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彼女のと私のはじまり
4、夢のあと
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「──こんな────なくてごめ─なさい」
──誰かの声が聞こえる……。
「すこし───けがが──ように──」
優しい声なのに今にも泣きそうな声だ。
なんて言っているのだろう。よく聞きたいのに頭がふわふわして考えられない。
ああ、でもなんだか身体もぽかぽかして暖かいし……さっきまでの痛みも……
──痛み?
そうだ、私は階段から落ちてそれから──。
段々とクリアになっていく頭とは逆に声がどんどん遠くなっていく……。
待って、あなたは
「あなたはいったい……」
せめて顔を見ようと必死で目を開けるが、やっとの思いで開いた先に見えたのは清潔感のある白い天井だけだった。
「ここは……」
「リリー!」
「マリ、ア?」
名前を呼ばれた方に視界を動かすとマリアが目いっぱいに涙を溜め近づいてくるのが見える。
「良かった……。気がついたのね」
ほっとしたように笑い、手を握ってくれるマリアを見ているうちに段々と周りの様子が頭に入ってきた。
よく見るとリリーはベッドに寝かされており周りは白いカーテンで覆われている。マリアが入ってきたカーテンの隙間から外を見ると薬や包が入った棚が見えた。
(そっか……。ここは保健室だ)
おそらく階段の踊り場で倒れていたリリーを誰かが発見しここまで運んでくれたのだろう。
(誰が見つけてくれたのかな……。もしかして夢で聞いたあの声の──)
「ねえ、マリア。私をここまで連れてきてくれたのって──」
「失礼。誰かいるだろか」
詳しい事情を聞こうとマリアに声をかけたのと同じくらいに保健室のドアをノックする音が聞こえた。
「今、保健室の先生がリリーの件で対応していて誰もいないから、私が少し要件を聞いてくるわね」
心配しないでというように微笑みながらマリアは扉の方に向かっていってしまった。
カーテンの向こうでマリアが誰かと話しているのを聞きながらリリーは自分が階段から落ちた理由を考える。
(確かにあの時急いではいたけど、足を滑らせたというよりは何かに背中を押されたような……)
そうなると夢で聞いた声が怪しくなるが、何となくリリーはその声の主は犯人ではないような気がした。もうほとんど覚えていないがその声には悪意を感じられなかったからだ。
(どこかで聞いたことあるような気がしたんだけどな)
そんなことを考えているとどうやらマリアと誰かの話は終わったようで、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
「リリー、今大丈夫?ウィルソン殿下がいらっしゃってリリーに話があるみたいなのだけれど……」
「えっ!」
(で、殿下が?何で急に……)
突然の出来事に今まで考えていたことなど全て吹き飛び、リリーは慌てて上半身を起こし髪を整える。
「ど、どうぞ!」
軽くパニックになりながら了承すると、マリアがカーテンを開けクラウスがすまなそうに近づいてきた。
──誰かの声が聞こえる……。
「すこし───けがが──ように──」
優しい声なのに今にも泣きそうな声だ。
なんて言っているのだろう。よく聞きたいのに頭がふわふわして考えられない。
ああ、でもなんだか身体もぽかぽかして暖かいし……さっきまでの痛みも……
──痛み?
そうだ、私は階段から落ちてそれから──。
段々とクリアになっていく頭とは逆に声がどんどん遠くなっていく……。
待って、あなたは
「あなたはいったい……」
せめて顔を見ようと必死で目を開けるが、やっとの思いで開いた先に見えたのは清潔感のある白い天井だけだった。
「ここは……」
「リリー!」
「マリ、ア?」
名前を呼ばれた方に視界を動かすとマリアが目いっぱいに涙を溜め近づいてくるのが見える。
「良かった……。気がついたのね」
ほっとしたように笑い、手を握ってくれるマリアを見ているうちに段々と周りの様子が頭に入ってきた。
よく見るとリリーはベッドに寝かされており周りは白いカーテンで覆われている。マリアが入ってきたカーテンの隙間から外を見ると薬や包が入った棚が見えた。
(そっか……。ここは保健室だ)
おそらく階段の踊り場で倒れていたリリーを誰かが発見しここまで運んでくれたのだろう。
(誰が見つけてくれたのかな……。もしかして夢で聞いたあの声の──)
「ねえ、マリア。私をここまで連れてきてくれたのって──」
「失礼。誰かいるだろか」
詳しい事情を聞こうとマリアに声をかけたのと同じくらいに保健室のドアをノックする音が聞こえた。
「今、保健室の先生がリリーの件で対応していて誰もいないから、私が少し要件を聞いてくるわね」
心配しないでというように微笑みながらマリアは扉の方に向かっていってしまった。
カーテンの向こうでマリアが誰かと話しているのを聞きながらリリーは自分が階段から落ちた理由を考える。
(確かにあの時急いではいたけど、足を滑らせたというよりは何かに背中を押されたような……)
そうなると夢で聞いた声が怪しくなるが、何となくリリーはその声の主は犯人ではないような気がした。もうほとんど覚えていないがその声には悪意を感じられなかったからだ。
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そんなことを考えているとどうやらマリアと誰かの話は終わったようで、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
「リリー、今大丈夫?ウィルソン殿下がいらっしゃってリリーに話があるみたいなのだけれど……」
「えっ!」
(で、殿下が?何で急に……)
突然の出来事に今まで考えていたことなど全て吹き飛び、リリーは慌てて上半身を起こし髪を整える。
「ど、どうぞ!」
軽くパニックになりながら了承すると、マリアがカーテンを開けクラウスがすまなそうに近づいてきた。
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