上 下
9 / 55
【レイナール夫人の回想】

1.レイナール夫人の初夜① *

しおりを挟む
 初めては、痛いものだと聞いていた。
 覚悟もしていた。
 誤算は、こんなに恥ずかしいことをするとは知らなかったことと。
 相手が信じ難いくらいに優しくて、時間をかけてリシアを愛したことだった。


「ぁ…!」
 思わず声を上げてしまって、慌てて唇を噛んだけれど、取り繕えただろうか。
 仮面越しだから、表情はわからないだろうと思って気を抜いていた。


「痛い、ですか?」
 動きを止めた彼に、労わるように問われ、申し訳なく思いながらもリシアは頷く。


 彼は、自分を気遣ってくれていた。
 痛くないようにと、たくさんそこに触れてくれて、たくさん気持ちよくしてくれた。
 けれど、それでも痛いなんて。


「ごめんなさい…」
 彼を見ていられなくて目を伏せれば、口づけをもらう。


 高級男娼というものは、皆このように客に優しいのだろうか。


 そんなことを考えながらも、リシアはその優しいキスに誘われるようにして、そろそろと瞼を開けてしまう。
「謝られる必要はありませんよ。 貴女のここ…小さいんですから」
 仮面をつけたままの男の口元が微笑んでいるのだけはわかる。 男は、リシアと自身の結合部に触れた。
 くすぐったいような感じがして、リシアは口を引き結ぶ。
「ん」


「でも…今、止めてしまうと、余計に痛いですよ…?」
 余計に痛い、という言葉に、リシアはますます強張った。
「なら、早めに、済ませて…?」
 ゆっくりするからじわじわと鈍い痛みが続くのであれば、一気に強い痛みだけで終わらせてもらった方がよいかもしれない、と思ったのだが。


「それは、嫌です」
 目の前の男が、存外きっぱりとした口調でリシアの願いを切り捨てるものだから、愕然としてしまった。


「な」
 優しい、と思ったのだが、ひどい男に捕まったのだろうか。
 けれど、続く声と言葉は、ひたすらに甘かった。


「貴女の身体が、素晴らしく俺好みなのがいけない」
 中途半端に繋がったままで、男の手がリシアに伸びてくる。
「あ、何を」
「顔を見せて…?」
 男の手が、リシアの顔を隠す仮面に触れるものだから、リシアは身を捩って抗おうとする。


「だめ、いや、あっ…」
 けれど、身を捩ると、繋がったところが痛んで、声を上げてしまった。
 ずきずきする下肢に、ふるふると震えていると、男が甘く囁く。
「暴れると、痛いですよ…? 抵抗しないで…?」
 思わず、それに従ってしまったのは、彼の声があまりに優しかったからだ。
 そっと触れる手ですら優しい。


「ああ、では、俺が先に外せばよろしい?」
 言って、彼ももどかしそうに自身の仮面を剥ぎ取る。
 仮面の下から現れた顔に、リシアは目を見張った。
 男は、信じ難いくらいの、美青年だった。


「ぁっ…」
 男の顔を凝視しているうちに、リシアも仮面を奪われてしまう。
 男は、菫青石の瞳を軽く見張って、リシアの顔を凝視し、堪えるように目を細めた。


「ああ、信じられない。 本当に何もかも、俺の好みだ」


 そして、そのまま男はリシアに覆いかぶさってきて、唇を塞ぐ。
「んぅ…」


 キスも、したのは初めてだったというのに。
 この夜だけで、色々なキスを教えられてしまった。 甘い蜜を流し込まれ、いいように翻弄され、溺れそうになる。
 唇が離れると、彼は切なげな表情で震える。
「ああ…信じられない。 こんなに、気持ちいいなんて」


「え…あ」
 リシアは驚く。
 口づけに翻弄され、訳がわからなくなっているうちに、彼はリシアの身体に完全に侵入していたらしい。
 身体の奥、深いところまで、熱と硬さを感じる。


「わかる…? 俺が、貴女の中に、いるの」
 少し、脚の間がひりひり、お腹の当たりがじくじくするが、それ以上に、熱く脈打つもので、お腹がいっぱいになっているような気がする。


 自分以外のものが、自分の中にある。
 嬉しいとか、幸せだとか、気持ちいいだとかではなくて、それが、すごく妙な感じだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

フルハピ☆悪女リスタート

茄珠みしろ
恋愛
国を襲う伝染病で幼くして母親を失い、父からも愛情を受けることが出来ず、再婚により新しくできた異母妹に全てを奪われたララスティは、20歳の誕生日のその日、婚約者のカイルに呼び出され婚約破棄を言い渡された。 失意の中家に帰れば父の命令で修道院に向かわされる。 しかし、その道程での事故によりララスティは母親が亡くなった直後の7歳児の時に回帰していた。 頭を整理するためと今後の活動のために母方の伯父の元に身を寄せ、前回の復讐と自分の行動によって結末が変わるのかを見届けたいという願いを叶えるためにララスティは計画を練る。 前回と同じように父親が爵位を継いで再婚すると、やはり異母妹のエミリアが家にやってきてララスティのものを奪っていくが、それはもうララスティの復讐計画の一つに過ぎない。 やってくる前に下ごしらえをしていたおかげか、前回とは違い「可哀相な元庶子の異母妹」はどこにもおらず、そこにいるのは「異母姉のものを奪う教養のない元庶子」だけ。 変わらないスケジュールの中で変わっていく人間模様。 またもやララスティの婚約者となったカイルは前回と同じようにエミリアを愛し「真実の愛」を貫くのだろうか? そしてルドルフとの接触で判明したララスティですら知らなかった「その後」の真実も明かされ、物語はさらなる狂想へと進みだす。 味方のふりをした友人の仮面をかぶった悪女は物語の結末を待っている。 フ ル ハッピーエンディング そういったのは だ ぁ れ ? ☆他サイトでも投稿してます

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆
恋愛
 その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。  焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。  どこかから注がれる――番からのその視線。  俺は猫の獣人だ。  そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。  だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。  なのに。  ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。  しかし、感じるのは常に視線のみ。  コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。  ……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】

仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。 「嘘、私、王子の婚約者?」 しかも何かゲームの世界??? 私の『宝物』と同じ世界??? 平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子? なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ? それが認められる国、大丈夫なの? この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。 こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね? 性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。 乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が…… ご都合主義です。 転生もの、初挑戦した作品です。 温かい目で見守っていただければ幸いです。 本編97話・乙女ゲーム部15話 ※R15は、ざまぁの為の保険です。 ※他サイトでも公開してます。 ※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)  それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。  昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。 ※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。

処理中です...