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第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで
15.王子様が荒れています。
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「殿下、どうされました?」
主役がなかなか戻らない、婚前に何かあっては大変だ、ということで、いつもの如くヒューは王子探しに駆り出されていた。
王子個人の従者にして右腕を自負しているヒューだ。
それは、王子も認めるところであるらしく、王子はヒューに王子の居場所がわかる目印を与えてくれている。
そのおかげで、王子の姿が見えないときの探索はヒューの役目だし、今回もやはりあっさりと、女性用手洗いの前で佇む王子を見つけることができた。
ヒューが先のように王子に尋ねたのは、王子がとても殺伐とした空気を纏って微笑んでいたからだ。
このひとは、心象が荒れているときほど、美しく微笑む。
あれはきっと、何かがあって、相当にキている。
さて、何があったのやら。
そう、周辺を見回す。
そして、気づく。
王子がほとんど無理矢理に婚約者と定めて、外堀を埋めるために衆人環視の中で婚約者と紹介した、不運で不憫で魅力的な女性が見当たらない。
「…貴方の婚約者は、どちらに?」
問いかけただけ、なのに。
ずん、と空気が重くなる。
濃厚で重い魔力に、呼吸が少しだけ難しいような錯覚を覚える。
ここにいるのがヒューだったからよいようなものの、中途半端に魔力を持っているような者だったら王子の魔力に当てられて卒倒していることだろう。
「…どうやら逃げられたようだ」
逃げられた、と言っているのに、王子はさほど残念そうではない。
ということは、実は逃げられたわけではないのではないだろうか。
「…中から出てこられない? 中でお倒れになっているという心配は?」
「ない」
控えめに問えば、断言された。
どうしてそんな確信が持てるのだろう…と考えて、ハッと思い至る。
真っ直ぐに王子を見据えて、問う。
「…まさか、殿下が中に入られた?」
「【遠視】の魔法を応用しただけだよ」
さらりと応答する王子に、ヒューは絶句した。
何か問題が?くらいの感じで口にしているが、【遠視】の魔法の応用、とは、【千里眼】の魔法ではないだろうか。
日常で使用してはならない魔法のひとつである。 といっても、【遠視】ももちろん【千里眼】の魔法など、使えるのは国内に片手の数ほどいるかどうかだ。
だが、日常使用が禁じられている魔法をほいほいと使ったことを、ぺろりと暴露しないでいただきたいものだ。
「…私を巻き込まないでいただきたい」
小さなヒューの主張は、残念ながら王子には聞かなかったものとされたらしい。
外に面したガラスに背を持たれていた王子は、姿勢を正してヒューの方へと向かってきた。
かと思えば、するりとヒューの横を通り過ぎる。
「オリヴィエを見かけたら、私のところまで連れてくるように」
すれ違いざまに、王子は低く、ヒューに命じた。
【オリヴィエ】、その名前が出たことにも驚いたが、あのひとは今度は一体何をやらかしたのか、という懸念に一瞬にして凌駕されたのだった。
主役がなかなか戻らない、婚前に何かあっては大変だ、ということで、いつもの如くヒューは王子探しに駆り出されていた。
王子個人の従者にして右腕を自負しているヒューだ。
それは、王子も認めるところであるらしく、王子はヒューに王子の居場所がわかる目印を与えてくれている。
そのおかげで、王子の姿が見えないときの探索はヒューの役目だし、今回もやはりあっさりと、女性用手洗いの前で佇む王子を見つけることができた。
ヒューが先のように王子に尋ねたのは、王子がとても殺伐とした空気を纏って微笑んでいたからだ。
このひとは、心象が荒れているときほど、美しく微笑む。
あれはきっと、何かがあって、相当にキている。
さて、何があったのやら。
そう、周辺を見回す。
そして、気づく。
王子がほとんど無理矢理に婚約者と定めて、外堀を埋めるために衆人環視の中で婚約者と紹介した、不運で不憫で魅力的な女性が見当たらない。
「…貴方の婚約者は、どちらに?」
問いかけただけ、なのに。
ずん、と空気が重くなる。
濃厚で重い魔力に、呼吸が少しだけ難しいような錯覚を覚える。
ここにいるのがヒューだったからよいようなものの、中途半端に魔力を持っているような者だったら王子の魔力に当てられて卒倒していることだろう。
「…どうやら逃げられたようだ」
逃げられた、と言っているのに、王子はさほど残念そうではない。
ということは、実は逃げられたわけではないのではないだろうか。
「…中から出てこられない? 中でお倒れになっているという心配は?」
「ない」
控えめに問えば、断言された。
どうしてそんな確信が持てるのだろう…と考えて、ハッと思い至る。
真っ直ぐに王子を見据えて、問う。
「…まさか、殿下が中に入られた?」
「【遠視】の魔法を応用しただけだよ」
さらりと応答する王子に、ヒューは絶句した。
何か問題が?くらいの感じで口にしているが、【遠視】の魔法の応用、とは、【千里眼】の魔法ではないだろうか。
日常で使用してはならない魔法のひとつである。 といっても、【遠視】ももちろん【千里眼】の魔法など、使えるのは国内に片手の数ほどいるかどうかだ。
だが、日常使用が禁じられている魔法をほいほいと使ったことを、ぺろりと暴露しないでいただきたいものだ。
「…私を巻き込まないでいただきたい」
小さなヒューの主張は、残念ながら王子には聞かなかったものとされたらしい。
外に面したガラスに背を持たれていた王子は、姿勢を正してヒューの方へと向かってきた。
かと思えば、するりとヒューの横を通り過ぎる。
「オリヴィエを見かけたら、私のところまで連れてくるように」
すれ違いざまに、王子は低く、ヒューに命じた。
【オリヴィエ】、その名前が出たことにも驚いたが、あのひとは今度は一体何をやらかしたのか、という懸念に一瞬にして凌駕されたのだった。
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