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訳アリ悪魔の愛玩天使
28.魔王と天使の初夜⑤**
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「ん…」
フィーリアが苦しそうな声を上げたので、ルスフェスはハッとした。
だから、フィーリアを抱き締めたままベッドの上を転がり、自分が下敷きになる。
片手でフィーリアの髪を梳きながら、その耳元に唇を寄せて囁いた。
「済まない…」
「…? 何、が…?」
無垢な表情で問い返してくるフィーリアに、ルスフェスは苦い思いを滲ませながら、微笑んだ。
狡猾な手段で、フィーリアを手に入れた。
悪魔の体液には、中毒性がある。
相手が同じ悪魔なら、影響はさほど強くない。
けれど、天使にはやはり、強く効き過ぎるようだった。 口づけで、ルスフェスの体液を取り込んだくらいで、中毒症状が出るくらいなのだ。
精をその胎内に注いでしまっては、もう引き返せない。
フィーリアは本当に、ルスフェスなしでは…ルスフェスの精を定期的に取り入れなくて、生きていけなくなるだろう。
ルスフェスが、フィーリアに、一日一度のキスを、義務づけていたように。
フィーリアが欲しくて、自分だけのものにしたくて…、天階になど帰したくなくて、魔階の王に相応しくない、卑怯な手段に手を染めた。
ルスフェスに言わせれば、フィーリアがそれだけ、魅力的だったという話、それだけではあるのだが。
「私だけ、よくなった。 …貴女が、気持ちよすぎて…我慢できなかった。 痛いだけで、よくなかったでしょう?」
フィーリアのなかにまだ埋め込んだままフィーリアに囁くと、フィーリアはほんのりと頬を染めて、そっと目を伏せる。
「ルスフェス様が、ご満足されたのなら、わたしは。 …その、指で…何度も、していただきましたし」
無垢な中に、しっとりと残った情交の色香に、またひとつフィーリアの魅力を開花させたような気がして、ルスフェスは満足する。
こんなに、愛おしいと思う生き物があるなんて。
ルスフェスは、フィーリアを抱きかかえたまま、またベッドの上を転がってフィーリアを下敷きにした。
「一度、離れる」
「あ…」
ルスフェスがゆっくりと自身をフィーリアのなかから引き抜くと、フィーリアは小さく、苦悶とも恍惚ともつかぬ声を漏らした。
眉根を寄せた彼女に、繋がっていた場所から流れた真紅に、ルスフェスもわずかに眉を寄せる。
シーツで優しく、彼女の脚の間を拭った。
「、そんな、こと」
フィーリアは慌てて手を伸ばして、ルスフェスを止めようとしたが、ルスフェスはそのフィーリアの手を取って口づけを落とす。
「…なぜ、接合の痛みを与えなければならないのだろうね?」
ルスフェスの言葉に、フィーリアはまだ情交の名残で潤んだ目をしぱしぱと瞬かせた。
まるで、ルスフェスが何を言っているのかわからない、とでも言うかのようだった。
「こんなに愛しく思っている貴女に、どうして私が痛みを与えねばならない?」
本当なら、ルスフェスはフィーリアに痛みなど一つも、与えたくなかった。
ルスフェスとの初めてを、フィーリアの初めてを、嫌な思い出になど、したくなかったのだ。
初めての男性体の印象は、鮮烈だろう。
ただただ、ルスフェスが与える快楽に溺れ、ルスフェスに溺れてほしかったというのに。
「そ、れは…」
フィーリアの愛らしい唇が、控えめに言葉を紡ぐ。
「きっと、誰とでも、愛し合わないように、だと思います」
彼女が口にしたのは、ルスフェスの、自問自答にも近い言葉に対する、彼女なりの答えだったのだろう。
ややあって、そう、ルスフェスは気づいた。
控えめに、だけれども、フィーリアの声は確信に満ちていて、それを信じているのがわかる。
その声音に惹かれてルスフェスがフィーリアを見つめると、フィーリアは潤んだ目を細め、頬を染めて、幸せそうに微笑んだ。
「痛くても、一つになりたいと思う相手とだけ、愛し合えるように」
雷に撃たれたような衝撃、とはよく聞くが、そういう感じではなかった。
静寂が、ルスフェスの中に落ちた、というか。
静かに溶け込み、腑に落ちる。 そして、揺るぎない。 そんな、不思議な感覚。
「貴女にとって、私はそれだった?」
言葉に換えると、内側から震えが走るようだった。
「…はい」
フィーリアが、ますます幸せそうに微笑むものだから、ルスフェスも胸がいっぱいになるような気持ちがした。
愛しくて、ならない。
そう思ってフィーリアを見つめていたのに、フィーリアがふいと視線を逸らしたので、それがルスフェスの気に障った。
フィーリアに関わることでは、簡単に感情を揺らしすぎるのが最近の自分の悪癖だと言うことは、重々承知している。
すぐに、平静を装って、フィーリアに尋ねた。
「…どうして目を逸らす?」
「だって…恥ずかしくて」
目を逸らしたまま応じるフィーリアは可愛らしかった。
けれど、【恥ずかしい】の意味がよくわからなくて、ルスフェスは首を揺らす。
「なぜ? 貴女にとって、私に抱かれるのは恥ずべき行為だったの?」
「! そうではなくて…」
心外だ、とでも言うかのように語調を荒げたフィーリアがようやくルスフェスを見るから、ルスフェスはもう一度フィーリアに問いかける。
「そうではなくて?」
フィーリアは一度ぐっと唇を引き結んだようだったが、そろそろと顔を両手で覆うと、訥々と心境を吐露し始めた。
「…自分でも、見たことのないところを見られて、触れられるのは、恥ずかしい、ことです。 それに、…あんなわたし、わたしは知らなくて…それを見られるなんて、恥ずかしい。 …貴方がどう思ったのか、わからなくて、恥ずかしい」
フィーリアの手が小さく震えているのが、ルスフェスの目にもよくわかった。
プラチナブロンドの綺麗な髪の間から覗く耳まで赤くなっていて、ルスフェスは思わず微笑う。
「そんなこと…。貴女の身体は綺麗だ。 どこもかしこも、気持ちがいい。 特に、貴女が恥ずかしがる場所は」
フィーリアが、ルスフェスにどう思われたかわからなくて恥ずかしいと言うのであれば、それを解消してあげればいいだけだ。 そう考え、ルスフェスは語り続ける。
「私は、可愛いと思ったし、愛しいと思った。 どうして、こんなに愛おしいと…大切にしたいと思う存在があったのだろう」
そうすれば、フィーリアの震えが大きくなって、「もうやめてください、恥ずかしくて死ねます…」と耳に心地良いフィーリアの声が音を上げた。
「その程度では死なないから、安心して恥ずかしがってくれていい」
そう、フィーリアを宥めて、ルスフェスは微笑む。
だって、フィーリアの心が、「嬉しい」「幸せ」「大好き」と言っているのが、ルスフェスには聴こえる。
彼女を墜とした、天階長には、感謝してもいいかもしれない。
けれど彼女を、天階長の望みのまま、天階に帰してやることはもう、できない。
なぜなら、ルスフェスとてもう、フィーリアなしで退屈な日々を送る未来など、考えられないからだ。
フィーリアが苦しそうな声を上げたので、ルスフェスはハッとした。
だから、フィーリアを抱き締めたままベッドの上を転がり、自分が下敷きになる。
片手でフィーリアの髪を梳きながら、その耳元に唇を寄せて囁いた。
「済まない…」
「…? 何、が…?」
無垢な表情で問い返してくるフィーリアに、ルスフェスは苦い思いを滲ませながら、微笑んだ。
狡猾な手段で、フィーリアを手に入れた。
悪魔の体液には、中毒性がある。
相手が同じ悪魔なら、影響はさほど強くない。
けれど、天使にはやはり、強く効き過ぎるようだった。 口づけで、ルスフェスの体液を取り込んだくらいで、中毒症状が出るくらいなのだ。
精をその胎内に注いでしまっては、もう引き返せない。
フィーリアは本当に、ルスフェスなしでは…ルスフェスの精を定期的に取り入れなくて、生きていけなくなるだろう。
ルスフェスが、フィーリアに、一日一度のキスを、義務づけていたように。
フィーリアが欲しくて、自分だけのものにしたくて…、天階になど帰したくなくて、魔階の王に相応しくない、卑怯な手段に手を染めた。
ルスフェスに言わせれば、フィーリアがそれだけ、魅力的だったという話、それだけではあるのだが。
「私だけ、よくなった。 …貴女が、気持ちよすぎて…我慢できなかった。 痛いだけで、よくなかったでしょう?」
フィーリアのなかにまだ埋め込んだままフィーリアに囁くと、フィーリアはほんのりと頬を染めて、そっと目を伏せる。
「ルスフェス様が、ご満足されたのなら、わたしは。 …その、指で…何度も、していただきましたし」
無垢な中に、しっとりと残った情交の色香に、またひとつフィーリアの魅力を開花させたような気がして、ルスフェスは満足する。
こんなに、愛おしいと思う生き物があるなんて。
ルスフェスは、フィーリアを抱きかかえたまま、またベッドの上を転がってフィーリアを下敷きにした。
「一度、離れる」
「あ…」
ルスフェスがゆっくりと自身をフィーリアのなかから引き抜くと、フィーリアは小さく、苦悶とも恍惚ともつかぬ声を漏らした。
眉根を寄せた彼女に、繋がっていた場所から流れた真紅に、ルスフェスもわずかに眉を寄せる。
シーツで優しく、彼女の脚の間を拭った。
「、そんな、こと」
フィーリアは慌てて手を伸ばして、ルスフェスを止めようとしたが、ルスフェスはそのフィーリアの手を取って口づけを落とす。
「…なぜ、接合の痛みを与えなければならないのだろうね?」
ルスフェスの言葉に、フィーリアはまだ情交の名残で潤んだ目をしぱしぱと瞬かせた。
まるで、ルスフェスが何を言っているのかわからない、とでも言うかのようだった。
「こんなに愛しく思っている貴女に、どうして私が痛みを与えねばならない?」
本当なら、ルスフェスはフィーリアに痛みなど一つも、与えたくなかった。
ルスフェスとの初めてを、フィーリアの初めてを、嫌な思い出になど、したくなかったのだ。
初めての男性体の印象は、鮮烈だろう。
ただただ、ルスフェスが与える快楽に溺れ、ルスフェスに溺れてほしかったというのに。
「そ、れは…」
フィーリアの愛らしい唇が、控えめに言葉を紡ぐ。
「きっと、誰とでも、愛し合わないように、だと思います」
彼女が口にしたのは、ルスフェスの、自問自答にも近い言葉に対する、彼女なりの答えだったのだろう。
ややあって、そう、ルスフェスは気づいた。
控えめに、だけれども、フィーリアの声は確信に満ちていて、それを信じているのがわかる。
その声音に惹かれてルスフェスがフィーリアを見つめると、フィーリアは潤んだ目を細め、頬を染めて、幸せそうに微笑んだ。
「痛くても、一つになりたいと思う相手とだけ、愛し合えるように」
雷に撃たれたような衝撃、とはよく聞くが、そういう感じではなかった。
静寂が、ルスフェスの中に落ちた、というか。
静かに溶け込み、腑に落ちる。 そして、揺るぎない。 そんな、不思議な感覚。
「貴女にとって、私はそれだった?」
言葉に換えると、内側から震えが走るようだった。
「…はい」
フィーリアが、ますます幸せそうに微笑むものだから、ルスフェスも胸がいっぱいになるような気持ちがした。
愛しくて、ならない。
そう思ってフィーリアを見つめていたのに、フィーリアがふいと視線を逸らしたので、それがルスフェスの気に障った。
フィーリアに関わることでは、簡単に感情を揺らしすぎるのが最近の自分の悪癖だと言うことは、重々承知している。
すぐに、平静を装って、フィーリアに尋ねた。
「…どうして目を逸らす?」
「だって…恥ずかしくて」
目を逸らしたまま応じるフィーリアは可愛らしかった。
けれど、【恥ずかしい】の意味がよくわからなくて、ルスフェスは首を揺らす。
「なぜ? 貴女にとって、私に抱かれるのは恥ずべき行為だったの?」
「! そうではなくて…」
心外だ、とでも言うかのように語調を荒げたフィーリアがようやくルスフェスを見るから、ルスフェスはもう一度フィーリアに問いかける。
「そうではなくて?」
フィーリアは一度ぐっと唇を引き結んだようだったが、そろそろと顔を両手で覆うと、訥々と心境を吐露し始めた。
「…自分でも、見たことのないところを見られて、触れられるのは、恥ずかしい、ことです。 それに、…あんなわたし、わたしは知らなくて…それを見られるなんて、恥ずかしい。 …貴方がどう思ったのか、わからなくて、恥ずかしい」
フィーリアの手が小さく震えているのが、ルスフェスの目にもよくわかった。
プラチナブロンドの綺麗な髪の間から覗く耳まで赤くなっていて、ルスフェスは思わず微笑う。
「そんなこと…。貴女の身体は綺麗だ。 どこもかしこも、気持ちがいい。 特に、貴女が恥ずかしがる場所は」
フィーリアが、ルスフェスにどう思われたかわからなくて恥ずかしいと言うのであれば、それを解消してあげればいいだけだ。 そう考え、ルスフェスは語り続ける。
「私は、可愛いと思ったし、愛しいと思った。 どうして、こんなに愛おしいと…大切にしたいと思う存在があったのだろう」
そうすれば、フィーリアの震えが大きくなって、「もうやめてください、恥ずかしくて死ねます…」と耳に心地良いフィーリアの声が音を上げた。
「その程度では死なないから、安心して恥ずかしがってくれていい」
そう、フィーリアを宥めて、ルスフェスは微笑む。
だって、フィーリアの心が、「嬉しい」「幸せ」「大好き」と言っているのが、ルスフェスには聴こえる。
彼女を墜とした、天階長には、感謝してもいいかもしれない。
けれど彼女を、天階長の望みのまま、天階に帰してやることはもう、できない。
なぜなら、ルスフェスとてもう、フィーリアなしで退屈な日々を送る未来など、考えられないからだ。
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