魔女リリアの旅ごはん

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8話、宿屋のベーコエッグパン

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 宿で一泊した私は、朝早くに目覚めていた。
 私はそこそこ朝に強いので、早起きをしようと思えばちゃんとできる。眠ろうと思えばお昼まで眠れるけど。
 まだもう少し眠たい。そういう思いを断ち切って早起きをすると、中々清々しい気持ちになれる。これだけで早起きしたかいがあるというものだ。そうでなくても、早起きはきっと良いことに違いない。

 しかし弟子たちは私が早起きをすると決まって、師匠っておばあちゃんなんですか? と言ってくるのだ。あいつらひどい。
 なんて朝からなぜかそんなことを思い出して、もう独り立ちしていった弟子たちに憤っていた私だった。
 多分昨日カルラちゃんに一番弟子のイヴァンナの思い出を色々話したから、こんなことまで思い出してしまったのだろう。

「……ん、お腹空いた」

 寝起きの頭がはっきりするにつれ、私は猛烈な空腹を感じ取った。
 昨日クレープをいっぱい食べたので夕食を食べなかったせいか、今はすごくお腹が空いている。
 朝だけどなんかしっかりしたのが食べたい気分だ。
 まだ見ぬ朝食を求めるために身支度を済ませ、宿屋の一階へと降りる。

 今日泊まった宿は面白いことに、一階にパン屋が併設されているのだ。どうやら宿屋を経営している夫婦の息子さんがやっているらしい。
 ということで、今日の朝ごはんはパンに決定だ。
 パン屋に入って、並べられているパンを一つ一つ見ていく。朝早いおかげか、どれも全部出来立ての様だ。
 まだ温かいパンからは良い匂いが漂っていて、とてもおいしそうだ。
 こんなおいしそうな出来立てパンに巡り合えるなんて、やっぱり早起きしたらいいことがある。

 目移りしながらパンを見比べていると、私はあることに気づいた。
 どのパンも上にハムやらベーコンやらが乗っていたり、中にホワイトソースが入っていたりと工夫されているのだ。
 いわゆる食パンのような素のままのパンなんて数えるくらいしか無い。
 どうやらフェリクスの町は、以前通った田舎町ケルンとはちょっとだけ食文化が違うようだ。

 ケルンではそのままのパンをスープにつけて食べるのが普通だったが、フェリクスではパンに他の食材を乗っけて食べたりするのが主流らしい。
 昨日の朝行った喫茶店でも、パンにチーズとハムを挟んでいたことを思いだす。
 ケルンとフェリクスは結構近くにあるのに食文化が少し違うなんて……なんか不思議。
 でも今のお腹の好き具合からすると、パンに色々具が乗ってたりするこっちの方が合ってそうだ。

 私は空腹を満たすため、食べごたえがありそうなパンを探すことにした。
 チョコとかが練り込まれているデザート系っぽいパンも気になるけど、ここはがまんだ。
 細長い生地にウインナーが乗っかっていて、マスタードがかかってるパン。
 中にポテトのグラタンが入ってるらしい丸っこいパン。
 生地にチーズが練り込まれたチーズパン。

 おいしそうなパンはいっぱいあったが、その中で私が惹かれたのは、四角い生地の真ん中に卵が乗っかりその周りをベーコンで囲んで焼き上げたパンだ。
 どうやらベーコンエッグパンというらしい。パンに卵にベーコンとは、かなり食べごたえがありそうだ。
 ということで早速購入し、今日は天気がいいので宿屋の外にあるベンチで食べることにした。

 外に出て、朝のやんわりとした陽ざしを受けとめる。ほのかに暖かくて気持ちがいい。
 どことなく陽気な気持ちになりながらベンチに座り、購入したパンを取り出した。
 ベーコンエッグパンは結構大きい。私の顔くらいありそうだ。しかも真ん中に乗ってる卵のせいかなかなか重い。両手で左右をしっかり持たないと、うっかり落としてしまいそうだ。

 慎重にパンを持って、一口かぶりつく。でも一口だとまだ周りのベーコン部分しか食べられなかった。
 このベーコン部分も相性が良くておいしいが、本命は真ん中の卵だ。早くここを食べたい。
 はやる気持ちを押さえて数度噛みつき、着実に卵までの距離を縮めていく。
 そしてようやく卵の部分にたどり着いた。
 見た目だと分からないけど、この黄身の部分はどうなっているのだろう。ドロっとした半熟なのか。それともちゃんと熱が入って固まっているのか。
 それを確かめるべく、私はいよいよベーコンエッグパンの中心に口をつけた。

 パンのもっちりとした食感に、卵の感触。それにベーコンの噛みごたえ。
 噛むごとに口の中でパンと卵とベーコンが混じりあっていく。
 肝心の黄身だが、やや固まっているところとちょっとドロっとしている部分の両方があった。
 半分まで噛み切った卵の黄身を見てみると、中心部分がほんの少しだけ半熟なのが分かる。その周りの部分はしっかり熱が通っていて、黄身は固まっていた。

 どうやら中心部分だけ半熟で、しっかり熱の通った黄身と半熟を両方楽しめるようだ。
 これが精妙な焼き具合で狙ったものなのか、たまたまなのかは分からない。
 でもなんだかちょっとお得な気持ちになった。
 ベーコンとパンの塩気が黄身でまろやかになって、食べるのが止まらない。
 気持ちの良い陽気とベーコンエッグパンのおいしさで上機嫌になった私は、ついつい鼻歌まで歌ってしまう。

 鼻歌混じりにベーコンエッグパンを全部食べた私は、ふぅ、と小さく息を吐いた。
 あんなに大きかったのに、お腹が空いてたのもあって全部夢中で食べてしまった。
 普段パンはスープにつけて食べたい派の私だけど、大満足。おかずが一緒になったパンもたまにはいいものだ。

 ベーコンエッグパンは塩コショウが振られていたのか、ちょっと味付けは濃い方だった。
 だから食べ終わった今、なにか飲みたくてしかたない。
 私はベンチから腰を上げ、どこか露店で紅茶を売ってないか探しに行くのだった。
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