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【シャルデル伯爵の術中】
2.シャルデル伯爵の暴挙
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「入るよ」
応じる間もなくがちゃりと開いた扉に、バスローブ姿のリシアは固まり、次いで悲鳴を上げた。
「ぇ、きゃああ!」
リシアが悲鳴を上げれば、メイドがさっとシャルデル伯爵とリシアの間に割って入った。
仕える家の主にこの態度…さすがシャルデル伯爵家の使用人は違う。
「旦那さま! 奥様のお着替えの最中です」
因みに、シャルデル伯爵家の使用人はリシアのことを【奥様】と呼ぶ。
何度かそれについて抗議はしたのだが、口を揃えて「いつか旦那様に奥様が出来たときのために練習させてくださいませ」と言われてしまった。
シャルデル伯爵家の使用人は強い。
けれど、シャルデル伯爵家の当主も一筋縄ではいかなかった。
「いいから、お前は出ておいで」
機嫌が良くないのか、苛ついているのか…。 シャルデル伯爵は綺麗な分、表情の窺えない顔が怖い。
メイドのカリアもそのように感じたようで、少しだけびくついたようだが、それでもリシアの前からは退かなかった。
本当に、リシアにとっては優秀なメイドである。
執事といいメイドといい、この家の使用人は仕える主人を主人とも思っていないというか、使える主人と思っている風なのがすごい。
「奥様に何をなさるんですか?」
というカリアの問いに、問いを投げられたシャルデル伯爵はしれっとびっくりするような単語を紡いだ。
「…マーキング。」
「「は」」
リシアとカリアが、声を揃えて、その単語しか発することができなかったのも、無理からぬことだろう。
「どこかに俺のしるしをつけておかないと、不安で連れ出せないよ。 リシアはこんなにきれいなんだから」
リシアとカリアの反応など意に介さず、といった様子のシャルデル伯爵は、悩ましげな溜息を洩らした。
かと思えば、カリアの手をぐいと引き、カリアがよろめいたところで扉の外へと押し出していってしまった。
「ちょ、旦那様!?」
カリアが我に返って扉に取り縋ったのだろうが、既に扉は閉ざされており、シャルデル伯爵は施錠まで済ませている。
くるり、と振り返ったシャルデル伯爵に、リシアはびくりと身を竦ませた。
今、ここにはリシアとシャルデル伯爵のみ。
よくない。
非常によろしくない。
「ま…マーキング、って…」
リシアの怯えを感じ取ったのか、シャルデル伯爵はリシアを安心させるかのようににこりと笑んだ。
「大丈夫ですよ、見えないところにつけますから。 本当は見せびらかしたいのですが…」
何が大丈夫なのかわからないし、見えないところにつけるなら、マーキングの意味がない。
そのことにシャルデル伯爵は気づいているのだろうか。
かと言って、「では見えるところにつけましょうか」と言われるのも怖いので、絶対に口には出せないが。
「シャルデル伯爵、落ち着きましょう」
じり、とにじり寄ってくるシャルデル伯爵に、リシアは逃げるように部屋の隅へ移動する。
けれど、シャルデル伯爵はきれいな笑みを浮かべたままでリシアを追いつめるのだ。
「ディアヴェルですよ。 どこがいいかな」
シャルデル伯爵に向けていた背中を、つ、と指先でなぞられて、リシアはびくりとのけ反る。
そのように反応した自分の身体が信じられない。 バスローブの上から、触れられた、だけなのに。
「ぁ」
力が抜けそうになったところを、シャルデル伯爵に抱きすくめられ、そのままバスローブの結びを解かれてしまう。
リシアは一瞬で頭に血がのぼるような気がした。
バスローブの下には、ショーツ以外、何も身につけていないのだ。
ベッドに倒れ込んだリシアは、シャルデル伯爵から逃れようと、彼に背を向けたままで這うように進む。
「っ」
けれど、シャルデル伯爵の手がバスローブの襟にかかっていたようで、リシアが進んだことでするりとバスローブを引き下ろされてしまった。
腰の辺りまでを露わにされたリシアは、これ以上逃げると全部奪われてしまうことに気づき、座りこんだ。
ほとんど脱がされかけのバスローブを申し訳程度に身に纏わせたままで、シャルデル伯爵に背を向ける。
すると、シャルデル伯爵の手が、リシアの髪に触れてまとめ、肩から胸の方に流すようにした。 素肌の無防備な背中を、シャルデル伯爵に晒していることに、小刻みに身体が震えた。
ぎしりとベッドが軋む音と、沈むベッドに、シャルデル伯爵が背後に迫ったことを知る。
リシアの心臓は、壊れそうなほどの音を立て始めていた。
応じる間もなくがちゃりと開いた扉に、バスローブ姿のリシアは固まり、次いで悲鳴を上げた。
「ぇ、きゃああ!」
リシアが悲鳴を上げれば、メイドがさっとシャルデル伯爵とリシアの間に割って入った。
仕える家の主にこの態度…さすがシャルデル伯爵家の使用人は違う。
「旦那さま! 奥様のお着替えの最中です」
因みに、シャルデル伯爵家の使用人はリシアのことを【奥様】と呼ぶ。
何度かそれについて抗議はしたのだが、口を揃えて「いつか旦那様に奥様が出来たときのために練習させてくださいませ」と言われてしまった。
シャルデル伯爵家の使用人は強い。
けれど、シャルデル伯爵家の当主も一筋縄ではいかなかった。
「いいから、お前は出ておいで」
機嫌が良くないのか、苛ついているのか…。 シャルデル伯爵は綺麗な分、表情の窺えない顔が怖い。
メイドのカリアもそのように感じたようで、少しだけびくついたようだが、それでもリシアの前からは退かなかった。
本当に、リシアにとっては優秀なメイドである。
執事といいメイドといい、この家の使用人は仕える主人を主人とも思っていないというか、使える主人と思っている風なのがすごい。
「奥様に何をなさるんですか?」
というカリアの問いに、問いを投げられたシャルデル伯爵はしれっとびっくりするような単語を紡いだ。
「…マーキング。」
「「は」」
リシアとカリアが、声を揃えて、その単語しか発することができなかったのも、無理からぬことだろう。
「どこかに俺のしるしをつけておかないと、不安で連れ出せないよ。 リシアはこんなにきれいなんだから」
リシアとカリアの反応など意に介さず、といった様子のシャルデル伯爵は、悩ましげな溜息を洩らした。
かと思えば、カリアの手をぐいと引き、カリアがよろめいたところで扉の外へと押し出していってしまった。
「ちょ、旦那様!?」
カリアが我に返って扉に取り縋ったのだろうが、既に扉は閉ざされており、シャルデル伯爵は施錠まで済ませている。
くるり、と振り返ったシャルデル伯爵に、リシアはびくりと身を竦ませた。
今、ここにはリシアとシャルデル伯爵のみ。
よくない。
非常によろしくない。
「ま…マーキング、って…」
リシアの怯えを感じ取ったのか、シャルデル伯爵はリシアを安心させるかのようににこりと笑んだ。
「大丈夫ですよ、見えないところにつけますから。 本当は見せびらかしたいのですが…」
何が大丈夫なのかわからないし、見えないところにつけるなら、マーキングの意味がない。
そのことにシャルデル伯爵は気づいているのだろうか。
かと言って、「では見えるところにつけましょうか」と言われるのも怖いので、絶対に口には出せないが。
「シャルデル伯爵、落ち着きましょう」
じり、とにじり寄ってくるシャルデル伯爵に、リシアは逃げるように部屋の隅へ移動する。
けれど、シャルデル伯爵はきれいな笑みを浮かべたままでリシアを追いつめるのだ。
「ディアヴェルですよ。 どこがいいかな」
シャルデル伯爵に向けていた背中を、つ、と指先でなぞられて、リシアはびくりとのけ反る。
そのように反応した自分の身体が信じられない。 バスローブの上から、触れられた、だけなのに。
「ぁ」
力が抜けそうになったところを、シャルデル伯爵に抱きすくめられ、そのままバスローブの結びを解かれてしまう。
リシアは一瞬で頭に血がのぼるような気がした。
バスローブの下には、ショーツ以外、何も身につけていないのだ。
ベッドに倒れ込んだリシアは、シャルデル伯爵から逃れようと、彼に背を向けたままで這うように進む。
「っ」
けれど、シャルデル伯爵の手がバスローブの襟にかかっていたようで、リシアが進んだことでするりとバスローブを引き下ろされてしまった。
腰の辺りまでを露わにされたリシアは、これ以上逃げると全部奪われてしまうことに気づき、座りこんだ。
ほとんど脱がされかけのバスローブを申し訳程度に身に纏わせたままで、シャルデル伯爵に背を向ける。
すると、シャルデル伯爵の手が、リシアの髪に触れてまとめ、肩から胸の方に流すようにした。 素肌の無防備な背中を、シャルデル伯爵に晒していることに、小刻みに身体が震えた。
ぎしりとベッドが軋む音と、沈むベッドに、シャルデル伯爵が背後に迫ったことを知る。
リシアの心臓は、壊れそうなほどの音を立て始めていた。
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