【R18】訳アリ悪魔の愛玩天使

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訳アリ悪魔の愛玩天使

19.変わり目*

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 ルスフェス様と、フィーリアの関係は、何も変わらない。
 そう、ルスフェス様のお墨付きをもらったフィーリアは、ひとまず、ルスフェス様のお傍にいられることで、安心して日々を過ごしていた。

 今日も、フィーリアはルスフェス様のお城の私的なエリアのお掃除をしている。
 現在は、応接間のお掃除をしているところなのだが、急に応接間の扉が開いて、フィーリアはびくりとした。
 見れば、応接間の戸口のところに、この前の美少女が立っている。


「ああ、臭い」


 鼻をつまんで微笑んだ美少女にはやはり、小悪魔的な可愛らしさがある。
 確か、この美少女な小悪魔は、ルスフェス様の【配下】だという話だ。 掃除の手を止めぬまま、相対するのはよくないだろうとフィーリアは立ち上がり、美少女に向き直った。
「何か、臭いますか?」
 そうすれば、ベリアルと呼ばれた美少女は、鼻から手を離して悪魔的に妖艶な微笑を浮かべた。


「天使臭いと言ったんだよ」


 その、愛らしい唇から漏れる音も、微笑もふりまかれる毒でしかない。
「家畜以下だね、くっさいなぁ。 陛下はこの女性体おんなの何を気に入ったんだろう」

 ベリアルは、つかつかとフィーリアに歩み寄ると、フィーリアの顎を人差し指一本で持ち上げて艶やかに微笑む。
 そして、紅い舌で、舌なめずりをした。


「試してみればわかるのかな」


 試してみれば、わかるのかな?


「っ!」
 フィーリアが思考を停止した一瞬のうちに、視界が回って、背中に衝撃を受けた。
 それだけではなく、ベリアルがフィーリアの上に馬乗りになり、ぐっと手首を押さえつけている。
 …急展開だ。

 流石にまずい、とフィーリアでもわかった。
 ベリアルから漂う妖艶な色香、珊瑚色の瞳が獲物を狙う者のものになっている。
 女性体同士、男性体同士の恋愛は、それこそ翼を黒に染めるほどの禁忌タブー


 これは、いけないことだ。


「天使なんて、家畜以下と仰ったではないですか! 家畜に欲情するのですか!?」
 思いとどまってください! という思いでフィーリアは訴えたのだが、ベリアルはきょとんとした後で笑う。


「性能のいい穴だと思えばいいだけでしょ」


 ベリアルの珊瑚色の瞳が、妖しく煌めいた。
 まずい、と思ったときにはもう遅く、身体の自由が奪われる。

「あ、言い忘れてたけど、僕は純血の淫魔だから、あんまり目を見ない方がいいよ。 …ってもう遅いね? たまには、毛色の違ったモノにいれてみたくなるよね」
 うっとりと目を細めて、容姿に似合わないほどの妖艶な笑みを浮かべたベリアルの言葉に、フィーリアは目を見張る。

 今、【いれてみたくなる】と言ったのか? この美少女が?
 ということは、もしや。

「っ…、貴方、男性体、だったのですか!?」
 叫んで、フィーリアはまたしまった、と思う。
 身体の自由が利かないから、きっと声も出ないだろうと思っていたのだが、そんなことは全くなかったらしい。
 男性体だと思えば、急にその微笑みが雄っぽい色香のものに変わるから、認識の問題とは重要なのだと思う。


「僕を女性体おんな扱いしないでくれる? 僕を女性体おんな扱いしていいんだとしたら、それは陛下だけだよ」
 ぐっとベリアルの手がフィーリアのお仕着せの上を掴んだかと思うと、ぶちぶちぶちっと音がして釦が弾け飛ぶのが見えた。

 驚きのあまり、その光景を脳が理解するのに数拍を要したのだと思う。
 そして、身の危険が、ベリアルを女性体と思っていたときよりも迫るのを感じた。

 下着にはまだ覆われているけれど、胸部が露わになり、そこにベリアルの熱っぽい視線が注がれていたからだ。
「いいもの持ってるねぇ。 こぉんな童顔の天使かちくなんかじゃ勃たないと思ってたけど、これならいけそう」
 言うや否や、素早くベリアルさんの手がフィーリアの胸部を覆っていた下着をずり下ろし、まろびでた乳房に顔を埋めたのだ。


「ひっ」
 ぬめる、生ぬるい舌が、肌を這う感覚が気持ち悪くて、フィーリアは息を呑む。


「いや、いやぁ!」
 声を上げれば、胸元で笑う気配がする。
「なぁんだ、いい声で啼くじゃん」
 唾液で濡れた肌に、吐息がかかって、冷たくて気持ちが悪い。 それだけでなく、怖い。
 恐怖のあまり、ドッドッと全身が脈打っている。 全身が心臓になったかのように、感じる。 ぢゅううっと肌を吸われる感覚も気持ち悪くて、眦を涙が伝った。


 呼ぼうと、意識したわけではない。
 けれど、その声は、喉の奥から叫びとなって、空間に響いた。


「ルスフェス、様ぁ!」


 叫びが、終えるか否かというところで、空間の空気がずしんっと重くなる。
 それは、呼吸が苦しくなるほどで、だからフィーリアは自分の身体の上から、馬乗りになっていた重みが消えたことには気づかなかった。
 それに気づいたのは、空間を震わせるような低い唸り声が、聞こえたときだった。


ころすぞ」


 押し殺したような、声。
 だからこそ、それが空気を震わせるほどの振動に変わったのだろう。
 そんなことを思った。

 背中を抱き起こすようにして、肩を抱かれたフィーリアが目を開けば、目の前にルスフェス様の顔があって、フィーリアは涙が出そうなほどに、ほっとした。


 一瞬にして空間の空気を塗り替え、制圧し、自分の支配下におけるひと、なのに。
 フィーリアはそのとき微塵も、ルスフェス様のことを、怖いと思わなかったのである。
 腕の中に、守られているというのは、そういうことなのかもしれない。
 親鳥の翼の中に庇護される、雛鳥のような気分だ。
 いつの間にか、ルスフェス様の上着を胸の前に被せられて、肌が見えないように配慮してもらっているのにも気づいた。


「いった…」
 声が聞こえた方をそっと見れば、フィーリアの足が向けられている方向の壁に、ベリアルがめり込んでおり、壁には亀裂が走っている。
「っ…!?」

 
 多少の血は流れているようだが、ベリアルは【降参】とでも言うかのように、両手をあげてえへっと笑っている。
「陛下、冗談ですよ?」

 その台詞を聞いた瞬間、フィーリアの頭には、カッと血が上った。
 冗談で、フィーリアは服を破かれ、肌を舐められ、吸われたというのか。
 あんなに不快で、怖い思いをしたと?

 フィーリアが、怒りのためにふるっと身震いしたことに、気づいたのだろうか。
 ルスフェス様がフィーリアを抱く腕に、力が籠もったような気がした。


「冗談で貴様は、女性体おんなを組み敷くのか」


 喉の奥から絞り出すような声が、聞こえた。
 かと思えば、ルスフェス様は何事かを呟いてベリアルに向けて手の平をかざす。
 そうすれば、ベリアルを中心として、魔法陣のような紋様が発光する。
 ベリアルがカッと目を見開いた。


「っ陛下ぁぁぁぁ!!!」


 断末魔の如き叫びを残して、一瞬にしてベリアルさんの姿が消える。
 代わりに、その場に残ったのは、丸くて黒い、石のようなもの。


「え…? ベリアル、さん…?」
「案ずるな、生きている」
 死んでしまったのだろうか、というフィーリアの頭に一瞬過ぎった考えを、ルスフェス様が即座に打ち消してくれる。
 フィーリアはほっとしたのだが、ルスフェス様は苦笑したようだった。
「…貴女は、貴女のことをあんな目に遭わせた奴のことも、心配するのか」


 ルスフェス様の唇から、僅かな吐息が漏れたのを、フィーリアは聞き逃さなかった。
 何かに、呆れられたようだが、何に呆れられたのだか、わからない。
 そんなことを考えていると、ひょいと身体が持ち上げられる感じがして、フィーリアは自分がルスフェス様に抱き上げられていることを知る。


「っ…ルスフェス様、わたし、自分で」
「いいから、黙っておいで」
 歩けます、という言葉は、ルスフェス様に封じられた。


 フィーリアは恥ずかしい思いでルスフェス様の腕に揺られながら、ルスフェス様の唇が音もなく動くのを見る。 
 正確には、何か音は聞こえたのだが、低すぎるその声で紡がれる言葉を、フィーリアの耳は言葉として拾えなかった。


「…何か、仰いましたか?」
「いや」
 そう言って、ルスフェス様は緩く首を振ったけれど、フィーリアはまだ知らない。
 悪魔は、天使には聞こえない超低周波の音で、声を発し、受け取ることができること。

「大人しくしていれば、そこでの幽閉に留めてやる」
 そのように、ルスフェスがベリアルに、宣告していたこと。
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