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恋は結局下心 (下)
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「すっごい濃い。 中で出してしまったし、王族の子を孕んでいるかもしれないから、私と結婚してもらうしかないでしょう?」
決定事項のようにオリヴィエ様は語っているが、これもまたシェイラには理解できないことだった。
避妊具もつけずに、中で(勝手に)出したのはオリヴィエ様であって、その責はシェイラにはない。
いや、少しはあるかもしれないが、避妊具をつけずに行為に及んだ結果として、王族の子を孕んでいるかもしれないから結婚するしかない、というのはおかしい。
結婚するしかないような事態を引き起こしたのは、オリヴィエ様で、本当なら回避できたことなのだ。
だから、シェイラがその責を負うような言い方は違う。
そして、もう一つ。 オリヴィエ様は、シェイラが避妊薬を飲んでいるとは思い至っていない様子だ。
シェイラは避妊薬を飲んでいるので、シェイラが王族の子を孕んでいる可能性はゼロだ。
結婚する意味はない。
ついでに言うのであれば、オリヴィエ様は王位継承権を放棄しているのだから、王太子殿下に何かない限り、オリヴィエ様の子どもが【王族】と言われることはない。
最後が、これだ。
シェイラはオリヴィエ様ほど神経が太くないので、一応はオリヴィエ様の気持ちを慮り、控えめな言い方を選んで口にする。
「あの、オリヴィエ様は、女好きで女たらしで遊び人の元第二王子殿下では…?」
第二王子殿下の噂は、どうしようもないプレイボーイで、どこそこの令嬢に手を出しだの、未亡人と逢瀬を楽しんでいただの、夫人と密会していただの…言ってはあれだが、上げればきりがない。
関係を持った相手全員と結婚していたら、既にハーレムが出来上がっている。
だが、後宮を持っているという噂はないのだから、オリヴィエ様は責任を取って結婚はしてこなかったはずなのだ。 冷静になってみるとこの男、やはりクズでゲスである。
シェイラの質問に気分を害した様子もなく、オリヴィエ様は微笑み、再度シェイラの左手を取った。
「生身の女性としたのは初めてだよ。 あまり言いたくはないし、一般には知られてはいないけれど、私たちは王族だから、そういうところは徹底管理されているんだ」
だから、私は清らかだったよ、安心して、とオリヴィエ様は言っているが、完全に意味がわからない。
「生身の女性としたのは…?」
つまりは、あれか。
オリヴィエ様は死体愛好家というやつか。
シェイラが一歩二歩どころでなく、置けるだけ距離を置こうという心情になったのを見抜いたのだろうか。
オリヴィエ様は続けた。
「練習用の人型がいて、いつも夜のお供にしていた」
夜のお供、までは要らない情報だ。
聞きたくなかった。
そう、ぐったりとしている心の片隅で、けれど確かに喜んでいる自分がいることも、シェイラは意識している。
シェイラは、女性も、男性も、オリヴィエ様が初めてだったけれど、オリヴィエ様も(生身の)女性は、シェイラが初めてだったのだ。
にやけそうになる口元を右手で押さえていると、目を細めて微笑んだオリヴィエ様がシェイラの左手の薬指に唇を寄せるのが目に入った。
「今すぐ光の精霊の祝福を受けて、幸せになろうね。 光の精霊、我ら二人に祝福を」
「ぇっ…!?」
仰天して、手を引こうとしたのだが、オリヴィエ様の手がシェイラの手を離さなかった。
逃れられなかったシェイラの手は、みすみすオリヴィエ様の口づけを許すことになる。
唇で触れられた、左手の薬指、その付け根がほわっと温かくなったと思ったら、ぎゅっと引き絞られるようになった。
恐る恐る自分の左手の薬指の付け根を見ると、指に跡が刻まれている。
正確には、見たことはないけれど、きっと天使の輪とはこんなものなのだろうというような光の輪が、左手の薬指に光っていたのだ。
どうやら、オリヴィエ様は光の精霊の加護持ちだったらしい。
シェイラは数瞬呼吸困難に陥ったし、卒倒するかと思った。
本当に、馬鹿じゃないのかこいつ!!
その言葉が口から出なかっただけでもよしとしてほしい。
シェイラは、天使の輪っかがついた自分の左手の薬指を凝視し、わなわなと震えた。
顔面が蒼白になっている自信もある。
とんでもないことをしれくれた。
してくれやがった。
光の精霊の祝福を得て、結婚の誓いが立てられることは、子どもでも知っている。
魔力なしでも知っている。
そして、婚約の誓いも、光の精霊の祝福を得るものだということも。
現在、プロポーズや婚約には、腕輪を贈るのが主流で、指輪は時代遅れになりつつある。
そして、それよりも遥か昔の産物だと言われるのが、この、精霊の名と力を借りた誓いだ。
これが、廃れたのには理由がある。
精霊の力を借りて、当事者同士が結んだ約束は、例えば破棄されたときに代償を必要とする。
簡単に言えば、婚約がなくなった、だめになった場合に、天使の輪っかから上の指が、精霊に供物として捧げられるのだ。
この場合は、シェイラの指だけではない。
その、誓いを立てる側となった、オリヴィエ様の指も、だ。
第三者に与えられる祝福や祈りは、強制力がさほどではない。
当事者同士が立てた祝福や祈りは、強制力も強ければ、反動も大きい。
本当に、なんてことをしてくれたのか。
茫然自失としているシェイラの前で、オリヴィエ様は微笑む。
「これで今日から、私の婚約者だね。 よろしく、シェイラ」
ああ、神様はなぜ、こんなに危険で理性と制御の利かない人間に、よりにもよって光の精霊の加護など与えたのか。
もう、二度とオリヴィエ「様」なんて呼ぶものか。
そう、シェイラは心に誓った。
決定事項のようにオリヴィエ様は語っているが、これもまたシェイラには理解できないことだった。
避妊具もつけずに、中で(勝手に)出したのはオリヴィエ様であって、その責はシェイラにはない。
いや、少しはあるかもしれないが、避妊具をつけずに行為に及んだ結果として、王族の子を孕んでいるかもしれないから結婚するしかない、というのはおかしい。
結婚するしかないような事態を引き起こしたのは、オリヴィエ様で、本当なら回避できたことなのだ。
だから、シェイラがその責を負うような言い方は違う。
そして、もう一つ。 オリヴィエ様は、シェイラが避妊薬を飲んでいるとは思い至っていない様子だ。
シェイラは避妊薬を飲んでいるので、シェイラが王族の子を孕んでいる可能性はゼロだ。
結婚する意味はない。
ついでに言うのであれば、オリヴィエ様は王位継承権を放棄しているのだから、王太子殿下に何かない限り、オリヴィエ様の子どもが【王族】と言われることはない。
最後が、これだ。
シェイラはオリヴィエ様ほど神経が太くないので、一応はオリヴィエ様の気持ちを慮り、控えめな言い方を選んで口にする。
「あの、オリヴィエ様は、女好きで女たらしで遊び人の元第二王子殿下では…?」
第二王子殿下の噂は、どうしようもないプレイボーイで、どこそこの令嬢に手を出しだの、未亡人と逢瀬を楽しんでいただの、夫人と密会していただの…言ってはあれだが、上げればきりがない。
関係を持った相手全員と結婚していたら、既にハーレムが出来上がっている。
だが、後宮を持っているという噂はないのだから、オリヴィエ様は責任を取って結婚はしてこなかったはずなのだ。 冷静になってみるとこの男、やはりクズでゲスである。
シェイラの質問に気分を害した様子もなく、オリヴィエ様は微笑み、再度シェイラの左手を取った。
「生身の女性としたのは初めてだよ。 あまり言いたくはないし、一般には知られてはいないけれど、私たちは王族だから、そういうところは徹底管理されているんだ」
だから、私は清らかだったよ、安心して、とオリヴィエ様は言っているが、完全に意味がわからない。
「生身の女性としたのは…?」
つまりは、あれか。
オリヴィエ様は死体愛好家というやつか。
シェイラが一歩二歩どころでなく、置けるだけ距離を置こうという心情になったのを見抜いたのだろうか。
オリヴィエ様は続けた。
「練習用の人型がいて、いつも夜のお供にしていた」
夜のお供、までは要らない情報だ。
聞きたくなかった。
そう、ぐったりとしている心の片隅で、けれど確かに喜んでいる自分がいることも、シェイラは意識している。
シェイラは、女性も、男性も、オリヴィエ様が初めてだったけれど、オリヴィエ様も(生身の)女性は、シェイラが初めてだったのだ。
にやけそうになる口元を右手で押さえていると、目を細めて微笑んだオリヴィエ様がシェイラの左手の薬指に唇を寄せるのが目に入った。
「今すぐ光の精霊の祝福を受けて、幸せになろうね。 光の精霊、我ら二人に祝福を」
「ぇっ…!?」
仰天して、手を引こうとしたのだが、オリヴィエ様の手がシェイラの手を離さなかった。
逃れられなかったシェイラの手は、みすみすオリヴィエ様の口づけを許すことになる。
唇で触れられた、左手の薬指、その付け根がほわっと温かくなったと思ったら、ぎゅっと引き絞られるようになった。
恐る恐る自分の左手の薬指の付け根を見ると、指に跡が刻まれている。
正確には、見たことはないけれど、きっと天使の輪とはこんなものなのだろうというような光の輪が、左手の薬指に光っていたのだ。
どうやら、オリヴィエ様は光の精霊の加護持ちだったらしい。
シェイラは数瞬呼吸困難に陥ったし、卒倒するかと思った。
本当に、馬鹿じゃないのかこいつ!!
その言葉が口から出なかっただけでもよしとしてほしい。
シェイラは、天使の輪っかがついた自分の左手の薬指を凝視し、わなわなと震えた。
顔面が蒼白になっている自信もある。
とんでもないことをしれくれた。
してくれやがった。
光の精霊の祝福を得て、結婚の誓いが立てられることは、子どもでも知っている。
魔力なしでも知っている。
そして、婚約の誓いも、光の精霊の祝福を得るものだということも。
現在、プロポーズや婚約には、腕輪を贈るのが主流で、指輪は時代遅れになりつつある。
そして、それよりも遥か昔の産物だと言われるのが、この、精霊の名と力を借りた誓いだ。
これが、廃れたのには理由がある。
精霊の力を借りて、当事者同士が結んだ約束は、例えば破棄されたときに代償を必要とする。
簡単に言えば、婚約がなくなった、だめになった場合に、天使の輪っかから上の指が、精霊に供物として捧げられるのだ。
この場合は、シェイラの指だけではない。
その、誓いを立てる側となった、オリヴィエ様の指も、だ。
第三者に与えられる祝福や祈りは、強制力がさほどではない。
当事者同士が立てた祝福や祈りは、強制力も強ければ、反動も大きい。
本当に、なんてことをしてくれたのか。
茫然自失としているシェイラの前で、オリヴィエ様は微笑む。
「これで今日から、私の婚約者だね。 よろしく、シェイラ」
ああ、神様はなぜ、こんなに危険で理性と制御の利かない人間に、よりにもよって光の精霊の加護など与えたのか。
もう、二度とオリヴィエ「様」なんて呼ぶものか。
そう、シェイラは心に誓った。
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