するつもりなのね」
「言ったじゃん、普通に野宿するって」
「聞くのと実際当たり前のように行動するあんたを見るのとではねぇ……はぁ、いつからこんな野宿をするような子になったのか」
「旅を始めてからだよ」
モニカはやはり野宿をするのが心底嫌なようだ。
私だって別に野宿するのが好きだという訳ではない。魔術で火を起こせるとはいえ、やはり外で一晩過ごすのは落ち着かなくて不安になる。
でもライラが着いてくるようになってからは、野宿に対する不安はそこまで感じなくなってきた。暗闇の中一人でじっとしているのは辛いが、そこに話し相手がいれば気が楽になる。
そうやって余裕ができると、夜の風景を楽しむ心も生まれてくるし、野宿なりの楽しみが見いだせてくるのだ。
なにより外で作って食べるごはんは、どれだけ簡単な物でも不思議とおいしく感じる。
暗い夜の中、微かな明かりをしるべとして食べる暖かなごはんは、旅の中でしか味わえないごちそうだろう。
今日はモニカもいるので、なおさら野宿も憂鬱ではなかった。モニカはこう、華があるというか、周囲を明るくさせる雰囲気を常に纏っている。暗闇の中でもそれは損なうことがなく、私を明るい気分にさせてくれるのだ。
原っぱにたどりついて、まずは適当な大木のそばに陣取り、魔術で火を起こす。これで大きな明かりは確保できたし、大木の幹を背もたれにすることもできる。
「よし、じゃあ早速ごはんにしよっか」
野宿での楽しみといったらもうごはんしかない。辺りはすっかり真っ暗闇だが、ここは寒冷地なので日が落ちるのは結構速いので、まだ夜ごはんには少し早い時間帯だろう。
でも野宿をするのなら、余計な体力消費を抑えるため基本早寝をした方がいい。だからさっさとごはんを食べてしまうのも手だ。
それに野外で料理をするとなると結構時間を食うので、早め早めに行動するべきだろう。
「今日は何を食べるの?」
ライラは夜ごはんが待ちきれないとばかりに私の魔女帽子のつばから降りてきた。
ライラの質問に答えるため、とりあえず鞄の中を覗き込む。適当に見繕って料理をするとしよう。
「あー、ちょっと待ちなさいリリア。夜ごはんなら私が準備するわ」
モニカに言われ、私は驚きに目を開く。
「え、モニカが?」
「そうよ。こんな野宿をするならせめてごはんはおいしいのが食べたいから、色々買っておいたの」
「……モニカって、料理できたっけ?」
私の記憶では、モニカは家事全般ダメだった気がする。しかも本人も家事をうまくなろうとするつもりすらなかったはずだ。
でもこうして会うのは数年ぶりの幼馴染は、あるいは料理の一つや二つできるようになっているのだろうか。
私の訝しむ視線を受けとめて、モニカは自信たっぷりに微笑んで自分の鞄を開け放った。
そこに詰まっていたのは……大量のお肉。おそらくテルミネスの町で買ったのだろう。簡単にパック詰めされた様々お肉がひしめいている。
「肉よ。肉を焼きましょう」
「……」
「なによ、黙っちゃって」
「いや、もしかして料理できるようになったのかと思っちゃったから」
「できるわよ、お肉焼くくらい」
料理かな、それ。
「それにしても肉ばっかり……」
「肉だけじゃなくて、肉にかけるタレもいくつか買ってきたわよ」
呆れる私の視線を意にも介せず、モニカは鞄の中から次々肉を出していく。
モニカは小さい体のくせして、結構な肉好きだ。
肉が好きな理由は、多分本人が料理できないのも影響しているのだろう。お肉はしっかり焼いてタレをつけて食べれば、文句なくおいしいもん。
「こんなにたくさん食べられるかな」
モニカが買ってきた肉の山を見ながら私は呟く。どれも新鮮なお肉だった。おそらく常温で放置するには今日一日が限界だと思う。
「とりあえず全部焼いて、食べられなかったら明日食べればいいのよ。焼けば後一日くらい持つでしょ?」
モニカの言う通り、しっかり火を通せば明日一日くらいは持つかもしれない。それにただ焼くだけではなく、煙でいぶして燻製にすれば保存食にもなるかも。
そう考えるといっぱいあっても問題にはならないか。
「さあ、焼くわよー。あ、リリア、フライパン持ってる? あったら貸して。リリア方式でテレキネスで焼くのもいいけど、そうすると肉汁がもったいないのよねー」
小さいフライパンなら持っているので、鞄から出してモニカに手渡した。それにしても、私がフライパン持ってなかったらどうするつもりだったんだろう。肉汁全部火に零れていたぞ。
モニカは慣れた手つきで包装紙を外し、お肉をフライパンに並べて焼いていく。
あっという間にフライパンからは肉の焼けるおいしそうな匂いが漂いだした。
「良い匂い。お肉ってシンプルに焼くだけでこんなにおいしそうなのね」
匂いにつられたのか、ライラは羽根を動かしてモニカの魔女帽子のつばにとまった。
「もしかしてライラちゃんって、こういうシンプルな焼き肉は食べたことないの?」
「お肉類は結構食べたことあるけど……確かに、ただ焼いただけのお肉は初めてかも」
「そうなんだ。もったいないわ。いい? お肉ってのはこうしてただ焼いて適当に味付けして食べるのが一番おいしいのよ」
それはモニカの一番だと思うんだけど。
でも思い返してみると、確かにこういうシンプルな焼き肉は食べてなかったな。お店で食べる時は野菜と一緒に絡めてあったり、もっと調理が施されているのが普通だもん。
手間もかからないし、シンプルな焼き肉は旅途中の野宿には意外と悪くないかもしれない。問題はお肉が日持ちしないことだけど。
モニカは軽く塩コショウで味付けしながらお肉を焼き、ちょうどいい具合に焼けたところで取り皿に肉汁ごとうつした。
「ライラちゃん食べてみて。これだけで本当おいしいから」
モニカは私が準備した食器類の中から箸を選び、ライラが食べやすいような大きさのお肉をつまんで彼女の口元へと近づける。モニカってお箸普通に使えるんだ。
ライラは出来立ての焼いたお肉をおずおずと口に迎え入れ、もぐもぐ食べ始めた。
「んっ! おいしいわよっ」
おいしさのあまりか、ぱぁっと顔を明るくさせるライラ。モニカはそれを見て、嬉しそうに笑った。
「そうでしょ!? そう、これよ。お肉はシンプルに食べるのが一番なのよ!」
力説しながら自らもお肉を頬張っていく。
私はその様子を見ながら、かつてモニカと過ごした幼馴染の日々を思い返した。
「モニカってさ、そういう焼いただけの雑な料理好きだよね」
「雑じゃなくてシンプルな料理って言ってちょうだい」
モニカは拗ねたように眉をひそめる。
「いい? 素材が良ければシンプルな料理の方が味が映えるのよ。マジックショーだって、変にこねくり回して複雑な魔術を使うより、ぱっと明るく光を動かす方が見る人を惹きつけるの。料理もそれと同じだわ」
なんてもっともらしいことを言いながら、意気揚々と次の肉を焼きだした。
「ふんふんふーん♪ ささみバラロースサーロイン♪ ももかわ手羽胸タンにヒレ♪」
しかも意味不明な鼻歌まで歌いだした。耳を澄ましてよく聞いてみると、肉の部位の鼻歌だ。焼き肉好きにもほどがある。
鼻歌つき全自動焼き肉器と化したモニカは一端放っておいて、私は小さなボウルを取り出してそこに肉を入れタレをそそいでいく。
「リリアはなにしてるの? 食べないの?」
子供用お箸を手にして器用にお肉を取り食べていたライラが、一向に食べようとしない私に気づいて近づいて来た。
「食べるよ。ただ今はちょっと作業中」
「じゃあはい」
ライラは、モニカが彼女にやったように、私の口元にお肉を運んできた。
ボウルにとぷとぷタレをそそぎながら、差し出されたお肉をぱくりと食べる。
「んっ、本当だ、普通においしい」
肉汁をまとったお肉は、少し時間が経ったのでちょうどいい温度になっている。塩コショウがほんのり効いているだけのとてもシンプルな味だったけど、とてもおいしい。モニカの言う通り、お肉は軽く味付けして焼くだけでおいしさ十分かも。
「で、リリアは何の作業中?」
「お肉をタレにつけこんでみたんだよ。こうして味付けがてら水分を含ませ続けたら、焼かなくても後一日は持つかなって思って」
軽くボウルを揺すり、肉とそそいだタレを均一にする。十数分くらいおけばしっかり味が染み込むはずだ。
するとモニカは、こちらを見もせずお肉を焼きながら言った。
「それいいわね、タレ漬け肉。後で焼くわ」
「……私の話聞いてた?」
保存するつもりないじゃん。完全に全部焼く気だ。
でもまあ、いいか。今日はもう肉をじゃんじゃん焼いてパーティーにしてしまおう。残ったら残ったで、その時処理を考えればいいのだ。せっかく三人で野宿なんだから、明るくごはんを食べてしまう方がいい。
「はい、次の肉が焼けたわ。次はレモン汁で軽くさっぱり食べましょう」
どうやらモニカなりにお肉を食べる際の味付けのローテーションがあるらしい。最初は塩コショウ、次にレモン汁、そしてタレと、どんどん味付けを濃くしていくつもりのようだ。
「濃い味付けのをいくつか食べた後は、また塩コショウやレモン汁に戻るのよ。そうしたら無限に食べられるから。実際私はこのローテーションで無限に肉を食べたことあるわ」
「……真顔でなに言ってるの?」
でもモニカの言う通り、途中でさっぱりした味付けで食べると結構食欲が増していく。
パンやごはんなどの炭水化物無しで食べているせいもあってか、私たちは用意したお肉を全部食べ尽くす勢いだった。
こうして、モニカとの雑な焼き肉パーティーは過ぎていく。不思議なもので、たった三人で軽く言葉を交わしながら肉を焼いて食べているだけなのに、この場が明るくなったような雰囲気があった。
やっぱり、モニカは場を明るくする華を持っているのだ。マジックショーはきっと、彼女の天職なのかもしれない。
モニカのもう一つの天職があるとすれば……きっとこうしてお肉を焼くだけの仕事だろう。そんな職、あるはずないけど。
「はい、追加の肉焼けたわよ~」
またモニカが肉を焼いたようだ。私たちの焼き肉パーティーは、まだまだ続いていく。
太陽がすっかり沈み込み、夜が訪れていた。辺りは暗闇に包まれてしまっている。
そんな中私たちは、テルミネスの町で買ったランプをつけて簡易照明としながら、野宿場所を探していた。
「街道を少し外れたところに原っぱっぽいのが見えるから、今日はあそこで野宿しようか」
ちょうど野宿に適した場所を見つけ、早速そこへ向けて歩き出す私。モニカはため息をついて、数歩遅れて私の後をついてくる。
「あんた本当に野宿するつもりなのね」
「言ったじゃん、普通に野宿するって」
「聞くのと実際当たり前のように行動するあんたを見るのとではねぇ……はぁ、いつからこんな野宿をするような子になったのか」
「旅を始めてからだよ」
モニカはやはり野宿をするのが心底嫌なようだ。
私だって別に野宿するのが好きだという訳ではない。魔術で火を起こせるとはいえ、やはり外で一晩過ごすのは落ち着かなくて不安になる。
でもライラが着いてくるようになってからは、野宿に対する不安はそこまで感じなくなってきた。暗闇の中一人でじっとしているのは辛いが、そこに話し相手がいれば気が楽になる。
そうやって余裕ができると、夜の風景を楽しむ心も生まれてくるし、野宿なりの楽しみが見いだせてくるのだ。
なにより外で作って食べるごはんは、どれだけ簡単な物でも不思議とおいしく感じる。
暗い夜の中、微かな明かりをしるべとして食べる暖かなごはんは、旅の中でしか味わえないごちそうだろう。
今日はモニカもいるので、なおさら野宿も憂鬱ではなかった。モニカはこう、華があるというか、周囲を明るくさせる雰囲気を常に纏っている。暗闇の中でもそれは損なうことがなく、私を明るい気分にさせてくれるのだ。
原っぱにたどりついて、まずは適当な大木のそばに陣取り、魔術で火を起こす。これで大きな明かりは確保できたし、大木の幹を背もたれにすることもできる。
「よし、じゃあ早速ごはんにしよっか」
野宿での楽しみといったらもうごはんしかない。辺りはすっかり真っ暗闇だが、ここは寒冷地なので日が落ちるのは結構速いので、まだ夜ごはんには少し早い時間帯だろう。
でも野宿をするのなら、余計な体力消費を抑えるため基本早寝をした方がいい。だからさっさとごはんを食べてしまうのも手だ。
それに野外で料理をするとなると結構時間を食うので、早め早めに行動するべきだろう。
「今日は何を食べるの?」
ライラは夜ごはんが待ちきれないとばかりに私の魔女帽子のつばから降りてきた。
ライラの質問に答えるため、とりあえず鞄の中を覗き込む。適当に見繕って料理をするとしよう。
「あー、ちょっと待ちなさいリリア。夜ごはんなら私が準備するわ」
モニカに言われ、私は驚きに目を開く。
「え、モニカが?」
「そうよ。こんな野宿をするならせめてごはんはおいしいのが食べたいから、色々買っておいたの」
「……モニカって、料理できたっけ?」
私の記憶では、モニカは家事全般ダメだった気がする。しかも本人も家事をうまくなろうとするつもりすらなかったはずだ。
でもこうして会うのは数年ぶりの幼馴染は、あるいは料理の一つや二つできるようになっているのだろうか。
私の訝しむ視線を受けとめて、モニカは自信たっぷりに微笑んで自分の鞄を開け放った。
そこに詰まっていたのは……大量のお肉。おそらくテルミネスの町で買ったのだろう。簡単にパック詰めされた様々お肉がひしめいている。
「肉よ。肉を焼きましょう」
「……」
「なによ、黙っちゃって」
「いや、もしかして料理できるようになったのかと思っちゃったから」
「できるわよ、お肉焼くくらい」
料理かな、それ。
「それにしても肉ばっかり……」
「肉だけじゃなくて、肉にかけるタレもいくつか買ってきたわよ」
呆れる私の視線を意にも介せず、モニカは鞄の中から次々肉を出していく。
モニカは小さい体のくせして、結構な肉好きだ。
肉が好きな理由は、多分本人が料理できないのも影響しているのだろう。お肉はしっかり焼いてタレをつけて食べれば、文句なくおいしいもん。
「こんなにたくさん食べられるかな」
モニカが買ってきた肉の山を見ながら私は呟く。どれも新鮮なお肉だった。おそらく常温で放置するには今日一日が限界だと思う。
「とりあえず全部焼いて、食べられなかったら明日食べればいいのよ。焼けば後一日くらい持つでしょ?」
モニカの言う通り、しっかり火を通せば明日一日くらいは持つかもしれない。それにただ焼くだけではなく、煙でいぶして燻製にすれば保存食にもなるかも。
そう考えるといっぱいあっても問題にはならないか。
「さあ、焼くわよー。あ、リリア、フライパン持ってる? あったら貸して。リリア方式でテレキネスで焼くのもいいけど、そうすると肉汁がもったいないのよねー」
小さいフライパンなら持っているので、鞄から出してモニカに手渡した。それにしても、私がフライパン持ってなかったらどうするつもりだったんだろう。肉汁全部火に零れていたぞ。
モニカは慣れた手つきで包装紙を外し、お肉をフライパンに並べて焼いていく。
あっという間にフライパンからは肉の焼けるおいしそうな匂いが漂いだした。
「良い匂い。お肉ってシンプルに焼くだけでこんなにおいしそうなのね」
匂いにつられたのか、ライラは羽根を動かしてモニカの魔女帽子のつばにとまった。
「もしかしてライラちゃんって、こういうシンプルな焼き肉は食べたことないの?」
「お肉類は結構食べたことあるけど……確かに、ただ焼いただけのお肉は初めてかも」
「そうなんだ。もったいないわ。いい? お肉ってのはこうしてただ焼いて適当に味付けして食べるのが一番おいしいのよ」
それはモニカの一番だと思うんだけど。
でも思い返してみると、確かにこういうシンプルな焼き肉は食べてなかったな。お店で食べる時は野菜と一緒に絡めてあったり、もっと調理が施されているのが普通だもん。
手間もかからないし、シンプルな焼き肉は旅途中の野宿には意外と悪くないかもしれない。問題はお肉が日持ちしないことだけど。
モニカは軽く塩コショウで味付けしながらお肉を焼き、ちょうどいい具合に焼けたところで取り皿に肉汁ごとうつした。
「ライラちゃん食べてみて。これだけで本当おいしいから」
モニカは私が準備した食器類の中から箸を選び、ライラが食べやすいような大きさのお肉をつまんで彼女の口元へと近づける。モニカってお箸普通に使えるんだ。
ライラは出来立ての焼いたお肉をおずおずと口に迎え入れ、もぐもぐ食べ始めた。
「んっ! おいしいわよっ」
おいしさのあまりか、ぱぁっと顔を明るくさせるライラ。モニカはそれを見て、嬉しそうに笑った。
「そうでしょ!? そう、これよ。お肉はシンプルに食べるのが一番なのよ!」
力説しながら自らもお肉を頬張っていく。
私はその様子を見ながら、かつてモニカと過ごした幼馴染の日々を思い返した。
「モニカってさ、そういう焼いただけの雑な料理好きだよね」
「雑じゃなくてシンプルな料理って言ってちょうだい」
モニカは拗ねたように眉をひそめる。
「いい? 素材が良ければシンプルな料理の方が味が映えるのよ。マジックショーだって、変にこねくり回して複雑な魔術を使うより、ぱっと明るく光を動かす方が見る人を惹きつけるの。料理もそれと同じだわ」
なんてもっともらしいことを言いながら、意気揚々と次の肉を焼きだした。
「ふんふんふーん♪ ささみバラロースサーロイン♪ ももかわ手羽胸タンにヒレ♪」
しかも意味不明な鼻歌まで歌いだした。耳を澄ましてよく聞いてみると、肉の部位の鼻歌だ。焼き肉好きにもほどがある。
鼻歌つき全自動焼き肉器と化したモニカは一端放っておいて、私は小さなボウルを取り出してそこに肉を入れタレをそそいでいく。
「リリアはなにしてるの? 食べないの?」
子供用お箸を手にして器用にお肉を取り食べていたライラが、一向に食べようとしない私に気づいて近づいて来た。
「食べるよ。ただ今はちょっと作業中」
「じゃあはい」
ライラは、モニカが彼女にやったように、私の口元にお肉を運んできた。
ボウルにとぷとぷタレをそそぎながら、差し出されたお肉をぱくりと食べる。
「んっ、本当だ、普通においしい」
肉汁をまとったお肉は、少し時間が経ったのでちょうどいい温度になっている。塩コショウがほんのり効いているだけのとてもシンプルな味だったけど、とてもおいしい。モニカの言う通り、お肉は軽く味付けして焼くだけでおいしさ十分かも。
「で、リリアは何の作業中?」
「お肉をタレにつけこんでみたんだよ。こうして味付けがてら水分を含ませ続けたら、焼かなくても後一日は持つかなって思って」
軽くボウルを揺すり、肉とそそいだタレを均一にする。十数分くらいおけばしっかり味が染み込むはずだ。
するとモニカは、こちらを見もせずお肉を焼きながら言った。
「それいいわね、タレ漬け肉。後で焼くわ」
「……私の話聞いてた?」
保存するつもりないじゃん。完全に全部焼く気だ。
でもまあ、いいか。今日はもう肉をじゃんじゃん焼いてパーティーにしてしまおう。残ったら残ったで、その時処理を考えればいいのだ。せっかく三人で野宿なんだから、明るくごはんを食べてしまう方がいい。
「はい、次の肉が焼けたわ。次はレモン汁で軽くさっぱり食べましょう」
どうやらモニカなりにお肉を食べる際の味付けのローテーションがあるらしい。最初は塩コショウ、次にレモン汁、そしてタレと、どんどん味付けを濃くしていくつもりのようだ。
「濃い味付けのをいくつか食べた後は、また塩コショウやレモン汁に戻るのよ。そうしたら無限に食べられるから。実際私はこのローテーションで無限に肉を食べたことあるわ」
「……真顔でなに言ってるの?」
でもモニカの言う通り、途中でさっぱりした味付けで食べると結構食欲が増していく。
パンやごはんなどの炭水化物無しで食べているせいもあってか、私たちは用意したお肉を全部食べ尽くす勢いだった。
こうして、モニカとの雑な焼き肉パーティーは過ぎていく。不思議なもので、たった三人で軽く言葉を交わしながら肉を焼いて食べているだけなのに、この場が明るくなったような雰囲気があった。
やっぱり、モニカは場を明るくする華を持っているのだ。マジックショーはきっと、彼女の天職なのかもしれない。
モニカのもう一つの天職があるとすれば……きっとこうしてお肉を焼くだけの仕事だろう。そんな職、あるはずないけど。
「はい、追加の肉焼けたわよ~」
またモニカが肉を焼いたようだ。私たちの焼き肉パーティーは、まだまだ続いていく。
0
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる