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【レイナール夫人の秘密】
3.レイナール夫人の安堵
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呆然とした呟きが耳に届き、リシアの心臓が、痛いくらいに跳ねて、ドッドッとその音のままで駆け出す。
見なくとも、声の主はわかる。
そして、リシアは後ろめたさと罪悪感から、その声の主を見ることが出来なかった。
リシアが顔を上げられずにいると、ディアヴェルがそっと動いて扉の方に顔を向ける。
「ああ、お帰りになったのですね、カイト殿」
ディアヴェルの紡ぐ穏やかな声音に、どうしてそんなに落ち着いていられるのか、とリシアは身を震わせる。
「ああ、ただいま」
同じくらいに穏やかな声音がカイトから返ってくるが、リシアは居たたまれなさに視線を下げたままでいる。
そんなリシアの手にディアヴェルの手が重なる。
ちら、とディアヴェルの菫青石の瞳がリシアを見た。
ディアヴェルがリシアを安心させようとするかのように笑むと、リシアの心臓は穏やかに動き始める。
そのように機能する自分の身体に、リシアは軽い驚きを覚える。
どうやら自分は、自分で思っていたよりも遥かに、ディアヴェルに自身を委ねているらしい。 このひとがいれば大丈夫、と思えるくらいには。
カイトはリシアとディアヴェルの座るソファの向かいにあるソファに腰掛けた。
カイトの視線が一瞬、重なり合ったリシアとディアヴェルの手に向いたのがわかる。
けれど、ディアヴェルはリシアの手から手を離そうとはしなかったし、リシアも抵抗をしなかった。
カイトは、ふっと息をついて微苦笑する。
「リーシュは、貴殿の邸の者からも、夫人に望まれているようだね。 わざわざ、こんなところに通すのだから、人の悪い執事だ。 やはり、現場を見るのは気まずいものだね」
軽く肩を竦めたカイトが、ディアヴェルと同じ色の瞳をサイフォンに流す。
だが、サイフォンは、その整った顔に浮かべる表情をいささかも変えない。 鉄面皮とはこのことか、と思う。
「お褒めに預かり光栄です。 リシア様にシャルデル伯爵夫人になっていただくには、一番の効率的な方法と判断致しましたので」
どうやら、空気を読んだからこその乱入だったらしい。 始末に負えない。
「ディアヴェルも落ち着いているね。 主従で申し合わせでもしていたのか」
まさか、とリシアが傍らのディアヴェルを見れば、ディアヴェルは少しだけ申し訳なさそうに笑んだ。
ということは、カイトの言葉が、正解ということだろう。
怒りが、生まれればよかったのに。
リシアはそれを、嬉しく思ってしまった。
場合によっては、カイトに決闘を申し込まれる場合だってあるのに。
そこまでして、自分を欲してくれているのかと。
そんな自分をリシアが気まずく思いながらもカイトを見ると、カイトは慈愛に満ちた笑みをリシアに向けてくれる。
リシアが口を開く前に、カイトの目はディアヴェルに向けられ、揶揄するように笑った。
けれど、それが少しも嫌な感じではないのだから、不思議なものだ。
「まぁ、貴殿が狙った獲物を逃すはずがないとは思っていたけれどね」
独白のような音が落ちると、室内は静まる。
その無音の空間がまた居たたまれなくて、リシアが何か言わねばと思っていると、カイトの瞳が、リシアに向く。
カイトの顔には、清々しくも愛情に溢れた、優しい微笑が浮かんでいた。
「…リーシュ、今日付けで離婚しようか」
その言葉に、安堵する自分を、リシアは見つける。
ああ、これでやっと、このひとを解放してあげられる。
見なくとも、声の主はわかる。
そして、リシアは後ろめたさと罪悪感から、その声の主を見ることが出来なかった。
リシアが顔を上げられずにいると、ディアヴェルがそっと動いて扉の方に顔を向ける。
「ああ、お帰りになったのですね、カイト殿」
ディアヴェルの紡ぐ穏やかな声音に、どうしてそんなに落ち着いていられるのか、とリシアは身を震わせる。
「ああ、ただいま」
同じくらいに穏やかな声音がカイトから返ってくるが、リシアは居たたまれなさに視線を下げたままでいる。
そんなリシアの手にディアヴェルの手が重なる。
ちら、とディアヴェルの菫青石の瞳がリシアを見た。
ディアヴェルがリシアを安心させようとするかのように笑むと、リシアの心臓は穏やかに動き始める。
そのように機能する自分の身体に、リシアは軽い驚きを覚える。
どうやら自分は、自分で思っていたよりも遥かに、ディアヴェルに自身を委ねているらしい。 このひとがいれば大丈夫、と思えるくらいには。
カイトはリシアとディアヴェルの座るソファの向かいにあるソファに腰掛けた。
カイトの視線が一瞬、重なり合ったリシアとディアヴェルの手に向いたのがわかる。
けれど、ディアヴェルはリシアの手から手を離そうとはしなかったし、リシアも抵抗をしなかった。
カイトは、ふっと息をついて微苦笑する。
「リーシュは、貴殿の邸の者からも、夫人に望まれているようだね。 わざわざ、こんなところに通すのだから、人の悪い執事だ。 やはり、現場を見るのは気まずいものだね」
軽く肩を竦めたカイトが、ディアヴェルと同じ色の瞳をサイフォンに流す。
だが、サイフォンは、その整った顔に浮かべる表情をいささかも変えない。 鉄面皮とはこのことか、と思う。
「お褒めに預かり光栄です。 リシア様にシャルデル伯爵夫人になっていただくには、一番の効率的な方法と判断致しましたので」
どうやら、空気を読んだからこその乱入だったらしい。 始末に負えない。
「ディアヴェルも落ち着いているね。 主従で申し合わせでもしていたのか」
まさか、とリシアが傍らのディアヴェルを見れば、ディアヴェルは少しだけ申し訳なさそうに笑んだ。
ということは、カイトの言葉が、正解ということだろう。
怒りが、生まれればよかったのに。
リシアはそれを、嬉しく思ってしまった。
場合によっては、カイトに決闘を申し込まれる場合だってあるのに。
そこまでして、自分を欲してくれているのかと。
そんな自分をリシアが気まずく思いながらもカイトを見ると、カイトは慈愛に満ちた笑みをリシアに向けてくれる。
リシアが口を開く前に、カイトの目はディアヴェルに向けられ、揶揄するように笑った。
けれど、それが少しも嫌な感じではないのだから、不思議なものだ。
「まぁ、貴殿が狙った獲物を逃すはずがないとは思っていたけれどね」
独白のような音が落ちると、室内は静まる。
その無音の空間がまた居たたまれなくて、リシアが何か言わねばと思っていると、カイトの瞳が、リシアに向く。
カイトの顔には、清々しくも愛情に溢れた、優しい微笑が浮かんでいた。
「…リーシュ、今日付けで離婚しようか」
その言葉に、安堵する自分を、リシアは見つける。
ああ、これでやっと、このひとを解放してあげられる。
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