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彼女のと私のはじまり

ある令嬢の憂鬱①

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 コツコツと2人分の足音が廊下に響く。
 彼女が時折教室から聞こえる声を聞きながら人目を避けて歩いていると、横を歩いていた男が不思議そうに聞いてきた。
「それにしても、わざわざ君が見に行く必要はないと思うんだけどねぇ……。リスクが大きいし、また見つかると騒ぎになるよ?」
 やめた方がいいんじゃないかとでも言いたげに男が話す。
 軽く言いながらも男が彼女を心配していることは伝わり、巻き込んだ事に少し申し訳なく思いながら彼女は答えた。
「それでも、確認したいの。この目で見て安心したいのよ」
 彼女は目を伏せながら先程の事を思い出す。
 思い返すと今でもまだその現場にいるような気がして少し足が震えてしまうが、あの時はまさか自分の行動のせいであんな結果になるとは思わなかったのだ。いや、今回は回避できたのだと信じたかったからなのかもしれない。そうやって彼女がまた後悔の渦に巻き込まれそうになっていると、突然男の顔が目の前に現れた。
「ち、ちょっと!」
 あまりの近さに離れるも、男は離れた分だけ近づき彼女の顔を覗き込んでくる。
「また考え込んで……。あんまり悩んでると健康にも良くないよ?」
「それは最もな意見だけど、この距離で言うことではないわよね?」
 若干、いや、かなり不審者を見るような目で男を見ると「ごめん、ごめん」と男は手を上げながら離れていく。
「あんまり眉間にしわが寄ってると可愛い顔が台無しだと思って」
 へらりと笑いながら言う男に、彼女は少しムッとしながら言い返した。
「すぐそうやって冗談言うんだから」
 スタスタと男を追い越しながら先に向かうと、その反応がわかってたかのようにゆっくりと追いかけてくる。
「どの辺が冗談だと思うの?」
「全部よ、全部。特に可愛い顔ってところ」
 客観的に見て、いわゆる可愛い子というのはリリー・イーストンのような子を言うのだ。実際、女の目から見ても可愛いと思うし、ああいった子に男性は癒されるのだと思う。そもそも彼女は『綺麗』と言われたことはあっても『可愛い』と言われたことは1度もない。……いや、正確に言えばある1名を除いて1度もないのだ。
「ええ?そこは冗談じゃないんだけど」
 そう言って心外そうにしている彼を見ていると、まるでこちらが間違っているかのように思えてきてしまうから不思議だ。
「……昔から思っていたけれどあなたの目って少しおかしいわよね」
 前々から思っていた事を彼女が告げると、男は大袈裟にショックを受け悲しみ始める。
「そんな……酷すぎる……。そんなに言うなら可愛いと思う所全部説明しようか?」
 シクシクと下手な泣き真似をしていたかと思えば急に真剣な顔になる彼に、心臓が変に動き出す。
「い、いいわよ、しなくて。そんなことより早く行くわよ。見つかったらまた面倒な事になるのだから」
 何故だかバクバクと動く心臓を誤魔化すように、早歩きで目的地を目指す。ただでさえ状況は最悪なのに、この男と親しげに話している所や、目的地の事を他の人に知られたらあらゆる意味で状況が悪化しそうだ。
「はいはい。君のためならどこへでも」
 動揺しながら歩いていく彼女の反応を微笑ましく思いながら男も彼女を追いかけて歩いた。
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