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第三章 揉める部活と失恋大騒動
第61話 彼もまた、何かに答える
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公園に入っても大槻は気づいていないのか、こっちを向かずにベンチに座ったまま地面を見ていた。
俺と山路は静かに近づく。
ゆっくりと大槻の方へ。
だが、それがよくなかったのかもしれない。
不自然な足音に違和感を覚えたのか、大槻が顔を上げこっちを向いた。
「……!」
「よ、よう」
片手をあげて軽く挨拶する。
沈黙。
そして無表情だった大槻の顔に生気が宿り始めた。
次の瞬間、大槻は俺たちが入った方と逆の出入口へ走った。
「なっ! ちょっと待てって! 大槻!」
「追うよ!」
急な行動に反応が遅れる。
俺と山路は急いで大槻の後を追う。
線路沿いの細い一本道には誰もおらず、大槻は全速力だった。
すでに数十メートルは離されていた。
「くそ! 早い!」
「はぁ、はぁ……ごめん、先行って……っ!」
山路がすぐに息切れをする。
俺は後ろを振り返らずに言う。
「了解!」
俺は足のギアを上げる。
大槻の距離が少しずつ近づいていく。
ふざけんな! 絶対逃がすか!
心の中で叫ぶ。
大槻は駅の方へと進んでいく。このまま突き当たりの角を曲がられれば見失ってしまう。
とにかく遮二無二に走る。
だが、数十メートル先の大槻は角を曲がり見えなくなった。
気にせず俺も突き当たりまで全力で走る。
おそらく五、六秒は差が開いている。
俺は迷わずに大槻が曲がった方に行くが、そこの通りを見ても大槻の姿はなかった。
「はぁ、はぁ、どこ行った…………?」
呼吸を整え、歩きながら一本一本曲がり角を覗く。
ダメだ。これじゃ時間の無駄だ。
駅の方か? それとも逆か?
みんなを待つか? いや、もし家に帰られたらもう駄目だ。
決め打ちするしかなかった。
だが、決め手がなかった。
あるとしたら、公園にいたことぐらいだ。
…………………………よし。
俺は覚悟を決め、走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ」
「…………追いついたぞ」
「な、何で分かったんだよ、はぁ、はぁ」
「知るか、直感だ」
「なんだそれ、ずりーだろ」
「うるせ」
「ちょ、分かった、分かった! 逃げたりしないから! ちょっと休ませて」
「本当だな?」
「ああ」
そういうと大槻はその場にしゃがみこんだ。
息を整えるように、何回も呼吸する。
「おい、こんなところでしゃがむなよ」
「いいだろ。今の俺はこれぐらい気にしないんだよ……」
俺の注意に大槻が軽口を叩く。
皮肉に笑う彼に俺は何も言わず、ただ横にいた。
――ここは駅前のショッピングモールの入り口近くの街頭の下。
花火の買い出しの時の集合場所。
そしておそらく、大槻が夏村にフラれた場所だ。
何の因果か。大槻が逃げ込んだのはここだった。
あの時と違い、まだ日のある今はそれなりに人が通っていた。
なぜ俺が大槻の居場所が分かったのか。
それは俺自身も分からなかった。
駅の方に行って家に帰ろうとするのが自然と思ったのか、それとも公園にいたことを考えて大槻自身何かを思っていることにかけたのか。
まぁ、答えは定かではないが大槻を捕まえたのだ。
これからどうするかを考えるべきだ。
みんなに連絡するか? いや、大槻は現状を分かっていないだろうからその説明からか?
「なぁ、杉野」
「ん?」
俺が次の動きを考えていると、大槻が街行く人を見ながら言った。
「すまなかった」
…………………………。
俺は拳を強く握る。
これは怒りじゃない。悲しみじゃない。同情じゃない。
バカヤローが、そんな感情だった。
「……それは、俺だけに言う言葉じゃないだろ」
「ああそうだな。でも一番迷惑かけたのお前だから」
俺が言うと、寂しそうな声でそんな答えが返ってきた。
大槻は不真面目だ。
だが、決してバカではなく自分のしたことがどういうことか分かっている。
たぶんある程度は今の状況を察しているのかもしれない。
まるで悟ったかのような横顔に、俺は苛立ちを覚えた。
「お前分かってんのか。俺への迷惑なんてどうでもいいだろ」
「よくねーよ」
睨みつけるように座りながら大槻はこちらを見上げ、はっきりと言った。
その迫力に、気圧される。
「どうせ、椎名とか増倉が色々言って揉めたりとかしたんだろ?」
「それは……」
「杉野のことだから、まーた間に入ってなんとかしようとしたんだろ? まぁ樫田や山路もそうかもしれないけど。二人にも謝んないとな。歓迎会もぶち壊しちまったし。ああ、あと部活に恋愛持ち込んだことも悪かったな。俺の今後を心配してんなら気にすんなよ。まぁ元々テキトーにやってきたんだ――」
「待て待て! 待てって!」
何かをまとめるように話す大槻を俺は止めた。
なんだ? なんかこの先を聞いてはいけない気がする。
大槻は立ち上がり、ジーパンについて汚れを叩く。
そして、真っ直ぐに俺を見る。
ドクンと心臓が高鳴った。
背筋が痺れて、嫌な予感がした。
「まぁ、なんだ――」
ああ、まずい。
あのときの危険信号のように世界が赤くなる。
夏村の時は一瞬だった赤が今回は永遠に思えるほど長い。
そんな赤い世界で、大槻は不器用な笑顔を作りながら言った。
「俺、部活辞めるわ」
俺と山路は静かに近づく。
ゆっくりと大槻の方へ。
だが、それがよくなかったのかもしれない。
不自然な足音に違和感を覚えたのか、大槻が顔を上げこっちを向いた。
「……!」
「よ、よう」
片手をあげて軽く挨拶する。
沈黙。
そして無表情だった大槻の顔に生気が宿り始めた。
次の瞬間、大槻は俺たちが入った方と逆の出入口へ走った。
「なっ! ちょっと待てって! 大槻!」
「追うよ!」
急な行動に反応が遅れる。
俺と山路は急いで大槻の後を追う。
線路沿いの細い一本道には誰もおらず、大槻は全速力だった。
すでに数十メートルは離されていた。
「くそ! 早い!」
「はぁ、はぁ……ごめん、先行って……っ!」
山路がすぐに息切れをする。
俺は後ろを振り返らずに言う。
「了解!」
俺は足のギアを上げる。
大槻の距離が少しずつ近づいていく。
ふざけんな! 絶対逃がすか!
心の中で叫ぶ。
大槻は駅の方へと進んでいく。このまま突き当たりの角を曲がられれば見失ってしまう。
とにかく遮二無二に走る。
だが、数十メートル先の大槻は角を曲がり見えなくなった。
気にせず俺も突き当たりまで全力で走る。
おそらく五、六秒は差が開いている。
俺は迷わずに大槻が曲がった方に行くが、そこの通りを見ても大槻の姿はなかった。
「はぁ、はぁ、どこ行った…………?」
呼吸を整え、歩きながら一本一本曲がり角を覗く。
ダメだ。これじゃ時間の無駄だ。
駅の方か? それとも逆か?
みんなを待つか? いや、もし家に帰られたらもう駄目だ。
決め打ちするしかなかった。
だが、決め手がなかった。
あるとしたら、公園にいたことぐらいだ。
…………………………よし。
俺は覚悟を決め、走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ」
「…………追いついたぞ」
「な、何で分かったんだよ、はぁ、はぁ」
「知るか、直感だ」
「なんだそれ、ずりーだろ」
「うるせ」
「ちょ、分かった、分かった! 逃げたりしないから! ちょっと休ませて」
「本当だな?」
「ああ」
そういうと大槻はその場にしゃがみこんだ。
息を整えるように、何回も呼吸する。
「おい、こんなところでしゃがむなよ」
「いいだろ。今の俺はこれぐらい気にしないんだよ……」
俺の注意に大槻が軽口を叩く。
皮肉に笑う彼に俺は何も言わず、ただ横にいた。
――ここは駅前のショッピングモールの入り口近くの街頭の下。
花火の買い出しの時の集合場所。
そしておそらく、大槻が夏村にフラれた場所だ。
何の因果か。大槻が逃げ込んだのはここだった。
あの時と違い、まだ日のある今はそれなりに人が通っていた。
なぜ俺が大槻の居場所が分かったのか。
それは俺自身も分からなかった。
駅の方に行って家に帰ろうとするのが自然と思ったのか、それとも公園にいたことを考えて大槻自身何かを思っていることにかけたのか。
まぁ、答えは定かではないが大槻を捕まえたのだ。
これからどうするかを考えるべきだ。
みんなに連絡するか? いや、大槻は現状を分かっていないだろうからその説明からか?
「なぁ、杉野」
「ん?」
俺が次の動きを考えていると、大槻が街行く人を見ながら言った。
「すまなかった」
…………………………。
俺は拳を強く握る。
これは怒りじゃない。悲しみじゃない。同情じゃない。
バカヤローが、そんな感情だった。
「……それは、俺だけに言う言葉じゃないだろ」
「ああそうだな。でも一番迷惑かけたのお前だから」
俺が言うと、寂しそうな声でそんな答えが返ってきた。
大槻は不真面目だ。
だが、決してバカではなく自分のしたことがどういうことか分かっている。
たぶんある程度は今の状況を察しているのかもしれない。
まるで悟ったかのような横顔に、俺は苛立ちを覚えた。
「お前分かってんのか。俺への迷惑なんてどうでもいいだろ」
「よくねーよ」
睨みつけるように座りながら大槻はこちらを見上げ、はっきりと言った。
その迫力に、気圧される。
「どうせ、椎名とか増倉が色々言って揉めたりとかしたんだろ?」
「それは……」
「杉野のことだから、まーた間に入ってなんとかしようとしたんだろ? まぁ樫田や山路もそうかもしれないけど。二人にも謝んないとな。歓迎会もぶち壊しちまったし。ああ、あと部活に恋愛持ち込んだことも悪かったな。俺の今後を心配してんなら気にすんなよ。まぁ元々テキトーにやってきたんだ――」
「待て待て! 待てって!」
何かをまとめるように話す大槻を俺は止めた。
なんだ? なんかこの先を聞いてはいけない気がする。
大槻は立ち上がり、ジーパンについて汚れを叩く。
そして、真っ直ぐに俺を見る。
ドクンと心臓が高鳴った。
背筋が痺れて、嫌な予感がした。
「まぁ、なんだ――」
ああ、まずい。
あのときの危険信号のように世界が赤くなる。
夏村の時は一瞬だった赤が今回は永遠に思えるほど長い。
そんな赤い世界で、大槻は不器用な笑顔を作りながら言った。
「俺、部活辞めるわ」
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