【R18】紅薔薇の棘に口づけ

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紅薔薇の棘

一輪

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「お姉様、本当によろしいのですか? あの、【父王殺し】のフレンティア国王に嫁ぐなんて」

 そうか、魔女め。 嫁げというなら嫁いでやろう。
 そう、半ば自棄になって荷造りを始めたアンネローゼの部屋に、ロージィちゃんはいた。
 心配そうにアンネローゼに訊いてくるロージィちゃんはやはり、黒い噂の纏わり付くフレンティア国王に嫁ぐのを、怖れていたのかもしれない。

 エルディースの女王陛下は未だ祖母だが、母は影で、【エルディースの女帝】と呼ばれている。
 その母を前にして、ロージィちゃんが母の意に反する何事かを言えるわけがない。 母は、ロージィちゃんにとっては恐怖の象徴で、トラウマなのだ。

「別に、わたしに想う相手はいないし、このままではお姉様に続いて行き遅れだったから、丁度いいのよ。 わたしはロージィちゃんみたいに、七か国語を話せる頭はないけど、幸い語族の近いフレンティア語は問題なく話せるし」
 湿っぽくならないよう、なるべくさばさばとした口調で、アンネローゼは言い切る。

 そうすれば、ほっと安堵したように、ロージィちゃんは微笑む。
 ああ、もう本当に、ロージィちゃんは可愛い!
 アンネローゼはロージィちゃんから心の癒しと安らぎを補給し、めろめろになる。

 女だけの三姉妹というのも、関係性としては微妙なもので、末娘のロージィちゃんは父に可愛がられた分、母からは案外疎まれていたのだと思う。
 何かというと、ロージィちゃんは姉のマリアンネやアンネローゼと比べられてきた。
 元来の性格もあるのだと思うが、ロージィちゃんは常に周囲の顔色を窺い、引っ込み思案で内気。 言いたいことも言えないまま成長していった。
 逆にアンネローゼは、そんなロージィちゃんから頼りにされるのが嬉しくて、ロージィちゃんの求める完璧な姉を演じるようになった。

 母や周囲の期待・興味は全て、第一王女のマリアンネに注がれていたので、第二王女であるアンネローゼに注意を払う者はほとんどいなかった。 その中で、アンネローゼはアンネローゼで、アンネローゼを慕ってくれるロージィちゃんの存在が救いでもあったのだ。

 アンネローゼには心に決めた相手はいないから、誰と結婚しても構わない。 結婚に夢も見ていない。 だが、ロージィちゃんにはロージィちゃんの好きな相手と、幸せになってほしいと思うのだ。
 だから、アンネローゼは、可愛い可愛いロージィちゃんを真っ直ぐに見つめて、微笑む。

「ロージィちゃんは可愛いし、努力して努力してわたしよりたくさんのことを知ってるんだから、もっと自分に自信を持ったらいいの」
「お姉様…、わたくしも」
 言いながら、ロージィちゃんのロードクロサイトの瞳が潤む。
「お姉様のことが、大好き、です。 だから、お姉様には、幸せになって、いただきたかったのに」
 くっと唇を噛んだロージィちゃんの肩に、アンネローゼは手を置く。


「ロージィちゃん!」


 少し声を大きくすれば、ロージィちゃんはびくりとする。
 間近にその顔を、瞳を覗き込んで、アンネローゼは笑う。
「フレンティア国王も、会ってみたらそんなに悪い男じゃないかもしれないわ。 わたしの幸せを、ロージィちゃんが決めないで」


 否、ロージィちゃんに、アンネローゼがロージィちゃんのために不幸になったと思われないように、アンネローゼは幸せにならなければならないのだ。
 だから、アンネローゼはロージィちゃんに願う。
「ロージィちゃんも、今度は賢くなる努力じゃなくて、幸せになる努力をしてね」
「…はい、お姉様。 お手紙を書きますね。 わたくしも、幸せになりますから、お姉様も、絶対に、絶対に幸せになってください」

 微笑んでくれたロージィちゃんに、アンネローゼは決意を新たにする。
 よし! 何が何でも幸せになってやろう!!
 待っているがいい、フレンティア【黒王こくおう】!!
 可愛い可愛いロージィちゃんを正妃に望んだ目は高いが、分不相応な存在ものに手を伸ばした報いを受けるがいい!! アンネローゼを前にすれば、さぞかしがっかりすることだろう、ざまを見ろ!!


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