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第4章

082.たゆたう揺らめきの中

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「ねぇ、エレナ」
「なぁに? お願いされたってこのアイスはあげないわよ?」

 夕食も終わり、食後のティータイム。
 適当な賑やかしに付けたテレビが心地よいざわめきを醸し出しながら、俺とエレナは母さんが買っておいてくれたであろうアイスを食べ、ゆったりとした時間を過ごしていた。

 ちなみに夕飯はオムライス。
 きっとこれも母さんが買ってそのままだったのだろう。何を作ろうかと冷蔵庫を空けると冷蔵庫には卵が大量にあってびっくりしたものだ。
 そして明日は特売日。これはもう卵料理をするしか無いと豪勢に使用することで無事、殆どの卵を処理することができた。

 結果論だが、エレナが居てくれて本当に助かった。
 俺一人じゃこの中のものを食べきることなんてできなかっただろう。もしかして母さんはエレナが来ることを見越していたのかもしれない……とまで想像し、ありえないと思考を振り払った。

 そんなリラックスタイムのさなか、ふと気になったことを聞こうと声をかけるとアイスを死守するように引き寄せるエレナが目に入る。
 俺の手元にも空になったアイスの容器が。どちらも同じパッケージでそれはないと首を振るう。

「アイスじゃなくって。 なんとなく思ったんだけど、もしかしてリオと仲悪かったり?」
「……あら、なんでそう思うの?」

 彼女が丁寧に片手で髪をかき上げながらアイスを口に運んでいた手が不意に止まった。
 そのまま手にしていたスプーンを置き、両手を組み合わせてアイスに向いていた目をチラリと一瞬上目遣いする形でこちらを見てくる。
 ……ちょっと言い方が不味かったかもしれない。

「他意はないんだけどさ、エレナってアイさんとはよく一緒に居たり会話に出てくるけど、あんまりリオの事は出てこないなぁって」
「あぁ、そのことね」

 一つ頷くように言葉を発し、今までより大きくアイスを掬って口へ放り込む。
 空になった容器を脇に寄せ、なんでもないようにと手で否定を示す。

「全然、そんなこと無いわよ。でもそうね……一緒に居る期間と毎日ご飯食べてるからかしら。アイのほうが長いから自然とそうなっちゃうのよね」
「リオは一緒じゃないの?」
「リオも基本は一緒よ。でも忙しい朝とか休日ともなるとねぇ……」

 確かに。彼女はアイさんの料理をよく……というより依存レベルで食べているフシがある。
 リオの休日って何してるんだろうか。今度聞いてみよう。

「休日は一緒じゃないんだ?」
「みんなバラバラよ。……そういえば最近リオがアイに料理習ってたわね。それ以外は……アイがここ最近外出が増えてきたくらいかしら」

 いくら同じグループといえどもそこまでは干渉しあっていないと。

「そういえば私の誕生日の日、リオからクマ貰ったじゃない?」
「うん」

 ふと連鎖して思い出したようで懐かしい話題を出してきた。
 あの日は木彫りの熊を渡してたっけ……北海道に行ってたとかなんとか。

「アレ、本当は北海道は冗談で物産展で買ったものみたいなのよ。キミが帰ってから可愛いハンカチタオル貰ったわ」
「そうだったの? じゃあなんで熊を……」
「さぁ……あの子、サプライズ好きだからじゃないかしら?」

 サプライズ…………わかる気がする。
 気づけばすぐ隣に居て驚かしてくるし、学校まで来たりお弁当くれたり……色々とサプライズを受けることが多かった。
 お弁当美味しかったしまた作ってくれないかな?

「というわけで、仲悪いことはないわよ?……でもあの子って基本天才タイプで、一人で何でもできちゃうのよ。だからリーダーもあの子なのよね……」
「エレナも……頑張ってね……」

 エレナは欠点が多い。主に生活力に関して。
 だからアイさんに色々と手伝ってもらうが、リオは一人で出来るから外からそう見えてしまっただけらしい。

 『頑張って』それにはいろいろな意味を込めた。
 アイドル活動しかり、リーダー狙いしかり、何より一人で片付けやら料理ができるようにと。

 俺がそう苦笑いしながら励ますと、不意に脚へ軽い衝撃に襲われた。

 誰かなど考えるまでもない。エレナだ。
 彼女は自らの足を使って俺の脚を軽く蹴ったようで、その顔を見ると眉間にシワを寄せながら立ち上がってツカツカとテーブルを回って隣まで歩いてくる。

 ジッと俺を見下ろすエレナ。まさか読心で先程の言葉の真意がバレたのかと、額に汗が伝う。

「え……エレナ……?」
「慎也、こっち向いて」
「?」

 なんだろう……?
 意図を理解せず立ち上がろうとすると肩を抑えられてしまった。
 座ったまま向けということか。俺は黙って90度回って彼女と向かい合う。

「ふふっ…………え~いっ!」
「わっ!? な、なに!?」
「じっとしてなさい! あんまり暴れると落ちて怪我しちゃうわよ!私が!!」

 彼女は言われるがままに身体を動かした途端、勢いよく飛び込んできた。

 エレナは俺と向かい合ったと見るや1オクターブ高い掛け声を出して、180度回転しながらこちらに飛び込んできたのだ。

 迫って来たのは彼女の背中。
 俺はこけないように膝の上にその小さな身体を収めることに成功するも、驚きの余り大げさに身体を動かしてしまう。そして怒られた。

「ふふんっ! なかなかこれも悪くないわね!」
「えっと……何してるの?」

 バタバタ揺れていた椅子も落ち着き、満足げに笑う彼女に問いかける。

 今の体勢といえば椅子に座っている俺へ重なるように、エレナが腰を下ろしている状態だ。
 俺の腕は行く宛もなく垂れており、彼女といえば満足そうにしながら背中を俺の胸へと押し当ててくる。

 そして正面にはテレビが。二人重なってテレビを見ている状態だ。…………なにこれ?

「キミが女性と二人きりで居るのに他の子の話題を出すんだもの。罰ゲームとして大人しくしてなさい」
「いや、でも……これは……」
「お姉ちゃん命令よ。文句ある?」
「いや…………」

 文句というより、恥ずかしい。
 前回アイさんの家であったときよりも、彼女の香りが強くなっている気がした。
 仕事の影響だろうか。汗と何かが混じった香り。決して悪くない。悪くはないのだが、その髪から漂ってくる芳醇な香りは理性に悪い。

「ならいいわね。……それにしてもちょっとふらつくわね。ねぇ、ちょっと横支えてもらえない?」
「……腕で?」
「えぇ。ほら、腰なら抱きしめていいから。こけないうちにお願い」

 確かに小さい身体とはいえ人の上。何の支えの無しに座り続けるのは難しいだろう。
 本当に抱きしめてセクハラとか言われないだろうか。変な所触ってしまわないだろうか。もしかしたら俺を試していて本当に抱きしめたところを写真に収めて美代さんに送ったり――――

「……何してるのっ! ほらっ!!」
「わっ!!」

 俺が考えに耽っていることに待ちきれなかったのだろう。
 彼女は器用に俺の両手を引っ張り出して自らの膝の上へ乗せられた。

 ポスンと、細く柔らかな太ももの感触が直に伝わってくる。
 現在の彼女は短パンだ。短い丈から露出した太ももをダイレクトに触れてしまい、暖かくて柔らかな感触が直に伝わってくる。

 脚でさえも汚れや傷など一つもない。まるで陶器のように綺麗な彼女の肌は柔らかく、そして少し力を入れれば壊れそうで、触れているだけなのに相当顔を赤くしている自覚があった。
 そんな俺を知ってか知らずか、彼女は声を張り上げる。

「次は手を組んで!」
「…………はい」

 もはや俺に拒否権はない。
 彼女に従う形で落ちないよう、手を腹部の前で組む。

 一体どれだけ運動しているのだろう。
 手を組んだ際に触れるそのお腹周りは細くもしっかりとした力強さがあり、健康的な痩せ方をしているのが感じ取れた。
 ウエストは引っ込んではいるものの栄養失調ということはなく、芯の強さがある。
 俺は金髪に埋もれた顔を首を動かしながらかき分けてその小さな肩に乗せた。

「ひゃっ!……肩に頭乗せるなら言ってよね。驚いたじゃない。でも、いい感じね」
「……ありがと」

 少しだけ仕返しのつもりだったが、完全に許容されてしまったことに内心驚く。
 その表情は飄々としていて、そのままテレビをじっと見つめている。

「あら。私達だわ」
「あ、ホントだ」

 ふと漏れた言葉に視線をテレビに移すと彼女たちのCMが丁度流れていた。
 それは以前撮ったものではなく前からたまに流れているもの。ドリンクのCM。

 グラウンドを走っていた彼女たちが美味しそうにペットボトルのジュースを飲む。それだけなのに、引き込まれるような、そのドリンクを飲んでみたいと思わせるようなもの。

 目の前に座る彼女があのCMを……
 なんだろう。未だに信じられない。
 こんなに人気もあって可愛い彼女が膝の上に座り、あまつさえ後ろから抱きしめることを許してくれるなんて。

「慎也」
「ん……」

 彼女たちのCMが終わると、ふと俺を呼ぶ声が聞こえてきた。それは優しく、全てを受け入れるような声。
 更にはこちらを見ることもなく彼女の手が俺の頭に伸び、器用に髪を上から下まで撫でてくれる。力加減が絶妙で、椅子に座っていても眠くなるような……

「今日はごめんね。あまりにも慎也の周りが女の子ばかりだから、ちょっとムカッてきちゃって……」
「ん……だい……じょう、ぶ……」

 彼女はなんて言っているのだろう。心地よい感触と安らぐ香りでだんだんと眠くなってきた。
 ごめん……?何かはわからないけど、謝ることないのに。

「慎也が悪いのよ?美代を落としちゃってるし、私が居るのにアイやリオの話ばっかりして……」
「ん…………ごめ…………」

 俺の意識はもはや闇深くへと落ちていく。
 彼女の優しく責める言葉も、遠すぎてほとんど聞こえてこない。

「ふふっ、冗談よ。今日はご飯、作ってくれてありがとね。それに、何も言わずに抱きしめてくれて……」
「…………」
「あら、寝ちゃった? ………………それじゃあ、おやすみなさい」

 俺は椅子の上だと言うにも関わらず気持ちのいい感覚に身を任せながらその意識を完全に落とす。
 たゆたうような流れの中、完全に闇へと沈み切る瞬間、頬になにか柔らかな感触が触れたような気がした――――。
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