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rainbows
clear blue sky⑤*
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凌士だって、本当は、言ってしまいたい。 「一刻も早く、結婚しよう」「籍だけでも入れよう」「いつ、部屋を引き払って一緒に住む?」…。
けれど、それを口に出せば、きっと天音はプレッシャーに感じるだろうと、余裕のある大人の男でいようと努めている。
だが、これくらいならいいだろうと、ひとつ、聞くことにした。
「コンドーム、つけなくてもいい?」
ベッドに移動し、凌士に組み敷かれている天音は、軽く目を見張った。
凌士の言葉を予想もしなかったという顔だ。 そう、感じたので、凌士は補足説明をする。
「ピル、飲んでるって、聞いたから」
ピルが、避妊薬だというのは、凌士でも知っている。
ピルに、生理痛を緩和するような効果があったことは知らなかったけれど。
凌士は、伯父が医者なこともあり、セーフティセックスは、相手の身体だけでなく自分の身体と自分を護るために絶対に必要なこと、と言い聞かされていたのだ。
確かにそうだと思っていたけれど、天音に関してはその理論は成り立たないらしい。
天音がピルを飲んでいると知らなければ、こんなことは言わなかっただろう。
だって、凌士は天音を妊娠させないためだけに、コンドームをつけていたのだから。 自分は病気は持っていないし、天音だって定期的に通院しているのだから、病気ということはないだろう。
つまり、コンドームの着用は病気の感染予防や防止が目的ではない。 天音が避妊をしてくれているのなら、自分に避妊は必要ないということになる。
それどころか、凌士は天音を妊娠させたいと思っている。
天音が凌士から離れて、どこにも行かないように。
東田部長が、産婦人科から出てくる天音を見たと荒ぶっていたあの日、凌士は実は、天にも昇る心地だったのだ。
可愛い妻と子どもが、一度にできるならそれも自分の望むところだ、と。
「えっと、あの」
天音は、困ったように視線を落として、言葉を詰まらせたようだった。
天音は困った顔も可愛いけれど、天音を困らせるのは本意ではない。
やはり、無理か。
そう、凌士が思った、次の瞬間だった。
「…今、ある分、が、なくなってから、なら」
天音の可愛らしい声が、そんな言葉を紡いだ。
期待をしていた凌士だったが、いざ言われてみると反応ができなくて、固まってしまう。
そうすれば、天音はもごもごと言い訳のように口にする。
「あの、決して、嫌なわけではなくて。 でも、その…。 多分、結婚してからは、その、赤ちゃんつくるえっち、するでしょう? それ、使わなくなりますよね?」
だから、無駄にするの、勿体ないです、と言う天音に、凌士は思わず吹き出してしまった。
そうすれば、天音は薄闇の中で、照れ隠しのような、むっとしたような顔になる。
「笑うところですか?」
「いや、うん。 天音らしい」
そんなところが、可愛い。
微笑んで、凌士は天音の唇を塞ぐ。 口内を舐め回し、天音の舌を舌で絡め取る。
天音の舌先から離れる自分の舌先を名残惜しく思いながら、凌士はコンドームの入った箱を取り出す。 そして、箱の中からその綴りを取り出して、ぽいと空の箱を放った。
片手で一つの袋を摘まめば、残りの綴りは重力に従って、垂れ下がる。 その数をさっと数えて、凌士は天音に微笑んだ。
「じゃあ、全部使ってしまおうか?」
「え」
天音が驚きに目を見張ったが、凌士は微笑みを崩さなかった。
「大丈夫だよ、月曜日まで休みだから」
今日は、金曜日だし、明日は土曜、明後日は日曜、そして、明明後日は月曜。 何たる偶然か――断じて狙ったわけではない――、三連休なのだ。
一度、朝も昼も夜もなく愛し合ったり、だらだらと長く愛し合ったりというような、自堕落で愛欲に塗れた日々を過ごしてもいいと思っていた。
だから、天音に言う。
「これ、全部使ったら、赤ちゃんつくるえっちの、練習をしよう」
天音が、恥ずかしがりながらも視線を下げて、頷いてくれるだろうことを、凌士は知っている。
けれど、それを口に出せば、きっと天音はプレッシャーに感じるだろうと、余裕のある大人の男でいようと努めている。
だが、これくらいならいいだろうと、ひとつ、聞くことにした。
「コンドーム、つけなくてもいい?」
ベッドに移動し、凌士に組み敷かれている天音は、軽く目を見張った。
凌士の言葉を予想もしなかったという顔だ。 そう、感じたので、凌士は補足説明をする。
「ピル、飲んでるって、聞いたから」
ピルが、避妊薬だというのは、凌士でも知っている。
ピルに、生理痛を緩和するような効果があったことは知らなかったけれど。
凌士は、伯父が医者なこともあり、セーフティセックスは、相手の身体だけでなく自分の身体と自分を護るために絶対に必要なこと、と言い聞かされていたのだ。
確かにそうだと思っていたけれど、天音に関してはその理論は成り立たないらしい。
天音がピルを飲んでいると知らなければ、こんなことは言わなかっただろう。
だって、凌士は天音を妊娠させないためだけに、コンドームをつけていたのだから。 自分は病気は持っていないし、天音だって定期的に通院しているのだから、病気ということはないだろう。
つまり、コンドームの着用は病気の感染予防や防止が目的ではない。 天音が避妊をしてくれているのなら、自分に避妊は必要ないということになる。
それどころか、凌士は天音を妊娠させたいと思っている。
天音が凌士から離れて、どこにも行かないように。
東田部長が、産婦人科から出てくる天音を見たと荒ぶっていたあの日、凌士は実は、天にも昇る心地だったのだ。
可愛い妻と子どもが、一度にできるならそれも自分の望むところだ、と。
「えっと、あの」
天音は、困ったように視線を落として、言葉を詰まらせたようだった。
天音は困った顔も可愛いけれど、天音を困らせるのは本意ではない。
やはり、無理か。
そう、凌士が思った、次の瞬間だった。
「…今、ある分、が、なくなってから、なら」
天音の可愛らしい声が、そんな言葉を紡いだ。
期待をしていた凌士だったが、いざ言われてみると反応ができなくて、固まってしまう。
そうすれば、天音はもごもごと言い訳のように口にする。
「あの、決して、嫌なわけではなくて。 でも、その…。 多分、結婚してからは、その、赤ちゃんつくるえっち、するでしょう? それ、使わなくなりますよね?」
だから、無駄にするの、勿体ないです、と言う天音に、凌士は思わず吹き出してしまった。
そうすれば、天音は薄闇の中で、照れ隠しのような、むっとしたような顔になる。
「笑うところですか?」
「いや、うん。 天音らしい」
そんなところが、可愛い。
微笑んで、凌士は天音の唇を塞ぐ。 口内を舐め回し、天音の舌を舌で絡め取る。
天音の舌先から離れる自分の舌先を名残惜しく思いながら、凌士はコンドームの入った箱を取り出す。 そして、箱の中からその綴りを取り出して、ぽいと空の箱を放った。
片手で一つの袋を摘まめば、残りの綴りは重力に従って、垂れ下がる。 その数をさっと数えて、凌士は天音に微笑んだ。
「じゃあ、全部使ってしまおうか?」
「え」
天音が驚きに目を見張ったが、凌士は微笑みを崩さなかった。
「大丈夫だよ、月曜日まで休みだから」
今日は、金曜日だし、明日は土曜、明後日は日曜、そして、明明後日は月曜。 何たる偶然か――断じて狙ったわけではない――、三連休なのだ。
一度、朝も昼も夜もなく愛し合ったり、だらだらと長く愛し合ったりというような、自堕落で愛欲に塗れた日々を過ごしてもいいと思っていた。
だから、天音に言う。
「これ、全部使ったら、赤ちゃんつくるえっちの、練習をしよう」
天音が、恥ずかしがりながらも視線を下げて、頷いてくれるだろうことを、凌士は知っている。
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