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第四章 悩める部活と猛練習
第106話 今日も一日
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紆余曲折あった土曜稽古から早一週間。
ついにオーディションの日がやってきた。
土曜の午前授業を終えると、俺は一目散に部活をするいつもの教室へと向かった。
教室の扉を開けると恒例の机を片す作業をしている樫田がいた。
「あれ、樫田一人か?」
「ん? おお杉野早いな。先輩たちは隣の部屋で準備中だ」
「そっか」
俺はかばんを置くと机を片すのを手伝う。
てっきり気合十分でみんな早く来るかと思ったけど。
「その感じだと、みんなが来ないことが不思議そうだな」
「分かるのか?」
「そりゃ、みんな緊張しているからな。少し落ち着いてから来るんだろう」
「それじゃあ、俺が緊張してないみたいだろ」
「そうは言ってない。ただ杉野は楽しみの方が勝っているんだろ?」
「それも分かるか?」
「演出家なめんな」
樫田はそう言って軽く笑った。
どうやら、俺が楽しみで仕方のないことはバレているらしい。
流石だ。
「……なぁ、杉野」
「ん?」
「準備万全か?」
「おう」
「そっか……」
一瞬、そこで樫田の言葉が止まった。
俺が不思議そうにしていると、樫田はにやりと笑った。
「まぁ、演出家の苦悩ってやつだよ」
「なんだよそれ」
俺は冗談を言われたと思い、笑って返す。
机を教室の後ろ半分に片づけると、一年生たちがやってきた。
「杉野先輩、樫田先輩! おはようございます!」
「おはようございます」
「おはようございますっす!」
「おう、おはよう」
「珍しいな、三人揃っているの」
田島と池本、そして金子が元気よく挨拶をしてきた。
樫田がそう聞くと、田島がどこか楽しそうに答える。
「そうなんですよ! みんな緊張してか飲み物買いに行って購買であったんです!」
「そうか。三人とも準備万全か?」
「そりゃもう、やるだけのことはやりましたよ!」
「が、頑張ります」
「っす」
「なら、楽しみにしているぞ」
樫田の言葉を三者三のリアクションで返す三人。
田島は笑顔で、池本は少し緊張しながら、金子は覚悟の決まった様子だった。
俺はその様子を見て安心した。
池本のやつ、大丈夫そうだな。
先週の土曜日以降めきめきと実力をつけてきたし、今のこの精神状態なら問題ないだろう。
「あら、これだけかしら」
扉の方から声が聞こえた。
全員でそちらの方を向くと、椎名が教室に入ってきた。
「おはようございます!」
「ええ、おはようございます」
みんなが順当に挨拶をしていく。
椎名が俺の方を見てきた。
その瞳には決意の灯が宿っていた。
「おはよう、杉野」
「ああ、おはよう」
たったそれだけの言葉だが、お互いに通じ合う。
椎名が部長になるという目的のために今日のオークションが大きな分岐点になるだろう。
そのために全力を尽くす。
「お前らもやる気十分って感じだな」
「当然よ」
俺達を見て樫田がそんなことを言い、椎名が即答する。
樫田はさわやかに笑いながら続ける。
「愚問だったか」
「そうね。今日で春大会が決まるといっても過言ではないもの」
「そこまでか」
「そこまでよ」
椎名の答えは少し極端だったが、でもそれぐらいの覚悟だということだろう。
「樫田の方こそ、覚悟はできているのかしら」
「……ああ、出来ているよ。ご心配なく」
「?」
一瞬なんのことだか分からなかったが、きっと樫田に演出家としての覚悟を問うたのだろう。
場に神妙な空気が流れるが、それを壊すかのように元気な声が聞こえてきた。
「おやおや~? 樫田んと香奈んが喧嘩かな?」
「……未来、茶化すもんじゃないよ」
「それにあれは喧嘩じゃないだろ」
振り返ると三年生の先輩たちが教室に入ってきた。
なぜか轟先輩は楽しそうに笑っていた。
「津田先輩の言う通りですよ。喧嘩じゃないです」
「ええ、ただの確認作業です」
「ちぇー、つまんないのー」
いやいや轟先輩。この二人が喧嘩したら大問題ですよ?
俺らの代、崩壊しちゃうから。
「物騒なこと言わないでくださいよ」
「杉野ん。火事と喧嘩は江戸の花だよ?」
「意味分かりませんよ」
何をドヤ顔で言っているんだこの人は。
しかし、先輩たちが来たおかげか空気は和らいだ。
「……他の人はまだ来てないの?」
「嫌だねー、一年生はそろっているというのに二年生ときたら」
木崎先輩も津田先輩も、どこかわざとらしく言ってくる。
先輩たちなりに緊張をほぐそうとしているのだろうか。
「あまり反応しづらいこと言わないでくださいよ。一年生たちが困るじゃないですか」
「お前は困らないのかよ樫田」
「そりゃまぁ、あいつらならギリギリに来るだろうなって思ってますから」
「……謎の信頼だ」
樫田の答えに、木崎先輩が満足そうに笑った。
「樫田んがあんなこと言っているけど田島後輩は困っているかい?」
「いえいえ! 大丈夫ですよ!」
「だそうだよ樫田ん!」
「社交辞令ですよ、それ」
「なぬ!?」
轟先輩が大げさに驚く。
そんな話をしていると、次にやってきたのは増倉と夏村だった。
「おはようございますー」
「おはようございます」
「おお、栞んに佐恵ん! 聞いてくれよぉ、樫田んが謎の信頼で社交辞令だって」
「何を言っているんですか?」
「何を言っているか分からないことは分かった」
「うわぁぁぁ! コウ! 後輩が辛辣だよ!」
木崎先輩に泣きつく轟先輩。
確かに、今の二人の回答は辛辣だったな。
訳の分からないといった顔で二人が近づいてきた。
俺が二人に向かって言う。
「どうすんだよ二人とも。ああなると轟先輩面倒だぞ」
「知らないよ」
「どうせ大したことじゃない」
哀れな轟先輩。
後輩からの評価の低さよ。
「まぁまぁ、先輩たちなりに緊張をほぐそうとしていたって話だよ」
「いつものノリのように感じたけど」
「緊張は必要」
樫田がフォローするが二人は変わらず辛辣だった。
え、なに。今日はそういう日なの? オーディションだから?
樫田が二人を宥めていると大槻と山路もやってきた。
「どういう状況?」
「カオスだねー」
こうして今日も部活が始まる。
ついにオーディションの日がやってきた。
土曜の午前授業を終えると、俺は一目散に部活をするいつもの教室へと向かった。
教室の扉を開けると恒例の机を片す作業をしている樫田がいた。
「あれ、樫田一人か?」
「ん? おお杉野早いな。先輩たちは隣の部屋で準備中だ」
「そっか」
俺はかばんを置くと机を片すのを手伝う。
てっきり気合十分でみんな早く来るかと思ったけど。
「その感じだと、みんなが来ないことが不思議そうだな」
「分かるのか?」
「そりゃ、みんな緊張しているからな。少し落ち着いてから来るんだろう」
「それじゃあ、俺が緊張してないみたいだろ」
「そうは言ってない。ただ杉野は楽しみの方が勝っているんだろ?」
「それも分かるか?」
「演出家なめんな」
樫田はそう言って軽く笑った。
どうやら、俺が楽しみで仕方のないことはバレているらしい。
流石だ。
「……なぁ、杉野」
「ん?」
「準備万全か?」
「おう」
「そっか……」
一瞬、そこで樫田の言葉が止まった。
俺が不思議そうにしていると、樫田はにやりと笑った。
「まぁ、演出家の苦悩ってやつだよ」
「なんだよそれ」
俺は冗談を言われたと思い、笑って返す。
机を教室の後ろ半分に片づけると、一年生たちがやってきた。
「杉野先輩、樫田先輩! おはようございます!」
「おはようございます」
「おはようございますっす!」
「おう、おはよう」
「珍しいな、三人揃っているの」
田島と池本、そして金子が元気よく挨拶をしてきた。
樫田がそう聞くと、田島がどこか楽しそうに答える。
「そうなんですよ! みんな緊張してか飲み物買いに行って購買であったんです!」
「そうか。三人とも準備万全か?」
「そりゃもう、やるだけのことはやりましたよ!」
「が、頑張ります」
「っす」
「なら、楽しみにしているぞ」
樫田の言葉を三者三のリアクションで返す三人。
田島は笑顔で、池本は少し緊張しながら、金子は覚悟の決まった様子だった。
俺はその様子を見て安心した。
池本のやつ、大丈夫そうだな。
先週の土曜日以降めきめきと実力をつけてきたし、今のこの精神状態なら問題ないだろう。
「あら、これだけかしら」
扉の方から声が聞こえた。
全員でそちらの方を向くと、椎名が教室に入ってきた。
「おはようございます!」
「ええ、おはようございます」
みんなが順当に挨拶をしていく。
椎名が俺の方を見てきた。
その瞳には決意の灯が宿っていた。
「おはよう、杉野」
「ああ、おはよう」
たったそれだけの言葉だが、お互いに通じ合う。
椎名が部長になるという目的のために今日のオークションが大きな分岐点になるだろう。
そのために全力を尽くす。
「お前らもやる気十分って感じだな」
「当然よ」
俺達を見て樫田がそんなことを言い、椎名が即答する。
樫田はさわやかに笑いながら続ける。
「愚問だったか」
「そうね。今日で春大会が決まるといっても過言ではないもの」
「そこまでか」
「そこまでよ」
椎名の答えは少し極端だったが、でもそれぐらいの覚悟だということだろう。
「樫田の方こそ、覚悟はできているのかしら」
「……ああ、出来ているよ。ご心配なく」
「?」
一瞬なんのことだか分からなかったが、きっと樫田に演出家としての覚悟を問うたのだろう。
場に神妙な空気が流れるが、それを壊すかのように元気な声が聞こえてきた。
「おやおや~? 樫田んと香奈んが喧嘩かな?」
「……未来、茶化すもんじゃないよ」
「それにあれは喧嘩じゃないだろ」
振り返ると三年生の先輩たちが教室に入ってきた。
なぜか轟先輩は楽しそうに笑っていた。
「津田先輩の言う通りですよ。喧嘩じゃないです」
「ええ、ただの確認作業です」
「ちぇー、つまんないのー」
いやいや轟先輩。この二人が喧嘩したら大問題ですよ?
俺らの代、崩壊しちゃうから。
「物騒なこと言わないでくださいよ」
「杉野ん。火事と喧嘩は江戸の花だよ?」
「意味分かりませんよ」
何をドヤ顔で言っているんだこの人は。
しかし、先輩たちが来たおかげか空気は和らいだ。
「……他の人はまだ来てないの?」
「嫌だねー、一年生はそろっているというのに二年生ときたら」
木崎先輩も津田先輩も、どこかわざとらしく言ってくる。
先輩たちなりに緊張をほぐそうとしているのだろうか。
「あまり反応しづらいこと言わないでくださいよ。一年生たちが困るじゃないですか」
「お前は困らないのかよ樫田」
「そりゃまぁ、あいつらならギリギリに来るだろうなって思ってますから」
「……謎の信頼だ」
樫田の答えに、木崎先輩が満足そうに笑った。
「樫田んがあんなこと言っているけど田島後輩は困っているかい?」
「いえいえ! 大丈夫ですよ!」
「だそうだよ樫田ん!」
「社交辞令ですよ、それ」
「なぬ!?」
轟先輩が大げさに驚く。
そんな話をしていると、次にやってきたのは増倉と夏村だった。
「おはようございますー」
「おはようございます」
「おお、栞んに佐恵ん! 聞いてくれよぉ、樫田んが謎の信頼で社交辞令だって」
「何を言っているんですか?」
「何を言っているか分からないことは分かった」
「うわぁぁぁ! コウ! 後輩が辛辣だよ!」
木崎先輩に泣きつく轟先輩。
確かに、今の二人の回答は辛辣だったな。
訳の分からないといった顔で二人が近づいてきた。
俺が二人に向かって言う。
「どうすんだよ二人とも。ああなると轟先輩面倒だぞ」
「知らないよ」
「どうせ大したことじゃない」
哀れな轟先輩。
後輩からの評価の低さよ。
「まぁまぁ、先輩たちなりに緊張をほぐそうとしていたって話だよ」
「いつものノリのように感じたけど」
「緊張は必要」
樫田がフォローするが二人は変わらず辛辣だった。
え、なに。今日はそういう日なの? オーディションだから?
樫田が二人を宥めていると大槻と山路もやってきた。
「どういう状況?」
「カオスだねー」
こうして今日も部活が始まる。
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